musasabi journal
発行:春海二郎・美耶子
第91号 2006年8月20日 

Back numbers

 

先日、プロ野球のナイターを観に行って驚いたのは、外野席は事実上の「私設応援団席」なんだってこと。日ハムと西武ライオンズの試合だったのですが、ちょっとした手違いで外野席のキップを買うハメになってしまった。球場に入って驚きました。外野席は全員立ちっ放しで応援するんです。つまり坐っていると試合を観ることができないってこと。疲れるぅ!!

目次

1)日本の未来は靖国から始まる
2) ジミー・カーターが警告する原理主義のアメリカ
3)再び「disproportionateとproportionate」を考える
4) プードルのジレンマ
5)アラブ系イスラエル人たちの悲哀
6)海外移住への拒否感が減った?
7) 短信
8)むささびの鳴き声

1)日本の未来は靖国から始まる


The Economist
の8月17日号が小泉さんの靖国参拝について社説で扱っています。記事のタイトルはDrawing Yasukuni's sting(靖国のトゲを抜く)で、リード(前文)はJapan must face up to the past, if it wants to lead in the future(日本は将来において指導的な役割を果たしたいと願うならば過去に直面しなければならない)となっています。私のこの訳ではうまく表現されていませんが、前文は「現在の日本にとってthe pastをしっかり考えることがthe futureを語ることになる」というこの社説の主張の全てを手短に表現しています。しかもたった15の単語と一つのカンマによって、です。コピーライティングのお手本のような文章なのでは?

The Economistは、小泉さん自身はごりごりの帝国主義者(diehard imperialist)ではないし、戦没者は日本の帝国主義自身の犠牲者であるという認識を持っている、と言っています。「彼はまた(戦争)犯罪人に敬意を払っているわけではないし、靖国にある博物館(遊就館のこと)とは何の関係もない」として、「日本のメディアはこのような点については何も言わないし、中国などはこの問題を国内の反日感情を煽ることに利用しているではないか」という小泉さんの行動を支持する人々の意見を紹介しています。で、同誌の主張のポイントの部分が次のように書かれています。

True, but hardly to the point. Mr Koizumi's feat is to have let a Communist dictatorship wrest the high ground from a pacifist democracy.(中国が靖国問題を利用して国内の反日感情を煽っているということは事実かもしれないが、問題はそんなことではない。小泉氏がやったことは、(中国という)共産主義独裁の国が、平和主義・民主主義の国よりも有利な立場に立つことを許してしまったということなのである)

小泉さんの靖国訪問によって、この地域における領土問題はより解決が困難になり、日本の国連安保常任理事国入りも不可能になった。要するに、日本が将来において「より普通の国」になること、つまり日本が国際舞台において、その強大な経済力に見合うだけの存在感を示すこと・・・という小泉さん自身のビジョンを自分でダメにしてしまっている、というわけです。

The Economistは次期首相と目される安部さんについて、折り紙つきのナショナリスト(has impeccable nationalist credentials)であり、小泉さんが作ってしまった「どうにならない状態(mess)」をもっとひどいものにするかもしれない、としながらも次のように指摘しています。

On the other hand, only a right-winger has the authority to draw Yasukuni's sting. And for the first time, polls suggest a majority of Japanese are against their leaders' shrine visits. (その一方で、右翼的な人間のみが靖国のトゲを抜く力を持っている。しかも最近の世論調査で大半の日本人が国の指導者が靖国を訪問することに反対するという結果が出ている)

The Economistの社説はさらに、靖国問題を「無用な衝突を避ける」という発想からのみ考えるのではなく、「安部氏は"日本の戦争責任"という、日本が長い間議論することを怠ってきた問題を国全体でやり始めるべきだ」として、「戦犯はなんらかのやり方で靖国から除去されなければならないだろう」(Somehow, the war criminals enshrined at Yasukuni will have to be removed)として、皇室関係者や中国の代表者でさえも参拝できるような無宗教の施設(secular institution)にしてしまうというのも一つのアイデアではあると言っています。

中国の中にも、中国の近代化やアジアの安定に日本が果たした役割を評価すべきだという声も出て来ており、「普通の国」になりたいという日本の欲求は軍事ではなく、よりソフト(benign)な影響力を駆使したいというものなのだ、としてThe Economistの社説は次のように結ばれています。

