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 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
516号 2022/12/4

昔から日本語では「犬猿の間柄」というけれど、英語でも同じなのだろうか?と思って "dog/monkey relations", "monkey and dog fight" などと「検索」してみたけれど何も出てきませんでした。人間の世界ではあまりいいことがなかった2022年も終わりですね。

目次
1)スライドショー:雲を愛でる
2)「良き市民」とは?
3)ダブリン宣言の意味
4)再掲載:今こそ「世界政府」を語るとき
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句

1)スライドショー:雲を愛でる

 

世界中の雲の愛好家が集まっている Cloud Appreciation Society という組織については、むささびのスライドショーでも何度か紹介しました。"appreciate" は「愛でる」 とか「有難いと思う」という意味の動詞で "Appreciation" はその名詞形です。この組織のサイトを見ると、最初の部分で「宣言」(Manifesto)として次のような文章が載っています。
  • 我々は雲というものが不当に扱われていると思っているし、この世に雲という存在がなければ、我々の生活は計り知れないほど惨めなものになっているはずだと信じている。WE BELIEVE that clouds are unjustly maligned and that life would be immeasurably poorer without them.
宣言はさらに「我々はこの世に存在する青空思考(blue-sky thinking)とは断固として戦う所存である」とも誓っている。いつ見上げても、あるのは一点の雲もない退屈な青空ばかり(cloudless monotony)という人生などとても我慢が出来ない…と。分かります、それ! というわけで、再びそちら様の写真を拝借することにしたわけです。

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2)「良き市民」とは?


アメリカの世論調査機関、Pew Research のサイト(11月16日)に
という見出しの記事が出ています。"A Good Member of Society" という言葉は、普通に訳せば「社会の良き一員」ということですよね。その人が属している社会において「常識人(良識人と言った方がいいかも)」と見なされる人間ということです。

この記事は、Pew Research が「社会的に重要」と思われる行動を7つ挙げ、その国の人びとがそれぞれにどのような重要性を与えているかを調べた結果の報告です。対象は「経済先進国」と言われる国・19カ国の人びと(合計24,525人)で、それぞれどのような人間を称して「常識人・良識人」と考えるのかということについての意識調査を行ったわけです。その結果、国境を外して19カ国の人びとすべてをひとまとめにすると次のような結果になった。

社会の「良識人」であるために

このグラフを見てもお分かりのとおり、良識人としてとるべき行動のトップは「選挙で投票する」(voting)ことなのですね。次いで「気候変動への反対行動」「他国に対する関心」「自国の政治に対する関心」「コロナ関連」「政治デモへの参加」ときて最後が「宗教的な行事に参加する」(attending religious services)だった。

むささびが最も興味を持ち意外だと思ったのは、宗教的な行事への参加を「重要でない」と考える人が極めて多いということだった。これは具体的に言うと、毎日曜日に教会における集会に参加するという行動のことであろうと思うのですが、この意識調査が行われた19か国(経済先進国)のうち13カ国が欧米の国々であり、アジア(日本・韓国など)は5カ国、中東はイスラエルだけで、この調査への参加者が圧倒的にキリスト教徒が多かったはずなのに、です。アジアの5か国のうち豪州は、地理的にはアジアかもしれないけれど文化的には欧米と考えるのが普通なのでは?

で、「宗教活動への関心」だけに絞って19か国全部をリスト化すると下記のようになる。

宗教的行事への参加は?



「宗教的な行事への参加」が「良識人」として重要だと考える人の割合が半分を超えるのは、マレーシア(82%)とシンガポール(63%)だけです。しかし両方ともキリスト教国とは言えない。反対に宗教活動への評価が低い国の代表はスウェーデン(17%)、豪州(21%)そして日本(22%)です。この3か国についていうと、宗教活動を「非常に重要」(very important)と考える人はスウェーデンで6%、豪州で7%、日本では4%と一桁しかいない。

宗教活動を重要視するマレーシアは、国教がイスラム教で 61%、仏教が20%、キリスト教9%、ヒンズー教が 6%などとなっている。一方のシンガポールでは、仏教(約43%)、イス ラム教(約15%)、キリスト教(約15%)、 道教(約 9%)、ヒンズー教(約 4%)などとなっている。

