musasabi journal
発行:春海二郎・美耶子
第108号 2007年4月15日

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4月も半ば。東京・日比谷公園の緑が非常にきれいになってきました。上野公園などと違って、何故か日比谷公園にはサクラが殆どない。ケヤキ、クスノキ、カエデなどの葉っぱが非常に新鮮なグリーンを提供しています。

目次

1)英国の親は子供と過ごす時間が少ない
2)従軍慰安婦問題:下院決議案って何?
3)ブレアさんの国会軽視
4)短信
5)むささびの鳴き声

1)英国の親は子供と過ごす時間が少ない


The Independent紙の4月5日号のサイト(教育面)を見ていたら「英国の親は子供と過ごす時間が一番少な い」(British parents spend least time with children)という記事が出ていました。教師・講師協会 (Association of Teachers and Lectuturers)という組織の全国大会で報告されたもので、ヨーロッパ 諸国の中で一番少ないという意味です。

それによると、生後数ヶ月という赤ちゃんでさえも一日10時間、一週間5日、年間48週間を家庭ではな く保育園のような環境で過ごすケースがあるということで、そのような環境で育つ子供は「反社会的・ 心配症・怒りっぽい」(anti-social, worried and upset)という性格になり勝ちなのだそうです。

オックスフォード大学で幼児教育を研究しているKathy Sylvaさんは、幼児が一週間35時間以上、保育 園のような環境下で過ごすとそのような性格になる可能性があると言っています。

実はこの報告書は、政府の教育・技術省からの委託で、国内100の保育園に通う810人の子供(5歳以下) を対象に調査したもので、政府は3億7000万ポンドの予算を投じて5歳以下の子供を持つ親のために保育 園を増やそうとしているだけに、皮肉な調査結果が出たことになる。

教師・講師協会の大会では、これとは別に保守党が行った調査も報告されたのですが、それによると、 5歳以下の保育園教育のせいで、英国の若者は他の欧州諸国の若者よりも攻撃的(aggressive)だという 結果が出ているのだとか。

幼児が保育園のような施設に預けられる傾向(institutionalisation)が盛んになる最大の原因は、経済 的なもので、両親共働きがますます一般的になっていることがある。家を購入するのに多額のローンを 組んでしまったことで、共働きせざるを得ないというケースも多いのだそうです。

この大会の参加者の一人が次のような発言をしています。

政府が経済的な意味での貧困と闘おうとする意図は悪いものではないが、「貧困」には別の種類のものも ある。いい体験に飢えるという貧困、精神的な貧困などがそれだ。この種の貧困は、ある意味経済的な 貧困よりもさらに大きなダメージをもたらすこともある。(I don't think this Government is anything other than well-meaning in its attempts to fight poverty. But there are other types of poverty--poverty of good experience and spiritual poverty and these other types of poverty can be more damaging than financial poverty.)

  • 親が子供と過ごす時間が少ないことが、子供の精神的貧困をもたらしているというこの記事を読むと 「どこも同じなんだ」という気になりますね。かつてむささびジャーナルでも紹介した、東京・杉並区 立和田中学の校長先生は「子供の7割が、自宅へ帰っても"おかえりなさい"という人がいない」という ことを言っていました。ただ、「だからいじめが多いのだ」と言ってみてもどこか虚しい。誰だっていい住宅に住みたいし、海外旅行にも行きたいんですからね。

  • 英国の場合はどうか知らないけれど、日本の場合は母親がパートで働いたお金のかなりの部分が、子供の塾の費用に充てられたりしているかもしれない。ちなみに我が家の場合、3人の子供は誰も幼稚園や塾には行きませんでした。私や妻の美耶子に「精神的貧困云々」というような哲学めいたものがあったわけではありません。美耶子の場合は、せめて小学校にあがるまではなるべく子供と一緒に過ごしたいという意向が強く働いていたし、父親である私の場合は、どちらかというと「集団拒否症」であったということがあります。いずれにしても子供は3人とも、それなりに育ちましたよ。
2) 従軍慰安婦問題:下院決議案って何?


