musasabi journal
発行:春海二郎・美耶子
第89号 2006年7月23日 

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むささびジャーナルの89号です。私が昔、英国大使館というところに勤務していたときに、日本中に英国生まれのイングリッシュオークという木を植えるという企画にかかわったことはご存知でしたっけ?2002年のことでした。英国大使館を辞めてからも、あの時に植えてもらったオークの木はどうなっているだろうかということが気になっています。というわけで、英国大使館とは無関係の個人の道楽ということで、その後のオークの写真提供をお願いしたところ、いろいろな町や村の人が協力してくれました。必ずしも今年の写真ばかりではありませんが、ここをクリックすると見ることができます。

目次

1)『昭和天皇が不快感』報道の英国特派員の見方

7月20日付けの日本経済新聞朝刊のスクープとされる、靖国神社への「A級戦犯の合祀に昭和天皇が不快感」という記事は、メディアにとっては相当な「トクダネ」らしく、その日の他紙の夕刊も一面トップで伝えておりました。

これ、日本では大ニュースなのかもしれないけれど、私がウェブサイトを調べた範囲では、英国の新聞では殆ど伝えられていなかったようです。全くないというわけではなくて、The Timesの東京特派員は自身のブログで伝え、The Independentは特派員の記事を掲載していました。

The Timesのブログは、7月21日に日経のビルに「火炎ビン」らしきものが投げ込まれたことについて「今回のメモは日本の右翼にとっては大きな打撃であり、彼らを困惑させるだろう」として、その理由を次のように書いています。

Japan's ultra-right dogma includes two fundamentals: unconditional reverence for the Emperor; and unflagging respect for the hanged wartime leadership honoured in Yasukuni. To discover that these two articles of faith contradict one another must be very irritating and it's not surprising, given their touchy character, that one of the uyoku decided to take fiery venegance on the publishers of the story.(日本の極右勢力には二つの原理・原則がある。一つは天皇に対する無条件の崇敬の念であり、もう一つは、絞首刑になった戦争中の指導者に対するたゆまなき尊敬の念である。(今回見つかったメモによると)この二つがお互いに矛盾することになり、これは非常に困ったことであるに違いない。すぐにカッとなる右翼の性格からして、この記事の出版元に怒りの矛先を向けたとして驚くには当たらない)

このブログはまた「このメモの存在そのものは、すでに日本の記者たちには分かっていたらしい」として「いまこの時期にリークしてそれを記事化することが、誰の利益になるのだろう?」というわけで、次の3つの可能性に触れています。

1)日本の産業界:小泉の靖国参拝は、中国や韓国における彼らの商売にダメージを与えている。Is it the Japanese business community who, despite their official unconcern, are frantic about the damage being done to their interests in China and Korea by Koizumi's annual visits to the shrine?

2)小泉の後継者と目される安部晋三(記事では晋太郎となっています):右からの支持者に対して首相参拝を止める、この問題にふたをする絶好の理由付け(excuse)となる。Is it Koizumi's likely successor, Shintaro Abe, who now has the perfect excuse to the right wing supporters to stop prime ministerial visits to the Shrine in an effort to bury the controversy?

3)(このメモのリークが)平成天皇自身のイニシアチブによるもの。天皇は慎重かつ間接的にものごとをやる人であり、穏健でリベラルな平和主義者。その彼にしてみれば小泉が与えた日本の海外におけるイメージダウンは苦々しい思いであろう。Has the initiative come from the Emperor himself who, for all his discretion and indirectness, is a moderate, liberal pacifist who no doubt squirms at the damage Koizumi has done to Japan's image overseas?

で、筆者の結論はというと「はっきりしたことは絶対に分からないだろう」(We'll never know for certain.)とのこと。でしょうね。

The Independentの記事は、このトクダネが「保守的なビジネス紙」に掲載されたことを取り上げて、やはり中国や韓国との関係悪化に悩む産業界との関連を報道しています。ある大学教授の「天皇でさえも反対なのに、まだ参拝するのか!?(Look, the Emperor was against visits so how can you go?)」という小泉批判が出て来ることで、小泉さんにはダメージになるだろう」というコメントを掲載しています。

