埼玉県の山奥ではホトトギスが鳴き始めました。何だかもう夏が来たような感じであります。このむささびは、それなりに報道されるのに、いまいちよく分からないイスラエルとパレスチナ(とトランプ)のことをちょっとだけ考えました。上の写真は難民収容所のパレスチナ人の子供です。
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目次
1)ガザの衝突とリベラル・メディア
2)今更ですが・・・米国大使館のエルサレム移転
3)「福音派」の不気味
4)ロイヤル・ウェディングとBREXIT
5)トランプが受けた屈辱
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声
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1)ガザの衝突とリベラル・メディア
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トランプ米政権がイスラエルの米国大使館をテルアビブからエルサレムに移した5月14日、イスラエル軍がパレスチナのガザ地区で抗議する人々に実弾などで発砲し、58人が死亡、約3000人が負傷した事件について、イスラエルのハアレツ(Haaretz)という新聞の社説を読む機会がありました。イスラエルの新聞に関するむささびの知識はゼロなのですが、ネット情報によると全国紙はハアレツも含めて5紙ある。ハアレツは1919年創刊で一番古いのですが、発行部数の点では一番小さい。政治的な傾向は「左派・リベラル」とされている。英国でいうとガーディアンですね。
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ハアレツの社説は「流血を避けよ」(Stop the Bloodbath)という見出しで、主張のポイントは次のようになっている。
- イスラエルが自らの国境を守る権利を有していることについての異論はない。しかしそのことは、イスラエル国境を越えようとする人間に対して何をやっても構わないという意味ではない。
There is no dispute over Israel’s right to defend its border, but this does not mean it has the right to do whatever it pleases to those who try to cross it
ここでいう「イスラエル国境」というのは、中東のシナイ半島の北東部、東地中海に面して存在する「ガザ」と呼ばれるパレスチナ自治区のエリアとイスラエルの間にある境目のことです。むささびの知識はゼロなのですが、「パレスチナ子供のキャンペーン」というNPOが運営するサイトによると、
- 1993年にイスラエルとPLO(パレスチナ解放機構)の間で結ばれた「オスロ合意」に基づいて、翌年ガザ地区は、ヨルダン川西岸地区と共に「パレスチナ自治区」になりました。しかし今、ガザはイスラエルに軍事封鎖され、「天井のない監獄」となっています。
となっている。種子島ほどの面積に150万人のパレスチナ人が暮らしているのですが、周囲を壁で囲まれ、自由に出入りすることも出来ない。正に「天井のない監獄」に閉じ込められているようなもので、失業率は40%にも達している。
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ハアレツ紙の社説のポイントは、イスラエルには自らの国境を守る権利があるけれど、そのために非武装のデモ隊に発砲するとは言語道断だということです。イスラエル兵士はパレスチナ人のデモ隊がガザの境界壁を乗り越えることを「血を流さずに阻止すべきであった」ということになる。確かに国連の人権委員会もイスラエルの「度を過ぎた反応」(disproportionate response)を批判している。ただ、パレスチナのデモ隊と言えばテロ集団に決まっていると思い込んでいるイスラエル側からすると、武器使用も正当防衛ということになる。その中で犠牲者が出るのもやむを得ない・・・つまりハアレツ紙の社説は「きれいごと」にすぎない、と。
イスラエル側からドローンで打ち込まれた催涙ガスに逃げ惑うパレスチナのデモ隊 |
一方、5月17日付のThe Economistは社説のトップでこの問題を取り上げており、見出しで
- Israel must answer for the deaths in Gaza
と言っている。「イスラエルはガザで死者を出したことについて説明しろ」と怒っているのですが、その一方で
- But it is time for Palestinians to take up genuine non-violence
パレスチナ側も非暴力による抗議活動を真剣に考えるべき時だ
