9月11日(月)はあの「9・11」から5周年というわけで、いろいろなメディアでこれを振り返る企画が掲載されたり、報道されたりしましたね。英国のThe
Independent紙が掲載した『2031年の世界(the
world in 2031)』もその一つで、あの9・11から30年後の2031年に世界がどのような状況になっているのかを3人の歴史家が予想しています。これを全部紹介するのは、私の力ではちょっときついので、ここでは米エール大学のポール・ケネディ教授の予想だけを、しかも極めて短くまとめて紹介してみます。この人は、確か20年ほど前に『大国の興亡(the
Rise and Fall of Great Powers)』という本がベストセラーになった人です。
ケネディ教授がまず予測しているのは、これからも中東の石油を巡る西側諸国による軍事行動があって、2008年と2012年の間に欧州、米国それから日本でテロリストによる攻撃があるということです。何故この時期なのかについては書かれていないのがタマにキズですが・・・。
で、30年後の世界については現在とそれほど劇的には変わっていないというのが教授の意見で、2001年の時点で「あのテロが世界を変えた」というほどの変化はないということです。ただアメリカは、経済・軍事・科学技術のいずれをとっても世界一の力を持っていますが、現在より少しは他国や国際機関と協調するようになっているだろうとのこと。これは財政赤字がひどいし、ほぼ10年におよぶアフガニスタンやイラクでの戦争のお陰で軍事力の面でも限界を感じるようになったということです。
アジアは明らかに中国とインドが世界的な大国として責任を負う立場になっているのですが、そこまで行くのに両国とも国内的にかなりの混乱を経験しています。さらにロシアが世界の4番目の大国として力を発揮するようになっているのだそうです。ヨーロッパはjust
fine(まあまあ)という状態で、自己中心的な進歩を続けるアメリカや15年計画の経済発展を続けるアジア諸国に対する「快適な批判勢力」(comfortable
antidote)であることを楽しんでいるだろうとのことであります。アフリカは内戦だの大量殺戮だのという苦難の30年を耐えて、ケニア、ボツワナ、モロッコなどの国々はかつてよりは強くなっている。
教授がかなり悲観的な予想をしているのは中東です。2009年から2012年の間にエジプト、サウジアラビア、シリアの3国でほぼ同時に体制崩壊が起こり、イラクの内戦は悪化し、イラン内部で指導層の世代間闘争が起こる。しかし何といっても怖ろしいことに、イランがイスラエルのテルアビブを核攻撃して壊滅状態にする。それに対抗してイスラエルがイランに核で反撃、イランで1000万人の死者が出る。が、イランは大いに弱体化はしても消滅するわけではない。
このような事態に直面して怖ろしくなった大国(Great Powers)は様々な部分で妥協をはかり、国連の平和維持活動を強化し、核戦争後の処理にあたる。で、アメリカはどうするのかというと、興奮はするけれど、同時にこの泥沼に踏み込むことの恐怖をも感じてしまう。「たかだかテルアビブが消滅したからと言ってイランを核攻撃するとは何ごとだ」(who
exactly did you "nuke" just because Tel Aviv had disappeared?)と、イスラエルを批難する始末です。ヨーロッパは茫然自失、ロシアは沈黙。繁栄するアジアはというと、そのような愚かな宗教とイデオロギーの戦争など、あちらの出来事で、係わり合いにはならない。壊滅的な打撃を受けたイスラエルはアメリカによって保護されてはいるものの将来は非常に不透明というわけです。
ケネディ教授によると、9・11の30年後の中東は、アラブ諸国で穏健派の指導者が出てくるかもしてないが相変わらず不安定ではある。ただ一つだけ言えるのはテロ組織のアルカイーダが「遠い過去の想い出」(distant
memory)となっているだろうとのことです。教授によると、アルカイーダは中国西部のイスラム教徒に対する中国による「防衛対策」(security
measures)に抗議して、2010年に上海で、2012年には北京で、それぞれ爆弾テロを実行して、自滅の道をたどるのだそうです。
アメリカと中国が対テロ戦争に共闘し、ロシアもヨーロッパもこれを支持し、世界中の国で自国内のテロリスト壊滅作戦が行われる・・・このような状況を経て、アルカイーダは「遠い過去の思い出」になるというわけです。というわけで、ケネディ教授の結論は次のとおりであります。
さて、(ニューヨークの)ツインタワービルが倒壊してから30年、我々はどうなっているのか?年をとっているだけに、おそらく多少は賢くなっているだろう。地球全体としては必ずしも幸せであったわけではない。特に多くのアフリカ諸国や中東にとってはそうだ。しかし、2031年のいまの我々は、2001年当時に学者たちが予測したよりは、はるかに恵まれた状況にいることは間違いない。そのこと自体は一応喜んでいいだろう。ただ大した喜びでないことも事実である。
So, where are
we, 30 years after the twin towers came down? Older, certainly;
perhaps a bit wiser. It has not been a happy planet, especially
in much of Africa and the Middle East. But, in truth, we are in
2031 a lot better off than most of the pundits of 2001 thought
we might be. That itself is cause for some rejoicing. But not
much.
ケネディ教授の予測の中には北朝鮮が出てきません。教授の最近の著書には'The Parliament of Man: The United
Nations and the Quest for World Government'という本があるそうです。
- 『大国の興亡』は日本では大変なブームを呼びましたね。『大国の興亡』は世界史のうえで、それぞれの時代に栄えたgreat
powers(大国)が衰退するのは、大体において軍事に自らの富の大きな部分を費やすことが原因であるということが、メッセージだったと記憶しています。The
Independentの記事の中で教授は、30年後もアメリカは栄えているように予測しているようです。
|