Daily Telegraphという新聞の9月12日号の投書欄に「現代の生活は子供たちをより憂鬱にさせている」(Modern
life leads to more depression among children)という見出しの投書が掲載された。投書したのはRoyal
Society(日本で言うと学術会議か)のSusan
Greenfield理事長のような人を含めた約100人の知識人、それも英国を代表する知識人のグループです。
その投書によると、いまの英国において、depression(憂鬱症)が原因の子供の事件・事故が増えているのだそうで、投書者によると、それは主として一般人や政治家の間における、子供の発育についての理解不足が原因なのだそうです。「子供の脳は発展過程にあるものだ」として次のように書いています。
子供の脳というものは発展途上にあるものなのであり、これまでにない速さで進む技術・文化の変化がもたらす影響に対して、成人のようにはついていけない部分がある。
Since children's brains
are still developing, they cannot adjust ? as full-grown adults
can ? to the effects of ever more rapid technological and cultural
change.
子供たちには、人間が進歩・発展するなかで常に必要としてきたものが必要である。例えば本当の食べ物(ジャンクフードではない)、本当の遊び(テレビゲームのような刺激的なものではない)、世界を実体験すること、彼らにとって大切な実物の大人との日頃からの接触などがそれである。
They still need what
developing human beings have always needed, including real food
(as opposed to processed "junk"), real play (as opposed
to sedentary, screen-based entertainment), first-hand experience
of the world they live in and regular interaction with the real-life
significant adults in their lives.
投書者たちは現代の子供たちが余りにも早期に競争文化にさらされる中で、「試験の点だけを重視する初等教育カリキュラム」(overly
academic test-driven primary curriculum)を生き延びることば要求されており、子供たちが「市場原理」(market
forces)によって押しまくられ、電子メディアの発達によって、以前では子供たちには不向きと思われていたようなものにまでさらされている、と嘆いています。
そしてそのような状況の結果として、子供の虐待、自虐行為、他人への暴力などが増加しており、それはもやは受容可能の範囲を超えている、と警告し、最初のステップとして「21世紀の子育て」(child-rearing
in the 21st century)について、両親や政治家が子供の福祉向上のためにディスカッションを始めるべきであるとしています。
******子供が増えれば問題も少なくなる******
上記のアピールについて、同じDaily TelegraphでCharles Mooreという人が、やや批判的なエッセイを書いています。題してMore
children, less fuss(子供が増えれば問題も少なくなる)というわけで、現代の英国において子供たちが置かれた状況を、進行する少子化と関連して述べています。
まずは統計から、ということで、筆者が生まれた1960ー65年のベビーブームの時期の英国では、1年に約100万人の子供が生まれていたのに、今ではこれが70万人に減っている。つまり統計的には、昔の子供一人が10人の「同世代」に囲まれて育っていたとすると、今ではこれが7人である。同世代が少ないということが子供の成長に与える影響は大きい。
子供の数が少ないということは、子供たちが両親に対してより大きな義務(obligation)を負っているということでもある。また昔に比べると、いまの子供たちははるかに少人数の家庭で育っていることになる。統計によると、1972年の時点で3人以上の子持ち家庭は、全世帯の41%であったのが、現在はこれが23%にまで落ちている。71年と現在を比べると、16才以下の子供が260万人少なく、75才以上の高齢者の数は2倍にまで増えている。
子供の数が減っていることはいろいろな部分で社会的な影響を生んでいるけれど、筆者によると、その一つが、子供というものについての知識が殆ど皆無という大人の数が増えているということで、これが虐待を生んでいるという側面もあるというわけです。
筆者はさらに、昔に比べると非常に増えている一人っ子(only child)について、「一人っ子は世の中を、よりシリアスかつ緊張感を以て見る傾向があり、それが多くの場合、創造力を育むこともあるが、孤立感や憂鬱症を生むこともある」(only
children tend to view the world more seriously and intensely. This
may foster creativity in many, but it also fosters isolation, and
probably depression as well)と述べています。
筆者のようにベビーブーム時代に育った人間にとって、世界は常に自分たちのために拡張(expanding)するものだと思って育ってきたが、少子化時代の子供たちは収縮(contracting)する世界に育っているとして、40年前の出生率2・8%の世界が「生命に支配された文化」(culture
dominated by life)であったのに対して、現代はむしろ「死に支配された文化」(culture dominated
by death)の時代であるというわけです。
このエッセイでCharles Mooreがイチバン言いたかった(と私が推測する)のは次のことなのではないか。
今日の小市民的社会における共通の問題は、一人一人の子供について余りにも心配しすぎる親なのではないか。試験の結果についてとやかく気をもんだり、子供にものを与えすぎたり、女性の労働についての苦労話、それに「安全」ということへのこだわり・・・こうした現象の背後にあるのは、失敗することへの恐怖、失うことへの恐怖なのである。
But the more common
problem in our bourgeois society is the parent who feels too much
anxiety about each child, not too little. Behind all the fussing
about exam results, the provision of often absurdly large numbers
of consumer goods, the agonising about women working, and the
increasing obsession with safety is a fear of failure and of loss.
筆者によると、昔は子供というものは「いて当たり前」であったのに、今では明朝時代の壺のように「貴重品」扱いされている。You
love someone to bits(誰かを徹底的に愛する)という表現が最近では流行っているそうなのですが、Charles
MooreはIs that a good way to love anyone, particularly a child?(そのような愛し方は、特に子供について、本当に望ましい愛し方であろうか?)と結んでいます。
- 2000年の時点での合計特殊出生率は英国が1・64、日本は1・36だそうです。知識人のアピールといい、この記事といい、どの国でも似たような問題に悩んでいるのだということを感じますね。
- 親が心配しすぎることに問題がある・・・という、この筆者の主張には私も大いに共感しますね。どう考えても子供の面倒を見すぎますよね。だから最近、本当にひとりでポツンとしている子供を見なくなった。非常に良くないことです。子供の野球をリトルリーグとか言って親が「手伝い」に行っているのを見かけるけれど、手始めにあれを止めましょう。
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