musasabi journal
発行:春海二郎・美耶子
第78号 2006年2月19日 

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むささびジャーナルの78号です。考えてみると第1号をお送りしたのが、2003年2月の第2日曜日であったのですから、まるまる3年が過ぎたことになります。初めからお送りしている人も途中からの人も、お付き合いを頂いていることに感謝いたします。もうそろそろ梅が咲き始めますね。

@記者と王室:懲りない人々
A罰金を課せられた側の言い分
B200年前の奴隷売買を教会が謝罪
Cモハメッド漫画事件と英国のメディア
D短信
E編集後記

@記者と王室:懲りない人々

2月16日付けのThe Guardian(サイト)によると、大衆紙Daily Mirrorの記者が身分を偽ってバッキンガム宮殿に就職しようとして逮捕されたのだそうです。25歳になる男性記者で、どのような職種に応募したのか書かれていませんが、面接の時点で記者であることがばれてしまったらしい。ロンドン警視庁では逮捕の理由を「金銭のために身分を偽った」と述べていますが、逮捕後すぐに仮釈放されたらしい。

実はDaily Mirrorの記者がこのような行為に及んだのはこれが初めてではないし、新聞記者が同様のことをしたのもDaily Mirrorが最初ではありません。Daily Mirror は2003年に記者を「従僕」としてバッキンガム宮殿に、2か月間も潜入させたという実績がある。この時は記者の潜入レポが、宮殿の警備のルーズさを「告発」したとして、バカウケのスクープとなってしまったわけ。

過去の似たようなケースをいくつか紹介すると、2005年4月にThe Sunの記者(複数)がチャールズ皇太子とカミラさんが結婚式を挙げる数日前にウィンザー城の敷地に潜入した。この時はニセの爆弾を積んだトラックに乗って入ったのですが、通行証もなく入れてしまったということで、警察当局に深刻な反省(serious concern)を強いる事件となったのだとか。また2004年9月にはSunday Timesの記者がエリザベス女王のスコットランドの公邸の敷地に侵入して捕まったこともある。

また記者でないケースとして、バットマンの格好をしてバッキンガム宮殿のバルコニーに座り込んだ男(2004年)、警官のふりをしてウィンザー城に潜入した男(2004年)、アン王女の住居であるセントジェームズ宮殿の敷地に入り込んだ酔っ払い(2002年)、パラグライダーに乗って素っ裸でバッキンガム宮殿の屋根に降り立った変人(1999年)等など・・・。過去約20年で19件というのだから殆ど1年に一回はこの種の人が出没するという計算になります。

ちなみに今回記者が逮捕されたことについて、Daily Mirrorでは「その (2003年) 後の警備体制を調査する」という目的があったとして、「正当な記者活動だ」と言い張っているそうです。

  • 日本の皇室については聞きませんね、この種の話題は。地下鉄で雑誌の中吊り広告なんか見ても「紀子さまが雅子さまの前で涙を流した・・・」とかで話題が暗いんですよね。

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A罰金を課せられた側の言い分

最近、英国のプリマスという町に住む31才の郵便配達員(女性)の裁判が行われ、彼女が1999年から2005年までの6年間に、8200件にのぼる郵便や小包を配達もせずに自宅に放っておいたという小さな記事がBBCのサイトに出ていました。殆どがいわゆる「ジャンクメール」であったのですが、中には税金だのクレジットカード関連のものも含まれていたそうです。

この女性は郵便配達機関であるRoyal Mailの従業員であったのですが、実はRoyal Mailについては、最近政府の監視機関(Postcommといいます)が、業務をまともにやっていないというので、1140万ポンドの罰金を課したということもニュースとして伝わっています。

Postcommという組織はRoyal Mailのサービスをウォッチングしており、まともでないと決めた場合は罰金を課するという権限を有しているのだそうで、2003年には750万ポンドの罰金を課したという「実績」がある。

