確か7月の下旬だったと思うけれど、英国で洪水がありました。私、ある用事があって英国へ電話をしました。電話の相手はバーミンガムの近く、いわゆるミドランズと呼ばれるイングランドの真ん中でした。「洪水がタイヘンだという報道があるけれど、そちらは大丈夫なんですか?」と聞いたところFloods
are all taking place in the south, not hereとのこと。「洪水は南の方だから心配はないですよ」というわけ。
実は7月の初旬にも洪水があったのですね。その頃は大して注目していなかったのですが、イングランドの北部を襲ったもので、ヨークシャーなどでかなりの被害がでたのだそうです。
で、これに絡めて8月9日付のThe Economistに面白い記事が出ておりました。英国内におけるニュース報道についての「南北格差」に関するもので、被害は北部の洪水の方がはるかに大きかったにもかかわらず、「南」の洪水は大々的に報道されたのに「北」のそれは余り報道されなかったというわけ。この記事を読むと現在の英国における新聞事情の一端が見えてくるように思います。
英国という国は、政治の面ではロンドンの政府の力がきわめて大きくて中央集権国家であることは、むささびジャーナルでもたびたび紹介してきましたが、この記事によると、新聞についても同じことが言えて、どうしても記事がロンドンもしくは大新聞の読者が多く住む南イングランドを中心としたものになってしまうらしいのです。
小さくて中央集権的な英国においては、全ての全国紙(The Economistも含む)がロンドンに基盤を置いているが、それは新聞社だけではなく、読者もまたロンドン中心なのである。対照的にアメリカ、ドイツ、オーストラリアのような連邦制の国では、全国紙は存在するものの殆どが首都とは違うところに基盤があるものである。In
small, centralised Britain, all the big national papers,including
The Economist, are based in London (as are many of their readers).
By contrast, federal countries including America, Germany and
Australia have a national press which exists almost entirely outside
the capital.
読者の地域的な分布を見ると、高級紙といわれるFinancial Times, Guardian, Independent,
The Timesは、いずれも読者の60%がロンドンもしくは南東イングランドに偏っている。Financial Timesなどは7割の読者がこの地域に住んでいる。反対に北イングランドの読者が多いのは、Daily
Star, Daily Mirror, Daily Expressのような大衆紙です。その大衆紙にしても最大の部数を誇るThe
Sunの場合、読者の4割がロンドンと南東イングランドで、北イングランドは3割に過ぎない。
北イングランドは昔から製造業が盛んな地域であったのですが、それが衰退した後、それに取って代わる産業が現れていない。全国紙に記事を売り込んでも、なかなか取り上げてもらえないという哀しさがあるようなのです。「全国紙の報道デスクたちには、北イングランドというと"石畳"の町という時代遅れのイメージが焼きついてしまっていて、それに取って代わるものを見つけられない」(National
newsdesks realise that the old cobbled-streets stereotype is out
of date, but are not sure what has replaced it)というわけです。
英国の大新聞はいずれも経営難でリストラが進んでおり、ロンドン以外をカバーする記者の数が減っている。北イングランドのような「動きのない場所」(quiet
corners)についてのニュースはどうしても通信社からの記事やお役所や組織が発行するの広報資料に頼らざるを得ない。そうなると紙面の中では余り派手な扱いはされなくなる。北イングランドを代表する新聞であるYorkshire
Postなどは、地元の水害が全国紙が余り取り上げられなかったことについて、「災害は南で起こらない限り"重大"なものにはならない」(Disasters
aren't serious unless they happen in the south)と皮肉ったりしています。
尤も「地方」を無視しているのは、全国紙だけではなく、地方紙そのものが地元のニュースよりも「全国」ニュース(national
stories)を掲載する傾向にある、という人もいます。Cardiff UniversityのBob Franklin教授によると「地方紙は地方紙でなくなっている(The
local press isn't local anymore)」と言っています。教授は1987年からこれまでの20年間におけるWest
Yorkshireで発行されている地方紙30紙の選挙報道を分析したのだそうです。20年前のこの地方の新聞の選挙報道は4分の3が地元の候補者の活動に関するものであったのに、2005年の選挙ではこれが3分の1にまで減り、残りは全国ニュースをもとにしてローカル風にアレンジしたものだった。
