来年(2007年)はスコットランドとイングランドの間でTreaty of Union(連合条約)という条約が締結されてから300年にあたるということで、いろいろと行事が予定されています。ご存知のとおり、英国という国はイングランド、スコットランド、ウェールズという三つの「王国」(Kingdom)が合同したGreat
Britainと北アイルランドから成っているわけですが、1707年にイングランドとスコットランドが一緒になって「連合」を作った。
来年の300周年には、例えば記念2ポンド貨幣が発行されるとか。5月1日にはスコットランドの首都、エジンバラで花火大会なども開かれるそうですが、実はその式典の2日後にスコットランド議会の選挙が行われることになっており、その結果如何では、将来スコットランドの「英国」(United
Kingdom)からの独立への道を開くものになるかもしれない、とThe Economistの政治コラムBagehotが伝えています。
ご存知のとおり、1999年にブレア政府による「地方分権」(devolution)政策の一環として、ロンドンの国会とは別に、スコットランドとウェールズには独自の議会が誕生し、かなりの権限が与えられています。外交、軍事、財政・金融、移民の規制のように、全国的に取り組む必要がある事柄についてはロンドンの国会が立法権限を有していますが、農業、漁業、林業、環境、社会福祉などに関連した事柄についてはスコットランド議会が権限を有しています。
スコットランド議会の定数は129議席。最大政党の労働党が50議席、国民党(SNP)が27議席、保守党18議席、自民党17議席、緑の党7議席、社会党6議席、その他4議席となっていて、労働党は自民党と連立を組んで政権を保ってきています。首相(First
Ministerと呼ばれる)が労働党から、副首相が自民党から出ている。
スコットランド独立が取りざたされる背景の一つに、第二党であるSNPの人気が高まっていることが挙げられています。スコットランドの有力紙、the
Scotsmanの最近の世論調査によると、SNPが労働党を5ポイント上回っており、そうなると来年の選挙の結果次第でSNPのAlex
Salmond党首が首相になることになる。The Economistによるとスコットランドでは保守党は余り人気がなく、労働・自民連立政権に対する不満票がSNPに流れてしまうのだそうです。
SNPが受けているもう一つの要因として北海油田からの石油がある、とThe Economistは言っています。SNPはこれまで英国領の北海油田で生産される石油の90%はスコットランドのものであると主張しており、Salmond党首などは「スコットランドにとっての選択肢は、スコットランドのものである石油収入をロンドンに流すのか、スコットランド国民のための投資に使うのかにある」(The
choice for Scotland is clear--those revenues either flow south to
London or they can be invested for the people of Scotland)などと言ったりしている。
Salmond党首はSNPが第一党になったら、100日以内にスコットランド独立を問う国民投票の実施時期を決めるための法案を発表するとも言っている。実際にSNPが第一党になるのかどうかは分からないにしても、これまで労働党が主導権を握っていたスコットランド政治にとっては昨今のSNP人気はショックであり、スコットランド独立の可能性も、かつてほどには考えられないものではなくなっているというわけです。最近の世論調査でも独立に賛成するスコットランド人は52%、反対は35%という結果も出ている。
スコットランドの独立が以前よりも真実味を持って語られるのには、別の理由もある。即ちイングランドの中にも反スコットランド意識のようなものが出てきているということです。例えばロンドンの国会にはスコットランド選出の議員がいるのですが、彼らは保健、教育のような事柄についても投票をする権利が与えられている。しかしこれらはスコットランド議会の権限事項でもあるわけで、ロンドン議会での立法は実際にはイングランドに関連するものしかない。スコットランド選出の議員は関係がないのだから投票権も与えられるべきでないという声が高い。
それだけではない。スコットランドのGDPの半分以上を占めるといわれる公共部門へのお金のかなりの部分がロンドンの中央政府から出ている。国民一人あたりに対する公共支出の額がイングランドよりスコットランドの方が1500ポンドも高い。お陰でスコットランドでは大学の授業料はタダだし、老人に対しても寛大なケアが行われている。これらはイングランドにはない。イングランドの人たちにしてみれば面白くないわけで、ある調査ではほぼ60%のイングランド人が、スコットランドが「わが道を行く」(going
its own way)を望んでいるという結果が出ている。
来年の選挙でSNPの首相が誕生すると決まったわけではないし、そうなったからと言って独立と決まったわけではないけれど、労働党が強いスコットランドが独立することは、英国の労働党にとっても痛手で、現在ロンドンの議会にあてはめると、41人のスコットランド選出の労働党議員がいなくなるのだそうです。最近スコットランドのObanという町で行われたスコットランド労働党大会に出席したブレア首相やブラウン蔵相が演説の中で、スコットランドが独立するとイングランドからのお金が来なくなるというような脅し文句めいたことを言ったのだそうで、スコットランド人の反感を買う一方で、イングランドの人たちに対しては、労働党は自分の勢力を保ちたさにスコットランドにお金を与えているという印象を与えてしまっている、とThe
Economistは言っています。
- 日本の百貨店などで英国商品の販売フェアがあったりすると、殆ど定番商品なのが紅茶などと並んでスコッチ・ウィスキー。イベントはというと大体においてバグパイプの演奏だったりする。スコットランドとイングランドが別の国になったりするとタイヘンかもしれない。
- The Economistによると、スコットランド人はイングランドのサッカーチームが外国とプレーをしてもイングランドを応援しないのだそうで、これもイングランド人にとっては面白くないらしい。でも、それは仕方ないんでない!?ワールドカップだって、イングランドとスコットランドは別の国として扱われているんだからさ。
|