とも主張している。ただThe Economistも自分たちの主張が殆ど実現不可能であることを認めざるを得ないと思っているようで
- The only way to stop fighting is to stop fighting
ケンカを止める唯一の方法はケンカを止めることだ
などと書いている。
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▼つまりハアレツもThe Economistも「強い者」であるイスラエルの批判・非難に力を入れているけれど、実際には両方ともお手上げ状態という感じなのですね。むささびの印象では、The Economistの社説は自分たちが裁判官にでもなったような気分で両方を諌めているのに対して、ハアレツのそれはパレスチナ人とのトラブルを自分たちの問題として考えている。
▼上に紹介した「パレスチナ子供のキャンペーン」という日本のNGOのサイトの中に「パレスチナ刺繍」に よる様々なグッズが紹介されているコーナー(パレスチナ刺繍タトリーズ)があります。ショッピンバッグ、コー スター、ランチョンマットなどですが、どれもパレスチナの難民キャンプなどで女性たちが作ったものなのだそう です。 |
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2)今更ですが・・・米国大使館のエルサレム移転
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上の写真(右)は5月14日にエルサレムで行われたアメリカ大使館の開所式、左は同じ日にパレスチナのガザでイスラエル側から打ち込まれた銃弾を逃れるパレスチナ人のデモ隊。開所式のにこやかな来賓の顔と余りにも対照的なパレスチナ側の風景です。
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トランプがイスラエルにあるアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転したことについて、The Weekという英国のビジネス誌が、この移転が物議をかもしている背景について分かりやすく解説しています。いまいちよく分からなかったむささびにとっては有難い記事であります。
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縮むパレスチナ:Shrinking Palestine
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上の地図を見ると、第二次大戦直後から現在までのイスラエルとパレスチナの関係が分かる。パレスチナが英国の委任統治領(British Mandate for Palestine)であった時代(1878年~1946年)はほぼ全土がパレスチナだったのに、1947年になって国連による分割決議が採決されてパレスチナは全体の43%、それ以外はイスラエルの領地ということになる。1948年~1967年のほぼ20年間にわたる戦い(中東戦争)の結果、パレスチナの領地は全体の25%となり、2012年になるとわずか8%にまで低下してしまった。ヨルダン川西岸とガザは1994年以来「パレスチナ自治区」とされ、「パレスチナ自治政府」が存在しているけれど独立国家ではない。
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現在のイスラエルという国ができたのは1948年のことです。世界に散らばっていたユダヤ人が「イスラエルの地(パレスチナ)に故郷を再建しよう」という運動の結果として生まれたのが現在のイスラエルなのですが、首都をどこに置くのかという点でイスラエルとアメリカを始めとする「国際社会」の間で意見が異なった。ユダヤ教のメッカとも言えるエルサレムを主張するイスラエルに対して、エルサレムがユダヤ教・キリスト教・イスラム教のいずれにとっても「聖地」とされており、一つの国に対して主権(sovereignty)を認めるわけにはいかないというのが「国際社会」(アメリカも含む)の意見だった。
イスラエルは今でもエルサレムを首都であるとしているけれど、対立するパレスチナ自治政府(Palestinian National Authority:PA)は東エルサレムはパレスチナ領土であるにもかかわらず、1967年の第三次中東戦争以来イスラエルが違法に占領しているのだと言っており、国連の安保理事会も同じことを言っている。アメリカを含めた国々が大使館をテルアビブに置いてきた理由です。 |