▼日本では宗教活動が「非常に大事」と考える人が極めて少数であり、欧米では豪州とスウェーデンが同じような傾向を示しているけれど、日本人の宗教観と豪州、スウェーデン人のそれとでは全く違うような気がしませんか?むささびが暮らしている埼玉県の小さな町の場合、神社やお寺がかなりの数あると思う。例えばイングランドの小さな町におけるキリスト教会の数とでは桁が違う。しかし(例えば)ウクライナ戦争に対する感覚は「普通の英国人」の方が「普通の日本人」よりも反戦意識が強いのでは?そしてそれは、人間が絡む社会現象に対する仏教・神道とキリスト教の姿勢との違いということは言えませんかね。

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3)ダブリン宣言の意味

11月19日、ダブリン(アイルランド)発のロイター電が
という見出しのニュースを伝えていました。人口密集地における爆撃を控える国際的な取り決めというのは、これが初めてなのだそうです。米英仏および日本も調印しているけれど、ロシア、中国、イスラエル、インドなどは調印していない。


シリアからアイルランドへやって来たシリア難民

この宣言(Political Declaration)は、アイルランド政府と国連機関の呼びかけで集まった80か国の代表による議論の結果として成立したものであり、戦争の際に民間人や民間のインフラが被る被害を最小限度にとどめることを目指している。実際にはここまで来るのに3年かかっている。この宣言についてアイルランドのサイモン・コブニー(Simon Coveney)外相は次のように述べている。
  • この宣言の実施によって人口密集地における軍事行動が変化することになる。禁止行為の中には民間人もしくは民間施設そのものに危害が及ぶと思われる場合は、爆発兵器の使用そのものを制限もしくは否定することになっているからだ。 Its implementation will change how militaries operate in populated areas, including a commitment around restricting or refraining from the use of explosive weapons, when their use may be expected to cause harm to civilians or civilian objects. 


都市部への爆撃で思い起こすのはウクライナ戦争におけるロシアの攻撃です。キーウを始めとするウクライナ国内の都市部および産業インフラに対するロシア軍の破壊行為のお陰でウクライナ人は冬が近づいているのに厳しい省エネ生活を余儀なくされている。国連機関の調べによると、この戦争では11月13日現在、6,557人の民間人が命を失っている。

このダブリン宣言にはNATO加盟国の3分の2が署名しています。ただ戦争における都市部への爆撃や爆発性武器(explosive weapons)の使用という点ではアメリカや英国も偉そうなことは言えない。最近では2017年、イスラム国との戦闘で英米軍がイラクのモスルという町を爆撃、インフラ破壊を推進したし、1999年にはNATO軍が78日間にわたってユーゴスラビアの都会を爆撃している。またエチオピア、シリア、イエメンの戦争も人口密集地への爆撃が行われています。


ダブリン宣言は、これを支持する国々による「誓い」ではあるけれど法的な拘束力はなく宣言を破ったとしても国際的な制裁を受けるわけでもない。それでも80か国がまとまって「誓い」を打ち上げるに至ったのは、戦争によって起こる人口密集地での悲劇が、人道上の問題として見過ごすことが出来なくなった(hard for states not to recognise this massive humanitarian problem)ことが原因だとする声もある。

▼このニュースですが、むささびの観察に過ぎないけれど、国際的なメディアでは殆ど取り上げられていなかった。英国ではGuardian、アメリカではワシントン・ポストなどが伝えてはいたけれど、かなり通り一遍的な扱いだった。その中で例外的だと思うのは、11月29日付の朝日新聞のサイトに掲載された『戦争で死んでいるのは誰なのか 民間人保護訴える宣言、83カ国署名』という見出しの記事です。ダブリンにおける宣言が発表されてから10日も経ってからであり、しかも記事を書いたのは同社のパリ特派員だった。それでも「人口密集地における爆発性兵器(EWIPA)」の問題をかなり詳しく解説してくれています。

