今回の学力調査では、受験したフィンランドの子供たちの4%が最高レベルの成績をとる一方、他の国の平均は1・3%だったのですね。そのことについてフィンランドの新聞、Helsingin
Sanomat(英文版)は、Jarkko
Hautamakiという教授の意見として「フィンランドの教育における過度な平等主義は特別な能力を持った人間を育てないという批判に根拠がないことが分かっただろう」と伝えています。
Helsingin
Sanomatによると、OECDの学力調査結果は、これに参加した学校の質によって違いが出て来るのですが、フィンランドの場合、学校間の違いが非常に小さいので、どの学校が参加しても違いは6%程度なのだそうです。これが他の国になると34%の違いに繋がるのだとか。
この新聞はまたOECDの調査に対しては批判があることも伝えています。University
of ViennaのStefan
Hopmannという教授は、テストで使われる質問が「極めてアングロサクソン的」であり、文化的なバイアスがかかった、このテストの結果に基づいて教育計画を作ろうなどと考えない方がいい」と言っています。またフィンランドのTurkuという町にあるスウェーデン語の大学、Abo
AkademiのMichael
Uljens教授(教育学)は「OECDのテストは教育の分野で競争をあおるようなことをしている」と批判しています。
▼私自身、このテストの問題を見たことがないので、質問がvery
Anglo-Saxonだと言われてもよく分からないのですが、極めて素朴な疑問として、日本や英国の新聞を見ていると、このテストをあたかもオリンピックの成績を伝えるような報道をしているのは、おかしいんでない?ってことです。勝った・負けたのハナシではないだろが、と言いたいわけです。確か安倍首相の教育再生会議だったと思うけれど「PISAで上位を取るような教育を目指す」と言っていましたね。ナニ考えてんだろ、と思いましたね。
▼それから、OECDの学力調査のたびに日本のメディアでは「フィンランドの教育に学べ」というような発言が報道されるけれど、何故か「韓国や台湾に学べ」という声は余り聞こえてこないんじゃありません?私が知らないだけなんでしょうか?
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世論調査だのアンケートだのというものが、本当にどの程度世の中の実態を反映しているのか、よく分からない けれど、数字が出て来るのでハナシのネタとしては扱いやすいし面白いですよね。例えば昨年(2006年)1月に英
国のMORIという機関が行ったアンケート調査は、Britain
Todayというタイトルにふさわしく、英国人の幸福感覚から 政治意識にいたるまで、非常に幅広い調査で、日本との共通点・相違点がいろいろ見えて楽しい。大衆紙、The
Sunからの要請で 行った調査なのですが、対象は1001人の成人、うち約280人が「週に少なくとも一度はThe
Sunを読む」という人た ちでありました。
英国人の考える「望ましい社会」(ideal
society)についてのアンケートは、テーマが「福祉」、「所得」、「教育」の3つ があって、それぞれに二つの「理想」が与えられ、「アナタの考える"理想の社会"に近いのはどちらですか?」とい
うのが設問になっています。カッコ内はThe
Sunの読者に限定した数字です。
社会福祉:AとBではどちらが望ましいか?
|
A)福祉が社会的・集団的に提供される社会
a society which emphasises the social and collective provision
of welfare
|
48%(47%) |
B)自分のことは自分で面倒見ることを奨励する社会
a society where individuals are encouraged to look after
themselves
|
46%(48%) |
日本でも議論が盛んな「大きな政府(A)」か「小さな政府(B)」かということですよね。殆ど半々というわけですが
、A)のグループが意外にがんばっているんだ、というのが私の感想です。サッチャーさんからこの方30年、 英国はもっぱらB)を走ってきた。これを称して「近代化」(modernisation)というわけですが、別名「ア
メリカ化」(Americanisation)でもある。おそらく世の中が動いている方向はB)なのだろうとは思いますが、A)は英国人たち
が自分たちの社会に対するコミュニティ感覚の表れだと思う。それが結構根強いということ。
所得の分配:CとDではどちらが望ましいか?
|
C)誰でも好きなだけ金を儲け、これを貯め込むことが許される社会
a society which allows people to make and keep as much money
as they can
|
46%(46%) |
D)誰にとっても似たような所得・報酬を大切にする社会
a society which emphasises similar incomes and rewards for
everyone
|
48%(50%) |
「平等社会」か、「自由競争社会」か?という議論ですよね。これもほぼ半々ですが、The
Sunの読 者に限ると、自由競争よりも、同じような生活レベルという方を大切と思ったいる人が少しだけ多い。これも英
国人のコミュニティ感覚の表れだと思うのですが、ご存知のとおりThe
SunはRupert
Murdochという社主のサッ チャー流保守主義の色彩が濃い新聞のはず。サッチャーさんの有名な言葉に「強欲であることは悪い事ではない」(There
is nothing wrong with greed)というのがあるのですが、読者の庶民感覚はD)ってことなんですかね。
教育の目的:EとFではどちらが望ましいか?
|
E)子供たちに幅広い一般的な教育を与える社会
a country in which the schools provide children with a wide-ranging
general education
|
68%(66%) |
F)子供たちに企業が望むような技能や態度を教える社会
a country in which the schools provide children with the particular
skills and attitudes wanted by employers today
|
29%(32%) |
ここがイチバンはっきり分かれましたね。やはり面白いのはThe Sunの読者のかなり多くが、技能教育よりも一
般教育が大切だと考えていることでしょうね。この場合のgeneral
educationとは具体的にどのような教育のこ とを言うのか、私にははっきり分からない。が、学校では職業訓練ではなくて、社会とか歴史などを教えること
が大切と考えている人が非常に多いってことですよね。20年前には、英国でも「そんなの甘い」と言われたもの ですがね。時代が変わって、The
Sunの読者も豊かになったということか?
