musasabi journal
発行:春海二郎・美耶子
第74号 2005年12月25日 

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2005年最後のむささびジャーナルをお届けします。今年1年間お付き合いを頂き、本当にありがとうございました。あと1週間もしないうちに2006年です。よいお年をお迎えください。また(いつまで続くか分かりませんが)来年もよろしくお付き合いください。

目次
@ブレアさんのYOB対策
A犯罪が減って警察が恨まれる?
B2番手が楽しいのだ!
C英国人の外国語下手に警告
D短信
E編集後記

@ブレアさんのYOB対策


YOB
って何だかご存知で?BOYを反対につづるとYOB、つまり「BOYの反対」ということは「不良」とか「悪がき」とかいう意味で、今の英国ではYOB cultureなるものが問題になっており、ブレア首相も 12月11日付けのObserver(日曜紙)に寄稿して、この問題について論じています。政府の犯罪対策に関する記事で、見出しがOur citizens should not live in fearとなっています。ブレアさんによると、英国では特に若い人の暴力行為が深刻な問題になっており、「英国民が恐怖を持ちながら生活をするような事態は許せない」として、新しい対策を講じるための法案提出の前にこの記事を寄稿したわけです。

英国にはこれまでもASBO (Anti-social Behaviour Orders)という反社会行為を取り締まる命令があるのですが、英国政府としては「問題児」たちを取り締まるだけでなく、彼らの親の責任も追及しようというわけで、裁判にかけることができない10歳以下の子供、あるいは10歳以上でも「これから罪を犯す可能性が極めて高い若者」の両親にも命令を下すことができるような制度にすることを計画しています。

ブレア首相はObserverへの寄稿文の中で、かつての英国では教会のような市民的な組織が社会道徳の守護にあたっていたが、現在ではそれらが道徳的な権威を失っており、それが若者が犯罪に走る傾向に拍車をかけている、と主張しています。

首相のこうした政府の態度には、人権保護団体などからは「やりすぎ」という声があがっています。「まだ罪を犯していない若者を"これから犯す可能性が高い"という理由で取り締まるなどは、背筋が寒くなる(chilling)」というわけです。

これに対してブレア首相は「現在我々が直面している選択は、被害者の権利が蹂躙されるのを何もせずに許すのか、それとも警察や地方政府に新たな権限を与えてこれを取り締まるのかだ」と書いています。

最近、労働党内には、イラク問題のみならず教育改革や原発の問題を巡ってブレア首相に楯突くグループが増えてきており、Observerのような左派系の新聞を使って党員の支持を強めようということなのだと推察します。首相は「社会民主主義の思想は、政治哲学に道徳を応用することを常としていた」(Social democratic thought was always the application of morality to political philosophy)と語っており、左翼思想の基本は「行過ぎた個人主義に対して慎重であること」(to caution against too excessive an individualism)とも主張しています。

首相のこの寄稿記事を読んでいると、ブレアさんという人が従来の意味での社会民主主義者ではなく、殆どサッチャーさんのような保守主義者に近いという気がします。この記事をお読みになりたい方はここをクリックすると出ています。

  • ブレアさんの「左翼思想」の良し悪しはともかくとして、私個人としては、首相が新聞にこのような寄稿文を書くということは、決して悪いことではないと思いますね。小泉さんはテレビで殆ど毎晩のように意味不明の立ち話風インタビューを行っていますが、あれじゃぁ何だかさっぱり分からない。普通の新聞に寄稿したり、どこかのテレビと単独インタビューをするということを考えてもよろしいのでは?(例えば)靖国参拝について、中国や韓国の政府はともかく日本のpeopleに対してきっちり言葉を使って説明することはやるべきなのでは?まさか新聞社の方で「政治家などに編集スペースをただであげるわけにはいかない」ということも言わないだろうし・・・。

 


A犯罪が減って警察が恨まれる?


