We've got enough
pollution around here already without Harold coming over with
his fly open... peeing all over me.(ただでさえこの辺は汚れてるってのにさ、ハロルドのヤツがズボンの前も閉めずに来てさ、このオレにションベンでもかけようってか?)
和文の方は私の意訳でありますが、この言葉を吐いたのはアメリカのジョンソン大統領で、1965年のことなのだとか。で、ここでいうHaroldが誰なのかというと、Harold
Wilson英国首相です。ウィルソン首相のアメリカ公式訪問を前にジョンソンが側近に語った言葉なのだそうです。最近のThe
Spectatorに出ていたRod
Liddleという人のエッセイ(タイトルはSorry,
there is no special relationship)に書いてあります。ここで言うspecial
relationshipが英国とアメリカの関係にあることは言うまでもありません。
「英国人は、英米関係は特別だと思いたがっているし、アメリカの政治家はみんなそう言う。しかし実はそのような「特別な関係」はなく、英国側の幻想にすぎない」というのがエッセイのテーマとなっています。
ジョンソン大統領が冒頭に紹介したコメントを言ったとされる1965年と言えばベトナム戦争でにっちもさっちもいかなくなっていた頃のことですよね。ヨーロッパでは反米機運が高まっていたのですが、ベトナム戦争についての英国政府の姿勢は「直接かかわるのはごめんだ」というもので、とりあえず重要な同盟国なんだから「モラル上のサポートを与える(give
moral support to our major ally)」にとどまっていた。
当時の反米・反戦の機運を考えるとmoral
support(つまり殆ど口だけの支持)でさえも感謝してもらいたいというのが、英国政府の感覚であった。しかしジョンソン大統領が英国に期待したのは、「ちゃんとしたかかわり」(proper
commitment)、即ち軍隊を派遣するってことだった。だからこそ最初の「ションベン発言」に繋がった(とRod
Liddleは言っています)。1965年からさらに9年前の1956年にエジプトのスエズ運河を巡って英仏軍が攻撃するという事件があったのですが、その時にアメリカのダレス国務長官が国連で演説し「英仏の攻撃はとても支持できない」と発言した。
「要するにアメリカは常に自国の利益に即してプラグマチックな考え方で動いたのに対して、英国はというとモラル的に臆病であると同時に自国の利益にも反するような動きをしたのだ。英国は、まさにいわゆる"特別な関係"を維持することを目的として動いたのであるが、英米関係は"相互性のない関係"というのが実体なのだ」(
the US behaved
as it always does--with pragmatism and self-interest--and Britain
behaved with moral cowardice and against our self-interest, in order
to preserve that "special relationship". It is a relationship
entirely bereft of reciprocity.)ということなのだそうです。
Rod Liddleによると、ウィルソン首相はアメリカのベトナムからの撤退について何らの影響力を行使できなかったのと同様に、ブレア首相もまたイラク戦争が不必要であることで、ブッシュ大統領に対して影響力を振るうことが出来なかった、となる。つまり筆者はブレアさんが、当初はイラク戦争は不必要と考えていたと主張しているわけです。
次に1982年のフォークランド紛争。あのときも英国領土を違法に占領したアルゼンチンに対して強硬な姿勢を示したサッチャー政権であったが、アメリカはそれを支持するどころか、「紛争は外交交渉で解決するべきだ」と主張した。フォークランド紛争が終わったと思ったら、今度はアメリカが英連邦の一員であるグレナダに侵攻してサッチャー首相や女王にまでも不愉快(annoyance)な思いをさせた・・・。
Rod Liddleはまた、北アイルランド問題に対するアメリカの姿勢についても触れています。マギー(サッチャー首相)とロン(レーガン大統領)が、他に例を見ないような「特別な関係」にあったときでさえも、アメリカは渡米したIRAのテロリストを返還することをしなかった。どころかIRAによるテロ活動が続いている最中でも、IRA関連の組織がアメリカ国内で資金集めをすることを止めなかった、というわけであります。
「アメリカは、あくまでもプラグマティズムと自己利益、あるいはアメリカが道徳的に正しいと思う動機を基本にして動いているのであり、これはどの独立国家でもそうすべきことなのである(the
US acts precisely as any sovereign country should ? either out of
pragmatism and self-interest or what it believes to be the morally
compelling course of action)」ということで、「アメリカは英国の言うコトに半分程度の耳を傾けることはあるかもしれないが、結局は無視することになるだろう」というのが、Rod
Liddleの意見です。
最近、英国内行われた世論調査では「ブレア政府は余りにもアメリカ寄りすぎる」と考えている人が63%に上っているし、レバノン情勢については、イスラエルのヒズボラに対する攻撃は「度を越している」(disproportionate)と考える英国人が圧倒的に多いし、英国政府もそのように考えているようではある。しかしそれがアメリカの政策に影響を与える可能性はゼロだろう、ということで、Rod
Liddleのエッセイは次のような文章で終わっています。
「(英国とアメリカの間には)そもそも普通の人が考えるような意味での"特別な関係"などというものはないのである。我々英国人は余りにも長い間、自分を欺いてきたのである(There
is no such thing as a special relationship, in the terms which
most people might understand it. We have kidded ourselves for
too long)」
- このエッセイを読んでいて「英国人もそんなことを思っているのか?」と思ってしまいました。私の言う「そんなこと」には二つあって、一つは「特別な関係」などというものを少しでも信じているということであり、もう一つは、英国のインテリでさえもWe
have kidded ourselves for too longなどということを、今さら言うのかという驚きであります。尤もアメリカとの「特別な関係」にこだわる点では、日本はもっと凄いんじゃありませんか?
- イラク戦争が始まった時に、日本のメディアでは「アメリカにモノを言い、影響力を駆使する英国」ということで、ブレアさんのことを誉めそやす記事が非常に多かったと記憶しています。あれは事実であったのでしょうか?私、現在Cobra
IIという本を読んでおります。New York Timesの記者が書いたもので、ブッシュさんらがどのようにしてイラク戦争開始を決めていったかについてのドキュメンタリーなのですが、それを読む限りにおいては、英国の意見やアドバイスなんて全く話題にもなっていない、という感じです。ましてや日本なんて、小泉さんの名前も出てこない。
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