The trouble is that, with no consensus about the past, Japan's establishment is inept at articulating a better future. That future should start at Yasukuni.(問題は"過去"についての国内的なコンセンサスが存在していないという状況で、日本の体制側もよりよい未来像をはっきり描けないでいるということなのだ。しかしその"未来"が靖国から始まるべきであることは間違いない)

  • 小泉さんが8月15日の靖国参拝を終えた後、いつもの立ち話風記者会見で、「ブッシュ大統領が反対しても行きます。でもブッシュさんはそんなことは言いませんがね」というニュアンスのことを言っていました。確かにブッシュさんは中国や韓国の指導者のようなことは言わないかもしれない。ただその理由は、ブッシュが小泉さんの「心の自由」を認めるだけの「大人」だからではなくて、今のところ中東や国内テロに忙しくて、「靖国」などというアホらしいことににかまっていられないからですよね。ブッシュ本人はともかく、彼のアドバイザーと目されるような人々の頭の中はおよそこのThe Economistの意見とおなじなのではありませんかね。

2) ジミー・カーターが警告する原理主義のアメリカ

アメリカのジミー・カーター元大統領の『OUR ENDANGERED VALUES: AMERICA'S MORAL CRISIS』という本は、アメリカの現政権が「原理主義者」(fundamentalists)によって占領されており、そのことによってアメリカがこれまで大切にしてきた価値観(values)が危機に瀕していると訴えています。

カーターさんが強調している「危機」の一つに政教分離の原則があります。彼によると「政府と教会の完全な分離」(complete separation of church and state)こそはアメリカが最も大切にしてきた原理・原則の一つであるにもかかわらず、最近それがないがしろにされているというわけです。彼によると、政教分離の原則は聖書におけるキリストの教え(admonition)である「皇帝のものは皇帝に、神のものは神にまかせよ」(render to Caesar the things that are Caesar's and to God the things that are Gods')という言葉に代表される。「皇帝のもの」というのは政治のことであり「神のもの」が宗教・信仰のことを意味します。

カーターさんによると、アメリカ建国者の1人であるトマス・ジェファソンは、政治家として教会が政治に関与すると、人間の自由(human liberty)が奪われると考えたわけですが、教会の側から、最初にバプチスト教会を設立したとされるロジャー・ウィリアムズという人は「政府が教会に関与すると、教会が汚される」と考えた。このような理由から国教会(state church)なるものの存在がアメリカでは禁止されると同時に、宗教の自由を妨げるようないかなる法律も禁止されている。カーター氏は、アメリカ建国の原理・原則が原理主義者たちによって脅かされていると主張しています。

「米国のモラルの危機」(AMERICA'S MORAL CRISIS)などというと、保守派の道徳論のようにも響きますが、全く反対で、彼のいわゆる「アメリカの価値観」とは、自由・人権・寛容などに代表されるもので、それらがアメリカから無くなりつつあることへの警鐘本となっています。

カーターさん自身が、熱心なキリスト教徒であり、その意味においては「保守的」であるわけですが、その彼がブッシュ大統領を取り巻く「原理主義者」(fundamentalists)たちを批判するのは、彼らが何事もクロかシロかという単純な論理で切り捨て、自分たち以外の意見は全く聞こうとしないという態度についてです。

カーターさんによると、いわゆる原理主義者には次のような性格的共通項があるそうです。

@権威主義に凝り固まった男性が多い。
A現在よりも昔が良かったと思いたがるが、過去についても現代についても自分に都合よく解釈したりすること多い。
B自分たちこそが真の信仰者(true believers)であり、自分たちに反対する者はいずれも馬鹿者(ignorant)か悪者(evil)かのどちらかであると思い込んでいる。
C極めて怒りっぽく、何ごとも力で解決できると思い込んでいる。
Dものごとを交渉や協力によって解決しようとする態度を「弱さの表れ」と決めつける。

特に外国との関係で余りにも軍事力に頼りすぎるブッシュ政府のやり方の危険性を説いているのですが、その中で対北朝鮮政策についても書かれています。自分がクリントン大統領の代理として、北朝鮮の金日成主席に会いに行ったことが、細かく書かれているのですが、最近のブッシュ政権による北朝鮮敵視政策が北朝鮮内部の強硬派の台頭を許しているとしています。「米国・北朝鮮間の信頼関係に基づいた外交(good-faith diplomacy)が必要だ」とカーターさんは言っています。