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それが昨年(2017年)12月6日にトランプが声明(Statement by President Trump on Jerusalem)を発表、イスラエルの首都がエルサレムであり、アメリカ大使館はテルアビブからエルサレムに移転されることを明らかにした。声明文によると、今から20年以上も前に「エルサレムに大使館を置く法案(Jerusalem Embassy Act)」なるものが下院で承認されて政府に対して移転を勧告したにもかかわらず、歴代政府が移転計画を放棄してきたものだとされている。この声明によって中東で70年間続いてきたアメリカの外交政策が変わってしまった。
イスラエルのナタニエフ政権もこの声明を大いに支持するとともに、他国もアメリカの例に倣うべきだと主張した。そして今回の新米国大使館の開所式となったわけですが、イスラエルと国交を結んでいる86か国のうち開所式に代表を派遣すると答えた国は33か国にとどまり、EU27か国のうち開所式に大使を派遣したのはオーストリア、チェコ、ルーマニア、ハンガリーの4か国だけだった。ちなみに英国政府はトランプが声明を発表した昨年12月の時点で、地域の平和促進に逆行する動きだとしてこれに反対する声明を発表しています。 |
▼首都をエルサレムであると認め、大使館を移転することが「物議を醸す」(controversial)ことの理由は一応分かったのですが、国際社会の反発があるであろうことは充分分かっているはずのトランプがこれをいま挙行したのは何故だったのか?このあたりのことについてはThe Weekの記事は触れていない。日本のメディアなどによると、アメリカ国内における「福音派」と呼ばれる保守的な政治勢力がこれを主張しており、中間選挙での共和党の勝利を目指すトランプにとって大票田である「福音派」の主張に沿った政策を推進するということだと解説される。でもイスラエルは基本的にはユダヤ教徒の国です。なのにキリスト教徒の集団である「福音派」が、なぜエルサレムへの大使館移転を支持するのか?ということについては、どの程度説明されているのでしょうか?このあたりについて書き始めるとあまりにも長くなるので次の記事に譲ります。 |
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3)「福音派」の不気味
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テルアビブからエルサレムに移されたアメリカ大使館の開所式への参加者の中に、アメリカのキリスト教徒の中でも「最も手におえない(rambunctious)人物」が二人いた・・・と5月18日付のThe Economistが伝えています。
その二人はキリスト教福音派(evangelical Christians)と呼ばれるグループを代表する人物で「最も手におえない」とは「札付きの狂信的キリスト教徒」という意味であり、聖書に書いてあることを一片の疑いもなく信じ込み教え広めようとする人物です。一人はジョン・ハギー(John Hagee)という牧師で「イスラエルのために団結するキリスト教徒」(Christians United for Israel)というグループの会長、もう一人はテキサス州ダラスでメガチャーチを運営するロバート・ジェフレス(Robert Jeffress)という牧師です。
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ジェフレス牧師はかつて「モルモン教、イスラム教、ユダヤ教、ヒンズー教などの信者は地獄へ堕ちる可能性が高い(likely to end up in hell)」と発言したことで知られるし、ハギー牧師もアメリカ大使館をエルサレムに移動することで、パレスチナ人にイスラエルというユダヤ人の国の首都としてのエルサレムを強制的に受け容れさせることになり、それがこの地域の平和に繋がる・・・などと主張している。
それにしてもキリスト教徒である二人が、なぜユダヤ教の国であるイスラエルの首都についてそれほど肩入れしようとするのか?それはキリスト教の聖書自体が「イスラエルは神がユダヤ人に与えた土地だ」という趣旨のことを言っているからであり、聖書の言うことなら何でも字句通り信じる福音派が、ユダヤ人の土地としてのイスラエルに肩入れするのも不思議ではないということになる。ジェフレス牧師の言葉として
- エルサレムが、ユダヤ人とキリスト教徒の双方にとって愛をもって語るべき話題であることは歴史的にも明らかであり、神による予言そのものの試金石とも言える存在なのだ。
Jerusalem has been the object of the affection of both Jews and Christians down through history and the touchstone of prophecy.
