The Economistの5月5日号に公的(パブリック)な職業人(メディアも含む)に対する英国人の信頼度調査が掲載されています。「権威に対する信頼が落ちている(Confidence
in authority is collapsing)」というイントロが示すとおり、この種の人たちに対する信頼感が薄くなってきているという数字が出ています。
全部で24種類の職業が挙がっているのですが、信頼度満点を100として、50点以上の信頼を得ているものを挙げると:
1 )ファミリードクター(90点)
2) 教師(80点弱)
3) 裁判官(70点)
4) 地元の警官(60点強)
5) チャリティー関係者(60点強)
6) BBCニュース(60点)
7) ITV(民間TV)ニュース(50点)
8) 警察幹部(50点)
つまり50点以上は全体の3分の1ということになる。特にひどいのが政治関係で「地元の国会議員」(local MP)が25点で最高得点。労働党政府の閣僚と高級官僚は20点にも満たないという有り様です。
以上は現時点での信頼度ですが、これを2003年(イラク戦争の年)当時の数字と比較すると、信頼感が向上しているは裁判官(+2)だけで、あとは大なり小なりすべて下落(マイナス)となっている。興味深いのは下落の度合いで、最悪がITVのマイナス28、その次が「高級紙」(信頼度40点)のマイナス22、BBCでさえもマイナス19という具合に、メディアへの信頼度が最も落ちているという点。
信頼失墜という意味では、警察幹部は20、警官が16、労働党閣僚が11ポイント、教師は11、チャリティ関係者は10、それぞれ信頼度を落としている。尤もこの種の傾向は英国に限ったことではなくて、アメリカ人の6割が政府を信頼していないし、ヨーロッパ諸国では、政府・政党に対する信頼度15%というひどい数字になっているのだそうです。
で、なぜこのような現象が起こっているのかという点について、ロンドン大学のLord Layard教授は「資本主義・グローバル化・行き過ぎた個人主義(capitalism,
globalisation and rampant individualism)が他者への不信感を生んでいる」と言っています。
The Economistはさらに「政府が国民を信用していないから、国民も政府を信用しない」として、町中に設置された監視テレビカメラを例に挙げています。相互不信(mutual
suspicion)ということ。
ところで、24職業のうち信頼度最低はというと「大衆紙」で10点以下、ビリから2番目は「不動産屋」で10点強となっています。
- 信じて疑わなかったものが、実はあてにならないのだ、ということは最近の日本でもさんざ経験していますよね。この調査でちょっと意外な気がするのは、教師に対する信頼度が以前よりも低いとはいえ、いまだにかなり高いってことですね。サッチャーさんの時代に始まった「教育改革」の波の中で、教師に対する風当たりはかなり強かったはずなのに・・・。
- 仕事柄、私にとって面白いのはメディア部門の信頼度です。大衆紙は殆ど信用されていないのに、the
Sunなどは相変わらず300万部という大きな部数を誇っている。「読者は多いけれど信用されていない」ように見える状況はどのように理解すればいいのか?
- 政治家や官僚への信頼感も惨憺たる有様ですが、その理由の一端として、メディアがこれらの人たちを「信用できない人たち」として描くことが多いから、ということは言えると私は思うのですよ。テレビメディアの信頼度が高いということは、テレビで悪口を言われて評判を落とすことが多いということでしょうね。どこか日本と似ている。
死んだジャーナリスト、アンソニー・サンプソンは、「このような状況下では、優秀な若者が政治の世界に入りたがらず、それが政治の質を落とし、民主主義の危機に繋がっている」と言っています。
アメリカのNew Perspectives
Quartely(NPQ)というサイトを見ていたら、クリントン政権のときに国務長官だったMadeleine
Albrightさんが、北朝鮮の問題について、インタビューを受けて語っていました。メッセージは「北朝鮮とも話し合って外交関係を作れ」というもので、「外交関係を樹立することは脅しに屈することではなくて、話し合いのチャネルを開くということなのだ」ということのようです。この人はアメリカの外交官では唯一、金正日氏と直接会ったことのある人物です。
インタビューの全文はここをクリックすると読むことができます。ここでは一ヵ所だけ紹介します。それは北朝鮮との対話の可能性について述べている部分です。
NPQ:北朝鮮に核放棄させて元に戻させることは可能か?それとも我々にできることは、核を持った北朝鮮を囲みこむことまでだと思うか?