またイラク戦争について「もしサダム・フセインが実際に大量破壊兵器を有していたとすると、アメリカの侵攻による被害は数十万人にのぼっており、その多くがアメリカ兵であったはずだ。にもかかわらずアメリカや英国の指導者たちがそのような事態を予想し、それに十分な備えをしていたという証拠はどこにもない」と言っています。

  • カーターさんのいう「政教分離の原則が崩れている」という現象は確かにあるようで、Kevin Phillipsという人のAmerican Theocracyという本によると、「宗教指導者が政府による政策決定に影響を与えるべきか」(Do you think religious leaders should try to influence government decisions?)という問いかけに対して「yes」と答えた人の割合の国際比較は次のようになっています。1位:アメリカ(37%)、2位:イタリア(30%)、3位:カナダ(25%)ときて、英国は9カ国中の7位で20%、フランスが一番低くて12%となっています。
  • 私の記憶によると、カーターさんは1970年代にイランでアメリカ大使館人質事件というのが起こった時の大統領だった。その時の対処の仕方が「優柔不断(inconsistent)」ということで大いに批判を浴びたはずで、その彼のあとにレーガンが大統領になったあたりから、強いアメリカが叫ばれ、それが大いに受ける時代になってしまった。英国ではサッチャーという「原理主義者」が首相になったし・・・。
  • 原理主義という言葉を単に宗教に限らずに考えるならば、「決めつけ」が流行っている現在の日本だって明らかに原理主義者が大手を振って歩いている状況ですよね。日本の場合の原理主義者のスローガンは「反中国」「嫌南北朝鮮」の二つ以外に「反アメリカ流資本主義」「反西欧合理主義」というのもあります。大体において「反・・・」という形をとりますね、この手の人たちは。
3)再びdisproportionateproportionateを考える


前回の「むささびの鳴き声」で、イスラエルとヒズボラの紛争に関連して、イスラエルの爆撃がdisproportionate(不釣合い)だという意見が多いと報告したところ、これを読んだ人から「英国のメディア〜文化は国際法(人道法)にある程度の知識があるためではないか」との指摘がありました。その人によると、日本人はこの点に対する思考が「弱すぎる」のだそうで、英国は「ほとんどの戦争を勝ち抜いてきたうえ、場合によっては、力の行使が不可欠と考える人が大半の社会」であるが故に「急迫性、不可避性、均衡性などが満たされれば『正当な防衛戦争』となる」のだそうです。

ところでLe Monde Diplomatique (LMD)のサイトを見ていたら、イスラエルとヒズボラの紛争に絡んだエッセイが出ており、Alain Greshという人が書いたもので、その中で国際法における「釣りあいの原則」(principle of proportionality)に触れられていました。筆者によると、ジュネーブ条約追加協定(1997年)なるものがあって、そこではいわゆる「不釣合い」(disproportionate)を次のように定義しているのだそうです。

An attack which may be expected to cause incidental loss of civilian life, injury to civilians, damage to civilian objects, or a combination thereof, which would be excessive in relation to the concrete and direct military advantage anticipated(民間人の生命の損失、障害、民間施設への損害あるいはこれらを組み合わせたものが予想でき、具体的かつ直接的な軍事上の利益との関連でみて過剰であると思われる攻撃)

要するに軍事的な領域を明らかに越えて行われた爆撃などのことをdisproportionateといっているわけです。筆者はこの点にこだわって次のように書いています。

Who could ever imagine that the stated objective, to rescue two soldiers, justifies the death and destruction caused by the Israeli bombardment? Is a Lebanese life is worth less than an Israeli life?(この爆撃の目的についてイスラエルは、二人の拉致兵士を救出することにあると謳っているが、それがイスラエルの爆撃で起こった死と破壊を正当化できると考える人間などいるだろうか?レバノン人の生命はイスラエル人の生命よりも価値が低いとでも言うのか?)