というのもある(5月14日付ワシントン・ポスト紙)。
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福音派の代表格?ペンス副大統領夫妻
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以上がアメリカの人口の4分の1を占めると言われる福音派キリスト教徒が、ユダヤ人の国であるイスラエルに肩入れする背景です。ではユダヤ人たちは福音派やトランプなどについてどのように思っているのか?イスラエルで暮らすユダヤ人のことは分からないのですが、在米ユダヤ人を対象にした世論調査があったので紹介します。昨年8月、AJCというユダヤ人組織が主宰した調査です。
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まず(むささびには)興味深かったのが、在米ユダヤ人に関する限り、政治的には民主党が圧倒的に強いのですね。自分のことを民主党支持者と考える人が57%なのに対して、共和党支持者はわずか15%しかいない。 |
在米ユダヤ人
2016年の大統領選では誰に投票したのか? |
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上の結果からしても大統領としてのトランプへの評価が低いことは察しがつきますよね。 |
在米ユダヤ人
トランプ大統領はよくやっているか? |
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ではイスラエルのアメリカ大使館をエルサレムに移転することについては、どのような方法をとるのが一番望ましいか?と聞いたところ次のような回答になっている。 |
在米ユダヤ人
アメリカ大使館のエルサレムへの移転 |
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エルサレムをイスラエルの首都として、アメリカ大使館も移転するという方針そのものには好意的という意見が5割を超えてはいるけれど、あくまでもパレスチナ人との平和共存という状態を実現することと抱き合わせで行うべきだというわけです。「すぐに移転」というトランプや福音派の行動に好意的な意見は殆どないのですね。それから「移転に反対」が5割近くいるということは、在米ユダヤ人のアタマが在イスラエルのユダヤ人よりも「国際社会」のそれと近いということですね。
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▼City Journalというアメリカの雑誌のサイトに掲載されていた記事によると、いまのアメリカではユダヤ人と福音派キリスト教徒がイスラエルに対して好意的な感情を抱いている。が、福音派キリスト教徒は在米ユダヤ人には好かれていない。さらにアフリカ系アメリカ人はイスラエルに対しても在米ユダヤ人に対してもいい感情を抱いていない。が、選挙での投票行動に見る限りユダヤ人はアフリカ系アメリカ人を自分たちの仲間(natural allies)であるとみなす傾向が強いとのことであります。ではアフリカ系アメリカ人は「福音派」のことをどう思っているのか?これについては書かれていないけれど、キリスト教徒のアフリカ系アメリカ人で福音派を自認しているのは14%だそうです。 |
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4)ロイヤル・ウェディングとBREXIT
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5月20日付のGuardianの社説の見出しは次のようになっています。
「Brexitとロイヤル・ウェディング・・・どちらが本当の英国なのか?」というわけですよね。この二つの出来事が現代の英国を象徴している。Brexitが人種も含めた「他者」に門を閉ざそうとする英国の象徴であるとすると、ロイヤル・ウェディングは人種的な意味での開放性(racial inclusivity)を象徴するイベントであった、と。古い歴史を持った国はそれなりの道のりを経て現代に至っているのですが、
- (あのロイヤル・ウェディングは)フェアな国としての英国を目指す長くて曲がりくねった道の中でも画期的な瞬間であった。
It was a milestone moment on that long and winding walk to a fairer Britain.
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Guardianに言わせると、あの日の高揚感に溢れた行事(ロイヤル・ウェディング)が、Brexitによって完全に歪められ、分裂してしまったこの国で行われたという意味は重大である、と。これほどまでに異質の文化や人びとに開かれている国が、今や世界に向かって扉を閉めるのか、自信を持って世界とともに生きようとするのかという選択肢をめぐって痛々しくも分裂している、実に嘆かわしいというわけです。
この社説はもう一つ、隣国のアイルランドにおける分裂現象についても語っています。この場合は堕胎の合法化をめぐる分裂です。このむささびが出る頃には国民投票(5月25日)が行われて決着がついている。この社説が掲載された時点の世論調査では堕胎の合法化についての賛成意見が勝っているのですが、危機感を募らせる郡部アイルランドの人びとが大挙投票所に押しかけて反対票を投じる可能性もあると言われている。Brexitもトランプも「都会のエリート」に対する郡部の非インテリ層の怒りが爆発したものであり、アイルランドにおける堕胎の合法化も同じような運命を辿るかもしれない。
英国では堕胎は合法で、毎年ざっと3000人のアイルランド女性が堕胎手術のために英国へ来る。いまのところアイルランドも英国もEU加盟国だから国境はあってもないようなものなのですが、英国の離脱後にアイルランドとの国境がどのような性格を持つものになるのかはっきりしていない。場合によってはアイルランド女性が英国へ入国することが今ほど容易ではなくなる可能性もある。
アイルランドの作家、フィンタン・オツールによるとアイルランド人の堕胎に対するメンタリティは英国人のBrexitメンタリティと似ている。異なった背景を有する国々が一緒になろうとするEU、殆どの国で堕胎が合法化されているヨーロッパ・・・英国もアイルランドも、そのような「寛容なヨーロッパ」(permissive Europe)に対して自国の特殊性を主張する「誇り高き島国」(proud island nations) という図式です。Guardianに言わせるならば、それらはいずれも「昔ながらのファンタジー」(ancestral fantasy)ということになる。英国もアイルランドも近代化に向けて長い道のりを歩んでいるけれど
- この長い道のりは決して直線的なものではないだろう。が、それが避けて通ることができない道のりであることは王子も人民も同じなのである。
The long walk will never be a straight line. But it is a journey that must be taken, by princes and peoples alike.