  • 日経新聞が「いま何故」このスクープを掲載したのか?これについてThe Timesの特派員が言うように「中国や韓国との間がよくなってくれないと、ビジネスに差し障りがあるということで、経済界がそれ(小泉の参拝中止)を望んでいる」というのは、確かにそうかもしれない。
  • スクープの背景はともかく「天皇陛下さえ反対しているのだから、小泉さんも参拝を止めるべきだ」というのは、おかしくないですか?天皇陛下が何を思おうと、小泉さん個人の行為には関係ないじゃありませんか?その意味では中国や韓国がなんと言おうと関係ないのと同じ。
  • でも、今回のスクープ騒ぎを見ていると、日本という国や日本人という人びとは、いまだに「天皇陛下」に弱いのだということがよく分かりますね。首相の靖国参拝なんて、普通の日本人が自分たちの力で、中止に追い込まなければいけないことなんですよね。 天皇陛下(それも既にこの世にいない)の助けを借りなければならないというのは、我ながら(私も日本人だから)情けない。
  • 40年以上も前に学生デモが国会に突入して、大騒ぎとなり、岸信介首相(安部晋三さんの親戚?)の退陣を促したのが懐かしいですね。小泉さんの参拝反対のデモをやる人はいないのでしょうか?私はちょっと恥ずかしいし、体力的にも厳しいから参加できないとは思うけれど、沿道で密かに応援はするし、資金カンパにも協力しますが・・・。
  • 今回の件について、朝日新聞に出ていた、コロンビア大学のジェラルド・カーチス教授の次のコメントが納得いきました。

    「靖国神社参拝問題が、外国に言われて問題になったのではなく、もともと日本国内の政治問題であることが(今回のスクープで)明らかになった。(天皇の)発言が明るみに出たことによって、国内問題としての靖国神社参拝問題がもっと議論されるのではないか」

2)質屋がリバイバルしている

最近の英国で静かなリバイバルになっているのが、質屋さんなのだそうです。The Economistに出ておりました。英国質屋協会(National Pawnbrokers Association)の推定によると、英国には800ないし900の質屋チェーンが存在しており、あるチェーンの場合、現在のショップ数が69軒ですがさらに30軒増やす計画なんだとか。また別のチェーンは75軒のショップがあるのですが、これは10年前に比べると2倍。

何故いま質屋がリバイバルなのか?The Economistによると、最大の理由はローンの不払いで、普通のクレジット会社からお金を借りられない人の数が増えていることだそうで、この種の人は約900万を超えるのだそうです。これ、英国の総人口(約6000万)を考えると尋常な数ではないのでは?

で、英国人が質屋を利用する理由ですが、ブリストル大学の教授の調べによると、半数以上が食品を含む、いわゆる必需品を買うお金を借りるためなのだとか。質屋でお金を借りると、普通は6カ月ローンで利子が7%、APR (annual percentage rate:実質年利)に直すと100%ってことになる。しかし担保なしでクレジット(doorstep credit)の場合、APRは175%になるのだから、貧乏人にとっては質屋の方がまだましってことになる。

質屋リバイバルのもう一つの理由として挙げられているのが、給料が週給から月給制に変わりつつあることで、ちょっとしたお金がすぐに必要という場合、給料日まで待たなくても借りられる。

質屋に対する需要の高まりに応えて、ショップの方も昔のように古臭い雰囲気ではなく、宝飾品店のような豪華な構えのところが増えてきているし、ショッピングモールに出店するケースもある。サービスも給料の前貸し(pay-day advances)、小切手の現金化、プリペイドカードの発行など多様化しているのだそうです。

近代化していると言っても、モノを預かってお金を貸すという質屋のビジネスそのものに変わりは無いのですが、借金する側にしてみると、質屋はクレジットチェックもしないし、質屋を使ったからと言ってクレジットにマイナス点がつくわけでもないというのは有難い。質屋にしてもモノを預かるわけだからリスクも限られている。

とはいえ、質屋のサービスを利用するには、価値ある質草がなければどうにもならないわけで、その意味からすると、doorstep creditが質屋にとって代わられることはないだろう、とThe Economistは言っています。

  • National Pawnbrokers Associationのサイトによると、質屋というビジネスは3000年前の中国で生まれたのだそうであります。ただ現代のような質屋のオリジンは15世紀イタリアのメディチ家によって始められたのだとか。コロンブスのアメリカ大陸への航海もスペインのイザベラ女王の宝飾品を質に入れてお金を作ったことで実現した(Christopher Columbus' voyage was funded largely by the proceeds from pawning Queen Isabella of Spain's jewels)と言っています。つまり「質屋がなければアメリカ大陸の発見もなかった」(it is pawnbroking we have to thank for the discovery of the Americas)ということです。
  • で、気になるのが日本の質屋さんですね。全国質屋組合連合会(全質連)のサイトによると、加盟質屋さんの数は約3500店。案外少ないんですね。
3)英国人の政府に対する意識調査

