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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 前澤猛句集
 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
544号 2023/12/31

今から13年前(2010年)、むささび夫婦は英国に長期滞在していたのですが、所用でフィンランドのヘルシンキに短期滞在していた。それも終わって間もなくロンドンへ「帰国」することになっていた。そんな折にアイスランドの火山が噴火したおかげで、飛行機が飛ばなくなってしまった。仕方なく、我々はヘルシンキから船とバスを使ってドイツのベルリンへ行き、そこからロンドンまでは鉄道の旅を楽しむことになった。61時間の旅だった。あれから13年、上の写真は2023年の12月18日にアイスランド南西部の町グリンダビークから北東におよそ4キロ内陸部にある火山が噴火したところだそうです。13年前のヘルシンキ→ロンドン間の旅については2つ目の記事で再掲載させてもらいました。

目次

1)スライドショー:久保田博二が写した日本
2)再掲載:ヘルシンキ→ロンドン、61時間の旅
3)世界で一番住みやすい町
4)英国は愛犬家の国か?
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句

1)スライドショー: 久保田博二が写した日本

世界でも最高峰の写真家集団と言われる「マグナム」(Magnum)ですが、日本人の会員は一人しかいない。それが久保田博二さんです。1939年生まれだからむささびより2才年上です。そのマグナムのサイトの中に久保田さんの作品だけを集めたセクションがある。そのセクションのタイトルは "The Contradictions of Modern Japan"(近代日本が抱える矛盾)となっています。

ここで紹介されている写真は、どれも約20年前に撮られたものばかりです。むささびジャーナルの初期の頃です。日本は一方では市場の閉鎖性のようなものが指摘されながらも、もう一方ではトヨタやソニーに代表されるハイテクを駆使して世界の消費者に新製品を提供する存在だった。久保田博二さんの作品は、日本という国を、そのような「古さと新しさ」を同時に見せつける存在として描いているように思える。

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2)再掲載:ヘルシンキ→ロンドン、61時間の旅

自然災害の影響を直接受けるという経験は誰にでも起こり得ることではあるけれど、実際にはなかなかないものです。私にそのような珍しい体験をさせてくれたのが、アイスランドの火山噴火に伴う航空機の発着不可能という事態でありました。2010年のことです。私にとっては珍しくても、他人にとってはどうでもいいことであることが多いということは承知のうえで自分が経験したことをお知らせします。

まさか… ハンバーガーが大きい!
欧州版・青函連絡船? 無愛想ドイツ人


ヘルシンキの街並み
まさか…

フィンランドのある組織からの招きを受けて、私が妻の美耶子と二人でヘルシンキに到着したのが4月12日(月曜日)のこと。4月17日(土曜日)にはヘルシンキを出発して英国へ帰ってくる予定だった。同じ会合に出席するためにやってきたロシア人から火山噴火のことを初めて聞いたのが、木曜日の午後。そのときはお互いに「中国の地震、インドの山崩れ、火山の噴火・・・いろいろ起こるものですねぇ」という程度の話題にしかならなかった。

それが金曜日になって、ヘルシンキ発の飛行機が全く飛んでいないというわけで土曜日の出発はムリかもしれないということに。それでもまさか日曜日には、と思っていたのが甘かった。月曜日になっても、ヘルシンキ空港はもちろんヒースロー空港もほとんど閉鎖状態。しかも事態が好転するめどは全くなし。2度目の噴火があるかもしれないという情報が流れたり・・・。


こうなると、最初は冗談のつもりでいた陸路で英国へ帰ることをマジメに考えなければと思っていたら、我々をロンドンから運んできたフィンランド航空が、「フィンランド国内に足止めされているヨーロッパのお客様のためにヘルシンキからベルリンまで無料でバスで行くサービスを行う」と発表した。このサービスには但し書きがついていた。ひとつには「ヘルシンキからベルリンまでは船とバスで合計36時間くらいはかかるかもしれない」ということであり、もうひとつは「ベルリンから先についてはお客様の責任で」ということだった。