犯罪件数は減っているのに、警察の評判が悪い・・・という奇妙なことが英国で起こっている、と12月17日付けのThe Economistが伝えています。その記事によると、ここ10年間で英国における強盗が57%、破壊行為が24%、暴力行為が49%も減っているのに、MORIの世論調査では「警察を信用している」と答えた人は「たったの58%」(just 58%)であり、「警察がちゃんと仕事をしている」(doing good job)と考えている人は、過去10年間で64%から49%にまで下がっている。

特に警察に批判的なのは、昔なら警察に好意的であった、富裕層に目立つのだそうです。尤もこれは、昔に比べると泥棒のような犯罪件数が減っているので、彼等にとって警察というと、駐車違反でチケットを発行するところというようなマイナスイメージが大きいからだという見方もあるそうです。

このような世相を反映してか、従来は"ポリス・フレンドリー"と言われた保守党の政治家たちが批判的になっており、先ごろ党首に選ばれたデイビッド・キャメロンなどは、警察こそが「未だに改革が進んでいない最後の公共サービスだ」として、警察のお役所仕事などを槍玉に挙げたりしているそうです。

労働党はというと、1997年に政権について以来、ブレア首相は警察が望む権限を与えたのみならず、警察自体が望んでもいない力まで与えてしまって警察が迷惑していることもあるらしい。その例が、ブレア首相が提案した反テロ法案の中の宗教集会の規制で、過激派と関係のある集会場は警察によって閉鎖することができるとしたもの。警察当局は、この法案について「イスラム教徒に誤解を与えかねない」と反対であったのだそうです。

 

B2番手が楽しいのだ!


12月17日付けのThe Economistによると、アメリカの清涼飲料水メーカー、ペプシ・コーラの証券市場価値(stock market value)が12月12日に984億ドルに達して、コカ・コーラの979億ドルを上回ったのだそうです。これは112年間におよぶ両社の競争の中で初めての出来事であるそうです。ペプシがついに業界2番手からトップに躍り出たというわけですが、The Economistの記事は「2番手でいることが過小評価されている」(Being second best is underrated)として、ビジネスの世界では2番手でいる方が得なことが多いというアングルから書かれています。

トップであることの問題点として挙げられているのが、悪い意味でも注目を浴びることになって、消費者運動などの批判の対象になりやすいこと。ハンバーガーのマクドナルドのショップは「グロバル化反対」を叫ぶデモ隊の攻撃の対象になるのに、バーガーキングがそうなることは滅多にない。コンピューターソフトのマイクロソフトは「独占企業」として嫌われているケースが多いのに、2位のアップルは攻撃対象にはならない。運道具のナイキが発展途上国で労働搾取をしていると批判されている間に着々と成績を伸ばしているのがアディダス。

もちろん2番手だって批判されることはある。でもそんなときは大体において「トップとの競争の激しさ」を理由に、暗にトップ企業を悪者にしてしまうという手もあるとのことです。The Economistは「トップ企業は数字ではイチバンかもしれないが、楽しむのは追いかける方なのだ」(Big guys may get the numbers, but it's the runners-up that have all the fun)と言っています。

  • そう言えば、最近のニュースで、トヨタが来年にはGMを抜いて、生産台数で世界一の自動車メーカーになるということが出ていましたね。これまでGMが味わった苦しみを味わうときが来るってことですかね。

 


C英国人の外国語下手に警告


Guardian紙のサイトを見ていたら、英国人の外国語下手についての記事が出ていました。CILTという語学研究促進機関の報告書Talking World Classによると、欧州大陸の企業幹部の70%が外国語でビジネスを行う能力があるのに対して、英国人の重役の場合はこれが36%に落ちるのだそうです。英国のビジネスマンは、英語のできる相手とのみビジネスをしたがるので、新興国市場に参入することを避けたがる傾向がある、とも言っています。

また欧州委員会(European Commission)の調査でも、英国人の外国語能力は、ヨーロッパの28カ国中最低と出ているそうです。

CILTの報告書によると、英国の大学卒業生で、外国で働く程度に語学に自信がある人は全体の3分の1、欧州大陸の大卒は3分の2が外国で仕事を見つけるだけの語学力を持っていると思っているのだそうです。しかも英国の大学では1999年から2002年の3年間で外国語を専攻する学生の数が15%も減っているとか。

またDaily Telegraphの記事によると、政府の教育カリキュラムアドバイザーのグループからは、子供たちが学校で外国語を学ばなくなる傾向にあると警告しているのだそうですが、その理由の一つが、昨年9月に14歳の時点で外国語が必須科目でなくなったという政府自身の方針にあるらしい。

私立学校では殆どの学生が16歳まで外国語を学ぶのに、公立学校の場合は外国語を必須科目としているのは、全体の4分の1程度なのだとか。私、正直言って英国の教育制度はややこしくてよく分からないのですが、16歳になるとGCSE(General Certificate of Secondary Education)という全国学力試験があるらしい。これは中等教育を終えましたということを証明するための試験のようなのですが、試験科目に外国語を入れる生徒は、公立学校の場合は20%を下回るのだそうです。