一方、Washington Postのコラムニスト、Charles Krauthammerはイスラエルの攻撃を擁護してproportionateの問題について次のように書いています。

When the United States was attacked at Pearl Harbor, it did not respond with a parallel "proportionate" attack on a Japanese naval base. It launched a four-year campaign that killed millions of Japanese, reduced Tokyo, Hiroshima and Nagasaki to cinders, and turned the Japanese home islands into rubble and ruin.(アメリカが真珠湾を攻撃されたとき、同じような規模の「釣りあいのとれた」攻撃を日本の海軍基地に対して行ったであろうか?アメリカは4年間にわたる軍事キャンペーンを繰り広げ、数百万人という日本人を殺し、東京・広島・長崎を灰塵とし、日本全土を廃墟にしたのだ。)

Disproportionate? No. When one is wantonly attacked by an aggressor, one has every right -- legal and moral -- to carry the fight until the aggressor is disarmed and so disabled that it cannot threaten one's security again. That's what it took with Japan.(一体これは不釣合いな攻撃であったのだろうか?そうではない。侵略者によって何の理由もなく攻撃された場合は、その侵略者が武装解除し、二度と自分たちの安全を脅かすことがないという状態にまで叩くということは、合法的かつ道徳的にも許された権利なのである。まさに日本には高くついたということなのである)

というわけで、Krauthammer氏によるとイスラエルによる爆撃は、アメリカが侵略者である日本を叩きのめしたと同様に、ヒズボラからの理不尽なテロ行為に対する当然の反撃であり、ヒズボラというテロ組織壊滅のためにproportionateな活動ということになるわけです。

  • ところで、むささびの鳴き声にコメントを寄せてくれた人によると、日本の国際法の専門家が「日本のマスコミは国際政治の専門家ばかりをあつかい、国際法の専門家の話を聞こうともしない」とぼやいていたのだそうです。その人によると、「英国ではかならず国際法の立場からみてどうかという報道が行われています」とのことで「自分たちで国際社会のルールをつくっていくのだという考えの国と国際社会のルールがこうなっているから、それにしたがっていく、と考える国の関心の違いでしょうか」と言っています。
  • 確かに日本のメディアに登場する、いわゆる「専門家」は、ことの良し悪しよりも、どちらの力が強いかということのみの分析ばかり行っており、彼らのいう「現実論」が「現状追認」と殆ど同じことになってしまっている。だからどの新聞を読んでも、どのテレビを見ても同じような報道ばかりになってしまう。
4) プードルのジレンマ


The Economistの8月5日号が「プードル犬のジレンマ(The poodle's dilemma)」という記事を掲載しています。この場合の「プードル犬」が対アメリカという立場のトニー・ブレアのことを言っていることはご存知のとおりです。記事のサブタイトルはTony Blair's view of Britain's role in the world has left him vulnerable at homeとなっています。つまり、英国が世界でどのような役割を演じるのかということについてのブレアさんの思考が国内では受けが悪いというニュアンスの記事になっています。

ブレア首相はこれまでイラク戦争においてブッシュ大統領のやることを支持してきており、それがゆえに国内の評判が悪いわけですが、最近もう一つ、イスラエルとレバノンの紛争についてもイスラエルを非難する言葉disproportionate(やりすぎ)とかceasefire(停戦)を使わないということ国内で批判されている。

何故ブレアは、そうまでしてアメリカと一緒に行動するのか?彼なりの理念としては次のような点が挙げられる。

Mr Blair believes Britain's best chance of shaping events in a world where America is the only power that counts is to stick close to her ally in public and attempt to exercise influence in private.(現在の世界ではアメリカが唯一の力を持った国であり、公にはその同盟国とくっついていて、プライベートな部分で影響力を発揮するというやり方が、世界を形作ろうとする英国にとって最善の機会を確保することにつながる・・・とブレア氏は信じている。

要するに表向きは「アメリカのいいなり」になっているようで、実は個人レベルにおいてブッシュ大統領に対する影響力を発揮している、というわけです。しかしブレアが相手にしなければならないのは、ブッシュだけではない。ラムズフェルド国防長官もいればチェイニー副大統領もいる。この3人を相手にするブレアさんは、彼の意向とは裏腹に、どう見ても「格下のパートナー」(junior partner)という印象を与えてしまう。

さらにイスラエルとヒズボラの紛争についていうと、ブレアさんは他のヨーロッパの政治家のように、ヒズボラのイスラエル攻撃を「地域紛争」という見方をせず、世界的な対テロの戦いという見方をする。その意味ではブッシュと同じであるわけです。ブレアによると、この戦争は「アメリカによるテロとの戦い」ではなく、「反動勢力に対する進歩勢力の戦い」という文明の衝突(a clash about civilisation)であるとのことです。