Is it possible
now to "walk back" North Korea from having nuclear weapons? Or
is the best we can do now is just to contain it?
Albright:私は北朝鮮を元に戻すことは可能だと思う。リビアは核を破裂させる前にギブアップしたではないか。なぜ彼らはそうしたのか。部分的には経済的な理由があるし、孤立状態のリビアが世界と再び繋がることを望んだということもあるだろう。リビアではカダフィが唯一の支配者であったし、彼の気持ちが変わることはありえたのだ。状況は北朝鮮と非常に似ている。
I think it
is possible to walk North Korea back. Libya never detonated a
bomb, but it did give up its program. Why? Partially it was for
economic reasons. Partially it was because it was isolated and
wanted to reconnect to the world. Also, Khaddafi was the sole
ruler, who could simply change his mind. The situation is very
similar for North Korea.
つまり十分な経済的なインセンティブと安全保障の枠組みさえあれば、北朝鮮は核兵器を放棄する可能性はあると思う。北朝鮮と外交関係を持つということは、右翼の連中が言うように脅しに屈するということではない。これは脅しなどではない。外交関係を持つということは、何かに対するお礼の贈り物とか報酬というものではない。敵であれ見方であれ、話をするチャンネルを持つということなのだ。
So, if there
is a proper framework of economic incentives and security, I think
North Korea could give up its weapons. Opening diplomatic relations
is not succumbing to blackmail, as the right wing says. It's not
blackmail. Having diplomatic relations is not a gift or reward,
it's a channel to talk with enemies and friends alike.
Albrightさんは、このもう少し前の部分で、冷戦時代にアメリカがソ連と結んだSALT
(Strategic Arms Limitation Talks:戦略兵器制限交渉)の例を挙げて、北朝鮮とアメリカが武器管理協定のようなものを結ぶのが望ましいというニュアンスのことを言っています。ソ連がSALT違反をしたとアメリカが考えたときにはジュネーブで会談を持つシステムを持っていた。彼女によると、この種の協定を結ぶ相手は敵であって味方ではない(you
make arms control agreements with your enemies, not your friends)とのことで、北朝鮮が約束違反をしたときに、それを解決できるだけのシステムを作っておくことが大切だというわけです。
- 最近の新聞報道などによると、アメリカ政府は安倍さんたちが考えている以上に、北朝鮮との接触・外交交渉を進めようとしているようですね。要するにAlbrightのような意見が主流になってきているように見えます。安倍さんらは、相変わらず拉致が解決しない限り、北朝鮮とはなんらの話もしない・・・という強硬路線のようで。
- しかし安倍さんらは、それで物事が自分たちが動いてほしいと思う方向へ動くと考えているのでしょうか?以前、日本記者クラブでこの分野の専門家が話しをしたことがある。その人によると、安倍さんはブレアさんを含むヨーロッパの首脳と会談した際に必ず「拉致」問題を持ち出して、支援を要請したのですが、相手の反応はきわめて弱いものであったそうです。理由は簡単で、欧州ではその手のことはいつも起こっているので大して珍しくないから。
- で、その専門家によると、6カ国協議の北朝鮮以外の参加国からは「拉致が解決しない限り、北朝鮮への援助はしない」という安倍さんの姿勢について、それを貫く限り、北朝鮮の核放棄はない。安倍さんはそれも承知で強硬路線を走っている。何故かというと、日本も核武装を狙っているからだ・・・という見方さえ出てきているのだそうです。
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