home backnumbers むささびの鳴き声 美耶子のコラム
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第121号 2007年10月14日
プロ野球セ・リーグでジャイアンツが優勝した試合を、日本テレビが中継もしなかったことが話題になっていましたね。ラジオを聴いていたら「最近のプロ野球はつまらなくなった」と言う人がいました。私は「プロ野球」がつまらないというよりも、「プロ野球中継」がつまらないということがあるのではないかと思うのでありますよ。 以下は「鳴き声」でお話するとして・・・。

目次

1)児童福祉ケースワーカーのなり手がない
2)アフリカの悲惨
3)給料が増えているのに使えるお金が少ない
4)Small is beautiful の反対を行く?
5)短信
6)むささびの鳴き声

1)児童福祉ワーカーのなり手がいない

英国では児童福祉に取り組むソシアルワーカーが不足しており、中にはワーカーを求めて海外でリクルート活動を行う地方自治体もある、という記事が10月7日付けのObserver紙のサイトに出ていました。

いわゆる問題児、障害児、被虐待児童など、ケアを必要とする子供のための専門ワーカーが不足しているのですが、例えばBirminghamの場合、市役所にこの種のポストが16もあるのになり手がいない。地元の大学で社会福祉を専攻する学生に奨学金を出したり、資格を有するスタッフにはボーナスを支給するなどしているのですが、なかなか見つからない。

この種のワーカーのなり手がいないことの理由として、給料が安いということもあるのですが、仕事そのものがストレスがたまりやすいことが大きな理由として挙げられている。ある町の担当者は
  • 極端な重労働と極端な精神的ストレス、それにパブリックな場で批判されてさらし者にされることが多い(This is a career where employees not only work extremely hard in situations of extreme emotional stress, but they frequently get publicly pilloried into the bargain)
と言っています。ワーカーに対する批判は、ケアを必要とする子供をしっかり保護しなかった、というものが多い。子供が殺されたケースでは、犯人の危険性が10年も前から社会福祉事務所に報告されていたにもかかわらず子供を守れなかった。昨年11月には、4歳の子供が母親と彼女のボーイフレンドに殺されるという痛ましい事件もあった。この場合もワーカーが問題の家庭を訪問したり、ウォッチングしていたのに悲劇が起こってしまった、ということで、批判の矛先がワーカーに向けられたりした。

海外からのワーカーのリクルート先としては、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどが挙げられていますが、何故か東欧諸国も含まれている。外国人ワーカーは英国内で再訓練する必要があるわけですが、英国への移住希望者が多い東欧諸国からのワーカーについては「別の問題」(additional problem)もあるそうです。
  • 英国へ来るように奨励された結果として、その国の児童福祉ワーカーが足りなくなる状態だけは避けたい(The last thing we want is to create a situation where other countries no longer have enough workers to care for their children, because those people have been encouraged to come to Britain)
と、ある福祉関係者は語っています。

▼日本でも、子供の虐待事件とかいじめなどが起こると、社会福祉事務所や学校当局の「監督不行き届き」を追及することがよくありますよね。追及するのはメディアで、大体においてメディアは「正義の味方」ということになっている。追及するメディア自体がフェアプレーをしているのか?批判される人々の事情について、どの程度きっちり取材をして公平な報道をしているのか?大いに疑問です。

▼ソシアルワーカーを東欧から連れてくるという発想、老人介護をフィリピンの人々にやってもらおうというのと似ていませんか?優秀な介護人が日本へ来るということは、理屈のうえでは、フィリピンの老人たちの面倒を見る人たちがいなくなるということでもある。そのあたりのケアはどうなっているのでしょうか?

▼ちゃんと面倒を見てくれるのなら、介護ワーカーが日本人だろうが、外国人だろうが構わないのですが、その人たちにまともな給料を払い、憲法が言う「健康で文化的な最低限度の生活」を保障することが前提ですよね。フィリピン人の方が安く使えるという発想では、余りにも情けない。

2) アフリカの悲惨

NGOのOxfamが最近発行した『Africa's Missing Billions』という報告書によると、冷戦終結(1990年)からこれまでの約18年間、アフリカ諸国で続発している紛争による損害を金額にすると、ざっと3000億ドルにのぼりますが、これはこの17年間で外国からのアフリカ向け援助の総額に相当するものなのだそうです。

Oxfamによると、アフリカ大陸にある国の半数が何らかの形で紛争を経験している。紛争がなかった国と比較すると、乳児の死亡率は50%、栄養失調者の数は15%高く、平均寿命(50才)は約5年低いのだそうです。 例えばコンゴ民主共和国の場合、約10年間にわたって外国からの侵略や国内紛争にさらされているのですが、それによって失われた人命は400万人、経済的損失はこの国のGDPの39%にあたる90億ポンドにのぼっている。

紛争で失われる人命は、戦闘に参加した結果というよりも、紛争がもたらすインフラの破壊に起因する病気や栄養不良によるものが多く、直接戦闘の結果による死者の14倍にものぼっているそうです。

またOxfamによると、紛争の影響の一つとして、周辺国に小火器が流れ込み、それがその国の暴力犯罪などに使われて社会不安を引き起こしているとのこと。最も頻繁に使われるのがカラシニコフというライフルで、アフリカで出回るこのライフルの95%がアフリカ以外の国から持ち込まれている。

報告書は「紛争を終わらせるためには、貧困の撲滅が重要であるに違いないが、武器の売買の取り締まりも大きなインパクトを与えるだろう」として次のように言っています。
  • アフリカにおける経済成長と人々の命や生活が武器を使った暴力によって損なわれ、失われている。武器売買の取り締まりに失敗したことで、国際社会を破滅させたともいえる(Economic growth and the lives and livelihoods of people in Africa are being held back by armed violence. In failing to control the arms trade the international community has ledt Africa down)。
▼そういえば、OxfordのPaul Collierという教授が書いたThe Bottom Billion(「底辺の10億人」Oxford University Press)は、世界の最貧国とされる国々における貧困の背景と解決策を提案しています。全部読んでいないので、詳しくは紹介できませんが、「アフリカが貧困から抜け出すには経済成長しかない。貧困を減らす(poverty reduction)よりも開発(development)を考えるべきだ」ということと「変革は底辺の10億の社会の中から生まれなければならない」(Change is going to have to come from within the societies of the bottom billion)ということが、教授のメッセージのようであります。

▼最近『ルワンダの涙』という映画をビデオ屋さんで借りてきて観ました。ルワンダにおける民族対立の悲劇を描いている映画だった。フツ族がツチ族を大量虐殺するという悲劇で、制作がBBCとなっていたのですが、悪玉と善玉という描き方に正直言ってちょっとクビをかしげてしまった。悪玉はフツ族とこれを背後で助けるフランス、何もしてやらない国連を始めとする「国際社会」という図式です。善玉はというと、被害者であるツチ族は当然なのですが、ルワンダで布教活動をする英国人(?)のカソリック神父。これにどっちつかずながら「良心の呵責」に悩む英国人の若者やBBCの記者・・・。一生懸命作ったBBCには悪いけれど、虐殺された側の悲劇や良心的な人々の悩みのみならず、大量虐殺を行ったフツ族側の心理やフランス側の事情も説明して欲しかった。

▼ユダヤ人虐殺に走ったナチの心理、中国大陸で残酷な行為に走った日本人の心理、ビルマの軍人たちの心理などを知る必要があるのと同じです。