ただその種のブレアさんの考え方は国内的には受けが悪く、閣僚レベルの支持は「薄いかゼロか」(thin or non-existent)というのがThe Economistの見方で、かつて外相を務めていたジャック・ストローなどは、地元選挙民とのイスラム教徒との対話集会では、イスラエルのやりすぎを非難する演説をしているし、現外相のマーガレット・ベケットでさえも「ブレア路線を守ることがやりにくそうな発言をしている(she has sounded uncomfortable defending Mr Blair's line)」とのことであります。

ブレアさんはイラク戦争に関連して何かと非難される立場にあり、それには慣れてしまったわけですが、今やそれにイシラエル対レバノン(ヒズボラ)という紛争も加わってしまったわけで、ブレアさんの今後はこの新しい紛争がこれからどの程度続くのか、どのように血なまぐさいものになるのかにかかっている(his position depends on how long and bloodily it continues)というわけです。

  • この記事が出てから、イスラエルとヒズボラの間の戦争は一応停止しています。そのことにブレアさんがどの程度かかわったのかは報道されていませんが・・・。
  • Anthony Seldonという社会学者が書いたBLAIRという本によると、イラク戦争が始まる前、英国の参戦に懐疑的な閣僚を相手にブレアさんは次のように語ったそうです。"I tell you that we must stand close to America. If we don't, we will lose our influence to shape what they do"(アメリカの側に立たなければ、彼らの政策形成に我々なりの影響を与えることができないではないか)。
  • このようにブッシュのプードル犬になることで、英国は何を得たとブレアさんは考えているのか。そのあたりのことは分からない。おそらく、ブレアさんにしてみれば損得の問題ではなく、正義感のなせるわざであったということになるのではないでしょうかね。
5)アラブ系イスラエル人たちの悲哀


情けない白状をすると、私、イスラエルという国にはユダヤ人しかいないのだと思っておりました。違うんですね、これが。BBCのサイトによると、イスラエルには約100万の「アラブ系イスラエル人(Arab Israeli )」という人たちがいて、そのうち約75万人がイスラエル北部、つまりレバノンとの国境に近いところに住んでいる。ヒズボラが発射するロケット弾が飛んでくるエリアです。

イスラエルが現在の場所に国を作ってしまったのが1948年。その前はパレスチナ人たちが住んでいたのですが、ユダヤ人が入ってきたために多くが土地を捨ててアラブ諸国に散らばった。しかし中にはそこを離れずにいたパレスチナ人たちもいて、その多くがイスラエル国民として北部に住むようになった。

BBCによると、これまでにイスラエル領内でヒズボラの攻撃で死亡した民間人39人(8月10日現在)のうち15人がArab Israeliなのだそうですが、にもかかわらずこの人たち大多数が、現在のイスラエルとヒズボラの戦闘については非はイスラエルの側にあると考えているとされています。彼らを代表する政党であるBalad 党の党首は「我々とレバノン人の間の分断は人工的に押し付けられたものだ。レバノン人も我々も同じアラブ人だ。同じように笑い、同じような同じ食べ物を食べている」(The division between us and the Lebanese is artificial. They are Arabs, they look like us, laugh like us, and eat the same food)と言っています。

現在の状況下ではユダヤ系イスラエル人からの風当たりは極めて強く、Balad 党の議員には暗殺の脅迫状まで届いているのだとか。Balad 党の党首は、この戦いの後はさらに風当たりが強くなるだろうと予想して、次のような悲しいコメントをしています。

We will have to pick up the bill on this. If they lose they will turn against us, if they win they will turn against us.(つけを払わされるのは我々だ。彼ら(ユダヤ人)が負ければ我々を迫害するだろうし、勝てば勝ったでやはり迫害するだろう)

アラブ系イスラエル人の1人は、BBCの取材に対して「この戦闘で明らかになったことは、我々とユダヤ人が共存するという幻想が吹き飛んだということです」(there is no illusion of co-existence any more)と語っています。

  • 昨年の国連による統計ではイスラエルの人口は約670万です。そのうちの100万ということは、アラブ系イスラエル人はかなりの割合を占めているわけですね。イスラエルという国の成立やパレスチナ問題の発生については、英国という国が大いにかかわっているわけですが、このあたりのことについては、例のWikipediaオンライン百科事典に出ています。
6)海外移住への拒否感が減った?


