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musasabi journal 65

21 august 2005

8月も終わりですね。郵政民営化法案が参議院で否決された日、私、夏休みで自宅にいて国会中継を見ていました。 今にして思うと、あれは歴史的国会中継であったかもしれませんね。全部のテレビ局がこれを中継していた。私はNHKを見ていたのですが、採決の直前、二人の議員が壇上に立って、この法案への賛成・反対の説明をしていました。その間、一瞬ですが、民放へチャンネルを回したら、議員演説の間中、カメラを議場の外に回し、スタジオと結んで評論家たちによる「票読み」トークをやっていた。はっきり言ってNHKの議員演説のほうがずっと良かった。というわけで、ツクツクボウシの鳴く中で、むささびジャーナル65号のメニューは下記のとおりです。


@多文化主義の終焉?
Aパブ営業時間延長の波紋
B絶賛される「小泉の勇気」
Cブレアと小泉の記者会見比較
D短信
E編集後記

@多文化主義の終焉?


先日(8月1日)の朝日新聞に国際日本文化研究センターの池内恵という人が「差異への権利」のジレンマという論文を掲載していました。ロンドンにおけるテロリズムに関連して書かれたもので、英国における「多文化主義」(multi-culturalism)を紹介しています。

ロンドンのテロが英国内のパキスタン系移民によるものとされているわけですが、池内さんは英国の移民政策の特徴として、英国へ移住してきたethnic minority(少数民族グループ)に対して「ホスト社会の白人・キリスト教徒の文化や価値規範を受容し同化することを要求するのではなく、各民族・宗教の集団単位でそれぞれの固有の文化や価値規範を保持し再生産することを許容し、支援してきた」のだそうです。

別の言い方をすると「ここは英国だけど無理矢理キリスト教徒になることもないし、英国的な考え方をすることもありません。あなたたちの文化や習慣を守りたければ、それはそれで結構」ということになります。つまり異文化に対して、良く言えば「寛容」だけど、「勝手にしろや。どうせ我々とは同じになれないんだから」ということでもある。

英国に対比されるのがフランスで、池内さんによると、フランスは「同化主義」。移民に対しては「普遍的な(とホスト社会が考える)一連の価値基準を受け入れなければならない」と要求するのだそうです。そういえば以前、フランスでイスラム教の子供たちが例のスカーフを着用して登校することを禁止して問題になったことがありますね。あれが「同化主義」ということです。

私の記憶によると「多文化主義」(multi-culturalism)という言葉は、現在のブレア政権が登場した1997年あたりから非常に強く言われるようになった。英国という国のこれからということを考えた時に、従来のような白人・キリスト教だけではなく、もっと幅広い人々が一緒に暮せる社会の構築を、というわけで、いろいろな意味での「寛容さ」ということをキャッチフレーズにしたのだと記憶しています。英国の進歩的な人々の間では大いに受けたものです。

で、英国における保守派のオピニオン・マガジンの代表とも言えるThe Spectatorのウェブサイトを見ていたらThe myth of moderate Islamというかなり長いエッセイが出ていました。書いたのはイスラム教・キリスト教研究協会(Institute for the Study of Islam and Christianity)のPatrick Sookhdeoというちょっと変わったファミリーネームの学者です。「穏健派イスラムという幻想」というタイトルのとおり「イスラムは暴力的な過去を有した宗教でありロンドンのテロリストはイスラムの教えに従った"自発的"なものなのだ」と主張しています。

この人はさらに英国へ移民してきたイスラム教徒たちがそれぞれのコミュニティを作って、普通の英国社会から孤立しているという現状について、英国政府がこれまで推進してきた「多文化主義」の責任だと言っています。multi-culturalism is deadということを認めて、イスラム教徒も含めて「新しい英国という国の共通のアイデンティティを再発見する作業が必要だ」(We need to rediscover and affirm a common British identity)と主張しています。

多文化主義に対する批判はイスラム系の学校にも向けられています。The Economistによると、現在英国には約100にのぼるイスラム系の学校があり、イスラムの子供たち50万人のうちの25,000人が通っていると伝えています。100のうち公立学校で、あとは私立。当然のことながらこれらの学校ではコーランを読み、イスラム教の歴史を学ぶ。公立学校の場合は全国カリキュラムに沿った科目が必要なので、オール・イスラムというわけにはいかない。