世論調査会社のMORIが、政府の政策についての国民の意識に関する国際比較をやっています。英国とヨーロッパの4カ国(フランス、ドイツ、スペイン、イタリア)それにアメリカが対象です。この調査の結果を見ると、英国人の意識と他の国の人びとの意識との間にいろいろな違いあるようです。

まず経済政策についてですが、ブレアさんが泣いて喜びそうな結果となっています。「失業が一番心配だ」と考えている英国人はわずか11%であるのに対して、ドイツの場合は71%、イタリアが59%、フランス54%、スペインが45%となっており、アメリカでさえも23%の人びとが失業問題を心配の種と考えている。

これらの「心配率」は順序で言うと、失業率に比例しています。失業率については、独仏が一番高くて約9%、ついでスペイン(8・4%)、イタリア(7・5%)で、英米が約5%と低い。ただ、それにしても英国人の楽観主義は際立っている。しかも英国人の38%が「政府の政策のお陰で失業が減る」と考えているのに対して、ドイツにおいては、この問題に関する限り政府への信頼度は21%と低くなっている。

尤もブレアさんが喜ぶのはここまでで、失業以外の社会問題となると事情が違ってくる。例えば犯罪対策。この分野で「政府がよくやっている」と考える国民の比率は、ドイツが一番で57%、次いでフランス(55%)、イタリア(52%)、アメリカ(44%)、スペイン(38%)ときて、英国は最下位の31%という数字が出ています。

移民対策はどうか。移民が一番大きな心配事だと考える人の割合としては、スペインの40%が最高で英国は35%で2位。しかし移民を自国の社会に溶け込ませる努力という点で「政府はよくやっている」と答えた人の割合としては、スペインの40%が最高で、英国は最下位の25%。テロリズムを一番恐れているのは、スペイン(58%)で、英国は39%で3位。政府のテロ対策について「よくやっている」と考える人の割合は、フランスがダントツの70%、英国は最下位で44%。

面白いのは政治の腐敗についての意識で、一番心配しているのはアメリカ人(27%)で、一番心配していないのが英国人(14%)となっている。英国では政治家に対する信頼が高いってことですか?ホント!?

しかし私(春海)が一番面白いと感じたのが、いわゆる「格差」についての意識比較です。「心配だ」とする人の割合が一番高いのがドイツの39%、英国はアメリカ(23%)よりも低い22%となっている。つまり貧困や格差を社会的な問題だとして心配する英国人の数は他国と比較して少ないってことです。

実は格差についてはこれら6カ国以外も含んだ別の調査があって、To be a good citizen, how important is it to support people who are worse off?(よき市民であるために、恵まれない人びとを助けることはどの程度大切なことと考えるか?)という設問に対する反応が面白い。「非常に大切だ」と答えた人の割合が一番高いのはイスラエルの38%、英国は19カ国中の16位(12%)という数字になっている。

もちろんどの国や社会にも貧困者というものは存在するわけですが、では貧乏人が貧乏である理由は何かという問いに対する英国人の答えは下記のとおりとなっています。

  • 怠慢だから(laziness):23%で15カ国中の2位
  • 世の中が悪い(injustice):20%で13位
  • 運が悪い(bad luck):21%で5位

要するに他の国の人びとに比べて、貧乏人は自分が悪いか、運が悪いのだと考えている英国人が多いってことですね。で、「所得格差を解消するために政府が関与すべきである(The government should reduce differences in income levels) 」と考えている人が一番多いのが、ギリシャの54%、英国は15%でビリから2番目。このように考えている人が一番少ない国(アメリカは調査対象外)はどこだと思います?正解はデンマーク(10%)です。ちょっと意外ではありませんか?

