musasabi journal
発行:春海二郎・美耶子
第76号 2006年1月22日 

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月並みなご挨拶ですが、日があっという間にすぎていきます。もう1月下旬・・・。ホリエモン騒動、誤解されることを覚悟でいうと、株に興味のない私には、何がそれほど大変なのか、よく分かりません。はっきり言って耐震偽装の姉歯事件の方が、はるかに深刻です。何せせっかく買ったマンションが住めないどころか、損害賠償も払ってもらえず、ローンは待ってもらえない。でも未だ逮捕者も出ていない。

@飛び降り自殺の写真掲載と「編集者規範」
A英国人の酒癖
B様変わりする人種対立
C無言実行と有言不実行
D短信
E編集後記

@飛び降り自殺の写真掲載と「編集者規範」

最近、英国の3つの新聞が掲載したある写真を巡って、報道苦情委員会(Press Complaints Commission: PCC)が調査に乗り出して話題になっているようです。52歳になるある女性弁護士がロンドンのホテルで飛び降り自殺をしたのですが、彼女がまさに飛び降りた瞬間を写した写真を掲載したのがThe Times, The Sun, Evening Standardの3紙。「自殺者の個人的な悲しみ(private grief)への侵害だ」という苦情が50件以上もPCCに寄せられたのだそうです。この女性はロールスロイス社の顧問弁護士だった。

新聞の業界紙、Press Gazetteが伝えているもので、飛び降り自殺の場に偶然居合わせた写真通信社のカメラマンが、自殺者が空中を飛んでいる写真を撮影、これが英国中のメディアに配信されたのですが、実際に使ったのがこの3紙であったというわけ。

PCCの規約の中に「編集者規範(Editor's Code)」と呼ばれるものがあって、「個人的な悲しみやショックが絡むような事件の報道は十分な配慮を以て行われなければならない(in cases involving personal grief or shock publication must be handled sensitively)」とされている。自殺の写真を掲載するのはこれに反するというのがPCCに寄せられた苦情なのだとか。

The TimesとEvening Standardは「規範は守った」という意味のコメントを発表しており、The Sunだけがノーコメントなのだとか。写真を掲載したThe Timesの場合は「十分な配慮を払った」として具体的には次のポイントを挙げています。

@自殺者の家族が自殺を知らされるまで写真の掲載を待ったこと
A写真はモノクロで掲載した(配信された写真はカラー)
B記事と彼女の顔写真を第一面に掲載し、自殺シーンの写真は中面の左側のページに掲載した

@とAについては分かりますよね。雑誌や新聞の編集に関係のない人には馴染みがないかもしれないのがBのポイントです。The Timesのような英文の新聞の場合、右から左へ開きます。そうすると人間の目はまず右側のページを見るようになっています。つまり右の方が目立つ。The Timesは目立たない方のページに掲載したので「十分な配慮」を払ったのだというわけです。

自殺防止のカウンセリングサービスを行うチャリティ、The SamaritansはThe Timesなどの写真掲載について「自殺を報道するときは"ドラマチックな写真やイメージは除外すべし"とするPCCの規範に違反している」としています。PCCの「規範」については、ここをクリックするとでており、確かに第5条に「悲歎やショックへの侵害(Intrusion into grief or shock)」について触れられています。

  • PCCは1991年に設立された独立機関で、報道についての苦情受付とその審査にあたっています。1年間に3000は優に超える苦情を審査しているようです。 

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A英国人の酒癖

最近、英国の第三政党である自民党(Lib-Dem)のチャールズ・ケネディ党首が辞任したのですが、その理由がアルコール中毒ということで話題になっています。ケネディ氏が酒好きであることは広く知られており、アル中に近いというウワサもあった。3年前にBBCがインタビューしたときにも次のような会話があったそうです。

"How much do you drink?"
"Moderately, socially, as you well know,"
"You don't drink privately?"
"What do you mean, privately?"
"By yourself, a bottle of whisky late at night?"
"No, I do not, no."

結構しつこいインタビューです。懸命に否定してはいるのですが"No, I do not, no."という答はいかにも苦しい感じです。ウィスキーをボトル一本あけていたのでしょうか!?彼の辞任についてブレア首相などは「よくぞ認めた。ガッツがある」と、アル中を認めたケネディ氏の正直さを賞賛したりしていますが、余りかっこいい辞め方でないことは間違いない。

で、これに関連して、私の知り合いが送ってくれたアメリカのNew York Timesのサイト記事が、英国人の酒癖の悪さについて、同紙のロンドン特派員の報告として掲載しています。

この記事によると、英国人の酒の飲み方は他の欧州諸国、特にフランスあたりとはかなり違う。フランス人はカフェでワインを飲みながら哲学談義に花を咲かせるし、食事の前に飲むというわけで、酒は会話や食事を楽しむための手段であるわけですが、英国人の場合は飲むこと自体が目的(end in itself)となっているということ。

ケネディ党首の場合、飲みすぎで党大会での演説で呂律が回らなかったりしたこともあったし、チャーチルは仕事前のウィスキーソーダは欠かせないものであったそうです。政治家と酒については様々な武勇伝があるそうですが、ここでは面倒なので省きます。