BBCが最近行った調査によると、外国で暮らしたいと考えている英国人の数が増えているんだそうですね。13%の人が「近い将来」(in the near future)海外へ移住したい(単なる海外旅行ではなく)と考えているのですが、これは2003年の行われた同じ調査の7%に比べると倍増ということを意味します。「海外移住を考えたことがある」という人も54%で半数を超えている。オフィシャルな数字によると、2004年の1年間で、海外へ移住した英国人は359,000人で、前年比30%以上の増加であると同時に最高記録だったそうです。

海外で暮らしたい理由は何かというと、一番多いのが「生活の質」(quality of life)の37%がトップで、次に「いい気候」(good weather)の32%が第2位となっている。「英国は物価が高い」という人もかなり(24%)いるんですね。またBBCの調査では18〜25歳の若い層が特に移住に前向きで、殆ど25%の人が移住に前向きであるそうです。 で移住希望先は次のようになっています。

Australia: 40%
Spain: 31%
Canada: 31%
New Zealand: 22%
United States: 21%
France: 18%

この調査結果について、移民についての研究をやっている公共政策研究所(Institute for Public Policy Research)のDanny Sriskandarajahという専門家は「20〜30年前に比べると、海外移住についての英国人の意識が変化している」と言っています。昔(例えば約20年前のサッチャー時代)は失業なども絡んで、英国に住むのがイヤになったから移住するというケースが多かったのに、現在の英国人は「移動すること」(mobility)「生活を自ら選択すること」 (choice)を楽しむ余裕ができたのだ、というわけです。ただ移住希望の理由としてDon't like UK(英国がイヤだから)という人も12%はいるんですが。

Sriskandarajah氏はさらに、海外旅行が安くできるようになったこと、メールなど通信手段が飛躍的に進歩したことなども、英国人が気楽に海外移住を考えるようになった理由として挙げています。昔はひとたび移住すると、なかなか英国へ帰ってきたりすることも出来なかったのに、今ではその辺りの不安感が無くなったということです。

Danny Sriskandarajahの調査によると、海外へ移住した英国人が英国政府から受け取っている年金は約20億ポンドと推定されるのですが、移住による拡散という意味では、英国は世界でも最も盛んな国なのだそうで、移住希望者の増加がもたらす経済的な意味を考えて、どのような政策を作るのかを考えるべきだ、と言っています。

「外国から英国へ入ってくる移民問題は、大きな話題になるが、出て行くほうの移住についてはそれほど注目を浴びていない。これから若い人や技術を持った人、それに退職者も海外へ移住する人が増えることが英国にとって何を意味するのか考える必要がある」("We need to understand more about what will happen as more young people head off on overseas adventures, more skilled people are lured away by other countries, and more pensioners retire to all corners of the map.)

公共政策研究所では現在、外務省からの委託で、海外で暮らす英国人を対象にしたアンケート調査を実施しており、今年1年かけて、彼らの生活意識の調査を行うのだそうです。ところで、海外移住をしたくないという英国人も沢山いるわけ(当り前!)ですが、その理由は次のようになっています。

家庭の事情:43%
英国が好き:21%
経済的な理由:11%
年齢:11%
仕事が見つからない:10%

7)短信


刑務所侵入罪

オーストリアでのハナシですが、強盗の罪で2年間、刑務所暮らしをした男(23歳)が、無事出所後すぐに再逮捕された。それも2年間暮らした刑務所に忍び込もうとして屋根の上でうろうろしているところを見つかったもの・・・何だかよく分からないハナシですが、この男、2年間の刑務所生活が大いに気に入ってしまったらしい。「食事・洗濯はもちろんテレビを見ることもできる。外の暮らしよりはるかに快適」というわけで、看守に気付かれないようにかつての同僚たちの間に紛れ込もうとして見つかってしまった。捕まえた警官はそんなこと知らないから、てっきり刑務所破り(break out)だと思ったら刑務所侵入(break in)の方だったというわけ。

  • オーストリアの刑務所では洗濯までしてくれるのでしょうか?