さらに公立の宗教学校の場合、少なくとも全生徒数の10%はその宗教以外の子供たちを入学させる必要がある。しかし、基本的にはイスラム学校ではある。 ところで英国にはキリスト教の学校が7000あるのだそうです。キリスト教学校も、イスラム学校に劣らず社会的な溶け込み(social integration)に対する障害にはなり得るわけですが、英国の都会でイスラム人口が多いような場合、キリスト教徒ではなくても地元の教会学校へ通う子供は沢山いる。「無宗教公立学校の児童の多くがイスラム系の子供たちということもあり得る」というのがThe Economistの指摘です。 multi-culturalism の行き過ぎは議会でも問題になっていて、保守党などは「移民たちは主流となっている英国式の生活に溶け込むようにすべきだ」と言っています。

この件についてブレア首相は記者会見で「他の国の経験から学ぶ必要がある」(I just think we need to look at that and look at it in an honest way and learn from the experience of other countries as well)と言っています。この場合のother countriesにはおそらくフランスなども入っているのでしょう。 いずれにしても、かつて植民地支配をした国からの移民を受け入れるには欠かせない哲学ともいえたmulti-culturalismが深刻な反省を迫られているようですね。

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Aパブ営業時間延長の波紋


英国のパブの営業時間は午後11時までとなっているのですが、これを延長して場合によっては24時間営業も許可しようという法案を政府が提出しています。BBCのサイトによると、政府の言い分の1つとして、現在のシステムでは酔っ払いが同じ時刻にパブを出て家路につくのでトラブルが起こりやすいが、閉店時間がまちまちになればこれも減るのであろうということがあるのだとか。妙な理屈です。 これに対して当然のように警察や裁判所などからは、営業時間の延長は「酔っ払いによる暴力沙汰を増やすだけ」という批判が出ています。

この件についてBBCのMark Eastonという記者が面白い記事を掲載しています。彼によると、英国では製造産業の衰退に伴って、サービス産業、特に夜のそれが大いに伸びている。特にmega pubと言われる若者(18-24歳)向けのパブは手ごろな値段でビールが飲めて、深夜まで楽しめるということで受けている。にもかかわらず、英国にはこのようなトレンドを支えるだけのインフラが欠けている、とEastonは指摘しています。

この場合のインフラとは、例えば交通手段。英国の町では深夜になると殆どの公共交通手段は止まってしまう。酔っ払った若者たちは、殆ど来ないバスを辛抱強く待つか、先を争って数少ないタクシーを捕まえようとするかしかない。となるとケンカの舞台が出来上がったようなもの。さらにビールを飲みまくってパブを出て道を歩いていると、おしっこがしたくなるのは自然。であるにもかかわらず公衆トイレはすべてロックされている。となれば男ならどうするか、今さら説明の必要もない。

Easton記者によると、さらに深刻なのはお巡りさんの数が足りないこと。ノッチンガムという町を例にとると、金曜日の夜ともなると町の中心部へ繰り出す人の数は近郊からのものも入れて10万人にものぼる。これに対して夜勤の警察官の数はたったの40人なのだそうです。ちなみにこの町には公衆トイレが1つしかない!

ノッチンガムのような町は英国中にあるというわけです。 「英国はかつてのように9時―5時の労働が一般的という社会ではなくなったのだ、という現実を直視することから始めなければ」というのがEaston記者の主張です。彼はまた、パブの営業許可を裁判所でなく、市役所が出すようにすることによって、インフラ整備も含めた「夜の経済」の管理を政治の手に委ねられるようにすべきだと主張しています。

  • パブの深夜営業はともかく、英国の場合、公衆トイレの数の少なさ加減には殆ど呆れますね。こればっかりは東京はスゴイ!

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B絶賛される「小泉の勇気」


The Economistの8月13日号が社説のトップにThe bravery of Junichiro Koizumiという記事を掲載しています。「小泉純一郎の勇気」というわけで、サブ見出しがIt deserves, for Japan's sake, to be rewarded(その勇気が報われるのが日本のためでもある)となっています。郵政民営化に向けた小泉さんの戦いを絶賛しております。

この記事によると、小泉さんが自民党を分裂させ、民主党が政権につくかもしれないというリスクをとっていることは「大いに歓迎」(extremely welcome)すべきである。小泉率いる自民党が敗れて民主党政権になったとしても「日本の政治の本流部分に改革を吹き込んだという意味では、小泉氏の成功である」(Even if the DPJ wins, Mr Koizumi will have succeeded in injecting reform right into the bloodstream of Japanese politics)というわけで、日本のためにもいいことだと主張しています。

小泉さんは目立たないながらも多くの業績をあげている、というのがThe Economistの主張で例えば銀行の管理機関を強化すると同時に(利益集団である)銀行業界から独立させたこと、公共投資GDPの8%から5%にまで引き下げたことなどを挙げています。さらに、小泉さんによって首相の権限が強化されて、将来にもトップダウンによる改革推進がやりやすい環境を作ったことも業績のひとつだと指摘しています。