ただ今回の1140万ポンドの罰金については、Royal Mailの側も黙っておらず、Adam Crozierという専務理事が「我々のサービスは向上している。1140万の罰金はいくらなんでもアンフェアだ」と抗議しています。彼によると「過去3年間で紛失郵便物は半減しているし、郵便物の盗難件数も全体のわずか0.001%に過ぎない」のだそうです。尤も年間扱い量が220億通もあるのだから、「0.001%に過ぎない」といっても、絶対数からすると22万通もの郵便物が盗難に遭っているということになる。余り偉そうなことは言えないですよね。

さらに笑ってしまったのは、Crozierさんが「我々が支払う罰金は全て大蔵省の金庫に入ってしまう。Royal Mailのサービス向上には何の役にも立たない(The fine goes to the Treasury. It does not get ploughed back into quality of service for our customers)」と言い張っている点です。つまり「罰金を払うくらいなら、そのお金をサービス向上に充てたい」というわけですが、なにやら「泥棒にも三分の理」のような気がしないでもない。そもそもまともに配達していれば罰金なんて払わなくて済むんですからね。

  • ところで、知らなかったけれど英国では住民が勝手に始められるCommunity Post Officeなるものがあるのだそうですね。どちらかというと田舎で行われているらしいのですが、そのあたりのことはBBCのサイトをクリックすると出ています。

  • それからプリマスの女性配達員ですが、何が面白くてジャンクメールを8000通も自宅に溜め込んでいたのでしょうか?そのあたりのことが記事には出ていないのが残念です。配達が面倒だったのなら、見つからない所に捨ててしまえばよかったのに・・・!?。

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B200年前の奴隷売買を教会が謝罪

最近、Daily Telegraphのサイトを見ていたらChurch offers apology for its role in slaveryという見出しの記事がありました。「奴隷制度に果たした役割について教会が謝罪」って何のことかと思ったら、英国国教会の幹部たちが集った会議で、その昔この教会が西インド諸島で奴隷を使っていたということについて、奴隷の子孫たちに謝罪すべきであるとの結論に達したということでありました。

その記事によると、今から200年くらい前のバルバドス島には、英国国教会が運営する農園が沢山あって、それぞれで多くのアフリカ人たちが奴隷にされていたのだそうです。それぞれの奴隷は胸の部分にSocietyという焼印を押されていたのだとか。Societyは英国国教会のキリスト教普及を行う組織だった。

当時(1760年)ある牧師が書いた手紙というのがあって、「最近、当農園のニグロの数が減っており、いつも補充しなければならないのは困ったもんだ(I have long wondered and lamented that the Negroes in our plantation decrease and new supplies become necessary continually)」などと書いてあるのだそうです。さらに奴隷665人を失った牧師には、補償として13000ポンドが支払われたという記録も残っているらしい。

この地方のものも含めて英国による奴隷貿易は1807年に英国議会で奴隷禁止法が成立するまで続いた。当時の英国にWilliam Wilberforceという政治家・宗教家がいて、奴隷制度廃止に取り組んだのですが、最初はこの法案も上院で否決されたりしたのだそうです。

Daily Telegraphによると、現在の国教会の幹部たちは、この件について教会が謝罪すべきだという決議を圧倒的多数で可決したのだそうですが、中には少数意見とはいえ「当時の英国で奴隷を売り買いしていたのは教会だけではない。それを教会だけが謝罪するとスケープゴートにされかねない」という考えもあったのだそうですが、英国国教会の最高責任者ともいえるRowan Williamsカンタベリー大主教などは、謝罪は「政治的に賢明(political correctness)」などというものではなく「必要なものだ」と主張しています。

  • ちなみにRowan Williamsという人はゲイ結婚を認めたり、「アフリカ人に賛美歌を押し付けるのは罪である」と発言して物議をかもした人であります。英国における精神的指導者とも言える立場にあるのですが、なんと1950年生まれなのですね。55才。このあたりが「英国は若い」という理由なのですかね。

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Cモハメッド漫画事件と英国のメディア

モハメッドをからかったとかいう漫画をデンマークの新聞が掲載したということで、世界中のデンマーク大使館がテロの脅威にさらされているという例の事件について、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアの新聞はイスラム勢力の暴力に抗議するという意図も込めて、漫画を転載したものが多いですよね。ただサイトに見る限り英国の新聞は漫画転載をしていないらしいですね。テレビはBBCも民間放送も画面には見せたとプレスの専門誌が伝えています。