我々がお世話になっている旅行代理店のプランによると、次のような行程になる。
  • 4月20日:夜9時半:ヘルシンキ発(フェリー)
  • 4月21日:真夜中12時:タリン(エストニア)着
  • 4月21日:真夜中:タリン発(バス)→ラトビア→リトアニア→ポーランド
  • 4月22日早朝:ベルリン着・解散


アイスランドの火山

つまりヘルシンキを出た翌々日(翌日ではない)の朝4時ごろにベルリン着で、その間寝るのは船の中とバスの中の2泊ということ。そして約6時間の待ち合わせでベルリンを午前10時少し前に出る列車に乗るとブラッセルには夕方の5時半ごろ到着する。それからロンドンまでは約2時間というわけです。が、旅行代理店によると、ブラッセル=ロンドン間の列車(ユーロスター)の予約がどうしてもとれないとのこと。そこでブラッセル在住の知り合いにホテルの予約を頼むことに。

なにやらとてつもない旅行のようで気が沈んでしまったのでありますが、このままヘルシンキに留まっていても、いつ飛行機が飛ぶのか分からない。エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国なんて行ったことがないし、これから行く機会があるとも思えない。同じことがポーランドやドイツについても言える。この際、経験のためにも「やってみっか」という好奇心のようなものが勝ってしまった。そして出発。

欧州版・青函連絡船?

ヘルシンキの波止場には同じ運命でフィンランドに足止めされていた人々、約100人が集合しておりました。いまごろの夜の9時半はかなり明かるくて、ヘルシンキの建物の陰に夕日が沈んでいくのを見守りながら出航、湖のように静かな海の上を走ってタリンに着いたのがちょうど夜中12時。それからバスの乗車手続きなどがいろいろあって、結局ベルリンに向けてバスが出発したのは午前1時少し前だった。バスは座席が100%埋まるという大盛況で、まさに大の大人がぎっしり詰め込まれたという感じだった。
  • このヘルシンキ発・タリン行きのフェリーは、かつての青函連絡船という感じで、タリン側からヘルシンキまで買い物に来たお母さんみたいな人が結構おりました。やはりヘルシンキともなるとタリンなどにはないモノが買えるってことなのでしょうね。

それからベルリンまでの間はというと、同じ運命に乗り合わせたということもあって、結構ワイワイガヤガヤというバスの旅となりました。もちろん途中で食事やトイレのために何度も止まりはしたのですが、それでも疲れますよね。タリンの町を通り抜けたのは真夜中だったけれど、教会や民家のたたずまいからして、昼間見たら古くて美しい町なのであろうと想像ができました。
  • ラトビア、リトアニアについてはあまり憶えていないけれど、ラトビアのサービスエリアのようなところでトイレに入ろうとしたら有料であったのには驚きましたね。誰かが1ユーロと言ったので、私もトイレ番のおばあさんに1ユーロ硬貨を渡してたのですが、バスの乗客の一人が見慣れないコインを渡しているのを見て「それひょっとして地元のコインですか?」と聞いたら「ええ、たぶん・・・」と言うので「たぶんってどういう意味?」と聞いたら「いや、まえの店でユーロを渡したらお釣りにくれたんです。初めてみるコインです」とのことだった。つまりお金は払ったけれど、いくら払ったのかは分からないってことです。


ポーランドの田舎
ハンバーガーが大きい!

そのあとのポーランドですが、田舎を走ったということもあって、緑の美しさだけが印象に残っていて、昔映画の『灰とダイヤモンド』で見たような国、あるいは最近、大統領らが亡くなった国の印象では全くなかったですね。どうでもいいことですが、途中のレストランで食べたハンバーガーの異常な大きさと味の良さはなかなか忘れないだろな。やぱし食いものの思い出は強い。パンの大きさはマクドナルドの2倍はありましたね。
  • それともう一つ。なぜか林の中とか野原のようなところにいきなりお墓が現れるのです。ひっそりと小さなものもあるし、かなりの規模でお花なども飾られているものもある。いずれにしても塀のようなもので囲まれた「墓地」という感じではない。

