musasabi journal
発行:春海二郎・美耶子
第81号 2006年4月2日 

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東京・霞ヶ関の交差点の桜が満開で、先日などはかなり寒いのに夕方のお花見のために陣取りをしていたのには笑ってしまいました。81回目のむささびジャーナルをよろしくお願いします。

目次

1)悪魔を信じるか?
2)人間を死なせると「殺人」、ペットの安楽死は「愛護」!?
3)英国人の愛犬ぶり

4)行列好きは過去のこと?
5)大学教授の人種差別発言
6)短信
7)編集後記

1)悪魔を信じるか?

小さい子供には「クリスマスになるとサンタさんがやって来て」などと言いながらイブになると、寝ている間にプレゼントを枕元に置いたりして・・・。翌朝喜ぶ子供を見ながら「サンタの存在を信じているかも」なんて思ったりしたことあります?

というわけで、久しぶりに翻訳しないジョーク。教会の日曜学校からの帰り道、子供が二人、ついさっき教会で牧師さんから聞いた怖ろしい悪魔(Satan)のことについて話し合っている・・・

Two boys were walking home from Sunday school after hearing strong preaching about the devil.

One said to the other, "What do you think about all this Satan stuff?"

The other boy replied, "Well, you know how Santa Claus turned out. It's probably just your Dad."

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2)人間を死なせると「殺人」、ペットの安楽死は「愛護」!?

先日ラジオを聴いていたら、富山県の病院で外科部長さんという人が、患者の人工呼吸装置を外した事件に関連して、安楽死のことをディスカッションしていて、法律で安楽死が許される範囲を認めるべきかどうかが話題になっていました。前回のむささびジャーナルで、バーミンガムの新聞のコラムニストが、30年前に自分の大叔母を安楽死させたと告白するエッセイを掲載したことをお伝えしました。

で、このコラムニストの「告白」は普通の英国人にどのように受け取られたのか?この新聞のサイトに読者の意見がいくつか掲載されていたのですが、ここでは「典型的英国人」と(私が)思う意見を二つ紹介します。一つはコラムニストを非難するもので「他人の命を奪う権利は誰にもない」と言ったうえで、次のように宣言しています。

"No amount of suffering can be compared to the agony that Jesus did for us on a wooden cross for six hours having been scourged by the Roman Soldiers and mocked by a jeering crowd."(どのような苦しみであれ、イエス・キリストが、我々のために、木の十字架に6時間も磔(はりつけ)にされ、ローマ軍の兵隊たちによって鞭打たれ、群集からはののしられた、あの苦しみに比べればなんでもない)

投稿者はかなり熱心なクリスチャンの男性のようですが、それに反論する投稿は女性からのものです。

What a despicable thing to say. I imagine you have never had to sit and watch as someone you love dearly dies a slow and lingering death? An animal wouldn't be left to suffer like this so why should a human?(なんという酷いことを言うんですか。あなたには自分が愛する人がゆっくり、ゆっくり死んでいくという場所に居合わせたことがないのでしょう。動物だってそれほどの苦しみにさらされることはないでしょう。なぜ人間だけはそうしなければならないんです?)

と、こちらはおそらく常識的というか普通感覚なのでしょう。ちなみに私が聴いた日本のラジオ番組のディスカッションでも大多数が「安楽死は場合によっては認められるべし」という意見でありました。

ただ、上の英国人の意見に動物のことが出て来る部分が気になります。「動物が安楽死を許されるのなら人間だって・・・」という意見が結構多いようで、上のサンプル以外にもありました。投書に見る限り、苦しんでいる動物をそのままに放置するのは、英国では「動物虐待」の罪と解釈される場合もあるようなのであります。それなのに人間となると、少なくともこの新聞への投書に見る限りは安楽死を殺人と同じように否定的に考える人が多いようです。

これは何を表わしているのか?「可愛がっている犬や猫なら苦しみから救うために命を絶ってあげてもよろしい。人間の場合はどのように苦しくても自然に死ぬまでは苦しむしかない」ということは、英国人にとって動物は人間よりも下の存在であり、面倒を見てあげる存在であるということであります。「面倒を見る」という行為の中に「命をとること」もありってこと。人間については、安楽死も自殺も神の御心に逆らう行為で、犯罪みたいなものということです。世の中、神の下に人間を中心に動いているということでありますね。

  • 例えば英国の田園風景を見て「英国人は自然を大切にしている」と感心し、「それに引き換え日本の田園は、デッカイ広告は並んでいるし、電線はあるし、ラブホテルはあるし・・・」と嘆く人がいます。確かに日本の田園風景のひどさは情けない部分があるのですが、それでは英国のそれは「自然を大切にしている」という類のものなのでしょうか?むしろ反対で、自然を人間の好きなように「管理している」のが英国の自然・田園風景なのではないですかね。
  • 我が家にも柴犬が3匹います。5匹いたのですが2匹は死にました。両方ともどちらかというと苦しんで死にました。我々(私と妻の美耶子)にはそのとき「安楽死」ということは全くアタマに浮かびませんでした。苦しむ犬の傍で「一緒にいる」だけでありました。無力感をイヤというほど味わったわけです。で、ついに命が消えたときには、思わず犬の身体をさすって「よかったね」と言ってやりました。