この漫画を掲載しなかったことについて、いろいろな新聞がいろいろなことを言っています。

The Independentの社説:フランスの新聞が転載したことについて「火に油をそそいだ(throwing petro on the flames of a fire) ようなもの」であり「我々は表現の自由は全面的に守るものではあるが、メディアには権利と同時に責任というものがある。物議をかもすジャーナリズム(controversial journalism)と無責任なジャーナリズム(irresponsible journalism)を混同してはならない」としています。実はこの新聞は2003年にイスラエルのシャロン首相をからかったような漫画を掲載して問題になったそうです。首相が赤ん坊を食べているという図であったらしい。当然シャロン首相本人から抗議されたのですが、プレス苦情受付委員会はこれを却下したのだそうであります。

The Timesの社説:「掲載することでイスラムの過激派に対する意思表示となると同時に、読者に対しても過激派の性格を知らしめることになったかもしれない」と言いながら止めたのは「数ヶ月も前にデンマークの新聞が掲載したものを今さら載せるのは"見せたがり"(exhibitionist)の要素を免れない」のが理由だとか。イマイチ説得力がない(と私には思えます。表現の自由を守るという意思表示のために掲載するのが"見せたがり"ってことになるんですか?)。ちなみにこの新聞は、自社では掲載をしなかったけれど、写真を掲載しているサイトのURLは掲載したらしい。これもちょっとご都合主義のようで・・・。

The Sunの社説:「漫画はいずれもイスラム教徒を侮辱することを意図して掲載されたものであり、我々The Sunは、我々にとって貴重この上ないイスラム系の読者をわざわざ侮辱することになるような写真掲載の正当性を認められない(the cartoons are intended to insult Muslims and The Sun can see no justification for causing deliberate offence to our much-valued Muslim readers)」というわけです。要するに読者を怒らせたくないってことで、正直であるとも言えますね。さらに「他の(ヨーロッパの)新聞が掲載したから掲載するような尻馬に乗るようなことは不要だ」とも言っています。

The Economistは最も率直に漫画掲載反対に反対しています。つまり言論・表現の自由は絶対だという立場で「言論の自由は宗教上の敏感さに優先する(Free speech should override religious sensitivities)」としています。同誌はまた「言論の自由」は西側が独占すべき財産でもない」とも言っています。 The Economistはデンマークの新聞に掲載された漫画がイスラム教徒にとって侮辱的なものであり、宗教であれなんであれ、新聞が人々の信ずるものを侮辱するは「賢明ではない」(not a good idea)としながらも、掲載するかどうかの判断はあくまでもメディア自身が決めるべきものであり、政治家や評論家や宗教関係者がどうのこうのと言うべき問題ではない、と主張しています。

もちろんどの国にも「名誉毀損」を違法する法律はあるし、ヨーロッパの国にはヒットラーによるユダヤ人虐殺そのものを否定することを法律違反としているところもあるし、英国ではキリスト教の神を冒涜するのは不敬罪にあたるのだそうです(私は知りませんでした)。しかしThe Economistは「その種の言論の自由に対する規制は少なければ少ないほどいい(the fewer the constraints that are placed on free speech the better)」という立場で、ヒットラーのホロコーストを否定することを法律違反とすることにも反対しています。むしろそれをやらせることによって、そのようなメディアがバカにされることの方が望ましいというわけです。

今回のデモ騒ぎについて英国政府は、暴力は否定しながらも漫画掲載については、ストロー外相が「無神経」で「不必要」と批判していますが、The Economistは、たとえ宗教に関係したことであっても表現の自由は、自由な社会の根幹を成すものであり、それが暴力によって脅威にさらされた場合には、政府は躊躇なく表現の自由を守る方にまわるべきであると言っています。ちなみにThe Economistは問題の漫画を転載していない、と思います(私の見た範囲では)。

