musasabi journal
発行:春海二郎・美耶子
第79号 2006年3月5日 

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例の国会のメール事件、なんだかさっぱり分かりませんね。誰が・何のために、あの「ガセネタ」(本当にガセネタなのでしょうか?)を永田議員に渡すようなことをしたのでしょうか?推理小説では「イチバン得をする人間が犯人」 と相場が決まっている。この事件で(結果的には)イチバン得したのは小泉さんであり、自民党・・・でも彼らが仕掛けたということは(話としては面白いけれど)ない。ばれたら大変ですからね。それとも、私などの知らない部分で「絶対ばれない」方法でもあったのでしょうか?それと、民主党の誰かが、ガセネタを用意した「情報提供者」や、これを永田議員に渡したと言われる「元記者」は(民主党に対する)「加害者」であると呼んでおりました。つまり名前の公表も辞さないってことです。これにはちょっと笑ってしまいましたね。名前を公表して、どうしようってんでしょうか?この場合は騙される方が悪いんでないの、やっぱし・・・?

目次

@ロンドン市長に謹慎処分?!
A読売新聞の変化
B「メートル」への反感
Cイラク参戦の善悪は「神」が決める・・・
D「一に国語・二に国語」の気味悪さ
E短信
F編集後記

@ロンドン市長に謹慎処分?!

ロンドンのケン・リビングストン市長が昨年2月に行った「失言」がゆえに、4週間の「謹慎処分」になるかもしれないという話題。この失言問題については、むささびジャーナルの52号でお伝えしていますが、かいつまんで説明すると、市長が眼の仇にしているEvening Standardという新聞の記者に向かって「ドイツの戦争犯罪人」とか「ナチの強制収容所の守衛」だのと発言したのですが、たまたまこの記者がユダヤ人であったことから、ことが大きくなってしまったというわけ。

この問題を重視したユダヤ人団体が、イングランド規範委員会(Standards Board for England)という委員会に苦情申し立てていたのですが、このほど委員会が市長の発言は「不必要・無神経・侮辱的(unnecessarily insensitive and offensive)」と断定し、4週間の謹慎を申し渡したという次第です。

この処分に対して、リビングストン市長は、自分がロンドン市民によって民主的に選挙された人間であり「選挙で選ばれた政治家が職場を追放されるとすれば、選挙民によってなされるか、法律違反をしたときのみ限られるはず(Elected politicians should only be able to be removed by the voters or for breaking the law)」と猛反発、「裁判に訴えることもある」と言っています。

リビングストン市長が、その発言で物議をかもすのはこれが初めてではない。アメリカによるイラク攻撃を批判して、ブッシュ大統領を「この宇宙の生命に対する最大の脅威(the greatest threat to life on this planet)」と決め付けたし、労働党議員であった80年代には、北アイルランド問題に関連して「英国による過去800年にわたるアイルランド人に対する扱いは、ユダヤ人に対してヒットラーのやったことよりひどい」と発言して問題になったこともある。

ただ今回の謹慎処分については、リビングストン市長の言い分に同情的な声が高く、Guardianのコラムニストなどは、市長が二度も選挙で勝っており「80万人以上のロンドン市民が彼に投票したのだ」として、謹慎処分を決定した委員会こそ「民主主義を冒涜している」と厳しく決めつけています。

ところで今回の裁定を下したStandards Board for Englandという委員会は、公的な組織や人の行いについての監視役として法令で作られた組織で、英語でいうquango(準政府組織)にあたります。純然たる「お役所」(その長が国民に選挙された政治家である)ではないけれど、そのような権限を与えられている。今回の裁定に批判的なGuardianのコラムニストは、最近の英国ではこの種の組織が余りにも力を持ちすぎており、国民が選んだ政治家を規制しすぎていると文句を言っています。

2月28日のBBCのサイトによると、4週間の謹慎処分は「凍結」となったそうです

  • ちなみにリビングストン氏が訴訟を起して敗れた場合、訴訟費用の8万ポンドを支払う義務を負うのだそうですが、彼の年収は13万ポンドをちょっと上回る程度ですから、結構な出費ということになりますね。

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A読売新聞の変化

The Economistの2月18日号を読んでいたら、小泉さんの靖国参拝の記事が出ておりました。この問題が故に中国や韓国との仲が冷え込んでいるというものなのですが、興味深いと思ったのは、その中で最近の読売新聞の論調に関する報告が出ていたことです。