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4)再掲載:今こそ世界政府を語るとき


むささびジャーナル152号(2008年12月21日)より再掲載
いまこそ世界政府を考えるとき
And now for a world government

コロナ禍だの気候変動だの核戦争だのと、ろくなことが話題にならない時代です。が、それは今に始まったことではない。人間(人類)についての悲観論はいつの時代にもありました。でもその一方で楽観論めいたものもあった。楽観論を「アホらしい」と切り捨てるのは簡単かもしれないけれど、それで物事が良くなるわけではない…というわけで14年前のちょうど今頃の「むささび」に掲載されたエッセイを紹介させてもらいます。
 

ギデオン・ラックマン
EUがモデルに? オバマの姿勢 国内世論は無視できない

Financial Times (FT) のギデオン・ラックマン(Gideon Rachman)というコラムニストが、2008年12月8日の同紙のサイトに「いまこそ世界政府を考えるとき(And now for a world government)というエッセイを書いています。「政府」というからには、単なる国際機関ではなくて、それなりの法律だの軍隊だのを有した「国家」のような存在ですよね。

EUがモデルに?

現在の世界で唯一「世界政府」らしきものはEUです。EUには最高裁、EUとしての法令や官僚機構もある。必要になれば軍隊を展開する能力もある(ability to deploy military force)。ひょっとすると現在のEUが将来の世界政府のモデルになるかもしれない、とラックマンは言っています。それには理由が3つあるそうです。

一つには、現在、国単位の政府が直面しているいろいろな問題が、実際には一国だけの問題ではなくてグローバルな問題であるケースが多いということです。地球温暖化、金融危機、対テロ戦争等々、いずれも一つの国だけでどうなる問題ではない。

二つめに言えるのは、航空機だの通信だのの技術が進んで、地球が小さくなっていること。オーストラリアの歴史学者であるジェフリー・ブレイニー(Geoffrey Blainey)という人は「人類の歴史上初めて、ある種の世界政府的なものが可能になった」(For the first time in human history, world government of some sort is now possible)と言っています。尤もこの歴史学者といえども、世界政府ができるのは22世紀のことになるだろうとのことであります。気が遠くなるような先の話ではある。

ラックマンが三つめとして言っているのは、世界政府はかなり先のことではあるが、地球規模の統治(global governance)はもっと早く実現する可能性があるということです。世界中の政府が、金融危機だの地球温暖化だのといった問題を「グローバルに」解決しようという方向に動いているというのが現実なのだそうです。


オバマの姿勢

ラックマンによると、一国主義の見本のようなアメリカにおいてさえ、オバマ次期大統領は、ブッシュに比べれば国際的な条約や取り決めに重点を置いている。オバマはThe Audacity of Hope(合衆国再生)という自著の中で次のように語っている。
  • 世界唯一の超大国が自らの意思で、権力の行使を抑制し、国際的に合意された基準に基づいて行動するならば、それは他国に対して、国際的なルールは守るに値するものだというメッセージとして伝わるであろう。When the world’s sole superpower willingly restrains its power and abides by internationally agreed-upon standards of conduct, it sends a message that these are rules worth following.
ラックマンは、オバマが国連を重視している証拠の一つして、側近の一人といわれるスーザン・ライス(Susan Rice)を国連大使に指名したことと、オバマ主宰の政権移行チームのメンバーが発表した「地球規模の不安定管理」(Managing Global Insecurity:MGI)報告書をあげている。その報告書は、例えば、国連機関として「反テロ高等弁務官事務所」(a UN high commissioner for counter-terrorist activity)を設立することや、国連主導による地球温暖化交渉、それに5万人規模の国連平和維持軍の創設などを提案しているのだそうです。


国内世論は無視できない

尤も、世界政府はもとより「地球規模の統治」にしてからが、実現までには相当な時間がかかるのだから「あまり有頂天にならない方がいい」(let us not get carried away)とラックマンは言っている。そのプロセスは「苦痛に満ちたスローなものになるだろう」(any push for "global governance" in the here and now will be a painful, slow process)というわけです。

