当り前ですが、英国にもいわゆる「貧困層」と呼ばれる人たちはいます。貧困ということでは、どちらかというと、黒人やイスラム移民などが注目されがちですが、実は白人貧困層の方が状態が厳しい、ということを10月26日付けの「忘れられた下流階級:プア・ホワイト」(Poor
whites:The forgotten underclass)というThe Economistの記事が伝えています。
そもそも「貧困」なる言葉の定義にもいろいろありますが、The Economistの記事は「無料の学校給食サービスを受けている子供」のいる家庭ということを挙げています。別のサイトによると、このサービスを受けられるのは、年収14,155ポンド(約300万円)以下の家庭の子供たちとなっているのですが、こと学業成績に関する限り、このクラスの家庭の子供の場合、全国的な学力標準テスト(GCSE)の成績を見ると、白人家庭の子供たちが他の人種の貧困家庭の子供よりも劣るという結果が出ている。The
Economistが特に取りあげているのは、イースト・ロンドンにあるBarking and Dagenhamという地区の子供たちで、GCSE5科目で「良い」(good)の成績を収めた生徒は、白人社会では32%しかいないのに、黒人の場合は39%、アジア系の子供になると52%にものぼる。
これについてブリストル大学が全国の貧困家庭の子弟数万人を対象に調査をしたところ、7才の時点では白人と黒人の子供たちにはそれほどの差はなく、英語が分からないが分からない子供が多い、パキスタンやバングラデッシュの子供たちよりは成績が良いという結果になっていたのだそうです。で、これが14才になると、白人の子供が黒人の子供を追い抜き、アジア系よりも成績が良いという結果が出ている。しかし、全国試験で将来の進路が決まる16才になると、何故か白人の子供たちの成績が一番悪くなるのだそうです。このあたりになると、もともと成績がいい中国系、インド系の貧困家庭の子供たちの成績は劇的に伸びるらしい。
何故、白人の子供の場合、14才では悪くないのに16才でガタンと落ちるのか?それは彼らの親たちが教育の意義や価値を余り認めていないということにある。何故そうなのか?子供たちの大半が16才を過ぎて社会に出ても、教育を必要とするような職に就かないということらしい。1950年代にここで子供時代を過ごしたある大人は「学校でやっていることと、大人になってからやることの間に関係などないと思っていた」(We
didn't believe there was any connection between our school work
and what we would do as adults)と言っている。一生懸命勉強して資格をとったり技能を身につけたりしなくても地元の工場に仕事を見つければよかった、という時代であったということです。
つまり白人の若者の場合は、非白人の子供たちに比べれば、さしたる資格や技能なしで世の中に出ても、そこそこ仕事にありつくことが出来るということです。16才(義務教育の最終年齢)を過ぎたら学校へは行かないという若者は白人の方が多いそうなのです。黒人やアジア系の子供たちには、資格をとってまともな仕事にありつこうとする上昇志向があるというわけです。
技術を持たない白人の若者の就職先はブルーカラーの工場労働が多い。2001年の調査によると、英国における全労働人口の89%が白人男性で占められており、その93%が製造業で働いているのですが、英国では(日本も同じですが)製造業は落ち目傾向がずっと続いている。英国における男性労働者(白人であれ非白人であれ)で製造業に従事しているのはわずか18%。20年前には30%もあった。Dagenhamにあるフォードの自動車工場はその典型で、1970年初めには3万人の労働者が働いていたのに、今では4000人しか雇われていない。しかも同社のこれからのリクルート方針として、GCSEのテストの英語、数学、自然科学の3科目で「良」の成績を収めた者だけを採用しようということになっている。
白人とは対照的に移民とその子弟の就職先は主としてサービス産業か公共部門となっており、パキスタン系を例外として、殆どが職場と住んでいるところが同じ。サービス業や公共部門(お役所など)の職場一番多いのはロンドンですが、2001年の国勢調査によると、インド系の42%、バングラデッシュ系の55%、アフリカ系黒人の79%がロンドンに住んでいるという結果が出ている。多くの移民の一世は余りいい職に恵まれないかもしれないけれど、彼らにしても本国にいたときは中流階級だった人たちが多いので、いずれも教育には極めて熱心で、教育をしっかり受けさせて、英国でも中流階級になろうという意思が強い。
移民たちは英国社会に溶け込もうと懸命に努力して、英国の経済体制に浸透し、ついには完全に溶け込んでしまうという生活を辿っているけれど、白人労働階級のエリアで暮らす貧困白人から見ると、その移民たちも新しい金持ち階級に見えるわけで、The
Economistの記事は、そのような地域の地方議員のAsians
seem to be the new middle class(アジア系が新しい中流階級のようだ)というコメントを紹介しています。
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