「従軍慰安婦問題」をめぐって、アメリカのニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどが安倍首相の発言について批判的な見解を掲載していると言われています。最近のむささびジャーナルでも紹介したとおり、The Economistなどもこの問題についてはShame on you, Mr Abeと安倍さんを批判しています。で、安倍さんは確か4月の末からアメリカを訪問するんですよね。

そもそもこの問題が話題になっているのは、アメリカの下院で、日本の正式な謝罪を要求する決議案なるものが提出されたことに端を発している。提案したのはMichael Hondaという民主党の下院議員。どのような決議案なのかとワシントンの下院のサイトを調べてみると、次のようなことが掲載されていました。

Expressing the sense of the House of Representatives that the Government of Japan should formally acknowledge, apologize, and accept historical responsibility in a clear and unequivocal manner for its Imperial Armed Force's coercion of young women into sexual slavery, known to the world as "comfort women", during its colonial and wartime occupation of Asia and the Pacific Islands from the 1930s through the duration of World War II.

要するに、「日本政府は戦争中に帝国陸軍が行った若い女性を強制的に慰安婦にしたことについて、正式にこれを認め、謝罪し、歴史的な責任を引き受けるべきだという下院の意見を表明しよう」という趣旨であることは、日本のメディアでも報道されています。

で、最近あるラジオ番組を聴いていたら、外交問題に詳しい専門家(お名前を忘れてしまった)という人が、この問題について解説をしており、結論から言うと「安倍さんは考えられる最悪のコースを歩んでいる」と言っておりました。この人によると、この決議案が1月末に提案されたときにコメントを求められて安倍さんが「謝罪する気はない」というニュアンスにとられるような発言をしたのが最悪のミスなのだそうです。低姿勢かつ丁寧に「日本は河野談話を受け継いでいます」という趣旨の発言だけしておけば、これほどメディアに騒がれるようなことはなかっただろう、というわけです。

「下院決議というものは、法的強制力はないし、殆ど注目されることもない」とのことで、その人は「今年1〜3月で295件の決議案が提案されているんですよ」と強調していました。なるほど、3ヶ月でほぼ300件ということは1ヶ月あたり100件。すごい数ですよね。というわけで、アメリカ下院の決議案なるものが掲載されているThomasという下院サイトを調べてみると、なるほどすごい数の決議案が掲載されており、中には「なんだそりゃ!?」としか思えないものもあった。

  • Congratulating the Mount Union College Purple Raiders for winning the 2006 NCAA Division III Football National Championship.(どこにあるのか知らないけれど、Mount Union Collegeという学校のアメフトのチームが地区大会で優勝したことを祝福しよう、という決議案。提案した議員の選挙区がオハイオ州になっているところを見ると、おそらく地元のカレッジなんでしょうね)
  • Expressing the sense of the House of Representatives that a postage stamp should be issued in commemoration of Diwali, a festival celebrated by people of Indian origin.(インド系の人びとのお祭りを祝って記念切手を発行すべきだ、という決議案。提案者自身はインド系ではないようですが、おそらく彼の地元には沢山いるんでしょう)
  • Recognizing the African American spiritual as a national treasure.(黒人霊歌を国の宝として認めよう。悪いこっちゃありませんが、わざわざ議会で決議すべき問題なんですかね)

で、最初のところで紹介したラジオ番組に出演した外交評論家が言うのは、安倍さんが「河野談話を再調査する(つまり慰安婦問題なんてないんじゃないの?謝罪したのが間違っていたんじゃないの?ということ)という自民党の議員に動きに対して「政府としても大いに協力する気がある」なんてことを言ったから、浴びなくてもいいメディアの注目を浴びてしまったというわけであります。「この種の決議なんて、どうせ忘れられてしまうものだけれど、安倍さんの言動のお陰で、一時的には忘れられても、またどこかでぶり返すでしょうな」とのことあります。

この評論家が言いたいのは、安倍さんの発言や思考方法の善悪(good or bad) ではなくて「賢明か愚かか」(wise or unwise)ということで、安倍さんは「賢明ではない」というわけです。あろうことか、安倍さんの訪米の直後に自民党の議員がワシントンに乗り込んで、決議案反対運動を展開するとかいう記事が小さく出ておりました。この評論家は「それ以上に愚かな行いはない」と言っておりました。