今回の選挙で自民党が勝つにこしたことはないが、民主党の郵政民営化反対はあくまでも「戦略的反対」(tactical opposition)であり、経済の自由化には好意的、というわけで、改革の流れそのものは変わらないとして、The Economistの社説は次のように結ばれています。

It is more tragedy than comedy that it has taken so long for Japan's politics and economic policies to get shaken up. But now there is every prospect of a heart-warming ending. 「日本の政治や経済政策の改革にこれほどの時間がかかってしまったのは、喜劇ではなく悲劇としかいいようがない。しかしそれも今、ようやく"心暖まるエンディング"を迎える可能性は極めて高い」

  • 小泉さんが欧米風の考え方をする人なのかどうか知りませんが、「物事をはっきり言う」(言っているように見える)という意味では、欧米メディアの受けはいい。とにかく小泉前のいろいろな首相は、彼らから見ると「何を言っているのか分からない」人ばかりであったのですから。

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C24枚対4枚、ブレアと小泉:記者会見を比べてみる


郵政民営化法案が参議院で否決された日の午後8時半ごろから小泉さんが記者会見をやるのをテレビでみました。30分弱の会見で、最初の15分ほどは小泉さんの冒頭スピーチ、次いで10分程度が記者からの質問でした。冒頭の発言で小泉さんは、何故郵政民営化が必要なのか、何故国会を解散するのかについて熱心に語りました。同じことの繰り返しが多くて、私としては「もう分かったよ!」と言いたくなってしまったのでありますが、とにかく熱心に語ったことは間違いない。

冒頭発言が終わって、記者との質疑応答の時間になったのですが、イチバン最初の質問は「郵政法案が参院で17票差という大差で否決廃案されたことの総理の率直な感想等をお聞かせください」というものでした。「それについては冒頭発言でさんざ語ったはずなのに、アホか、この記者は」と思わず声に出してしまった。当然のごとく小泉さんは冒頭のメッセージを殆ど繰り返すような答をしたわけです。

記者からの質問が4つほど出たところで、「これで会見を終わります」と司会者が宣言したのですが、構わず三つほど記者が追加質問をしたのですが、1つは靖国問題であとは、選挙に関することであったと記憶しています。いずれにしても記者との質疑応答に割かれた時間は10分程度という感じでした。この会見のお陰で小泉さんの人気はグンと上がってしまったのだそうです。

この小泉会見の数日前、BBC World Serviceが英国のブレア首相の月例会見を生中継していました。話題はもっぱらテロリズムに関係して治安のことでありました。小泉さんとブレアさんの会見はあらゆる意味で異なっています。二つとも速記録がウェブサイト上に掲載されているので、興味のある方は下記をクリックしてみてください。

小泉会見

ブレア会見

まずブレア会見の方が圧倒的に長い。速記録をプリントアウトするとブレア会見はA4で24枚、小泉会見は4枚と3行。ブレア会見の冒頭発言が4枚、質疑応答が20枚という配分であるのに対して、小泉さんのそれは2枚と3枚強という割り振りになっている。つまりブレア会見はその殆どを質疑応答で費やしており、小泉会見は半分が冒頭発言になっているということです。

さらに比べたいのは、記者の質問に対する両首相の答え方です。どう見てもブレアさんの方が長いのです。饒舌なのです。彼の饒舌ぶりについてはword salad(言葉だけで中身なし)と皮肉る人もいるけれど、一応、言葉を使って相手を説得しようとする姿勢がある(ように見える)。

次に比較すべきは記者の質問でしょうね。ブレア会見の中身を全部覚えているわけではない。しかし小泉会見のように「総理の率直な感想等をお聞かせください・・・」というような時間の無駄的質問はないと思います。念のために速記録を比べてみよう。

さらに気になるのは小泉会見に出席していた記者はどういう人たちなのかってことです。私の聞き及ぶ範囲では(ひょっとすると間違っているかも)小泉会見の場合は「内閣記者会」なる組織があって、そのメンバーだけが出席を許される。ブレア会見の場合、官邸のホームページには

The PM Press Conferences allow regional, national and international journalists to ask Tony Blair questions on any aspect of government policy

と書いてある。つまり外国記者も出席して質問もできるということになります。小泉会見の場合例えば中国や韓国の記者が「靖国」について質問するようなことはあるのでありましょうか?

