musasabi journal
発行:春海二郎・美耶子
第72号 2005年11月14日 

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多分以前にもお見せしたことがあるかもしれないのですが、
暖房器具の傍で寝ている ウチの柴犬です。
毛皮を着ているクセに犬は案外寒がりのようであります。
ウチではこのスポットを犬の「温泉」と呼んでおります。
人間にも温泉が恋しい季節であります。

目次

@迫る年金改革
A前駐米英国大使の回想録が論議を呼ぶ
B「お金」で批判浴びるブレア夫人
C山口教授の『ブレア時代のイギリス』
D短信
E編集後記

 

@迫る年金改革


年金改革が問題になっているのは日本も英国も同じです。英国政府の年金審議会(Pensions Commission)が現在これを審議中で、11月末には改革案が発表されるらしいのですが、何故かその前に案の内容が経済紙、Financial Timesに漏れてしまった。それによると、改革案では「男性の国家基礎年金の額を現在の1週間80ポンドから109ポンドにまで増やし、支給開始年齢を現在の65歳から2020年までには67歳に引き上げるべきである」とされているのだとか。

現在の支給開始年齢である65歳は何と1925年に決められたものなのだそうですね。80年前です!当時は今よりも平均寿命がはるかに短かったはず。それが今まで変えることなく続けられてきたというのが凄いじゃありませんか!?

支給開始年齢の引き上げについて、英国最大の老人福祉団体であるAge Concernの広報担当は「低所得層の生活が苦しくなると同時に所得の不平等が余計に広がる」と警告しています。Pensions Commissionの改革案の影響を受けるのは、現在50歳以下の人たちですが、Age Concernの調査によると、いわゆるブルーカラーの人々の平均寿命は71歳だそうで、殆どの人々が退職後は国家年金だけが頼りという生活を送ることになる。こうした人々にとっては、支給開始年齢の引き上げは確かに痛い。

年金とは関係ありませんが、Age Concernの調査によると、英国ではこのところ3世代同居家族というのが増えているとされています。34歳〜64歳の成人85万人が自分の両親と一緒に生活している。これは英国における全世帯の4%にあたるのだそうです。

3世代家族が増えているイチバン大きな理由は経済的なもので、定年退職後の平均年収が約1・1万ポンドでは独立して生活するより子供の家族と暮した方が楽ということ。さらに英国には地域格差のようなものがあってイングランドでいうと、北よりも南の方がお金持ちが多い。で、3世代家族についていうと、北イングランドでは全世帯の8%なのに南西イングランドでは3%と少なくなっています。

 


A前駐米英国大使の回想録が論議を呼ぶ


英国の前駐米大使であるChristopher Meyerという人が書いたDC Confidential(出版元:Weidenfeld & Nicolson・値段£20)という回想録が英国で問題になっています。Christopher Meyerは1997年秋から2003年初めまでワシントンで大使をしていた人なのですが、問題になっているのは、回想録の中でブッシュ政権によるイラク侵攻が早すぎたという趣旨の批判をしており、「英国政府はアメリカによる侵攻を遅らせることができたはず(なのに、その努力を怠った)」という部分です。ちなみにこの人はイラク戦争そのものは支持しているそうです。

イラク戦争は2003年3月に始まったのですが、Meyer氏によると英国は「イラク侵攻を2003年の末まで遅らせることによって、国連決議にフランスやロシアを引き込むことができたはずであり、そうすれば戦争をせずにサダム・フセインを辞任に追い込めた」ということらしい。

「らしい」というのは私自身がまだこの本を読んでいないという意味なのですが、大使の身でありながら、当時の政府を批判するとは何ごとだ、ということで非難されており、退職後に武器メーカーの重役に天下りし、5000ポンド相当の株を購入した・・・など殆ど個人攻撃のような感じになっているようです。

この回想録については、The Economistのように「イラク侵攻を遅らせれば戦争を防げたというのは結果論」と批判する向きもかなりあるようです。 また、11月19日付けのGuardianのサイトに掲載された書評に面白いことが書いてありました。Martin Kettleという元ワシントン特派員が書いたもので、彼はMeyer氏が大使であった頃にワシントンで仕事をしていた人です。彼によると、Meyer氏はアメリカという国について次のように語ったそうです。

Think of the US as a foreign country, then you will be pleasantly surprised by the many things you find in common with this most generous and hospitable of people. Think of America as Britain writ large and you risk coming to grief; American attitudes to patriotism, religion, crime and punishment, schooling, sex, the outside world, can be very different from those of Europeans, including the British.