ポーランドを走っているときに、私の隣に座っていた英国人(だと思う)ビジネスマンと私の前にいたブラジル人の学者さんが「運転手は道を間違えたのではないか」と言い始めた。私が途中で買った地図を眺めていると「ちょっと貸してくれや」というわけで、持ち主の私をそっちのけにして運転手批判に花を咲かせておりました。我々から少し前に座っていたフィンランドの女性が「アタシが運転手に確かめてくる」と言って運転席へ行って帰ってきてから、大きな声で「ロシア語を話せる人はいませんか?」とやり始めた。運転手がエストニアの人で、フィンランド語も英語もダメ、ロシア語しか分からないとのことでありました。結局、だれもロシア語は話せないということで、あきらめて運転手に任せることにした。

というわけで、夜中の3時過ぎにベルリン中央駅に到着。この「朝の3時」はヘルシンキを船で発った翌々日の午前3時です。めちゃくちゃにきれいでモダンなベルリン中央駅ですが、午前3時ではお店はどこもやっていない、と思ったらマクドナルドがあいていた。全員、殺到しましたね。そりゃそうだ、ベルリンの午前3時はまだ寒いし、久しぶりの明るいレストランだもんな。コーヒー一杯頼んでうとうと眠り始める者もでてきたり・・・。


ベルリン中央駅

私と美耶子はというと、ベルリンからケルン経由でブラッセルまで電車で行くのですが、そのケルン行きの電車が出るまでにまだ8時間もある。マクドナルドで8時間つぶすのはちょっと気が引けるし、かと言ってハンバーガーとポテトばかり食べるのも情けないし・・・というわけで、駅の切符カウンターが開いてから、もう少し早い電車に切符を変更してくれるように頼むことにした。

無愛想ドイツ人

結果的にこれは成功して待ち時間は3時間以内で済んだのですが、その駅の担当者はやたらと無愛想なおっさんでしたね。写真でも撮っておくべきだった。八つ当たりではないけれど、ドイツの駅の係員てえものは、どうしてああも不機嫌そうな顔をしているのでありましょうか?


ケルンの駅

ケルンの駅は、ベルリンと大違い。はっきり言って小汚い。けれど活気は大あり。池袋、錦糸町ってところですね。年齢、肌の色を問わず、人間がごちゃごちゃあふれ返っている。ちなみにこの駅には寿司屋がありました。食べたわけではないけれど、オープンな店に近寄って聴いてみると、店主とおぼしき人が喋っている言葉は中国語だったと思う。そういえばベルリンの駅にも寿司屋がありましたね。こちらは非常にモダンできれいなようでありました。
  • ケルンからブラッセルまでの列車はなんとファーストクラスでありました。こういうものには縁がないと思っていたので大感激。無料で配られてきたコーヒーも3回おかわりをしてしまった。アイスランドくんだりの火山のお陰で情けない目にあっているのであるからして、コーヒーのおかわりくらい、いいってことよね。


特急列車・ユーロスター

で、ブラッセル到着が現地時間の午後5時半。ブラッセルで暮らしている知り合いの英国人に駅前のホテルを予約しておいてもらったので、ここでようやくまともなベッドで眠る夜を迎えることができたというわけです。それだけではない。この英国人のお陰で、その日のうちにブラッセル駅で翌日のユーロスターの切符も購入することができたってわけ。

で、翌朝7時59分、ブラッセル発のユーロスターで出発、英国時間の午前9時にロンドンのSt Pancrass駅に到着したってわけ。ヘルシンキを出たのが、火曜日の夜、ロンドンに到着したのが金曜日の朝。合計61時間の旅でありました。
 
ロンドン:St Pancrass駅
 
▼長い旅ではあったけれど、今にして思うと貴重な体験だった。特にバルト3国やポーランドの田園風景なんて、このような事情でもない限り目にすることはないもんな。
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3)世界で一番住みやすい町
 

ちょっと古いけれど、今年の6月21日付のThe Economistのサイトに「世界で最も住みやすい町:world's most liveable cities」というのと「最も住みにくい町:least liveable cities」というランキング記事が出ていました。雑誌発行とは別に情報提供をビジネスにしている関連会社(Economic Intelligence Unit: EIU)が提供する情報を下に世界の町、173か所の住み心地を5つの分野(安定性・健康状態・文化と環境保護・教育・都市インフラ)についての現状を検討、ランキングを掲載しているものです。ベスト10とワースト10を紹介すると次のようになる。スコアは「100」を満点とする数字です。