その理由は、国単位の指導者に「地球規模の統治」に対する熱意がどの程度発揮できるか疑わしいということ。なぜなら、どの国の指導者も選挙民を無視することはできないからです。EUにおいても、憲法が加盟国における国民投票で否決されたりすることが多い。EUの進展は、それぞれの国民の意向を聞かないで物事を進めるとうまくいく、つまり「地球規模の統治」は非民主主義的に物事を進めるとうまくいくという傾向が強いということです。そこでラックマンの結論は・・・
  • (いまの世の中)世界で最も緊急の問題というのは、国際的な性格を有しているものなのだ。その一方で、それぞれの国の一般市民の意識は頑なにローカルのままである。そのあたりを打ち壊さないと「世界政府」の計画も永遠に国連の金庫にしまいこんだままということになるかもしれない。The world's most pressing political problems may indeed be international in nature, but the average citizen’s political identity remains stubbornly local. Until somebody cracks this problem, that plan for world government may have to stay locked away in a safe at the UN.
ということになっております。


▼バラク・オバマの国際的なルールに対する姿勢とドナルド・トランプのそれでは全く違いますね。後者のMAGA (Make America Great Again) には「世界」という発想が全く入っていない。彼のアタマにはAmerica=World以外に「世界」はない。

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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

humble:予想外の敗北を与える
11月23日付のGhana Soccernetというサイトが
という見出しの記事を掲載していました。「日本がドイツを "humbling" したことがサッカーの素晴らしさを示している」というわけですよね。「ファンブル:fumble」というのは聞いたことがある。野球で一度つかんだボールを取り落とすミスのこと。いわゆる「お手玉」です。でも「ハンブル:humble」なんて聞いたことがない…と思いながら、例によってむささびが好きなCambridgeの辞書のサイトを見たら、humbleには形容詞として「つつましい」という意味があるけれど、動詞として "unexpectedly defeated:予想外の負けを食らう" という意味もあるということが分かりました。知らなかったなぁ!

で、Ghana Soccernetの記事はサッカーのワールドカップで日本がドイツを破ったことについて書いているのですが、日本とドイツの試合を中継していたBBCのラジオ番組で、クリス・サットンというかつてのイングランドの選手だった解説者が思わず叫んでしまったのが
  • What a strange World Cup! What a strange game!
という言葉だったとのことです。日本がドイツを破ったことは 'A historic moment' だそうであります。

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6)むささびの鳴き声
▼かつて「内閣官房副長官補」という立場にあった柳沢協二という人が、岸田首相らが日本も身につけるべしと主張している「敵基地攻撃能力」について、これで実際に相手国を攻撃すると、彼らに対して「日本本土を攻撃する大義名分を与え、際限のない撃ち合いに発展する危険性」があることを指摘した…と東京新聞(11月30日)のサイトが伝えています。

▼柳沢さんは平和憲法を有する日本がとるべき安全保障の姿勢を「専守防衛」(exclusive defense)と呼ぶのであり、「国土防衛に徹し、相手の本土に被害を与えるような脅威にならないと伝え、相手に日本を攻撃する口実を与えない防衛戦略だ」と説明している。最近の日本では世論調査をやると、必ず「日本も敵基地攻撃能力を身につけるべきだ」という意見が多数を占めるけれど、柳沢さんによると、それは「政治家が敵基地攻撃能力が持つ危険性を国民に知らせていないからだ」ということになる。

▼内閣官房副長官補というのが、どのような立場なのか知らないけれど、内閣総理大臣に対してそれなりに影響力を持つ提言を出来る立場であることは間違いない。東京新聞に出ている彼の発言は大いに読まれるべきだし、彼が何年か前に日本記者クラブで行った会見(動画)も見てもらいたいのでありますよ。

▼3つめの記事として掲載した「ダブリン宣言」について。日本政府が知っておくべきなのは、国連・ユニセフ・赤十字国際委員会らとともに呼びかけ人として80か国も集めたこの会議を主催したのがアイルランド政府であるという単純な事実です。来年のG7サミットを広島でやるのだと張り切っているようですが、広島に原爆が落とされるきっかけとなった太平洋戦争を始めてしまった人間の中にはアメリカ人もいたかもしれないけれど、間違いなく日本人(欧米諸国はアジアから出ていけと叫んでいた)もいた。

▼NHKのラジオ番組に『ひきこもりラジオ』というのがあるのを知ってました?先日、単なる偶然から初めて耳にしました。「ひきこもりのひきこもりによるひきこもりのための番組」だそうです。いつもやっているのではないようで、次回は1月だと言っておりました。

▼だらだらと失礼しました。

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