長い引用で申し訳ないのですが、意味としては「アメリカを外国と考えなさい。そうすればアメリカ人と英国人の間にはいろいろと共通点が見出されて楽しい驚きを持てるはず。反対にアメリカは英国と同じはずなどと考えるとがっかりする。愛国心・宗教・罪と罰・学校教育・セックス等など、アメリカの考え方は、英国も含めてヨーロッパとは非常に異なる」と言っております。要するに、アメリカ人は親切かもしれないけれど、やたらと愛国心を振り回すし、外国(outside world)のことは知らない、死刑もあれば熱狂的に信心深い・・・とてもじゃないけど文明人たるヨーロッパにはついていけない部分がある、と言っているのと同じですね。

さらに面白い部分は、英米関係についてです。書評を書いたMartin Kettleによると、Meyer氏が大使であった頃のアメリカではブレア首相の人気が圧倒的で、その分It was good time to be British in America.(アメリカで英国人でいることは楽で気分も良かった)のだそうです。が、彼が大使の期間中は英米関係を「特別な関係」(special relationship)と表現することは「禁止」されたそうです。英米のspecial relationshipはサッチャーさんもブレアさんも大いに強調したものです。アメリカと「特別な関係」にあった国、すなわちアメリカの外交政策に重大な影響を与えることができる国といえばアイルランド、イスラエル、サウジアラビアと台湾であったというのがMeyer大使の持論であったそうであります。

つまり確かにブレアはアメリカ人の間で人気はあったかもしれないけれど、アメリカの政府が英国という国を本当に切実に「重要な国」と思っていたのかどうかについては「思いあがらないほうがいい」というのがこの大使の実感なのでしょうね。

で、「イラク侵攻を遅らせることができたかも・・・」という批判については、書評を書いたMartin Kettleは「どうなったか分からない」と言いながらも「侵攻を遅らせるという選択が全く考慮されなかったことについては、大使も我々も大いに怒る権利がある」(Meyer and many others of us have every right to be extremely angry that it was never given a chance)と言っています。

 

B「お金」で批判されるブレア夫人


ブレア首相のチェリー夫人が首相夫人であることをネタにしてお金を稼いでいる、として問題になっています。と言ってもこれはブレア嫌いの保守派の新聞、Daily Telegraphのサイト版が伝えているにすぎないので、実際にどれほど問題視されているのかはよく分からないのですが。

11月17日付けのサイトによると、ブレア首相本人が国会議員利害関係記録簿(Register of MPs' Interests)に記載した記録の中で明らかにしているもので、Daily Telegraphは、チェリー夫人の金儲けに対する批判がより強くなる前に、全てを明らかにしてこれを押さえようというのが首相の意図であると伝えています。

お金儲けにもいろいろあるのですが、例えばブレアさんが6月にワシントンを訪問したときに同行したチェリーさんは「ブレア夫人との会話」(Conversation with the wife of Tony Blair)なる講演会に出席した出演料が2万〜3万ポンドであったらしい。日本円で400〜600万円。メルボルンでは、子供のガン撲滅チャリティディナーでスピーチをやったのですが、関連慈善団体が受け取ったお金は募金額の10%以下、残りはどこへ行ったのか?というわけでチェリーさんが大いに批判を浴びたのだとか。

いずれもチェリーさんがいくらもらったのかがはっきり記載されていないのですが、首相官邸では「夫人がいくらの所得を得たのかは明かす必要がない。前任者のメージャー首相の夫人が首相専用別荘の生活についての本を書いたのにロイヤリティの額は明らかにされなかった」と主張しています。

ところで国会議員利害関係記録簿によると、ブレア一家は今年の夏、バルバドス諸島にあるクリフ・リチャード(歌手)の別荘で26泊したのだそうです。「あれだけの別荘を26日間も借りたら大変な額になるはず」とDaily Telegraphは、ブレアさんの「特権乱用」を批判しています。またブレアさんの年収は178,922ポンドだそうであります。日本円で約4000万近く?