数字は100点満点としたときのスコア

EIUによると、2019年を皮切りに猛威を振るったコロナ禍(Covid-19 pandemic)からも回復しているのですが、特にアジア・太平洋地域の回復ぶりが目覚ましい。

この住み心地調査(liveability survey)はEIUが、新しい市場開拓を望む会員企業への情報提供サービスの一環として行っているものなのですが、オーストリアの首都・ウィーンは社会的安定性・文化程度・インフラ等々どれをとっても優れているとされており、この5年間で4回トップを占めている。これに続くコペンハーゲン(デンマーク)、メルボルン(オーストラリア)なども実際には常に上位を占めている。

EIUによるとトップ10の中の9都市までが、「小規模もしくは中規模:small to mid-sized」なのですが、トップ10の全ての町が「富裕国:rich countries」というカテゴリーに入っている。但し「大都市」の中にはランクの低いところも少なくはない。例えばロンドンは46位だしニューヨークは69位というぐあいです。

ランクが上がった町としては、ウェリントン(豪州)とオークランド(ニュージーランド)は、それぞれこの1年間で35、25位だけランクを上げている。またいわゆる「先進国」のカテゴリーには入らないかもしれないハノイ(ベトナム)やクアラルンプール(マレーシア)なども位を上げている。


ベトナムの首都・ハノイ。ランクは129位と低いように見えるのですが、2022年に比較すると20位もランキングを上げている。

一方、住み心地が最悪(least liveable)とされるのは、シリアの首都・ダマスカス、下から2番目がリビアの首都トリポリとなっており、ウクライナの首都・キーウなども低い部類に入っている。実際にはキーウはロシアとの戦争の関係もあって、昨年(2022年)はこのランキングから除外されているのですが、「インフラ」のスコアは100点中の23.2とかなり低いものになっている。

EIUの調査がカバーする5項目のうち昨年と比較して今年(2023年)落下したのは、東欧の町における「安定性:stability」だけ。これはもっぱらウクライナとロシアの戦争が原因とされている。


 ダマスカス
 
▼この記事の最初に掲載されている写真はウィーンの町です。

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4)英国は愛犬家の国か?

ペット人口1300万 まるでお犬様扱い
「デザイナー種」の出現 犬は「動物」なのだ

12月25日付のThe Guardianのオピニオン欄に次のような見出しの「意見」が掲載されています。
  • Britain, a nation of dog lovers? Look at all the spoilt or abandoned pups, then tell me what you think 英国が愛犬家の国だなんて、本当だろうか?甘やかされたり棄てられたりしている子犬を見てみなさいよ。それからどのように思うのかを聞かせてください。

エリー・ハント
記事を書いたのはエリー・ハント(Elle Hunt)というジャーナリスト(女性)なのですが、見出しから見ても分かるけれど、彼女自身は犬が嫌いではないけれど、「犬好き」を自称する英国人には疑問を持っているようです。それをクリスマスの日に寄稿したというわけです。

ペット人口1300万

オーストラリアやニュージーランドと違って、英国ではペットが公共の乗り物に乗ることが許されている。「許されている」というよりも大っぴらに奨励されているとさえ言える。パブやコンビニショップの看板には、どこかひょうきんな動物の絵が描かれており、次のような広告のコピーが踊っている。
  • Dogs welcome, people tolerated:犬は歓迎、人間は入ってもいい