  • まあ、安倍さんのような立場の人は「賢明」な言動をしなければいけないというのは、この評論家の言うとおりです。が、このラジオ番組は「従軍慰安婦問題をめぐる安倍さんの言動をアナタは支持しますか?」とリスナーに問いかけるものでありました。で、あるリスナーが「何故、日本はいつもいつもアタマを下げていなければならないのか。謝罪する気がないのなら、そのようにはっきり言うべきなのではないか」という趣旨の意見を述べました。
  • それに対する、スタジオの評論家のコメントは「これが正しい・正しくないという議論なのであれば、アナタの意見は正しいかもしれないが、外交は正しい・正しくないだけでは片づかない」というものでした。そのリスナーはなにやら納得行かないという感じで電話を切りました。このやりとりを聴いていて(私が)感じたのは、このラジオ番組を作っている人たちの立場の不確かさでありました。
  • 国際関係というものが「善悪」だの「好き嫌い」というレベルで考えることはできないということは、評論家の言うとおりだと思うけれど、普通のリスナーが、安倍さんの言動の是か非かを問われれば「中国や韓国の言いなりなるのは情けない!」と言ったり「なんでもいいから事を荒立てないで」とでも言うしかないんじゃありませんか?
  • それから(長くなって申し訳ない)、この決議案を提出したMichael Hondaという民主党の下院議員について「韓国・中国系のアメリカ人から多額の献金を受けている」ということで、あたかもこの人が選挙資金目当てに決議案を出したのだ・・・という報道をした日本のメディアもあった。けれど、そんなことはどうでもいいじゃありませんか?日本人が考えるべきは決議案の中身が正当なのかどうかということだけなんじゃありませんか?
  • ところで(もう少しだけ)Michael Honda議員ですが、名前からして日系人であることは間違いないし、彼のサイトを見ると第二次世界大戦のときはコロラド州の日系人収容所にも入れられたことがある。年齢がはっきりしませんが、おそらく60代後半か70代の初めなのではないかと思います。ブッシュさんのイラク攻撃には最初から反対票を投じたそうです。で、不思議なことに彼のサイトには、従軍慰安婦のことは何も出ていない。全部のページをくまなく見たわけではないけれど、少なくとも目立つところには出ていない。これ、何なんでしょうね?自分の議会活動の一環として宣伝しても良さそうに思うけれど・・・。
3) ブレアさんの国会軽視


前々回のむささびジャーナルで、ブレアさんの官邸サイト上で展開される「オンライン署名」について紹介したときに、これが「議会の死」に繋がるのではないかと憂慮する向きもあることをお知らせしました。2月25日付けのObserverのサイト上でHenry Porterというコラムニストが、ブレア首相による下院議会(House of Commons)軽視について書いています。

Porter自身の計算によると、ブレアさんが首相になった1997年からこれまでに、下院における審議が投票によって決するケースが、全部で2913回あった。ブレアさんが投票に参加したのは、このうちたったの245回なのだそうです。1月の末に議会でイラクの状況に関する討論が行われた。戦争が開始されてから初めての審議であったのに、ブレア首相は途中で抜け出し審議を外相に任せて、自分は産業人との会合に出席してしまった。演説上手、議論の名人と言われるブレアさんですから、下院での討論に参加しないのは、おっかないからではなくて、下院を見下しているということだ(we know it was contempt, not cowardice)というのが、このコラムニストのみるところです。

ブレアさんが下院で行った、イラクからの英国軍の撤退について発表は大いにメディアの注目を浴びたのですが、実はブレアさんは、その前の夜にこの発表をメディア向けて行っていたのだそうです。Henry Porterによると、ブレアは「仲介なしに直接国民と接するという幻想の方を好んでいる」(Blair prefers the illusion of unmediated contact with the people)のだそうで、その中には、例のオンライン署名活動参加者に200万通のメールを送るということも含まれる。

また首相官邸のサイト上で行われるオンライン署名は、国会の審議よりもメディアの注目を集めることが多い。オンライン署名は、国民の声に直接耳を傾けるということもあるかもしれないが、法的な拘束力などないわけだから、「無視することも簡単に出来る(it can easily be ignored)」わけです。「国民の意見は議員に伝え、議員に対してそれに応える責任と権限を与える制度の方がはるかに優れている」(Far better to channel this opinion to MPs and empower them with the responsibility of answering our views)と、このコラムニストは主張しています。