 

C山口教授の『ブレア時代のイギリス』


北海道大学教授の山口二郎という人が書いた『ブレア時代のイギリス』(岩波新書)を読みました。英国(特に英国の政治)について興味がおありの方には面白いかもしれません。この本のことについては、長くなるので別のところに掲載させて貰います。その気のある方は、ここをクリックしてください。

 

D短信


ダーウィンの亀?が175歳の誕生日

オーストラリアのクイーンズランドの動物園にいる亀がこのほど175歳の誕生日をお祝いしたそうです。この亀、名前はハリエッタというのですが、あの進化論のダーウィンが動物(ガラパゴス巨大亀)の研究をしたことで知られるガラパゴス島の出身だというのだからタダモノではない。DNA鑑定によるとハリエッタの誕生日は1830年ごろだそうで、ダーウィンがガラパゴス島を訪れる5年前に生まれたってことに・・・。というわけで中にはハリエッタこそがダーウィンによって研究された亀そのものであるという人もいるそうです。

  • ハリエッタは体重約140キロでBBCによると「ディナーテーブルくらいの大きさ」であるそうです。

警官を呼んだ本人が逮捕される

米国ルイジアナ州にあるシボドウ(Thibodaux)という町で起こったことですが、ハンバーガーショップで出された料理のタマネギが冷たかったということで、取り替える・取り替えないでウェイターと言い合いになった客が警察を呼んでしまった。警察が来たことは来たのですが、喧嘩の現場に到着するなりこの客を逮捕してしまった。罪は「くだらないことのために警官の時間を無駄に使った」ということだそうです。公判は12月に予定されています。

  • 「犯人」は30歳の女性だそうです。この記事を読んだとき、私はてっきり80のおばあさんかと思った・・・。

クビになるサンタ

オランダのあるショッピングセンターでクリスマスセールの宣伝のために雇われたサンタクロースが、買い物客の男の子をぶん殴ったということでクビになるかもしれない。何故、殴ってしまったのかというと、この子がサンタクロースのヒゲを引き抜こうとしつこく食い下がったというのがサンタの言い分。「あのままやらせていたら、きっと本当に引き抜かれて自分の素顔が出てしまい、見ていた他の子供らに後遺症(トラウマ)となったに違いない」と正当性を主張しています。

  • 確かに殴りたくなるガキっていますよね。ただサンタの素顔が出て来たからって「トラウマ」というほどのことじゃないんでない!?

 

E編集後記

●広島で小学生の女の子が殺されてダンボール箱で見つかったという、本当に気の毒な事件のあった日にテレビ朝日の午後10時ごろからの「報道ステーション」という番組の出だしには非常に不愉快な気になりました。慌ててNHKのニュースの方に回してしまった●「報道ステーション」という番組のあの司会者が極めて深刻な顔でこの事件の報道を開始したのですが、あの司会者は、自分が深刻な顔をすることで、(例えば)あの女の子の両親がどのように惨めというか、虚しい思いをするのか、考えたことあるんでしょうか?自分の気持ちを「素直に」表現したのだから、許されるということなのでありましょうか?●自分の子供が殺された両親に向かって「本当にひどいですね、許せません!」なんてこと言うでしょうか?それこそ無神経ってものですよね●この種の事件が起こるたびに、近所の人がぼかされた画面に登場して「あの子は、ホントに可愛い、いい子だったのにねぇ・・・」とかいう愚にも付かないコメントを言う●「いい加減にして欲しい」と思うのですが・・・見なければいいってこと?結局。でもテレビというのは見るためにあるんですからね●ついグチばかりになってしまいます。申し訳ない。オーストラリアはこれからが夏の盛りだそうです。うらまやしい。

 

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