最近「新たなる冷戦(new
cold war)」という言葉が盛んに使われるようになっています。いまや新たなる冷戦時代なのだという人もいるし、グルジアとロシアの戦争に関連して、メドベージェフ大統領が「冷戦もいとわない」というような発言までしている。
確かにロシアと欧米の対立めいた部分はいろいろとあるけれど、それはnew
cold warと呼ぶべき状況なのか?というわけで、The Economistの9月4日付け(ネット版)が、「冷戦」という言葉の定義について記事を載せています。タイトルはThe
new cold what?(新たなる冷・・・何だって?)。
そもそも「冷戦」なるものは、いつ始まって、いつ終わったのでしょうか?ソ連とアメリカという2つの超大国間の覇権争い(軍事的な覇権もあるし、思想的なそれもある)という意味での「冷戦」は、1948年のベルリン封鎖に始まり、1980年代に何となく消えていった(peter
out)というのが普通なのだそうです。
それが最近になってnew
cold warということが言われるようになった。アメリカのLexis-Nexisというデータベースによると、2001年9月〜2006年9月の5年間、世界中の主なる新聞や雑誌で"new
cold war"という言葉は1062回使われているけれど、2007年9月からのたった1年間で1861回も使われているのだそうです。
で、現在は本当にnew
cold warの時代なのでしょうか?ロシアが反米的なベネズエラだのイランだのと仲良くしようとしたりするということはあるけれど、かつての冷戦時代のように、アメリカとロシアが自分たちの国から何千キロも離れたところで代理戦争(朝鮮戦争やベトナム戦争など)をするという時代ではなくなったことははっきりしている、とThe
Economistは言います。現在のロシアと欧米の対立はもっぱらヨーロッパに近い旧ソ連圏でのトラブルをめぐるものであって、世界に広がるというようなものではない。何故か?
理由は簡単。地球規模で争うにはロシアが弱すぎるのである。ソ連は、とりあえず「超大国」のふりをすることはできた。でもロシアにはそれができない。中国と組むことで、マジメな意味での反欧米同盟を組むことは可能性としてはある。が、いまはそのようなことは起こっていないようである。The
reason is simple: Russia is too weak for global struggle. The
Soviet Union could at least pretend to be a superpower. Russia
cannot. In alliance with China, it might perhaps be able to form
a serious anti-western alliance. But that does not seem to be
happening.
The EconomistはAndrei
Piontkovskyというロシア人の評論家の意見として「ロシアと中国の同盟関係は、ウサギと大蛇(boa
constrictor)が同盟を組んだようなもの」というものを紹介しています。ロシアはウサギなのですが、boa
constrictor(中国のこと)は大蛇ではあるけれど、毒がない種類のものなのだそうです。つまりロシアは軍事力では「大したことない」のだそうであります。
さらに現在がnew cold
warの時代ではないことの例として、思想的な広がりがあります。かつての米ソ冷戦時代はソ連主導の国際共産主義運動が世界中の人々を捉えて離さなかったということがあり、共産主義という思想によって世界をつなぐということがあった。しかし現在のクレムリンに同情的・同調的な人は(The
Economistによると)、道徳に無関心な金融ビジネスマン(amoral
financiers)、何でもかんでもアメリカ嫌い(America-haters)、孤立主義の変人(isolationist
cranks)、そして反資本主義者(anti-capitalists)らであり、彼らが一堂に集まったらお互いに嫌い合うことは間違いない、というわけです。
軍事・思想以外に、ロシアがあらゆる分野で世界に組み込まれてしまっているということもある。ロシアの人々はソ連時代には考えられなかったような規模で世界中に出て行っているし、国内でもロシア人は自由な生活が楽しめる社会に生きている。
というわけで、現在がかつてのような意味やカタチでの冷戦の時代ではないかもしれない。が、new
cold warについて語ること自体は必ずしもバカなこととはいえない(talk
of a "new cold war" is not necessarily absurd)、とこの記事は言います。
かつての冷戦との類似点も幾つかはある。主なる舞台が中・東欧諸国であることもその一つ。違いはというと、ロシアがかつてような軍事的占領ではなく、経済的な影響力の行使というやり方をとっていることであり、中・東欧諸国はロシアに経済的に吸い込まれないように努力しているということである。
資本主義対共産主義という思想的な争いは、いまや価値観の衝突というものにとって代わられた。報道の自由とか選挙で勝つ可能性のある野党が存在しているということは、現代の経済に必要不可欠な要素といえるのかどうか?この問いに対して、西側はyes(必要だ)といい、ロシアはno(不必要だ)という。かつての冷戦においても、ロシア帝国主義はソ連の考え方の中で、目立たないかもしれないが、大きな役割を果たしていたのだ。いまや、それ(ロシア帝国主義)が復活したようでもある。実に困った状況であると言える。いまや悲しいことではあるが、こうした状況を表現するための厳しい表現が必要となっている。The
ideological struggle between capitalism and communism has been
replaced by a clash of values: are a free press and an opposition
that can win elections necessary parts of a modern economy? The
West says yes; Russia says no. Even in the old cold war, Russian
imperialism played a big if submerged role in Soviet thinking.
Now that seems back too. That’s nasty. And a nasty short-hand
term for it, sadly, is needed.
▼この最後の部分、私には分かりにくいですね。ロシア帝国主義って何ですか!?「価値観の衝突」というけれど、ロシアは社会主義時代のように「万国の労働者よ団結せよ!」と呼びかけているわけではない。ただ「主権民主主義」(sovereign
democracy)というわけで、「ロシアの土着の文化、伝統に即した民主主義を実施する」「もう西側のモデルを猿まねはしませんよ」と言っているにすぎない。北大の木村汎名誉教授によると「実に当たり前のこと」であります。こうなると、社会主義革命前のロシアの歴史も知る必要がある!?
▼いずれにしても、昔に比べるとロシアは、対欧米姿勢に関する限り「守り」の姿勢なのですよね。そういう意味でも、現在の米ロ対立はかつての冷戦とは違う。非常に皮肉だと思うのですが、自分たちの思想(価値観と言ってもいい)を押し付けるということだけを捉えるならば、現在はむしろアメリカや欧米の方が教条主義的かもしれないですよね。おそらくロシアから見れば、グルジアのサーカシビリ政権は、アメリカの傀儡政権なのでしょうね。かつてアメリカや日本が、北ベトナムや北朝鮮などをソ連の傀儡と考えたのと同じです。
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