▼これら3つのアンケートを通して見えるように思うのは、英国の人々は一般的に言って、ギスギスの競争社会
にはついていけないと感じているということなのでは?
MORIのアンケートには、「幸福度」調査も含まれています。個人の生活面での幸せ感覚です。「幸福」の定義は
ともかくとして、「アンタ、幸せ?」と聞かれれて、英国人は次のように答えたそうなのですが、それをアメリ カ人、日本人と比較すると次のようになる。
アメリカはGallup、日本はNTTナビスペースの調べで、いずれも昨年(2006年)行われたものです。
アンタ幸せ?
|
|
英国
|
アメリカ
|
日本
|
幸せ |
85%
|
96%
|
55.6%
|
不幸 |
7%
|
4%
|
21.7%
|
どちらでもない |
6%
|
--
|
21.1%
|
というわけで、偶然とはいえ、同じような時期に行われたアンケートにおける「幸福度比較」では、上から米・英・
日の順になり、「不幸度比較」では日本がダントツ、英米がかなり低いということになる。日本の「どちらでもない」を「幸せ」と勘定したとしても、「不幸」の21.7%は際立っていますね。
くどいようですが、私自 身は統計学者でも心理学者でもないので、「これらの数字が本当に信用性があるのか?」とか「幸福って何?」と
か言われると困ります。ただの遊びです、これは。
それにしても、日本と英米の間にこのような差が出るのは、何故なのでしょうか?物質的なことは関係ないと思います。昔は住宅環境の差なんてことが言われたものだし、今でもアメリカの住宅は大きくて立派かもしれないけれど、日本人は「ウサギ小屋」(こんなこと30年前に言われたものですよね)でも、それが理由で幸福だの不幸だのということはない(ですよね)。
▼で、「そんなアホな」と言われることを覚悟で言うと、私なりの答えは、英米においては、自分が不幸であると言うのは道徳的に間違っていると考えられているということでございます。日本人にはその種の道徳的制約はない。これは宗教・信仰と関係するのではないかってことなんです、私が言いたいのは。キリスト教(イスラム教やユダヤ教も多分同じ)社会では、神によって生かされているのだから、それを「不幸」だなんて許されない。日本人にはその種の宗教心はない。
▼つまり数字だけ見ると、何やら日本人は「不幸」のように見えるけれど、それは日本人の感覚が宗教だの神だのというものに影響されることが少なくて、自分に正直であるのに対して、「あちら」は、無理やり「幸せ」と言い張っているだけってことであります。
で、最初に挙げたMORIの調査に戻りますが、圧倒的多数の英国人が幸せだと思っているわけですが、あえて心配と思われる事柄を挙げて聞いてみると:
|
心配だ
|
心配ない
|
金がなくなること |
24%
|
32%
|
職を失うこと |
13%
|
48%
|
夫婦・恋人関係 |
8%
|
53%
|
年をとること |
8%
|
52%
|
年金のこと |
18%
|
51%
|
▼驚くべき数字だと思いませんか?金銭は別にして、リストラ、高齢化、年金、夫婦関係など、いずれをとって
も「心配なし」の方がはるかに高いのですよ。これらはいずれも個人的な事情にかかわるものです。それが「心配 なし」というのですから、結構じゃありませんか。
これらの数字を見ると「本当は日本人の方が幸せかも」なんて言えないな。
もちろん英国人だって心配事が何もないわけではない。「心配だ」が「心配ない」を上回るものをいくつか挙げてみると:
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心配だ
|
心配ない
|
子供のこと
|
21%
|
20%
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最近、他人への思いやりに欠ける人間が多い
|
30%
|
15%
|
子供をインターネット・ポルノから守る
|
38%
|
20%
|
子供をインターネットの小児性愛者から守る
|
44%
|
17%
|
どちらかというと「社会現象」としての心配事はある、というわけです。それと「子供」が絡んでくるんですね。インターネットが子供に及ぼす悪影
響を心配しているのは、おそらくどこの国の親も同じでしょう。「他人への思いやり・・・」というのは、アメリカ化に対する不満かも。
▼ここには挙げていないけれど、テロリズムについては、「心配:39%、心配なし:59%」で、案外心配していな
いんですね。この調査は、あのロンドン・テロの後に行われたのですが・・・。テロについては「心配してもしゃあ ないじゃん」というところなのかもしれない。何せ英国人は、あのIRAのテロも経験しているのですからね。「不幸慣れ」ってことか・・・。
▼最後に付け足しアンケートを二つばかり紹介しておくと、「英国には世界でもベストと思われる新聞がある(Britain
has some of the best newspapers in the world)」というステートメントについて、The
Sunの読者の72%が「賛成(agree)」と答えています(反対はたったの18%)。ホンマかいな!?
▼それから「真の英国人であるためには白人でなければならない(To
be truly British you have to be White)」というステートメントについてはthe
Sunの読者の91%が「反対」していますが、9%が「賛成」と答えているのは気になる。
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