今年5月に首相の座をゴードン・ブラウンに譲ったブレアさん、その後どうしているのかと思っていたら、11月18日付けのThe Independentのサイトに「きわめて豊かなリタイアメント生活」(a
very lucrative retirement)を送っているという記事が出ておりました。どう豊かなのかというと、首相時代の年収(186,429ポンド=約4700万円)なんて、ちょっと格調高い講演会を二つやれば稼げてしまう(it
now takes him just two high-profile speeches to earn the same amount)のだそうです。
その記事によると、ブレアさんは最近、中国の広東省にあるGuangda
Groupという企業に招かれて20分しゃべっただけで、講演料が237,000ポンド(ほぼ6000万円!)だったらしい。
ブレアさんの場合、アメリカのWashington
Speakers Bureau (WSB)というエージェントと契約をしており、講演を頼むためには、ここを通すことになっているのだそうです。このエージェントは、ブレアさん以外に、アメリカ国務長官だったColin
PowellやMadeleine Albright、連邦準備制度理事会(FRB)の前議長、Alan Greenspanらの有名人をクライアントとして抱えているのですが、ウェブサイトを開くと、トップページにブレアさんの名前が出ているということは、この人を抱えていること自体がWSBにとっていいPRになるってことなのでしょう。
この種のことに詳しい「業界筋」によると、WSBを通じてブレアさんに講演を頼むと、一回で少なくとも75,000ポンド(約1900万円)はとられるそうであります。それでも1年に50回も世界中の金持ち相手にお話をすれば、300万ポンドは楽に掻き集められる(easily
rake in £3m)。これに加えて首相時代の回想録出版で、少なくとも450万ポンドは稼げるだろう、とThe Independentは言っています。
ところでブレアさんは、アメリカ、国連、EUそれにロシアの4カ国を代表する中東特使を勤めており、つい最近もパレスチナの経済発展についての提案なるものを発表したりしています。The
Independentによるとこの職自体は無給なのですが、活動費として200万ポンドかかっているし、英国外務省はスタッフを4人出向させているので、それやこれや合わせると、英国の税金を年間40万ポンド使っていることになるのだとか。
で、最初に出てきた20分の講演に237,000ポンド払った中国の会社は「催涙ガス関連製品」のメーカーであると同時に、オーナーは不動産で大金持ちになった「問題の人物(controvertial
figure)」だそうであります。
ちなみにブレアさんの年金は、64,000ポンド(約1600万円)だそうで、自分の事務所を運営するのに年間9万ポンドもかかるらしいので、とにかく稼ぎまくる必要はある。だから少々問題のある企業からの依頼でも断るわけにはいかないってことなのでしょうが、そのあたりのジレンマについてThe
Independentの記事は次のように書いています。
ブレア氏は、将来、自分の顧客が自分のクリーンなイメージをキズつけるようなダメージについては「身震い」して避けたいと願っているであろう。しかし奥さん、4人の子供、5件の住宅、そして何よりも歴史における自分の居場所などをサポートしようと思えば、仕事の選り好みは余りできないかもしれない。But,
with a wife, four children, five houses and a place in history
to support, he can't be too choosy about where the work takes
him.
▼現在のブレアさんの活動については、事務所サイト(http://www.tonyblairoffice.org/)を見れば出ています。ただThe
Independentが伝える中国における「退屈なスピーチの内容」(uninspiring content)を知りたいと思ったのですが、それは出ていませんでした。
▼首相であったことを利用して(言葉は悪いけれど)講演会などで稼ぎまくるのはブレアさんだけではないことは当然です。私の記憶ではサッチャーさんなどもかなりの回数日本で講演をやったと思います。もちろん回想録は売れただろうし・・・。
▼勝手な想像ですが、サッチャーに比べてブレアさんが可哀そうな気がしないでもないのは、インターネットの発達で、ブレアさんの在任中のことについてはかなりの情報が既に出回っているってことなのでは?もちろん「自分だけが知っている」ということは、いろいろとあるのだろうとは思うけれど、サッチャーさんの回想録ほど「そんなことあったんですか」という部分は少ないんじゃありませんかね。
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Ian
Bremmerという人が書いたThe
J Curve(J曲線)は、今の世界で「強権的」とされる国々の性格を語りながら、いわゆる「先進国」がこれらの国とどのように付き合っていけばいいのかという問題を検討しています。外交政策の立案者やちょっと危険な国に投資をしようかという企業経営者などに読まれるべく書かれた本なのですが、私のような「ただの素人」が読んでも、何やら理解できるような気になってしまう本でもある。
碁盤の目を描いて、その上にアルファベットのJを斜めに傾けたような曲線を描いてみてください。縦軸が国の「安定度」(Stability)、横軸が「開放度」(Openness)を示すと思ってください。つまり縦軸の上へ行くほど「安定度」が高く、横軸を右へ行くほど「開放度」が高い国ということになる。
J曲線の左上先端に来る国は「最も閉鎖的ではあるが安定している国」であり、右上先端に来る国は「最も開放的かつ社会的にも安定している国」ということになる。左端の典型的な国として挙げられているのが、北朝鮮、キューバ、フセイン政権下でのイラクです。右端に来るのはアメリカ、英国、日本、スェーデンなどのいわゆる「先進国」です。
両方とも「安定している」(stable)ということでは共通しているのですが、左端国は「閉鎖的であるが故に安定している」(it
is stable because it is closed)のに対して、右端の国の場合は「開放的であるが故に安定している」(it
is stable because it is open)。先進国の社会的な安定は、外国に向かって門戸が開放されていたり、国内的には表現の自由や情報公開などによって支えられている部分が大きい。北朝鮮やビルマのような国の場合、外の世界に向かってオープンでないこともありますが、「国境の内側における情報や考え方が自由に流れるようになっているか」(flow