エリーによると、英国人は長年にわたって動物に対する愛情を注いできているけれど、最近はそれが英国人の良さよりも「悪さ」を強調するような状態になっており、お陰で迷惑を被っているのは動物の方だというわけです。4年ほど前に世界中が「コロナ禍」に見舞われたけれど、あの頃は誰もが「家にいるか、近所の公園で犬と遊ぶかするのが一番だ」と考えていた。2019年~2022年、英国におけるペット犬の数は900万頭から1300万頭へと増加したと言われている。年末ともなると犬の人口はさらに増加する。そんな時には犬の慈善団体が1978年に作りだした有名なスローガンが思い出される。
  • A dog is for life, not just for Christmas.犬はクリスマスのためにいるのではない。一緒に生きるためにいるのだ。
コロナ禍が過ぎ去ったとされる現在では人間はオフィスに戻りつつあり、そして「コロナ犬(pandemic dogs)たちも子どもたちと時を過ごさざるを得なくなっている。最近のイングランドやウェールズにおける警察の発表を見ても犬人関係には嬉しくない数字が並んでいる。2018~2022年当時に比べると、最近になって犬による対人攻撃件数が3分の1は増えている。それと同時にPets4Homes.co.ukのようなサイトが、「犬を手放したい」という飼い主からのメッセージで一杯になる。そしてどの飼い主からのメッセージにも「非常に残念だが」(with deep regret)という言葉と一緒に「自分たち(飼い主)の生活スタイルにはそぐわない」と言う言葉も付けられている。


「デザイナー種」の出現

エリーの見方によると、生きとし生けるものが「ペット」の世界では単なる「モノ:commodities」にまで格下げされている。最近流行りの「デザイナー種(designer breeds)」と呼ばれる犬たちを見ればそれが分かる。フレンチ・ブルドッグやパグと呼ばれる中国の愛玩犬は可愛く見えるかもしれないけれど、実際には彼らも一生を不愉快な思いをしながら生きているというわけです。American XLと呼ばれるブルドッグは「男らしさ:masculinity」が故に受けている。

犬との共存関係の変化を称して「アメリカ化」と呼ぶ向きもある。別の言い方をすると「ペットを人間の子どもの代用扱いする」(treating pets as substitutes for children)ということです。かつての英国では犬は犬として尊重されていた。つまり犬が犬であることの資質(人間にはない資質)を有しているからこそ特別な存在として扱われていた。その頃でもソファやベッドを犬と共有するようなことはあったけれど、犬が人間とは異なる存在であるということ、犬と人間の本質的な違いのようなものは認められていた。

しかし(エリーによると)最近では犬の数が異常なレベルにまで増えてしまい、犬たちも懸命に犬であろうとする努力までするようになってしまっている。そして人間たちも犬を犬扱いしないような傾向になっている。不必要なものを買い与えたり…ということがそれにあたる。英国では過去10年間における犬関係の消費が倍増して年間100億ポンドにまで達している。犬専門の消費を手掛けているMintelという商社によると、英国における犬の飼い主の5人に一人がグルーミングや運動などの分野で「最近のトレンド:latest trends」に従うことに熱心なのだそうです。


まるでお犬様扱い

エリーは北イングランドのノリッジ(Norwich)という町で暮らしているけれど、最近になって近所にペット用の「ブティーク」がオープン、「犬用コールドプレスおやつ」「ペット用保湿剤」などを売っているかと思うと、入浴サービスまで提供している。まさにお犬様扱い(gentrification)であり、最近の英国では、それが富裕層エリアだけの現象ではなくなっている。経済的には恵まれないとされる北イングランドのGreat Yarmouthの海岸エリアでは「犬用のアイスクリーム」まで売っていたのだそうです。それも2種類も。

エリーに言わせると、「犬用のアイスクリーム」などというものの存在は、英国における「愛犬家」たちの嗜好が如何に犬たちのそれからかけ離れてしまっているかを示している。殆どの犬は紙袋を噛みちぎるのが大好きであり、自分の糞まで食べてしまうものなのである、と。もちろん彼らにしてもアイスクリームは嫌いではないだろうが、それは彼らにとっては必要なものでは決してない。むしろ我々人間が自分たちにとってさえ不必要なものをペットたちに投げ与えているにすぎないのだ…というわけです。

こうなると、間もなく「お犬さま歓迎:dog-friendly」というレストランや映画館、ひょっとすると教会までもが登場することになるかもしれない。鎖を握るのは犬たちで、レストランや映画館は鎖の先の二本足の動物(人間)のための娯楽施設ということになるだろう。


犬は「動物」なのだ

その一方で多くの犬たちが毎日のように自由を奪われ、世界を小さくされ、生活も単調なものにされている。犬は社会的な動物であり、自分以外の犬が存在しないような生活は自然なものではない。ましてや一日8時間も空っぽの家に居続けるなどということはできるものではない。