英国人の酒癖については、Kate Foxという社会学者(英国人)が「酒を飲むことでマナー悪く振舞うためのライセンスを得たと思いこんでいる」と言っています。少々ひどい振る舞いをしても「オレが悪いんじゃない、酒が悪いんだ」というわけです。

いずれにしても、英国の酔っ払いはヨーロッパの諸都市で鼻つまみ的な存在になっているというのがNew York Timesの報告であるわけですが「飲みすぎは英国人の健康を害している」と指摘するのは科学誌のThe Lancet。それによると、過去50年の統計で、英国人の肝臓病はヨーロッパ一の増加率なのだそうです。また1970年から現在まで欧州諸国では肝臓障害が20~30%減っているのに、スコットランドの男性の場合、90年代から現在まで倍増しているし、女性でも50%増えているそうです。

New York Timesの記者は、「英国では仕事さえちゃんとやれば、酒を飲んで酔っ払うこと自体は許されるようだ」として、クリケットの国際試合でオーストラリアを破って有頂天になった選手たちが「飲んで飲んで飲みまくったぜ!」(drank, drank, drank)と自慢げにコメントしており、中には首相官邸での祝賀パーティに呼ばれて飲みすぎ、トイレで吐いてしまった選手もいた、と大衆紙が伝えていたのですが、その報道ぶりが結構「楽しげ」であったのだとか。

  • クリケット選手のバカ騒ぎは、おそらく日本のプロ野球の選手が優勝するとやる「ビールかけ」みたいなもので、報道も「無礼講」という感じであったのでしょうね。日本の政治家がアル中でしくじったという話も余り聞いたことがないですね。あります?

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B様変わりする人種対立

先日、NHKの番組(クローズアップ現代)を見ていたらフランスにおける暴動騒ぎのその後についての報告をやっていました。それを見る限りにおいては、報道されていないだけで、暴動が決して治まったわけではなく、相変わらずクルマへの放火が行われたりしているようだったし、そもそも暴動の「原因」とされるフランス社会における人種差別が極めて根強いので、これが解決されない限り、暴動の根っこはなくならない、というニュアンスの報道でした。

フランスにおける「人種差別」は白人による非白人に対するもののようですが、英国における人種間紛争(racial conflicts)は、最近非白人間のそれが多くなっている、とThe Economistが報告しています。その例が昨年10月にバーミンガムで起こった暴動騒ぎで、アフリカ系黒人対パキスタン人のコミュニティの間のトラブルというものだった。黒人の女の子がパキスタン人によってレリプされた、というウワサを黒人系の地下放送が流したことが発端であったらしい。

今から40年ほど前にEnoch Powellという保守党の政治家がいて、1985年に「20世紀末までに英国の全人口の8%が非白人になるだろう」と予言したことがある。彼はまた「英国の都会の人口の3分の1は非白人になり、これが暴力的な無秩序を惹き起こすだろう」と警告もしたのだそうです。この人は白人優越主義者というレッテルを貼られて、保守党をも除名されてしまった。

85年当時、Powellの予言をマジメにとる人は殆どいなかったわけですが、2001年の国勢調査によると、英国における非白人の占める割合は8・1%であり、レスターだのバーミンガムだのという大都会の白人人口は3分の2を下回るという結果になっている。

つまりPowellの予言は正しかったのですが、彼が間違っていたのは、「暴力的無秩序」が「白人対黒人」の人種対立をとると思っていたことである、とThe Economistは言っています。同誌によると、白人による非白人差別はかなり減っているのだそうですが、それは必ずしも白人の態度が改まった(enlightened)ということが理由ではなくて、彼らが非白人コミュニティの近くに住まなくなったということが主な理由だそうで、レスターの場合、1990年代に1万5000人の白人が市から引っ越してしまったということらしい。

で、最近では非白人コミュニティ同士のトラブルが増えているというわけですが、そうなる理由の一つとして、市当局が治安確保について「コミュニティ・リーダー」と言われる人々に頼りすぎるということがある。こうした「リーダー」の中には血の気の多い(fiery)連中が多く、これが人種対立に火をつけている。The Economistは、コミュニティの普通の住人たちがそれほど憎みあっているわけではなく、市当局による治安確保を望んでいるとして、あるパキスタン人のショップオーナーの話を載せています。"I stand behind the counter for eight hours a day, and most of my customers are black. If there was more racism, I would know about it"(一日8時間、店にいる。客の殆どが黒人。差別なんかあったらアタシが分かるはず)というわけ。

  • The Economistの記事はMulticulturalism and its discontentsとなっている。「多文化主義とその不満分子」というわけです。トラブルの性格もフランスとはちょっと違うのかもしれませんね。私はフランスのことは全く知らないのですが・・・。