ところで英国人たちは今回の騒動をどのように見ているのかというと、イスラム教徒による過激デモにはかなり冷淡なようです。YouGovの調査によると、漫画掲載・転載について、正しいと見る意見が56%で、間違っているという意見の29%をかなり上回っている。また今回の騒動について、政治家や警察が過激派に寛容すぎるとする意見が80%にのぼっています。さらに英国内のイスラム教徒との共存について、平和共存が可能としているのは17%にすぎず、87%もの人が昨年のロンドンテロのような事件が英国内で再び起こると考えています。

  • 最後の「英国の人たち」の感覚と新聞の感覚の間に少しばかりギャップがあるように思えますね。新聞がイスラム教徒の怒りに務めて「理解」を示そうとしているのに対して、読者の方はかなり厳しい見方をしている。

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D短信

飲料のアイスがトイレの水より汚れている
米国フロリダ州の小学生が行った実験によると、ファストフードのレストランで出されるアイスはトイレの水より汚いということが判明したそうです。ジャスミン・ロバーツさん(12歳)が自分の町のファストフードの店5軒で行った実験の結果なのですが、彼女はお店には実験のことは知らせずにそれぞれの店でコーラに入っている氷と水洗トイレで採取した水を調査した。その結果、70%の確率で、トイレの水の方がアイスよりもバクテリアの含有量が少ないということが分かった。彼女はこれで学校から優秀科学賞をもらってしまったのだそうです。

  • 可愛くないな、この子

レストラン「衝突」の悲劇
チリの首都サンチアゴで、クルマが新規開店したばかりのレストランに飛び込んでメチャクチャに壊してしまうという事故があった。このレストランの名前が「クルマ衝突」(Car Crash)というものであったということで、「衝突」レストランにクルマが衝突したということで新聞の話題になっています。レストランのオーナー(女性)は「これってブラックユーモアよね」とガックリきています。何故こんな名前をつけたのかというと、もともとその地域が交通事故多発地帯として有名なところだったからだそうです。

  • 幸いけが人はなかったらしいのですが、これからこのレストランに来るのは結構勇気のある人かもしれない。

盲目の25マイル
南アフリカで盲目の青年が25マイル(約50キロ)のバイクレースに参加、完走して話題になっています。ダーバンビルという町で行われたレースがそれで、盲目のハイン・ワグナーさんは先導バイクの後ろについた装置から流れる警告ノイズと後ろから来る観察係二人を頼りに完走したわけですが、次は1人でスカイダイビングに挑戦するのだそうです。

  • いろんな人がいるもんです。

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E編集後記

●小学校から英語を教えるという動きが大いに高まっているのだそうですが『国家の品格』とかいう本の著者によると、小学校からの英語教育には反対で、いま子供たちに教える必要があるのは「一に国語、二に国語」なのだそうです●「英語ペラペラであることが国際人ではない。自国語をしっかり身につけてこそ真の国際人になれる・・・」のだそうです。こういうこと言う人っていますよね。何やらもっともらしいけれど、本当にそうでしょうか?●私の考えでは小学校や中学校では音楽・家庭科・図工・体育の時間に力を入れるべきであります。歌や絵画が上手い(好き)・料理が得意・野球が上手い(好き)・・・こういう人は幸せですよね。世界中どこへ行っても通用すると言う意味では「真の国際人」です●ちなみに私はというと、家庭科と図工は全くアウトでございます。が、しかし、ハモニカは吹けるし、自己流のピアノで「北島三郎」も弾けます・歌えます。野球も好きでございます●つまりそこそこ幸せ人間なのでありますよ。何故こうなったのかというと、中学生の頃に音楽以外はまるでダメという変人の友達からピアノの弾き方を教えてもらったのが始まり。楽器で音を出すのは面白い。それ以上に何が必要なんです!?小学校から英語を教えるというアイデアは、冗談としては面白いのではありませんか?本気じゃないですよね?●それから「国語に力を入れろ」ってのはいいけれど、これまでだって結構やってきたのではないんですか?そもそも言葉なんて、単なる「道具」ですからね。私は英語ほどきらいではなかったけれど、国語も大して好きでもなかった●でも死にもせずにここまでやって来ました。その程度で十分なのよね、『国家の品格』さんには悪いけど・・・。

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