とこの社説は結ばれています。
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EU離脱に
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▼BREXITについて再確認しておくと、2016年の国民投票ではEU離脱に賛成が1741万742票、反対が1614万1241票だった。126万9561票の差です。約127万というこの票差は大きいのか、小さいのか?当時の有権者の数は4650万人だったから、投票に行かなかった人が約1300万人いたことになる。投票率の72.2%という数字は、選挙の際の投票率としては決して低いものではないけれど、ひとたびEUを離脱したら少なくとも5年、おそらく10年は元には戻れないということを考えるならば37.9%程度で "BREXIT means BREXIT" と言えるほどの決定的な差なのか、大いに疑問ですよね。そしていまこの問題をめぐって国論は完全分裂で、家庭内にさえも殆ど感情的とも言えるような対立を生んでしまっている。かえすがえすも失敗だったと思います。
▼と、そのような対立の中にあっても「ロイヤル・ウェディング」ともなれば、国民そろって祝賀気分に浸れるというわけですが、普通の生活に戻ってみれば、またあのBREXITをめぐるいがみ合いが待っている・・・。そもそもEUを離脱した英国人にとって何が良くなるというのですかね。離脱派がいう「誰からも支配されない独立」なんて、何がそんなにいいものなのか?プライドですか?独立独歩、我独り行く、ですか?BREXITに賛成票を投じた1740万人のうち何人が「我独り行く」なんてことに生き甲斐を見出すのでありましょうか?疑問ですね。
▼自分たちにとっても、世界の人びとにとっても、とてつもなく重大なことなのに単純多数決で決めてしまうというおっちょこちょいぶりが治らないかぎり、独りで歩いたらいいんでない?少なくとも他人に迷惑をかけなくて済む。
▼ちなみにアイルランドにおける堕胎の合法化に関する国民投票は、合法化に賛成が66.4%、反対が33.6%という結果になったそうです。圧倒的多数で合法化されることになったわけですが、アイルランドの北にある「北アイルランド」は英国の中でも最も堕胎に厳しい制限が加えられている地区で、南のアイルランドにおける変化は英国領である「北」にも大きな影響を与えることは間違いない。 |
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5)トランプが受けた屈辱
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トランプが6月12日に予定されていた金正恩との首脳会談を急に中止して世界中にショックを与えたけれど、昨日(5月26日)になって「交渉継続明言」したりして・・・何だかさっぱり分からないという感じですが、5月24日付のThe Economistのアメリカ・ウォッチングのコラムによると、トランプは「外交の分野で屈辱的なレッスンを受けた(receives a humiliating lesson in diplomacy)ということなのだそうであります。外交というものが全く分かっていない大統領という意味です。
トランプが会談の中止を発表したときに、金正恩に宛てたトランプ直筆の手紙というのが公開されましたよね。最近、副大統領のペンスらが北朝鮮について「核兵器を放棄しなければリビアのカダフィのような運命を辿る」と発言、これについて北朝鮮の幹部が怒りの談話を発表するという事態が続いていた。そして手紙の中でトランプは「この雰囲気では会談は中止した方がいい」という趣旨のことを述べているのですが、The Economistのコラムが読者に注意を呼びかけているのは、トランプの手紙の中の次の部分です。
- 私と貴殿(金正恩)の間には素晴らしい対話が出来上がりつつあったではありませんか。最終的に大切なのは、あの会話なのですよ。それしかないのです。この会談(米朝会談)は非常に大切なものです。もし気持ちが変わったら電話をするか手紙をください。
I felt a wonderful dialogue was building up between you and me, and ultimately, it is only that dialogue that matters. If you change your mind having to do with this most important summit, please do not hesitate to call me or write.