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3)英国人の愛犬ぶり

YouGovの世論調査によると、英国における愛犬家の10人に4人が愛犬の死に際して、お葬式をあげるなどの特別な行事を行ったとされています。ちなみに英国内で行われる犬の葬式の件数は年間平均で136,000なのだそうです。

犬の葬儀を行ったドッグ・ラバーたちにインタビューしたところ、4分の3が犬の葬儀は人間の家族のそれと同じように大切だと考えており、「人間の家族よりも犬の方が大切」と答えた人がほぼ半数に上っているそうであります。

で、最も犬好きなのがウェールズ人なのだそうで、44%が毎週 (毎週です!) 愛犬の墓参りに出かけるという数字が出ています。そらからロンドンの人たちがイチバン金を使うのだそうで、36%が犬の死後に100ポンドを愛犬のために消費したのだとか。さらにヨークシャーでは、愛犬を焼いて灰を特別な場所に散布するというのが一般的なのだそうですね。スコットランド人の18%が、愛犬を記念する碑のような芸術作品を作るという結果も出ております。

私、その昔、英国人のある有名な愛犬家に会いに行ったことがあります。当時で80を超えた老人であったのですが、彼によると犬は家族の一員だから屋内で一緒に暮らすのは当然などと言って、一緒に行った私の妻・美耶子と大いに意気投合しておりました。彼らによると、犬が一緒に住んでいない家は「家屋」(house)であって「家庭」(home)ではないのだそうです。

  • で、この老人はカソリック教徒であったのですが、カソリック教会の見解によると、犬は死んでも天国には行かないのだそうですね。「天国なんて退屈なところだろな」というのが、この愛犬老人の見解でありました。

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4)行列好きは過去のこと?

queue(キュー)という英語は「行列をつくる」という意味です。英国人は行列好きであるということが、多少ギャグめいて語られますが、最近の調査によると、辛抱強く行列を作るという英国の伝統が過去のものになりつつあるのだそうです。

オンラインによるクルマの保険会社であるEasymoneyという会社が、約2000人の若者(18才〜29才)を対象に行った調査によると、約4億ポンドにのぼる小切手が現金化されずにポケットやハンドバッグの中に眠っているのだそうです。小切手を銀行でお金に換えるために行列に並ぶのが面倒くさいというのが理由なのだとか。

ホンマかいな?と首をかしげたくなるけれど、他にも若者の「こらえ性のなさ」(impatience)を示す調査がいろいろある。例えば5分の2が病院へ行きたがらないし、10人に3人が歯医者へ行くのを嫌がる。いずれも受付で待たされたり、アポとりに時間がかかるのに耐えられないというのが理由。

このような精神状態を称してwon't wait, won't do mentalityというのだそうですが、Easymoneyによると、この年代の29%が「行列は完全な時間のムダ」と考えており、映画館であれ、レストランであれ、スーパーのレジであれ「行列」だけは拒否すると答えているらしい。

Easymoneyによると、若者たちのこの傾向は、明らかにインターネットによる「速さに毒された(spoilt for speed)」ものなのだというわけです。オンライン専門のEasymoneyでは「インターネットのお陰で、毎日の生活で1時間も時間節約が可能になった」と言っているのですが、社会的に好ましくない現象として、若者の献血嫌いがあるのですが、それも理由は「時間がかかりすぎる」ことだそうです。そんなこと言ったってムリってもんだ。

確かにインターネットを使うと、わざわざ買い物に行かなくてもいいし、クルマの保険だって加入できてしまう。それに健康チェックだって医者に行かずにネットでできてしまう。というわけですが、それでも行かなきゃ出来ないことってありますよね。ネットでヘアカットはできないし、病気も治らない。人間が集って暮らす以上、queuingは避けられない。

  • 英国人は行儀よく行列をするということが自慢?であった頃、French queuingという言葉あったのをご存知で?何のことかというと、ラグビーのスクラムのことを言うのだそうです。フランス人が聞いたら怒る!?