Geordie絶滅の危機?

イングランド北東部で使われる英語ナマリのことをGeordieというらしいですね。場所でいうとDurhamとかNorthumberlandのような郡(county)やNewcastle upon Tyneのような大都会もある。この地方の公務員が女性に対してGeordie風に呼びかけることを禁止されて問題になっています。女性に対する"Geordie風の呼びかけ"とは、hinny, love, darling, sweetheartなどがあり、例えばGood morning, love!とかHow are you today, sweetheart?などがアウトというわけ。女性蔑視にあたるというのが理由らしく、女性に呼びかけるときはフルネームでやれというのが命令なのだとか。これに対して「怖ろしくて誰にも話しかけないようにしている」とコメントする人もいるようです。

  • 女性の同僚に「おねえさん」とか「おかあさん」「おばさん」など呼びかけるの同じってことですね。これは確かにキツイ。癖になっているってこともあるし・・・。カンベンしてあげてもよろしいんでは、honey?!ついでに男への呼びかけでは、palとかmateなんてのがあったっけ。

教会内にATMを

イングランドの片田舎の代名詞みたいなLincolnというところにある教会の牧師が「教会内に現金払戻し機(ATM)を設置すべきだ」と提案して話題になっています。イングランドでも僻地へ行くと銀行や郵便局のないところが多く、住民は遠く離れた町の銀行まで行かないと現金を入手できないことがある。そのためのお金はバカにならないというわけで、住民サービスの一環として教会内にATMを設置しようと言う提案になったわけ。教会関係者の間ではこれを支持する意見が強いらしいですね。英国国教会では「それぞれの教区の構成員の許可が必要だ」としていますが・・・。

  • 日本の郵政民営化についても同じように考えればいいんですね。日本中のお寺や神社に郵便局の役割を果たしてもらうとか。
8)むささびの鳴き声

●靖国神社の問題で、私自身認めたいと思うのは、小泉さんという人が国民的な議論を喚起するという意味では日本には珍しい(いい意味で言っている)首相だったのではないかってことです。小泉さんの靖国参拝を批判するのに「中国や韓国との関係に害になる」とか「昭和天皇も嫌がっていた」ということを持ち出すのはやはりおかしい(と私などは思います)。外国に言われて実施したり中止したりするのがおかしいと言うのは小泉さんの言うとおりだし、昭和天皇が何を思ってもそれは小泉さんの心の問題とは無関係というのも実に正しい。

●小泉以前(以外)の首相なら、参拝は止めたかもしれない。その方が「波風が立たない」から。これまでの日本では波風を立たせないことが「大人」であり「いいこと」とされてきた。その意味で、小泉さんは「子供」であると言える。しかし「波風を立たせない」ということが「議論をしない・したがらない」というのと同じことであるという例を、余りにも多く見てきたと思いませんか?安倍さんはというと、参拝については「個人的な問題だから参拝したともしないとも言わない」などと言っています。要するに議論そのものを拒否しているわけです。

●この問題に限らず、小泉さんがいろいろな部分で議論を喚起したということは、いいことだと私は思います。が、小泉さんがあえて波風を立たせてまでも自分の「信念」を貫いたということを理由に、彼を褒める気には全くならない。彼の「信念」の中身(戦犯も含めて戦争で死んだ兵士を敬うということ)が問題だからです。何でもかんでも信念を貫けばいいってものではない。その信念の中身が間違っていることだってあるんだから。

●小泉さんが8月15日に靖国に参拝した約1週間前の8月7日の日本経済新聞の「核心」というコラムに田勢康弘さんという人が「国内問題としての靖国」というエッセイを書いています。田勢さんによると、現在の日本はナショナリズムが台頭して「物言えば唇寒し」の社会風潮が強いのだそうです。おそらく「もの言えば唇寒し」の社会風潮とは、メディアの世界のことを言っているのではないかと思います。数ある業界の中でもメディアこそが「ものを言う」ことで成り立っている最大の分野なのですから。

●その意味からして、「天皇メモ」のトクダネ記事の後に日経新聞に火炎瓶を投げたという人物、それから加藤議員の家に放火した犯人・・・この件についてのマスメディアによる追求はちゃんとやってもらいたいですよね。

●暑い中を今回もお付き合いをいただき有難うございました。

 

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