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The Economistによると、トランプはまるで「愛人に捨てられた男」(jilted lover)のようであり、これを読んだら(アメリカとの対等な関係を望む)金さんも大喜びするはずだというわけです。アメリカにとって米朝会談の目的は北朝鮮の核放棄以外にない。一方、金正恩がトランプと交渉する中で、核保有によって得られる戦術的な優位性(strategic advantage)を手放すようなことは決してしない。つまり核を手放すことは絶対にない。「気持ちが変わったら電話ください」というハナシではない・・・というわけです。
- 忌むべき金体制に対するアメリカのこれまでの外交政策は、為すこともなく無視するというものだった。結局トランプ氏の政策もこれまでと大して変わらないということになる可能性がある。
American policy towards Mr Kim’s dreadful regime has long been one of impotent neglect. It is possible Mr Trump will not revise that much.
とThe Economistのコラムは言っている。
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▼トランプの手紙が書かれたのは5月24日ですが、翌日(5月25日)には次のようなツイッターが発表されている。
- 北朝鮮から暖かくて生産的な声明を受け取った。非常にいい知らせだ。これからどうなるのか、間もなく分かるだろう。長く続く繁栄と平和に繋がることを期待したい。時間が経てば分かるだろう(が、能力もまた必要だ)。
Very good news to receive the warm and productive statement from North Korea. We will soon see where it will lead, hopefully to long and enduring prosperity and peace. Only time (and talent) will tell!
▼"Only time (and talent) will tell!"とはどういう意味ですかね。自分もキムさんも「能力」は抜群。あとは時間をかければ丸く収まる・・・ってこと?要するにトランプという人はメチャクチャってことなのですよね。大統領にはツイッターの利用を禁止するという法律でも作った方がいいと思いません? |
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6)) どうでも英和辞書
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Anti-Semitism:反ユダヤ主義
Semitismという単語を辞書で引くと「ユダヤ人気質」という日本語が出ているけれど、言葉としてはむしろ "Anti-Semitism" の方が頻繁に使われますよね。ウィキペディアには「ユダヤ人およびユダヤ教に対する敵意、憎悪、迫害、偏見を意味する」と書いてあって、旧約聖書には反ユダヤ的態度が記述されているのだそうであります。
"Anti-Semitism"がらみの最近のニュースに、かつてロンドン市長(2000年~2008年)だった労働党の重鎮、ケン・リビングストンが、彼自身の反ユダヤ主義的言動が理由で党を辞めたというのがある。この人は労働党左派の名物的存在で、現在のコービン党首とは考え方も近いのですが、2年前の2016年に、やはり"Anti-Semitism"ともとれる発言をした(とされる)労働党の下院議員を擁護する演説をする中で、ヒットラーも最初のころはユダヤ人のイスラエルへの帰還運動であるZionismを支持しており、「ユダヤ人はイスラエルへ帰るべきだ」とも発言していたと語り、あたかもヒットラーを擁護するかのような口ぶりだったというわけで党内外から反ユダヤ主義者であると非難されていた。
リビングストンとしては、ヒットラーが1930年にZionismを支持する発言をしたことは歴史的な事実であって、それを紹介したからと言って、自分が反ユダヤ主義者であるということにはならないではないかというわけです。つまり自分を非難する方が間違っているということですが、それならなぜ辞めるのか?「自分の存在が政権奪回を目指す党にとって迷惑(distraction)になるから」とのことです。日本の政治家と言うことが似ていなくもない?
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7) むささびの鳴き声
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▼エルサレムへの大使館移転とイラン核合意からの離脱・・・アメリカ人は本当にひどい人物を大統領に選んでしまった。トランプ支持者の中核を成すのが福音派ですが、アメリカの福音派、英国のBREXITERS、日本の嫌韓・反中人間の3者に共通しているのが劣等感ですね。自分たちがバカにされているという被害者意識でもある。福音派は東部のインテリと西海岸のリベラルに、BREXIT人間はロンドンの金持ちに、嫌韓・反中人間は「韓中びいきの日本人」にそれぞれバカにされていると思い込んで怒りをたぎらせている。劣等感が強がりと集団心理を生み、「まとも」であろうとすることに反発する。救いようがない。むささびの友人である在英アメリカ人の忠告によると、気を付けるべきは副大統領のペンスだそうです。聖書の言うことを一字一句そのまま信ずる "Mr I-believe-every-word-in-the-Bible-literally" なのだそうです。気持ち悪い!