下院議会が無視されているのは、ブレアによってのみでなく、メディアもまた議会の報道がかつてに比べると薄くなっており、国民は議会で何が起こっているのか全く分からないという状況になっている、とこの記者は指摘しています。さらに議会軽視の副産物として、野党の影が薄くなったということもある。わざとそうしたわけではないにしても、議会における与野党の議論がかつてほど注目を集めなくなってしまった、というのです。

ブレア政府によって議会の近代化を促進するModernisation Committeeなるものがあるらしいのですが、近代化の一環として「家族尊重のための時間」(family-friendly hours)というものが導入された。何かというと、下院議員が家族とともに過ごす時間を確保しようということで、かつてのように徹夜で討議などということがなくなった。

もう一つ、deferred votingというのがある。これは審議中の法案について、議員がいちいち最後まで議論を聞くことなしに、投票用紙に賛否を記入して提出できるというシステム。議員各自の都合のいいとき(convenient time)に投票できるので、深夜まで待つ必要もないというわけです。確かにラクかもしれないけれど、「討論と議決のつながり」(connection between decision and debate)という議会には大切な要素を失わせるやり方だと批判する向きもある。

まだある。法案を通すにあたって修正案の動議を審議するという過程を経ずに通してしまえる権限を政府に与えてしまったということ。そのような権限のことをギロチンという呼ぶのだそうです。ギロチン制度そのものは、故意の審議遅延を防止する手段として昔からあったのですが、これが使われることは極めて稀で、1881年から1975年までの約100年間で80回使われただけ。なのにブレア政権が誕生した1997年から2003年のわずか6年間で、なんと216回もギロチンが使われたのだそうです。

このような議会軽視の結果として、政党の力量が低下すると同時に、国民の間での政治的無関心の風潮を助長する結果となっている、とPorter記者は言っています。 彼はある英国首相が米国議会で演説し、次のように語ったと紹介しています。

私が今日首相の座にあるのは、すべて下院議会のおかげであり、私は議会に仕える者である。アメリカ同様、わが国でも公人は国家の召使であることを誇りとするものであり、国家の主人であることを恥じるものである。(I owe my advancement entirely to the House of Commons, whose servant I am. In my country, as in yours, public men are proud to be the servants of the state and would be ashamed to be its masters.)

これは、1941年、日本軍による真珠湾攻撃の3週間後に訪米したウィンストン・チャーチルが行った演説の一部なのだそうです。「どうしたってブレアの演説と思う人はいない」(However hard you try, you couldn't mistake it for Blair's speech)と、Porter記者は言っています。

  • 考えてみると、議会が軽視され、政党の影が薄いのは日本も同じかもしれないですね。小泉さんの政治は「官邸主導」で受けたんですからね。英国でも日本でも、メディアは「強いリーダシップ」とか「国民との直接対話」などを称賛してきた傾向がありますよね。これにプラスして、いまやインターネットによってますます直接対話が可能になっている。確か小泉さんのメルマガには200万人の読者がいたのではなかったですかね。こうなるとメディアさえも素通りされているという気がしないでもありませんね。
4)短信


食品ラベルの言語でもめる

スペインの小さな町で食品販売業を営む英国人がタマネギの瓶詰めピックルス(1・20ポンド=約300円)を売っていたところ、ビンの成分表示がスペイン語でなかったという理由で1350ポンド(ほぼ30万円)の罰金を取られそうだというのでカンカンに怒っているそうです。罰金を払わないと営業停止を命令されるかもしれないらしい。EUの規則によると、この種のラベルの言語は「消費者が使う言語で表示されねばならない」とあるのですが、彼女の言い分は「いいですか、ウチのお客(つまり消費者)は99・9%英国人なのよ。スペイン人はオニオン・ピックルスなんて食べないのよ」ということです。

  • 先日テレビを見ていたら、いま欧州圏内で超格安航空券(通常料金の10分の1とか)が出回っており、そのお陰もあってヨーロッパ大陸で暮らす英国人が増えているんだそうですね。そうすると、こういうことも出て来るわけだ。

交通違反でも罰金は払わない?