of information and ideas within a country's border)が問題になる。
いまやグローバル化が進行している情勢で、どの国も閉鎖的であり続けることは不可能であり、いずれも左側から右側へ移行せざるを得ないのですが、筆者が強調しているのは、移行の過程でどの国も一度は縦軸のイチバン下まで下がってから徐々に右側の曲線を上っていくものだということです。つまり独裁国家がオープンになっていく過程で必ず社会的な不安定を経験する。しかも右の曲線に比べて左側は急激に落下する。つまり独裁体制の崩壊がきわめて急速に進行する。
著者は、J曲線の左側にいる北朝鮮を右側に移行させるためにアメリカを始めとする先進国がとるべき政策は「体制転覆」(regime
change)しかない、と言うのですが、それはアメリカがフセイン政権下のイラクに対して行ったような「ショックを与えて震え上がらせる」(shock
and awe)軍事行動による体制転覆ではなく、北朝鮮内部に変革要求の機運を作り出す(to
create demand for change from within the DPRK)ことにある。そのためには北朝鮮の人々を外の世界にの影響にさらすような方法を見つけることが必要であるとのことです。
筆者は、shock
and aweというやり方では、金正日政権は、ありとあらゆる手段を駆使して北朝鮮の孤立化政策を継続しようとするだろう、というわけで、
北朝鮮に懲罰的な制裁を与えて、北朝鮮の人々が外の世界と交流する機会を断ち切ることは、(外国が)自分で自分の首を絞めるようなものだ。北朝鮮に明かりが灯り、世界で最も抑圧的な警察国家に対して
人々のエネルギーが解放されるためには、北朝鮮の市民と外の世界とのコンタクトは必要不可欠だ。(Imposing
punitive sanctions and cutting off oportunities for North Korea's
people to interact with outsiders is self-defeating. Contact between
North Korea's citizens and the outside world is essential if the
lights are to be turned on in North Korea and the energy of the
North Korean people is to be let loose on the world's most oppressive
police state)
と主張しています。いわゆる「強硬路線」は、現政権の力を強めるだけだということです。北朝鮮が左の曲線を下がる過程で、破滅状態にならないために、筆者は韓国と中国の役割が決定的だと言っている。中国はいまでも「トロイの木馬」として北朝鮮に入り込み、あの国の市民が外側の世界に触れるための力になれると言います。筆者が提案しているのは、古い携帯電話やパソコンを持ち込んでピョンヤンの人に渡すとか、かなり素朴なことを言っている。
で、その中国は、筆者によると「経済は開放的・政治は閉鎖的」というわけで、J曲線の左から、右へ一挙に行ってしまおうとしているけれど、政治的な自由が許され、社会が開放的になる過程で、一度はJ曲線を下へ降りる(社会的な不安定を経験する)ことは避けられない。
中国を不安定期を通り過ぎてJ曲線の右側に連れてくるためにアメリカなどの外国が取りうる最悪の選択は、ワシントン政府が北朝鮮やキューバに対してとったやり方だ。The
worst choice the United States and others could make in trying
to bring China through instability toward the right side of the
J curve is the choice Washington has made in its relations with
North Korea and Cuba.
ここでいう「最悪の選択」とは中国を孤立させることだというわけです。 筆者によると、最近のワシントンでは9-11直後のような「悪の枢軸」(axis
of evil)という言葉に代わって「独裁の辺地」(outposts of tyranny)という言葉が使われるようになっているのだそうです。かつてより柔軟路線に変更しているということ。
ある意味、この路線変更は、軍事力によるregime changeが、たとえそれが信頼するにたる軍事圧力であったとしても、アメリカの外交政策の主要部分にするには、余りにも高くつきすぎる、ということをワシントンが認識したことを反映しているのだ。(In
part, this shift reflects Washington's recognition that military
regime change--even credible military pressure--is prohibitingly
expensive as a major component of US foreign policy.)
▼経済は開放的・政治は閉鎖的という中国ですが、最近日本記者クラブで中国事情に詳しい研究者の話を聞く機会があった。その人が言うには、現在の中国は「原始資本主義社会」なのだそうです。一握りの超金持ちと貧しい大衆に二極分離している社会ということです。日本の格差の比ではないそうです。
▼中国もロシアもかつては社会主義のお手本であったのが、ロシアはそれをギブアップしており、中国も経済に関しては資本主義みたいになっている。何十年も前に読んだ、ソビエト社会科学アカデミー(確かそんな名前だった)というところが出したマルクス経済学の入門書によると、資本主義社会にあっては。生産手段(機械)が一部資本家階級に独占され、利潤追求の過程で資本家はますます金持ちになり、貧富の差が極限にまで達したときに、搾取されている労働者による革命が起こり、労働者階級独裁による社会主義ができる。
▼その社会主義の生産力がどんどん向上すると、やがては大きなパイを皆で平等に分け合い、しかも貧困層というものが存在しない「共産主義社会」が実現する・・・というプログラムのはずだった。で、いまの中国やロシアが、むき出しの原始資本主義社会だとすると、マルクスの理論でいくと、やがて労働者・農民らによる革命が起こることになっている。
▼社会主義社会が原始資本主義になるとは、マルクスもエンゲルスも想定していなかった事態でしょうね。でも、かつて社会主義を経験した大衆が「原始資本主義」に異を唱えるとすると、行き着くのはどんな社会なんですかね?
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