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C無言実行と有言不実行

先日ある英国人と会ったときに、小泉さんの政治の話になりました。彼が言うのには「小泉さんの改革姿勢は素晴しい」とのことでしたが、付け加えて「でも、もっと説明しなくてはいけませんな」とも言っていました。「靖国」といい「郵政」といい、「やるっきゃない!」を繰り返すだけでは、よく分からないというわけです。確かに。で、ブレアさんの話になって「ブレアの言葉による説明能力は本当に素晴しい」と言ったあとで「でも実行が伴わない」とも言っていた。

以下、これは私の個人的作文ですので、別のところに掲載します。その気のある人だけここをクリックしてください。

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D短信

世界最古のキュウリの漬物

73才になるクロアチアの婦人が、あのギネスブック宛てに提出した「世界最古」って何だか分かります?キュウリの漬物(a pickled cucumber)だそうです。1930年に彼女の義母が漬けたものなのだそうです。「このキュウリは私の亡き夫が生まれた日に彼の母親が漬けたんです」とのこと。ご主人が生きていれば76才というわけですが「このキュウリは夫の唯一の形見のようなもの。夫よりキュウリの方が長生きしてしまったのが残念ですが、これを見ると私の人生のいいことも悪いことも想い出します」というわけで、この際ギネスブックに掲載して貰おうと・・・。

  • 「漬物」と言っても、もちろん私の大好きなヌカ漬けのあれではなくて、西洋のピックルスなのだろうと思いますが、瓶詰めで持っていたってことですかね。でも・・・食べられるんですか、それ!? でないとギネスってわけにはいかないんでない!?

(知らなかった)パブでは帽子はアウト

デイリーミラーの報道によると、Herefordにあるパブで、中折れ帽子を被った紳士が入場を断られて問題になっているらしい。コリン・オズボーンさん(64才)が孫と一緒に行ったところ「帽子をとらなければ入れない」と断られた。目深に被る中折れ帽子の場合、パブ内に取り付けた防犯カメラに顔が写らないのでパブ内の帽子は禁止されているのだとか。「狂っているとしかいいようがない。帽子を被っていればトラブルメーカーだと思っている」とオズボーンさんはカンカン。このパブを経営しているチェーンのGreene Kingは「わが社の英国内のチェーン800店舗全部で帽子は禁止しております」とコメントしています。オズボーンさんの職業はジャーナリスト。で、デイリーミラーの取材となったものらしい。

  • これはおそらく政府による対テロ監視カメラ関連の規制なのでしょう。ワシントンポストによると、英国や今や国民をカメラで監視することでは「世界のリーダー」なんだそうです。

酔っ払い亭主を犬小屋で飼う?

酔っ払い亭主を懲らしめるやり方にもいろいろあると思いますが、犬小屋に鎖で繋いで毎日ドッグフードと水だけ与えるってのはいかが?これを実践したのが、ポーランドのScinawaという町に住む夫婦で、旦那の年齢は75歳、「毎日ウォッカばかり飲んだくれている」のに怒った奥さんがこの暴挙(快挙かも?) に出たもの。2-3日姿を見せないことに気がついた飲み仲間が自宅に来てみると、氷点下20度という寒さの中で、犬小屋に繋がれているご主人を発見、警察に通報したのだそうです。

  • ウーン、75歳にとって氷点下20度で犬小屋暮らしってのはキツイな。でも、奥さんの方に歩があるんじゃないですか、これ。よほどひどい呑み助だったんですよ・・・。でも死ななくて良かった。文字どおり「犬死に」だもんね。やっぱ、持つべきものは飲み仲間。 解放祝いに一杯やっか!?

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E編集後記

ホリエモン事件についてのメディアの報道ぶりについて批判があります。「あれほどもてはやしておいて、こうなった途端に袋叩き。メディアに節操がない」というわけです。この批判は当たっているようで、おかしいと思いませんか?●もてはやしていた当時は、ホリエさんがタレントとして面白い人だし、政治家としても面白いと思った、だからもてはやした・・・そのこと自体は大して悪いことではないんでない?(私自身は、ホリエモンのどこがそれほど面白いのか分からなかったけれど)●いまになって袋叩きというのは節操が・・・というけれど、ホリエさんがルール違反をしたんだったら批判するのが当り前なのでは?●私がさらに違和感を持つのは、ホリエモンの拝金主義への批判です。株というものは、全てとは言わないまでも、かなりの部分「拝金主義」の世界なのではありませんか?金を使って金を生むという世界なのだから。ちなみに私自身、株はやったことがありません●もっと分からないのは「ホリエモンのような人間は小泉改革の産物だ」という風な批判です。例の立ち話インタビューで「ホリエモンを衆議院選挙で応援したことについて責任を感じるか」という質問が出ていました。それに対する小泉さんの答え「どんな人のことでも、すべて分かるわけじゃないからなぁ・・・」は当然で分かりやすくて納得がいく●それより、東京地検なる人々が「家宅捜査」をやる時って、何故、ああも見事にテレビカメラに映るんでしょうか?事前にカメラマンたちに、「XX時XX分にXXの家宅捜査をやります。是非ご取材をお願いします」なんてこと言うのでしょうか?(かつての広報担当としては)そうとしか思えないほど、毎度同じようなアングルの撮影が行われます●今回もお付き合いをいただき有難うございました。

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