ブルガリアという国でスピード違反をやったことあります?交通違反をやると、お巡りさんから違反チケットを貰いますよね。ブルガリアも同じなんでありますが、問題はブルガリアの場合、罰金を強制徴収する公的なシステムがないってこと。だからチケットをもらうだけで、ほっといても大丈夫なんだとか。昨年、1100万ポンド相当のチケットが発行されたのに、支払われた罰金額は69万ポンドだけ。その殆どが事情を知らない外国人が殊勝にも運輸省に支払ったものだったそうです。

  • 私がPA通信のこの記事を見た時点ではそうだったかもしれないけれど、いまではばっちりシステムができているってこともある。この記事を信用して違反などしない方がいいと思いますよ。

いまどきの中国人が離婚するとき・・・

上海の新聞が伝えるある離婚のケース。ダンナさんが出張から帰宅すると、26才になる奥さん(元女優)が首吊り自殺をして天井からぶら下がっていた。ビックリしたダンナが「遺体」を床におろして警察を呼んだところ「遺体」がゲラゲラ笑い出した。これ、奥さん流のエイプリルフールのつもりだった。が、ダンナさんのほうが「冗談もほどほどにしろ」ってんで怒り出し、ついに離婚。そんなことで離婚?と思うのが普通ですが、実はこの奥さんはこれまでにも何度も似たようなギャグをやっており、ダンナさんにしてみれば「毎日が爆弾の上に坐っているような気分」だったらしい。で、「もう我慢できねぇ、離縁だぁ!!!」ってことに。

  • ウーン、仕事から疲れて帰ってきたっつうのに、このギャグじゃ、離婚もしゃあない。別れなさい、そういう女とは!
5)むささびの鳴き声


▼「フォーサイト」という雑誌の4月号に「異端妄説」というコラムがあり「うるさい機内アナウンス」と いう記事が出ていました。「この国のお節介は我慢の限度を超えている」という書き出しで、飛行機や 電車における諸々のアナウンスがうるさいということで文句を言っています。例えば飛行機に乗ると「 ベルト着用のサインが消えましたが、お客様の安全のために、着席の間はベルト着用をお願いいたしま す」というアナウンスがある。筆者によると「それならベルト着用サインを消さなければいいじゃない か」となる。言えてる。

▼さらに通勤電車の場合「電車がまいります。危ないですから白線の内側へ下がってお待ちください」 というのが繰り返し言われるけれど、これなど「電車がまいります」だけでいいのだ、とこの人は言っ ている。「危ないですから・・・」なんてのは、言っても言わなくても、駅における人身事故は起こるの だというわけ。これも言えてる。

▼筆者によると、このように分かり切ったことをアナウンスするのは、お客への親切のためではなくて 、何か起こったときの責任逃れのためである、とのことであります。で、筆者が一番言いたいのは、こ のようなアナウンスによる「過保護」は「自己責任で対処するという当たり前の感覚」を麻痺させてお り、「かえって社会を危険にしている」とのことです。

▼「過保護」とか「自己責任」ということは、私は言わないけれど、非常にうるさくて、言わずもがなのア ナウンスが余りにも多いことは事実です。以前にも言ったことがあるけれど、私が毎日利用する地下鉄 丸ノ内線の池袋駅の場合、たかだか2〜3分の遅れについて「まことに申し訳ございません。いましば らくお待ちください」などと言っている。毎朝々々言われると、うるさいだけでアナウンスの意味が全 くない。

▼地下鉄のアナウンスといえば、ロンドンの場合、私の記憶によると、やたらに野太いオッサンの声で Mind the gap. Mind the gap. Let the passengers off, first, please!という録音が流れる駅があり ましたね。「電車とホームの間があいていますので気をつけてください。降りる人が降りてから乗車願 います」ということですが、同じようなアナウンスがJR中央線の飯田橋駅(東京)である。こちらはや たらと甲高い女性の声だったと記憶しています。

▼そういえば間抜け(としか思えない)アナウンスがもう一つ。西武球場で野球を観るときに聞こえて くる「お客様、ファウルボールにお気を付けください」というあれ。打者がファウルを打ち上げた途端 にオルガンの音とともに流れるんでありますが、打者がファウルを打ち上げてからボールがスタンドに 落ちるまでの時間はというと、5〜6秒のことです。このアナウンスは殆どの場合、ボールがスタンド に落ちてから聞こえるのです。中にはフライでなくて、ライナーのファウルもある。1〜2秒のことで す。それでも「お客様、ファウルボールに・・・」というアナウンスは必ずあるのであります。ファウル ボールに当たってケガ人がでたときでも「当方ではご注意申しあげておりましたが・・・」という言い訳 のためのアナウンスなのでしょうか?