小泉さんについては、中国も韓国も諦めてしまっており、9月に退陣するのを待つという姿勢になっているが、では小泉後の政権はどうなのかというと、安部晋三といい麻生太郎といい、小泉以上にナショナリスティックな部分があって、とても靖国参拝をやめるとは思えない。

しかるに「高まるナショナリズムに対して意外な方向(保守派の陣営)から反対風が吹き始めている。すなわち読売新聞である(opposition to a rising mood of nationalism is coming from an unlikely source from within the conservative establishment itself: the Yomiuri Shimbun)というわけです。The Economistによると、読売といえばこれまで「主張する日本」を掲げ「平和憲法の改正」を主張し「外国からの靖国批判には、大いに苛立ちを見せていた」新聞なのに、最近になって会長の渡辺恒夫さんの命令によって意見を変えた(Mr Watanabe has ordered the Yomiuri Shimbun to change its tune)というわけです。

記事によると、渡辺さんは最近のNew York Timesとのインタビューの中で「小泉氏は日本の軍国主義を祀る場に参拝している」というわけで、This person Koizumi doesn't know history or philosophy, doesn't study, doesn't have any culture. (小泉という人間は歴史も哲学も知らないし、勉強もしていない。また文化も持ち合わせていない)とケチョンケチョン。

読売新聞が現在、日本の戦争記録について調べるための連載を行っており、今年8月までには何らかの「判決」(verdict)を出すのだと言っている、とThe Economistは伝えています。記事は「但しその「判決」によって過去の清算が出来るかどうかは疑わしい(It is unlikely, though, to lay the past to rest)という文章で結ばれています。

  • 新聞社の「判決」がどの程度国際関係に影響があるものなのか分かりませんが、アジアの国々への影響力という意味では、読売というよりも、その変化を伝えるThe Economistの記事の方が影響を与えるかもしれませんね。ナベツネさんもそのあたりを意識したのかも?
  • そのThe Economistですが、最近の日経新聞を読んでいたら、編集長のビル・エモットさんが「勇退」と出ていました。この人、50歳にも満たないのですが、過去12年間にわたって編集長をつとめていた。英国の専門誌によると、その間、この雑誌の部数が倍増して100万部に到達したらしいですね。

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B「メートル」への反感

距離を表わす単位として、日本では「メートル」が定着しているし、重さの単位はグラム・キログラムに決まっています。英国では距離はマイルとかヤードを使っているのですが、これをメートル・システムに変えようという動きが昔からあります。しかし抵抗も極めて大きいらしいですね。

英国メートル普及協会(UK Metric Association: UKMA)という団体が最近発行した報告書は「5年以内に道路標識はすべてメートル制に移行すべき」としており、これにニール・キノック元労働党党首が賛成のメッセージを贈っていることで改めてニュースになっています。しかし英国版JAFであるAA(Automobile Association)は「5年じゃとても無理」と言い、運輸省も「現在の道路標識を変更する計画はない」と言っています。

マイル、インチ、ヤード、オンス、パイント等などの単位はインペリアル・システムといわれますが、英国のスーパーなどの場合、両方併記が許されているそうです。しかしそれも2009年からは規則が変わって、グラム、リットルのようなメートル・システムによる表示のみが許されることになるとか。例外はビールや牛乳のパイント(1パイントは約0.6リットル)は表記が許され、クルマ関連のマイル、土地の広さのエーカーも併用が可能になるそうです。

それはともかく、単位の問題は感情的な側面もあって、単純にはいかないようです。有名なのは2001年のケースで、Steve Thoburnというバナナ売りが、商品の重さをパウンドのみで表示してキロを示さなかったということで、1985 Weights and Measures Act(85年重量・計量法)に違反して有罪判決を受けたことがあるそうです。

UKMAのサイトを見ると、メートル反対派が挙げる理由がいくつか書いてあります。中には笑ってしまうものもある。

例えば:

@メートル法は外国のもので、これを使うのは非愛国的:まさかここで愛国心が出てくるとは思わなかった。

AメートルはEUの押し付けだ:これは「史実に反する」(UKMA)のだそうです。彼らによると、EUどころか、1862年の時点でメートル法の採用が英国内で検討されていたのだそうです。

