英国の田園地帯(rural
areas)における住宅不足が深刻化しており、約70万人が購入・賃貸可能な住宅(affordable
housing)を求めてウェイティング・リストに載っている、とBBCサイト(9月29日)が伝えています。2003年当時の数字が50万人であったことを考えるとかなりの増加であります。
▼いきなり英語の翻訳の話になりますが、rural
areaを「田園地帯」とするのには自分でも抵抗を感じます。ひょっとすると「僻地」と訳した方が実態に近いのかもしれませんが、要するに都会でないところという意味とお考えください。それからaffordable
housingを「購入・賃貸可能な住宅」とやるのも、我ながら情けないのですが、これは賃貸であれ建て売りであれ「低価格の住宅」というような意味です。
日本では「田舎暮らしの勧め」とか言って、地方自治体が都市生活者を誘致したりしているけれど、BBCの報道によると、英国のrural
areasの場合、都会の金持ちや定年退職者が移住してきて、高値で家を購入するので、住宅価格が上がって地元の人の住む家が足りなくなっているということです。
例えばイングランド南西部にあるDorsetという田園地帯(ここは非常にきれいで、文字通り「田園地帯」)の場合、住宅価格が地元住民の平均年収の、何と15倍(!)にまで跳ね上がっている。全国住宅協会(National
Housing Federation)やイングランド田園地帯保護協会(CPRE:
Campaign to Protect Rural England)のような組織は、
- いますぐ手を打たないと、イングランドのrural
areasは「金持ち保護区」や別荘族が週末を過ごすプレイグラウンドのようになってしまう。そうなると、郵便局、学校、パブも消滅するだろう。利用者がいないのだから。Without
urgent action by ministers many of our villages are in danger
of becoming the preserve of the rich, and weekend playgrounds
for second home owners, with schools, pubs and post offices at
risk of closing because of a lack of customers.
と警告しています。この二つの組織が要求している対策の一つに、田園地帯に移住してくる都市生活者が、「社会住宅(social
housing)」を購入することを規制することがあります。social
housingというのは、非営利団体である全国住宅協会が、中央政府からの資金で建設する低所得者向けの住宅のこと。いわゆる公営住宅ではないので、地方自治体が購入者を規制することのできる住宅ではない。
住宅問題も含めて、英国のrural
areasが抱えるさまざまな問題に取り組むべく、2008年4月に自由民主党のMatthew
Taylorという国会議員がまとめた現状報告書(Living
Working Countryside)によると、都会から田園地帯へ移住した人の数は、過去10年間で約80万人にのぼり、これによってrural
areasの人口は7%増える結果になっている。都市部の人口増加率は3%だから、かなりの田舎志向ということになる。
このような傾向はこれからも続くのだそうで、統計局の調べでも、2028年には田舎人口は現在よりも16%増えるとされています。都市人口の増加率は9%と推定されている。Taylor議員は
- 都市人口の流入によって、田園地方に新しい職場が生まれるという可能性があり、そのことは田園地帯の経済にとっていいことではあるが、住宅不足という圧力はきわめて明らかだ。(there
is potential for new rural employment opportunities to be created
from these urban migrants that will benefit the rural economy
as a whole---but the pressure on limited housing supply is clear)
と言っています。
この報告書によると、rural
areasにおける平均年収は20,895ポンド(約400万円)で、都会での年収よりも4655ポンド低い。一方、rural
areasの平均住宅価格は、都市郊外部よりも8000ポンド高いのだそうです。給料が低くて住宅価格が高いのでは住宅を購入するのは難しいはずですよね。rural
areasで住宅を購入する人のうち、家を初めて買う人(first-time
buyer)は17%、都市部の場合はこれが33%になる。つまり都会で持っていた家を売ったお金で田舎に別の家を買うというケースが多いということですね。
▼日本とはまた違った問題を抱えているのが英国のrural areasであるようですが、このままだと地方がダメになるという危機感は共通しており、この種の問題に興味をお持ちの方にはLiving
Working Countrysideという報告書は大いに面白いのではないかと思います。ただしA4・200ページ以上あるのでダウンロードはタイヘンかも?
▼アメリカには、周囲を塀で囲まれたgated
communitiesというのが出来ていますね。ミドルクラスの人たちが暮らしているわけですが、イングランドの田園地帯で暮らす人たち自身がまともな住宅に住めない限り、イングランドの田舎は金持ちの通勤者か金持ちの定年退職者が暮らすgated
communitiesになってしまう、とTaylor議員は警告しています。
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