The Economistは、このような地方紙の全国紙化現象は、記者修業の世界にも影響が出てきている。昔はジャーナリスト志望の学生は、まず地方紙でメモとりだのなんだのという基本的な修業を積んで、能力のある人たちは、ロンドンの全国紙へと上っていくというのが普通であった。それが最近の地方紙ではそのような場は提供されず、別のスクールのようなところで基礎的な技術を身につけた人を雇うようになっているとのこと。そうなると、記者志望の若者たちも、わざわざ地方紙で修業などという面倒なことをやらずに、最初から全国紙の世界を目指す傾向が出てきている。
全国的大衆紙のMirrorを有するTrinity Mirrorグループは傘下に約200の地方紙を所有しており、グループ内に地方ニュースをカバーするネットワークをまだ持っているのですが、Franklin教授は、将来のこととして、「記者会見などで"そういえば、Rochdale(地方都市の一つ)はどうなっているんだ?"ということさえ考えない人たちの方が多くなるかもしれない」(when
you get to the news conference there may not be many people thinking,
‘Gosh, what's happening in Rochdale?`)とメディアの世界の地方格差を危惧しています。
silly seasonという英語は日本語でなんというのでしょうか?直訳すると「アホな季節」ですが、要するにニュースネタがない季節のことを言うんだそうです。特に議会が休みのいまがまさにsilly
seasonというわけです。The
Timesのサイトを見ていたら、silly
seasonを楽しむための特集というわけで、「世界中にあるアホらしい法律リスト」(a
list of the world's most ridiculous laws)なるものを掲載しておりました。確かにsillyかつridiculousなものがいろいろあります。いくつか紹介しますが、いずれも「そんなこと知ったからってなんになるのさ」と言われそうなものばかりです。
1)ロンドンの金融街(City)で、タクシーで狂犬病のイヌもしくは人間の死体を運ぶことは法律違反である(It
is illegal for a cab in the City of London to carry rabid dogs or
corpses.)
2)議会の下院・貴族院で死ぬのは違法である(It is illegal to die in the
Houses of Parliament.)
3)英国王室の人間をあしらった切手を逆さまに貼ると反逆罪になる(It is an act of treason
to place a postage stamp bearing the British monarch upside down.)
4)フランスの法律では、ブタの名前にナポレオンを使うことは禁止されている( In France, it
is forbidden to call a pig Napoleon.)
5)米国アラバマ州では、目隠しをしたままクルマを運転するのは法律違反である(In Alabama,
it is illegal for a driver to be blindfolded while driving a vehicle.)
6)米国オハイオ州では、サカナを酔わせるのは州法違反である(In Ohio, it is against
state law to get a fish drunk.)
7)米国フロリダ州マイアミでは、警察署内でスケートボードに乗るのは違法である(In Miami, Florida,
it is illegal to skateboard in a police station.)
8)同じくフロリダの法律ですが、未婚の女性が日曜日にパラシュートに乗ると刑務所行きもありうる(In
Florida, unmarried women who parachute on Sundays can be jailed.)
9)米国バーモント州では、夫の許可なしに妻が入れ歯をすることは禁止されている(In Vermont,
women must obtain written permission from their husbands to wear
false teeth.)
10)英国沿岸に死んだ鯨が打ち上げられた場合、その頭部は法的には王様の財産となる。尻尾の部分については女王に帰属するが、それは女王が尻尾の骨を使ってコルセットを作る必要がある場合である。(The
head of any dead whale found on the British coast is legally the
property of the King; the tail, on the other hand, belongs to the
Queen - in case she needs the bones for her corset.)
というわけで、どれをとってもさっぱり分からない法律ばかりですが、いずれもなんらかの時代的背景があって出来たものなのでしょう。そのあたりのところが書いていないのが残念。他にも出ているのですが、暑いのでこのくらいにしておきます。全部見たい人は、ここをクリックすると出ています。
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