▼ガザの衝突で約60人ものパレスチナ人が死んだわけですが、むささびジャーナル263号で紹介したロバート・フィスクというジャーナリストは、2001年の9・11同時多発テロの遠因としてパレスチナの悲惨を挙げている。今回のガザの衝突が次なる「9・11」に繋がると考えるのは常識というものです。あの9・11のあとでアメリカに難癖をつけられて壊滅的な打撃を被ったのはアフガニスタンとイラク。イラクはブッシュのいわゆる「悪の枢軸」の一つだった。次回の9・11ではどこが犠牲になるのか?「悪の枢軸」で残るのはイランと北朝鮮ですが、北朝鮮のセンはない。何故ないのか?福音派のような狂信的キリスト教徒にとってアジアの独裁国家は何を考えているのか分からず不気味だから。となるとイランが残る。いまむささびが最も憂慮するのは金正恩ではないし、中国でもない。トランプであり、福音派です。
▼(パレスチナの悲惨とは全く無関係の)日大・関学のアメフト問題。むささびとミセス・むささびにとって理解しがたいのは、なぜこれがそれほど大きな話題なのか?ということです。ミセスによると、この種の運動部的な出来事は日本中どこにだってある、なぜこの問題だけがこれほどの大騒ぎになるのか?というわけです。確かに。NHKなどは夜の7時や9時のニュースのトップで長々と報道していました。おかげで過労死を助長するとされる「働き方改革法案」が衆議院の委員会で可決され、カジノを奨励するための準備としての「ギャンブル依存症対策基本法案」などが衆議院を通過したことなどは大したニュースにはなっていない。
▼5月22日に日本記者クラブで、問題の反則プレーをやってしまった日大の選手が記者会見をやりましたよね。この会見に出席した朝日新聞社バーティカルメディア編集長の篠原大輔さんという人が会見について書いています(ここをクリック)。この人は、問題の日大・関学の試合を取材していたのだそうで、次のように書いています。
- 宮川選手が退場になってベンチに戻ったとき、コーチやチームメートがねぎらうように彼のヘルメットや背中に触れたことに、大きな違和感を持った。なぜ誰も彼を怒らないのだろうか、と。
▼むささびはアメフトには全く知識も関心ないのですが、篠原さんのこの記事には違和感を覚えます。コーチらが「ねぎらう」ように反則選手に接触したのは(むささびの想像ですが)あの種の反則がそれほど異常な行為ではないとチームメートらが考えたということなのではありません?結果的には「誰が見ても、あまりにも危険なシーン」ということになったかもしれないけれど、反則選手が退場させられたその時点ではそれほどでもなかった、だから誰もがねぎらうような態度をとった・・・と。
▼唐突ですが、むささびが死ぬ前にやってみたいことの一つに、単行本を出すことがあります。いろいろな有名人に登場してもらって心境を語ってもらうドキュメンタリーなのですが、登場人物の候補として考えているのは清原和博(元西武ライオンズ)、内田正人(前日大アメフト監督)、佐川宣寿(前国税庁長官)、福田淳一(前財務事務次官)らがあります。できれば10人ほどに登場してもらって、それぞれに彼らのメディア体験を語ってもらいたいわけです。本のタイトルは『追いかけられて』(英文版:Being chased)。どこへ行ってもメディアにつきまとわれたときの感覚を語ってもらう。出来ればメディア報道の結果として、それまでは親しく付き合っていたご近所さんや友人たちの態度は変わったのか、変わらなかったのかも是非・・・。それから彼らを追いかけていたメディアの記者にも登場してもらって、追いかける側の心理も紹介したいのであります。ダメですかね?
▼お元気で! |
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むささびへの伝言 |