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5)大学教授の人種差別発言

英国の大学教授が「黒人は白人よりも知的に劣っている(blacks are less intelligent)」という発言をして、大学が学生から「クビにしろ」と要求される事態になっています。リーズ大学のフランク・エリスというロシア文学の教授が問題の人で、3月の初めに学生を相手に「言論の自由」について話をしているときに「ある人種は他の人種に比べて遺伝子の関係で知的に劣っている、というのは本当か」ということをディスカッションをするように呼びかけたところ、学生の怒りを買ってしまったというわけ。

学生組合は「あの教授を追放するためにあらゆるアクションをとる」とカンカンに怒っており、独立機関である人種平等委員会(Commission for Racial Equality)も調査に乗り出しています。ただ教授の方も「(辞職を求める学生たちは)自分の主張を真剣に考えることをやめさせようとしている。(ある人種が劣る)という議論をすること自体がイヤなのだ」と主張を変えるつもりはないようです。

実はこの教授が物議をかもすような発言をしたのは、これが初めてではありません。ブレア政府も推進する多文化主義(multiculturalism)について「すべての人間、人種、文化は平等であり、人種間に優劣はないというのはウソ(it is based on the lie that all people, races and cultures are equal and that no one race or culture is better than any other)」などと発言したことで、問題になったことがある。

また英国である黒人の若者(Stephen Lawrence)が警察によって殺されたとされる事件について、この教授は米国の極右団体の集会に出席して、この事件の調査そのものを否定・非難したりしたこともあるそうです。この人はまたインターネットで「政治的に賢明でない(politically incorrect)と言われるかもしれないが、科学技術の世界から"白人"と"男性"というものがなくなると、残るのは魔術と未開発のインチキと巨大な無能力だけだ」という説を主張して非難されているのですが、これについても「すべて科学的根拠のある主張だ」と譲らないのだとか。

この騒ぎについて大学側は「エリス教授の考え方は嫌悪すべきものだ。エリス教授には個人の意見をもつ権利があるが、学生や同僚に人種差別をするような扱いをしてはならない」としながらも「大学としては、教授がそのようなことを行ったという具体的な証拠を入手するに至っていない」と語っています。一方、学生からの訴えを受けた人種平等委員会は、この教授が学生の評価を差別的に行ったことがないかどうかの調査を大学側に要求しています。

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6)短信

警官にエチケット教育

極東ロシアにPrimorjeという州がある(らしい)のですが、その州政府が現在取り組んでいるのが、警察官のエチケット向上教育なのだそうです。きっかけは住民から警官の態度や口のきき方が失礼なのが多いという苦情が相次いだことによる。で、そのエチケット教育で何をやるのかについてSmoren Dubroevという先生は「住民に乱暴な言葉を使わないということも教えますが、同時に詩・音楽・ダンス・テーブルマナーなどの教養コースも設けたい」と言っています。州政府では、文化的に洗練された警察官が社会全体のお手本になることもできる、と力を入れているのだそうです。

  • 最後のテーブルマナーについては、警察の食堂でもマナーよく食事をする習慣を身に付けさせるのだそうですが、はっきり言って警官とくれば「逮捕だ・・・!!!」ですよね。優雅なテーブルマナーで、チャイコフスキーの音楽の話をするお巡りさんというのはどうも。

紛失した「100万ドル」に涙・涙・・・

米カリフォルニアに旅行に来ていたカナダ人夫婦が100万ドル相当のものが入った財布を紛失したところ、これが無事に警察に届けられ大感激というハナシ。サンフランシスコ・クロニクル紙によると、旦那の方が奥さんの財布を何故か公園のベンチに置き忘れた。中には「Cartierの時計・宝石・真珠のネックレス等など」合計100万ドル相当のものが入っていたらしい(ちなみにキャッシュはわずか500ドル)。失意の奥さんはカナダへ帰国する途中でも泣きっぱなし。それが帰国後に無事見つかったの報を受け、今度は「感謝と感激の涙にくれていた」と息子さんが証言しています。

  • そんな財布を持ち歩くんですかね。分かんないな、さっぱり。それと(感激でお取り込み中申し訳ないのですが)品物の割りにはキャッシュが少なすぎるような気がしません?つまり、ホントに「100万ドル相当」だったんですか!?ってこと。

警官にスケートを履かせる!?

最近、ロンドンの公園警備担当の警官にローラースケートを支給しようという計画があったらしいですね。犯人を追跡するのにスケートを使えば・・・ということだったのですが、転んだら困るという現場の声もあって計画はアウトになった、とThe Sunが伝えています。もう一つの理由として犯人が芝生の上を走った場合、ローラースケートでは追跡できないということもあった。で、結局元どおり自転車がいいってことに・・・。

  • 仮にローラースケートで犯人が捕まったとしても、スケートを履いていたのでは、手錠もかけらないのでは?アイデアとしてはイマイチ、だな。

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7)編集後記

●今回もお付き合いをいただき有難うございました。埼玉県では今年もウグイスが聞えるし、ツバメも帰ってきました●とうわけで(全然関係ありませんが)、新聞によると、むささびジャーナルの度重なる忠告にもかかわらず、小学校で英語を教えることになったそうですね。勝手にさらせ、というわけですが、私の関連作文に興味をお持ちの方はここをクリックしてみてください●野球の面白さはテレビでは分かりませんね。投手と捕手と打者しか見えないから。野球だけは全体を見ないとつまらないんです。球場に行くしかないわけです。その意味ではサッカーは常に全体が映るからテレビ向きかもしれない●2003年から数えてむささびジャーナルも4回目の春を迎えました。私はこの季節、桜の咲き始めの季節がイチバン好きであります。今後ともよろしくお付き合いください。

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