  • 実は、私、もう一つ比べたいことがあるのです。それは記者会見に出席した記者の年齢です。ブレア会見の場合、カメラは質問をする記者の顔も写していたのですが、小泉会見の場合は全部うしろからしか撮っていないので、顔が見えない。私の独断と偏見によると、小泉会見に出席した記者たちは平均年齢30前後なのでは?ブレア会見の場合は40前後か?言いにくいけど、小泉会見の記者たちは若手(つまり未経験者)が多いのでは?ってことであります。

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D短信


脱走失敗劇のナゾ

ブラジルのJornal de Globoという新聞によると、Timoteoという町にある監獄から脱走を試みた囚人67人が脱走寸前で捕まってしまったそうです。牢屋から塀の外目指して一心不乱にトンネルを掘り続けたのですが、何かの間違いで塀の内部30cmのところで全員出てきてしまった。その場でアウトというわけですが、警察のコメントによると、全員、憤懣やるかたないという顔をしていたそうであります。

  • どうでもいいことかも知れませんが、本当に67人も捕まったんですか?トンネルから出てきたところを御用というのなら、最初の4-5人が捕まったあたりで後ろの方は「異常」に気付いて再び牢屋へ逃げ込むというのが普通でないかな!?

非行教師を閉じ込める

インドの新聞、The Statesmanによると、Agartalaという町の高校で、学生が教師12人を一日教室に閉じ込め、警察官が駆けつけて救出したという騒ぎがあった。何故、学生が教師を閉じ込めることになったのか?これらの教師(学生ではない)は、遅刻・欠勤は当り前、教室でタバコを吸うわ、アルコールを飲むわの非行の常習犯で、ついに怒った学生が彼らをとっちめる動きに出てしまったというわけです。学校当局が裁判所から事情説明を求められているそうであります。 監督不行き届きってわけ?

  • こんなとき、インドの学校でも「遺憾に思う」などとコメントするんでしょうか?あるいは「訓告処分」とか?何だかよく分からない言葉ですよね。

亀375匹を密輸入

フランクフルトの空港で、絶滅に瀕した亀の珍種を不正に輸入しようとして捕まってしまったクロアチア人がいます。ドバイから連れてきたのですが、スーツケースに375匹のstar tortoiseという種類の亀を隠し持っていたらしい。これを売ると日本円にすると全部で600万円ほどになるのだそうです。動物虐待と絶滅種の動物保護条例違反というわけで、まずくすると懲役5年の罪に問われるのだそうです。検査犬に見つかってしまったらしいのですが、実は375匹のうち死んでしまった亀が30匹にのぼったのだとか。ゴムで縛られていたそうです。現在、近く動物園に移動させられるまで空港スタッフがキャベツをあげたりして、面倒を見ているそうです。

  • へぇ、亀ってキャベツを食べるのですか・・・。

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E編集後記


●で、イントロで触れた郵政民営化法案の参議院否決のテレビ中継について、ちょっとこだわってみたいのです。私がNHKに固定して民営化賛成・反対のスピーチを聴くことにした理由は私自身もこの法案の良し悪しがよく分からないということがあったからです。民営化に賛成する何とかいう名前の議員は「自分もかつては民営化前の電電公社にいたけれど、NTTになって職員の創意や工夫が生かされるようになり、良くなったと思う」と言っておりました。結構説得力があった。

●それはともかく、あの間、もし民放を見ていたら、私は評論家たちの票読みコメントは聞けても、郵政民営化そのものについて自分の思いをいたすことにはならなかったでしょう。民放テレビ局の担当者たちは「今さら法案の良し悪しなんか報道しても・・・」というわけで、否決なのか可決なのかについてのディスカッションの方が「ニュース」だと思ったのでしょうね。もしそうだとしたら、私、それは間違っているんじゃないかと思いますね。視聴者が知るべきであり、考えるべきなのは、やはり郵政民営化の良し悪しであって、票読みではない。どうせ普通の人には票なんて読めないんだから、そんなものは「評論家」の先生たちがどこか別の場所でおしゃべりをしていればよかった。普通の人には関係ない。

●で、現在はというと小泉の「刺客」だのなんだのと、やはり票読み・勝ち負け的なことばかりが報道されています。番組には「政治記者」と呼ばれる人が出て、誰と誰がくっついたとか離れたとか、芸能番組みたいな解説をしています。「政治が悪い」とか「政治家がだらしない」ということはさんざ聞かされていて、テレビのインタビューでは普通の人たちが、選挙などについて「誰が勝っても同じじゃないすか?」と聞いた風なコメントする。これ、殆どマスメディアの責任であることは間違いないと思います。

●異常に長い編集後記で失礼しました。もうすぐ秋です。お元気でお過ごしください。お暇とその気があれば、お便りをください。

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letters to musasabi journal