いわゆる「英国ファン」ならBill Brysonというアメリカの旅行作家の名前を聞いたことがあるでしょうね。Notes
from a Small Island(邦題:『ビル・ブライソンのイギリス見て歩き』)というユーモラスな英国体験記は英国でベストセラーになりました。そのBrysonが最近、イングランドの田園地帯を保護する団体(Campaign
to Protect Rural England )の会長さんに就任したらしい。Guardianのサイトに彼の就任演説の原稿が掲載されていた。イングランド全部を国立公園(national
park)にすべきである、というくらいイングランドの田園地方の美しさを絶賛しています。私なりに感じた面白いポイントをピックアップすと・・・。
カントリーサイド・ウォーキング:田園地帯のウォーキングということですが、イングランドのカントリーサイドの素晴らしい点は(Brysonによると)誰でもそこへ行ってウォーキングを楽しめるし、現に楽しんでいるということ。彼はアメリカのアイオワ州の出身なのですが、アイオワで「カントリーサイド・ウォーキング」などと言おうものなら、アホかと言われるそうです。
人間が作った自然:Brysonの故郷であるアメリカで「自然」というと、ナイアガラ瀑布であれグランド・キャニオンであれ、まさに「自然が織りなす美しさ」であるわけです。イングランドの田園風景は「自然」に見えるけれど、実は人間が作った景色であるということです。
電線と送電線:Brysonが特に文句を言っているのが、送電線で、カントリーサイドが「許し難いほど周囲に合わず、醜いもの(inexcusably
alien and ugly)になっていると言っています。それはともかく、英国で電力産業が民営化された1986年、当時のThe
Economist誌の試算によると、民営化後の電力会社が売り上げの0・5%を電線の地中化のために使うと、1年間で1000マイル(1600キロ)の電線の地中化が実現することになるとのことであったそうです。英国には約8000マイル(1万2000キロ)の電線が走っているのだから、今頃とっくに全て地中化されていたはず、というのがBrysonの主張です。
森林率:もっと樹木を植えろというのが、Brysonの注文です。彼によると、英国の森林率はヨーロッパでも際だって低いのだそうです。フランスが28%、ドイツが32%、イタリアが34%、スウェーデンは70%あるのに対して、イングランドはたったの12%だとか。
知らなかったのですが、英語のスペルを簡略化しようというキャンペーンがあるんですね。Simplified
Spelling Societyという団体が100年にもわたって続けている運動なのですが、BBCのサイトに、スペルの簡略化を主張するこの団体の代表と、今のままでいいと主張する言語学者のメールによる討論が掲載されています。スペルが話題だけにメールによるディベートとなったというわけであります。
簡略推進派の意見によると、英語においてはアルファベットの使われ方が余りにも不規則で、発音と綴りの間に関係がないケースが多く、いわゆる「正しいスペル」は結局のところ暗記するしかない。発音とスペルをもっと近づける(つまりスペルの簡略化)ことによって、英語国の子供たちの読み書き能力(literacy)も向上するだろうと言っている。この人たちの言う簡略化の例をいくつか挙げてみると:
Beautiful
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butiful |
Couple |
cupl |
Health |
helth
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Learn
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lern
|
確かにBeautifulの中のeaは何のためにあるんですかね?HealthとLearnのaも同じ。CoupleのCoup(カタカナで言うとカプ)は、どうしたってcupの方が正解ですね。これ以外にもyouは発音からすれば「u」だけでいいはずだし、slowの最後の「w」なんて要らない。Simplified
Spelling Society(略してSSS)は、英語にあるスペルの不規則性(inconsistencies)によって、子供たちが教育上の不利益をこうむっていることに普通の人々が気づいていないと主張している。
スペルの不規則性は外国人が英語を学ぶ際にも問題になっている、とSSSは言っています。要するに書いた英語をそのまま発音しても、「正しい発音」にならないケースが多すぎるというわけです。SSSでは、英国の子供たちが他のヨーロッパの子供たちより3倍も読み書き能力を身につけるのが遅いのはこのせいであると言っている。これは私にも分かるな。例えば・・・。
▼sunが「サン」なら何故sugarも「サガー」ではないのか? |
▼onは「オン」なのに、onceは「ワンス」 |
▼womanの発音は
[ウーマン:wooman]なのに、複数のwomenは
[ウィメン:wimmen]と発音するのはおかしいんでない? |
これに対して、いまのままでいいという意見の言語学者は「どの言語にも非論理的な要素はある。非論理的な部分も含めて人間が使えるものになっているのだ」ということで、単純な英語の単語はいちいちスペルなど気にしていない。「theは"t+h+e"ではなくて、theとして憶えるものだ。@と同じようなものだ」("the"
is not "t+h+e" but a whole symbol "the" like "@")と言っています。
SSSはスペルの簡易化には、子供たちが読み書きを身につけるのに費やす時間が劇的に減るし、教えるコストも減らすことができるというメリットがあるが、さらに重要な効果として、英国における機能的文盲率(functional
illiteracy:仕事などに必要な読み書き能力の欠如率)を減らすことができることを挙げています。現在の英国の機能的文盲率は20%、それに対してフィンランドは4%、スウェーデンは8%、ドイツは10%だそうです。
この点、現状維持派の学者は「それらの国では、言語の標準化が比較的最近(19世紀)行われている。言語が古くなるにしたがって、ストレートな発音とスペルが一致するようなものからは離れていくだろう」と言っている。コストの問題について、この学者次のようにコメントしています。
スペルを変えることのコストは天文学的な数字になるだろう。英語で書かれている本の数を想像してみなさい。それらのスペルを全部変える必要がある。そうしないと、新しいスペルシステムを教わった子供たちは、自分たちの書き言葉の文化遺産から切り離されることになるのですよ。コンピュータのプログラムだって英語で書かれている。それを変えるコストを想像してみなさい。(The
cost of any change would be astronomical. Imagine the number of
books in English that would need to be changed. If they were not
changed the children taught by the new system would be effectively
cut off from their written heritage. Imagine the conversion of
every computer, every programme written in English)
▼この議論ははっきり言って「いまのままで結構」という学者の方が説得力あるな。確かに英語には「考えてみると不自然」なスペルはいくつもある。peopleはpeepleであるべきだし、haveの最後のeは要らない等々。しかしだからと言ってyouをu、EnglishをInglishてえのはどうも・・・。例外だらけでややこしいのが非論理的でよろしいんじゃないですか?「読む」の英語は現在形も過去形もread、でも発音が違う。過去形は何故かredというスペルではない。と言ってですよ、you
are beautiful and I love youという文章がですね、u
ar butiful and I lov yuとされたのでは、却ってややこしいんじゃありませんか?
▼発音のややこしさという点では、ひょっとすると、もっと泣かせるのは地名や人名じゃありませんかね。ロンドンの近くにあるReadingという町、あれを「リーディング」ではなく「レディング」と読ませる根拠は何なの?Gloucesterは誰がどう見たって「グロセスター」じゃありませんか?グロスターとは読めないもんな。というわけで、英国の場合、この種の「わけが分からないけど続いている」というものが結構ある。それがまた、いわゆる「英国通」という人たちに活躍の場を提供しているってことですよね。
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