B世界唯一のスーパーパワー(米国のこと)がインペリアルを使っているのだから、英国も同じようにすべきだ:主として貿易のことを言っているのですが、UKMAによると、これもナンセンスだそうで、理由の一つとして中国・日本・ドイツ・イスラエルなど完全メートル制で、対米貿易が非常に大きな部分を占めている国が、メートル制であるが故にトラブルを起したという例は聞いたことがない、と言っています。

  • 確かに「単位」というのは、人々の心の中にまでビルトインされてしまいますね。私なんか、住宅や土地の面積は平方メートルではピンと来ない。やはりここは畳2枚の坪でなければね。
  • ところでものの本を読んでいたら、真珠の取引単位では「匁momme」が使われているんだそうですね。知らんかったな、これは。
  • 国技館で相撲の力士を紹介するのに「尺貫法」が使われていたのを漠然と記憶しています。落語なんかには「五寸釘」とか「六尺三寸の大男」なんてのが出てきます。聞いている人も分からないのに、そのまま使われている。これをメートルに直したりしたら興ざめですからね。

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Cイラク参戦の善悪が「神」が決める

最近(3月4日)民間テレビのITVのトークショーに参加したブレア首相が、イラク攻撃への英国参加について「いずれ神が(良し悪しを)決めてくれるだろうIf you believe in God (the judgement) is made by God」と発言して問題になっています。首相の発言は、イラク戦争へ参加を決意するにあたってのブレアさんが「良心との戦い」について述べたときに出てきたもの。BBCのサイトによると、ブレアさんは「イラク参戦への決定は人の生命にかかわることであり非常に困難なものであった」としたうえで、次のようにコメントしています。

  • "The only way you can take a decision like that is to try to do the right thing according to your conscience." (そのような難しい決定をする場合は、自分の良心に従って正しいことをするしかない)
  • "I think if you have faith about these things, then you realise that that judgement is made by other people... and if you believe in God, it's made by God as well."(信念というものがある人であれば、こうした裁定は自分以外の人々によってなされるし、神を信じているのであれば、それは神によってもなされるものだ)

で、参戦の決定をした時に神に祈ったか?との質問については"I don't want to go into that... you struggle with your own conscience about it... in the end, you do what you think is the right thing."(その話はしたくないが、自分の良心と戦って、最後は正しいと思うことをするということだ)と言っています。

ブレアさんのこの発言については「苦汁に満ちた率直さ」(painfully honest)と褒める人もいれば「胸クソ悪い」(disgusted)という人もいます。ただBBCのサイトを見ていると、熱心なキリスト教徒ではあっても個人的な信仰のことについては慎重な発言をするはずのブレアさんがこのような発言をするということは、自分が時期首相にはならないということが分かっているので選挙民のことを心配することがないからという見方がもっぱらのようです。

ブレアさんのいう「神」はキリスト教の神であり、米英によるイラク侵攻が、キリスト教徒による「十字軍」の侵攻という捕え方をするイスラム教徒の反発を呼ぶ可能性は大いにあると指摘する声もあります。ブレアさんの「信仰」については、過去にもいろいろと物議をかもしたことがあり、かつてキャンベル報道官(ブレアの広報指南役でもあった)が「(政治と)神は関係ない」(We don't do God)と懸命に否定したこともある。

で、今回このような発言をしたわけですから、今後はWe don't do Godと言うことはできなくなったようなものである、とBBCの政治記者が指摘しています。

  • ブレアさんは、かつてBBCのジェレミー・パックスマンという記者に「アンタはジョージ・ブッシュと毎晩国際電話でお祈りをしているというが本当か?」と質問されてカンカンに怒ったそうです。が、今後、イラク戦争にいたる過程で首相が何を考えていたのか・・・ブレアさんがいくら否定しても「神」の存在を否定することは難しいでしょうね。何やら小泉さんの「靖国」と似ていなくもない気がしませんか?

