1ヶ月ほど前(2月27日)のPA通信のサイトを見ていたら、英国の民間放送、ITVが放送したブレアさんとのインタビューが「正確性を欠く」ということで、放送倫理委員会(Ofcom)の批判を受けたという報告がありました。私には非常に面白い報道だと思えたので紹介します。
問題の放送は昨年(2006年)3月に行われたもので、Michael Parkinsonというキャスターがイラク戦争への参加について、ブレアさんに質問した部分が問題になっています。どう問題なのかというと、ブレアさんが、イラク参戦を決定するに当たって、それが「神への信仰(his
belief in God )によって行なった」とでも発言したかのような放送をしたということにある。
で、インタビューを再現すると:
Parkinson:つまり、あのような決定(イラク参戦のこと)をするときは、いつも神に祈るということですか?(So
you would pray to God whenever you make a decision like that?)
Blair:ええと、私は・・・私としてはそのことは話したくないのですが、つまりその・・・ええ、私としては、そりゃ人間は、人間というのは・・・でも、人間は、もちろん・・つまりその・・・そのことについては、人間というのは良心との闘いというものがあるでしょう。何故なら人びとの命がかかっているんだから(Well
I... I don't want to go into... this side of this but it's ...
Yeah I, you, you...but you of course, it's... you, you struggle
with your own conscience about it because people's lives are affected.)
言うまでもなく、上の私の和訳は彼の英語発言の「意訳」であるわけですが、発言そのものが、文字にすると、殆ど意味をなさない発言になっている。ITVはこの発言を取り上げて「首相はイラク戦争への参加について神への信仰心が重要な役割を果たしたと発言した」(the
Prime Minister had said his belief in God played an important part
in deciding to go to war)とか「軍事行動を決定するにあたって神に祈った」(Mr
Blair prayed over the decision before embarking on military action)と放送してしまったのだそうです。
それに対して、視聴者から「放送はブレアの発言を歪曲して解釈している」(Mr
Blair's comments had been wrongly interpreted)というクレームがついたというわけ。これに対してITVは、ブレアさんの答えは、参戦決定については神への信仰心が一定の役割を果たしたということは十分に明らかなことだ、と主張してきた。
ブレアさんは、この発言をする前に、同じインタビューの中で「自分の決定はいずれ神様によって審判されるであろう」という趣旨で次のような発言をしています。
Blair:決定はしなければならないし、その決定とともに生きなければならないでしょう。いずれは審判・・・つまり、こうした事柄について信仰(信念)を持っていればですよ、審判は他の人々によって下されるということも分かっている、と私は思うのです。(That
decision has to be taken and has to be lived with, and in the
end there is a judgment that, well, if I think you have faith
about these things then you realise that judgment is made by other
people.)
この発言についてParkinson氏が「他の人々とは誰のことを言うのか?」と確認を求めたのに対して、ブレアさんは「他の人々とは、つまり、神というものを信じているとすれば、審判が神によっても下されることがあるということですよ」(By
other people, by, if you believe in God, it's made by God as well)と答えている。つまりother
peopleとは言いながら、そこに「神」も含まれているというわけです。
以上が発言内容ですが、OfcomはITVの放送について「これらの発言の中で、唯一はっきりしているのは、ブレア氏が参戦決定をするに当たって、自らの良心との闘いがあったということと、彼が正しかったどうかは、歴史と神が決めることである信じているということである」であって、ITVは、ブレアさんの発言についての自分たちの解釈を、あたかも「事実」であるかのように報道したものであり、ニュース報道に要求される「然るべき正確さ」(due
accuracy)を欠いていたと言っています。
- 確かにこのPAの記事に見る限り、Yeah
I, you, you...but you of course, it's...とかいう、ブレアさんの「しどろもどろ」(ambiguity)を「お祈りで決めた」と報道するのは、ちょっと乱暴という気がしないでもない。
- この放送についてはOfcom宛てに10件のクレーム(10 complaints)が届いた、とPAは報道しています。私はこれを勝手に「視聴者」とやっていますが、正直言ってそれがその10件というのが、視聴者なのか、別の誰かであるのか自信はありません。多分視聴者であろうと推測しただけです。
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