いずれにしても英国人の場合は、格差解消に政府の対策は期待していないってことですね。ずいぶんたくましくなったものですね、英国人も・・・。でも、「貧乏なのは怠惰だからだ」という人が多いってことは、つまりアメリカ的な考え方が多くなっているってこと?この調査の結果はここをクリックすると出ています。

4)短信

失恋博物館

クロアチアの首都、サグレブに「国際失恋博物館」(International Museum of Broken Hearts)なるものがあるそうです。ホ、ホントなんです!何を展示しているのかというと、失恋した人びとから集めた恋の想い出の品なんだとかで、例えば恋人と一緒に写した写真、ラブポエム、テディベアなどで、いずれも内外のBroken Heartsから寄贈されたものばかりなのだとか。実は開いてからまだ数週間しか経っていないのですが、クチコミで話題を呼び、パリ、イスタンブール、ベニスなどから「招待」され、世界ツアーを行うことになっているのだそうです。博物館では「ここに展示されているもの一点一点に込められているのは、失恋という想い出ばかりではなく、その人がそれからどう立ち直ったのかという物語も入っているので、失恋したばかりの人たちには、いい精神療養になる」と言っています。

  • ウーン、こんな博物館に行く人がいますかねぇ。他人の失恋話なんて聞いたって、面白くもなんともないんでないの?わっかんねぇ!

「カフェ・オサマ」にアメリカ大使館がかんかん

セルビア共和国の首都、ベルグラードにあるアメリカ大使館から道を隔てた向かい側にカフェができたのですが、あろうことかその名前がOsama(オサマ)ということで、大使館からの猛烈な抗議で名前の変更を迫られているそうです。まあ、アメリカ大使館にしてみれば、9・11の首謀者である、あのにっくきオサマ・ビン・ラディンの名前にするとは何ごとか!というわけなのですが、Osamaというのはセルビア語で「隠遁」とか「休憩」という意味で、カフェのオーナーとしてもそのつもりで付けたのであって、アメリカ大使館を怒らせようなんて「これっぽっちも思っていない」と言っております。

  • これははっきり言って大使館の勝ちじゃありませんかね。東京・警視庁のとなりに「3億円」という名前の喫茶店を開くようなもんだもんね。「捜査でお疲れの刑事さんのお休みどころ。ここで休めば必ず真犯人を逮捕できます」とか言ってさ。

Jones大集合企画

ウェールズあたりに行くとJonesという名前の人が多いと聞いたことがあります。で、Daily Postという地元紙が伝えるところによると、ウェールズ語の放送局が今年11月3日に首都カーディフにあるWales Millennium CentreというところにJonesというファミリーネームの人を1600人集めて「Jones Jones Jones」というバラエティ・イベントを企画しているのだとか。同性の人間集めの世界記録を作ろうってわけで、ギネスブックの担当者も出席するそうです。実はこれまでの同性大集合の世界記録はスウェーデンで達成されたNorbergという名前大集合で、583人集ったのだそうです。

  • なるほど、スウェーデンにおけるJonesはNorbergなんだ。で、日本の場合はというと、トップが佐藤(約200万人)で、以下、鈴木、高橋、田中、渡辺がベスト5なんだそうですね。詳しくはここに出ています。
5)むささびの鳴き声

■前回のむささびジャーナルで、アメリカ人の幸せ追求について書かせてもらいましたが、それについて面白いコメントを寄せてくれた人がいます。つまりアメリカとお隣のカナダの成立過程の違いについてです。それによると、カナダはフランス人と英国人によって発見・開拓されたけれど、アメリカと決定的に違うのは、カナダを作った英国・フランス人たちには「ヨーロッパ文化の栄光と、王政文化の素晴らしさを教え広める目的があった」。それに対してアメリカの場合「腐敗したヨーロッパから断絶した神の国を作ることが建国の理念とされた」ということです。「つまりカナダはヨーロッパとのつながりを求め、米国はヨーロッパからの断絶を追及したわけで、米国の州が英国からの独立を宣言し、カナダ諸州も一緒にやろうと呼びかけたとき、カナダ諸州は断ったわけです」とのこと。

■なるほど、アメリカ人はヨーロッパ以上に素晴しい「神の国」を作ろうとしたってことか。キリスト教そのものに反抗してヨーロッパを捨ててきたのではない。どころかメイフラワー号に乗ってきた建国者たちはもっと熱心なクリスチャンたちだった・・・。そこへアタマが行かなかった。ところで、現代カナダ人の対アメリカ観については過去のむささびジャーナルでちらっと書いたことがあります。

■最初にPRさせてもらったイングリッシュオークのその後についてですが、もし何かの折に皆様がオークに遭遇する機会がありましたら、写真をお送りください。全国200ヶ所以上だけに、皆様の故郷もあるかもしれないし、出張先かもしれない。何かの拍子に通り過ぎることがあるかもしれない。ヒマ人ならではのフォト企画です、よろしく。


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