何故、外国語を取らないのかというと「難しいから」というのがイチバンに挙げられる理由だそうで、GCSEの受験科目としてはドラマとかメディア・スタディのような「易しい」科目に人気が集まるのだそうです。

英国産業連盟の関係者も、外国語習得の必要性を強調していますが、先ごろ英国を離れたドイツ大使も、英国における外国語教育の低下については警鐘を鳴らしており、The greatest task probably lies in raising the awareness of the British public. In the home country of English, the world language, the task of persuasion is especially difficult.(普通の英国人たちが認識を新たにする必要があるが、世界共通語と言われる英語が母国語だけに、普通の人たちに分かってもらうのは特に難しい)と言っています。

 

D短信


貧乏学生がホームページを使って100万長者に?

一文無しの英国のある貧乏学生が「画期的」なウェブサイトを思いつき、100万ドルを稼げるかもしれないと話題になっています。Alex Tewというウィルトシャーの若者がそれで、学費稼ぎのために自分のウェブサイトに1万件の企業広告のロゴを掲載するというアイデアを思いついた。ロゴをクリックすると、その会社のサイトに飛んで行くという仕掛けになっています。これに賛同する企業から1件につき100ドル頂こうというわけ。1万ものロゴを掲載するのだから、それぞれが非常に小さいし、メチャクチャ混んでいるのですが、それが却って面白くてクリックする人がいるかも・・・というのが売り。予想以上に受けており、目標の1万社獲得も間もなくなのだそうです。

  • ここをクリックするとそのサイトが出ていますが、やりますねぇ。恐れ入りました。

英語のできない大臣はクビ!

中央アジアの国、トルクメニスタンの大統領はサパルムラト・ニヤゾフ(Saparmurat Niyazov)という人なのですが、このほど閣僚全員に「6ヶ月間で英語がペラペラになること。でないとクビにする」というお達しを出したそうです。命令の理由は簡単で、国際貿易交渉には英語が欠かせないということ。6カ月間で通訳を使わずに外国人と交渉ができる程度の英語を身につけろというわけ。この大統領、録音音楽の演奏や男性の長髪を禁止するなど、過去にも変わった命令を出したことがある。最近では砂漠の真中にある動物園にペンギンを飼えと命令したこともあったのだとか。

  • この大統領はオペラも禁止したそうです。一度紹介してあげたいけど、変人・小泉さんも多分この人には叶わないだろな。

モナリザの微笑のナゾが解けた!?

パリのルーブル美術館にあるレオナルド・ダビンチの『モナリザの微笑』といえば、それが何を意味するのかということが500年来のナゾであったわけですが、このほどオランダのアムステルダム大学とアメリカのイリノイ大学の科学者がコンピューター解析に成功、あの微笑は83%が「幸せ」, 9%が「うんざり」, 6% が「恐怖」、そして2%が「怒り」を表わしているという結論になった、ということが科学雑誌New Scientistで紹介されているそうです。これらの科学者たちは、何人もの若い女性の微笑を基に、唇の曲がり方だの目の周囲のシワだのを分析、それぞれの女性の感情と合せたデータベースを作ったのだとか。で、それをモナリザに当てはめたというわけです。

  • 尤も美術の専門家によると、写真ならともかく、人間が描いた絵画の人物の内面感情をコンピューターで分析などできっこないのだそうです。かもな。ところでNew Scientistの記事ですが、ここをクリックすると出ています。短い記事です。
E編集後記


●私のところは、妻と子供(と言っても全員成人ですが)がクリスチャンで、私はそうでありません。無神論(atheist)というほど積極的な宗教否定ではありませんが、あえて特定の宗教に献身するというほど人間に絶望しているわけではない●教会と言えば聖書ですが、これが結構難しいですね。何を言っているのかよく分からない。ヨハネの福音書というのがあって、それが「初めに言(ことば)ありき・・・」という文章で始まる。続いて「言は神とともにあった。言は神であった」というわけです。分かります!?●私は「初めに言(ことば)ありき・・・」というのは、てっきり「この世の中においては言葉というものを大切にしなければならない」とかいう意味かと思ったのですよ。で、英文の聖書を読むとIn the beginning the Word already existed; the Word was with God, and the Word was Godと書いてある●この英文自体がヘブライ語からの直訳なのだろうけれど、どうもよく分からない。ただ「初めに言(ことば)ありき・・・」というセンテンスが妙に私の心を捉えていたことは事実です。でも誤解に基づいて感心しても何もならないですよね●というわけで、(何だかよく分からないけれど)来年もよろしくお願いします!



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