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D「一に国語・二に国語」の気味悪さ

前号(78号)のむささびジャーナルの編集後記で、小学校で英語を教える件について書きました。何人かの人からもコメントをもらいましたが、この問題は結構面白いと思うので、もう少しお話をさせてくれませんか?でも長くなるので、別のところに掲載します。

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E短信

ドイツに失恋専門病院

ドイツのミュンヘンに、失恋の痛みに苦しむ人のための「緊急治療」(emergency treatment)サービスを提供する病院ができたそうです。Schwabing Hospitalという名前の病院で、主な対象は失恋ティーンエージャー。もちろん男女の別は問わず、無料のサービスを提供します。「失恋は精神のみならず肉体的なトラブルにも発展しかねず、場合によっては極端な行為にもつながる」としており、病院ではその道の専門家を常駐させて治療にあたるのだそうです。

  • 「主としてティーンエージャー」対象となっていますが、私みたいな老人はダメなのでしょうか?それと「緊急治療」って、具体的にどんな治療なのでしょうか?

サッカーファンにお勧めの葬儀サービス

今年のサッカー・ワールドカップはドイツで開かれるわけですが、この国のサッカー熱はかなりのもののようで、サッカー・ファンのために、棺桶をお好きなチームカラーで仕上げますというサービスを提供している葬儀屋があるのだとか。Bad Salzuflenという町にあるKramerという葬儀屋さんがそれで、すでに一人、Borussia Dortmundというチームのファンであった人が亡くなったときに、チームカラーの黒と黄色を使ったお棺を用意して「遺族には大いに感謝された」のだそうであります。ドイツの場合、土葬が主体ですが火葬希望の「お客様」には、好きなチームカラーであるのみならずサッカーボールの形をした骨壺も提供すると言っております。

  • やりますね、これは。大阪のトラキチの皆さんのための「タテジマ棺桶・骨壺」というアイデアは、どこかがやっているのでしょうか?そうなるとお葬式も笛風船を飛ばしてドンチャン騒ぎ・・・ついでにお骨を道頓堀にばらまくなんてのもありかも?

依怙贔屓で職務停止処分に

これもドイツのサッカーファンの話題。かつてのナショナル・チームのキャプテン、あのベッケンバウアーさんが車のスピード違反をやってしまったのですが、これを見逃した警官3人が罰金をとられた挙げ句に8ヶ月の職務停止処分をくらってしまったのだそうです。ベッケンバウアーは時速30kmの地域を70kmで走って捕まったのですが、これをとらえた警官が彼の大ファンというわけで、チケットを発行しなかったことが、内部調査でばれてしまったというわけ。ベッケンバウアーは当然、罰金のみならず1ヶ月の運転禁止処分をくらった、と地元紙が伝えています。

  • まずいことやってしまったのは確かですが・・・8ヶ月の職務停止処分というのはかなりきついんでない?
F編集後記

Foresightという雑誌の3月号を読んでいたら「異端妄説」というコラムが「『関係者』とはだれか」というエッセイを掲載していました。ライブドアの堀江前社長らが逮捕されてから、新聞やテレビが「関係者が明らかにした」という言い方で、逮捕された人たちの「否認」だの「自供」だのをいろいろ報道しているが、この「関係者」とは一体全体だれのことなのか?というわけです。

●エッセイによると、司法関係の記事に出てくる「関係者」とは「東京地検特捜部の副部長クラスの検事」であるというのが一般的なのだそうです。但しこの場合、例えば記者会見を開いて記者たちに正式に発表するのではなく、いわゆるリークというかたちで伝えられるのだとか。非公式な内緒話であって公式には誰もそのようなことは言っていないことになっている。検察当局としては、内緒話に基づいてマスコミが「勝手に」書いたり、報道したりすることに「責任は負えない」というわけです。

●新聞やテレビが「勝手に」報道したことが全て同じような内容であるのは「偶然であるとでも言うのか」とForesightのエッセイは問いつめています。マスコミが「関係者」からの情報として報道している内容がどの程度真実なのか、誰も検証ができない。「すべてうそだったとしても、だれも責任をとらない」というのがこのエッセイの指摘です。言うまでもなく、検察の言う「ここだけの話」をそのまま報道するマスコミへの批判が趣旨になっています。

●考えてみると(考えなくても)はっきりしているのは、堀江という人が同僚と一緒に逮捕されたってことだけなんですよね。彼が有罪なのか無罪なのかも分からない。にもかかわらずマスコミでは極悪人の犯人扱いで既に世の中から抹殺してしまった(ように見える)。人殺しでもしたんですか?

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letters to musasabi journal