エリーは「忘れてはならないのは、一緒に暮らしている犬たちが狼の子孫であるということだ。ただ知れば知るほど、明らかになるのは、動物としての犬は「不可解かつ不愉快な生活に耐えているということだ」と強調した上で次のような文章で締めくくっています。ちょっと長いけれど、そのまま紹介します。
  • 人間がペットと一緒に暮らすことを選ぼうというのであれば、人間と動物の間の柵は人間が大切だと思う他の関係と同じような高さであるべきなのだ。さらに人間は彼ら(動物たち)のために犠牲を払う覚悟を有し、大切な時間と愛着を保ち、彼らをあるがままに愛することが求められる。彼らが我々のためを想い、我々が望むように存在することが求められるのではない。 But for as long as we choose to share our lives with pets, the bar should be the same as for any relationship we value: being prepared to make sacrifices for their wellbeing, prioritising quality time and care, and loving them as they are – not for how they reflect on us, or how we’d like them to be.

▼むささび家にはワンちゃんが2匹おります。人間扱いされているけれど、彼ら自身は犬以外の何ものでもないという顔で同居しております。

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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら


empathetic: 親身になってくれる

"empathetic" という言葉をCambridgeの辞書で引くと "having the ability to imagine how someone else feels" と説明している。「他人が何を感じるのかを想像できるだけの能力」ということですよね。この言葉に関係するミニ・エッセイのような文章を見つけました。ちょっと長ったらしいかもしれないけれど紹介します。

筆者の母親が隣人に「塩をくれないか」と頼んでいる。でも、塩ならウチにあるのに…と思った筆者は「何故隣りの人に塩を貸してくれなんて言うの?」と母親に聞いてみた。すると「お隣さんにはあまりお金がなくて、いろいろなものをウチに貸してくれと頼むのよ」と母親は答えて、さらに続けた。「だからアタシもあの人たちに小さなものを貸してくれるように頼むのよ。そうすれば、あの人たちも、アタシらが必要としているものがあると感じるでしょ?そうすればあの人たちもアタシらに頼むことがやりやすくなるでしょ?」と。

で、筆者は母親から学んだのは、相手が自分にモノを頼みやすくするために、あえてこちらが相手に頼みごとをする、という「知恵」というわけで、そのような知恵を持った人間を "empathetic" と呼ぶわけです。

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6)むささびの鳴き声
▼今号最後に出ている前澤猛さんの俳句を読むと「外つ国」という言葉が使われています。むささびは一瞬戸惑いました。最初は筆者が間違ったのか、と思い(よせばいいのに)むささびなりに気を利かせて「つ」の字を削除してあげようかと思ったのですが、念のためにネットを調べたら漢字ペディアというサイトに「外つ国(とつくに)」という言葉が掲載されており、その意味は「日本以外の国、よその国、外国」であると書いてあった。「参考」情報として<「つ」は「の」の意>であるとも…。前澤さんは、ガザだのウクライナだの外国で進行する戦争の犠牲になる人びとに想いを馳せながら門松を立てているということだった。よかったぁ!

▼と、前澤さんの俳句にも多少かかわりがあるけれど、むささびが話題提供という意味で時折お世話になる北九州・東八幡教会の奥田知志牧師が12月24日の夜(クリスマスイブ)行なった「宣教」についてむささびが気に留めた部分だけお話します。牧師によると今年(2023年)ほど暗い気分でクリスマスを迎えたことはない。言うまでもなくイスラエル・パレスチナ間、ロシア・ウクライナ間で進行する戦争がその理由なのですが、奥田牧師によると自分が今やらなければならないのは「クリスマスをする」ことなのだそうです。「クリスマスをする」って何?奥田さんによると、それは世界中の人間がガザやウクライナで生活をする人たちのことを「必死になって想像すること」であり、そのようにして想像したことを語り合うことなのだそうです。

▼本日は12月31日、2023年最後の日です。2023年というのは変わった年で、最初の日である1月1日にはむささびジャーナル518号が発行されている。つまり2023年は「むささび」で始まって「むささび」で終わる年というわけ。こんなことは初めてです。

▼良いお年を!

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