musasabi journal
発行:春海二郎・美耶子
第147号 2008年10月12日

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鳴き声

美耶子の言い分

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Helsingin Sanomatから

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フィンランドのマルッティ・アハティサーリ前大統領にノーベル平和賞が贈られることになりましたね。71才だそうで 、ヤフーのニュースによると、現在はロシアの領土になっているカレリア地方の生まれ。上の写真はアハティサーリ氏 が駐タンザニアの大使として赴任したときに撮影したもの (左から夫人・父親・息子・本人)。36才でフィンランドの大使としては最も若い大使だった、 とフィンランドのHelsingin Sanomat紙が伝えています。

 目次

1)英国国教会が結婚式の規制緩和


英国国教会(Church of England)傘下の教会(Anglican Church)で結婚式を挙げるための規制が緩和された、ということがBBCのサイトに出ておりました。日本の我々には関係ありませんが、英国社会の変化を反映していて面白い。

これまでAnglican Churchで挙式するには、花嫁か花婿がそれぞれの教区の住民であるだけではなく、定期的に礼拝に参加していること、というような条件があったのですが、法改正によって、「教区に6ヶ月居住したことがある」「その教区で洗礼を受けた」「両親や祖父母の誰かがその教区で結婚した」などの条件に合致すればAnglican Churchで式を挙げられることになったということであります。

今回の緩和の背景には、英国社会自体の移動性が激しくなり、昔のように生まれたところでずっと暮らすという人が少なくなったということがある。さらに、規制をもうけすぎて、結婚するカップルを教会から遠ざけてしまっているのではないか、という反省もあった。

イングランド全体で16000のAnglican Churchがあるのですが、BBCによると結婚式場として最も人気があったのは、SomersetOrchardleighという村にあるSt Mary's教会(写真)なのだそうです。美しい湖の近くにあって、電気も通じていないので、ロウソクをともして式を挙げたりするのが受けていたらしい。ここの教会は外部のカップルも受付けたのだそうです。

規制緩和をすると、美しい景色とかセッティングに恵まれた教会に式が集中して「ウェディング・ツーリズム」に繋がると懸念する向きもあるのですが、Church of Englandによると、すべての教会での結婚式収入は国教会全体で分け合うのだから、特定の教会だけが潤うということはないのだそうです。

今回の緩和について、レディング大司教のStephen Cottrellは、

  • 結婚というものをマジメに考える人々は、当然、結婚式もマジメな場所で行うことを望んでいます。それを提供できるのは教会だけ。教会だけが神の祝福を与えることができるのです。それがこれまでより容易になったということですね。

と歓迎のコメントを発表しています。Cottrell大司教はさらに「ゴルフ場やカントリーハウスから(挙式)ビジネスをいただくことになるかもしれない」とも言っております。

▼「神の祝福」もビジネスなんですね。

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2)イングランドの田舎が住宅不足

英国の田園地帯(rural areas)における住宅不足が深刻化しており、約70万人が購入・賃貸可能な住宅(affordable housing)を求めてウェイティング・リストに載っている、とBBCサイト(9月29日)が伝えています。2003年当時の数字が50万人であったことを考えるとかなりの増加であります。

▼いきなり英語の翻訳の話になりますが、rural areaを「田園地帯」とするのには自分でも抵抗を感じます。ひょっとすると「僻地」と訳した方が実態に近いのかもしれませんが、要するに都会でないところという意味とお考えください。それからaffordable housingを「購入・賃貸可能な住宅」とやるのも、我ながら情けないのですが、これは賃貸であれ建て売りであれ「低価格の住宅」というような意味です。

日本では「田舎暮らしの勧め」とか言って、地方自治体が都市生活者を誘致したりしているけれど、BBCの報道によると、英国のrural areasの場合、都会の金持ちや定年退職者が移住してきて、高値で家を購入するので、住宅価格が上がって地元の人の住む家が足りなくなっているということです。

例えばイングランド南西部にあるDorsetという田園地帯(ここは非常にきれいで、文字通り「田園地帯」)の場合、住宅価格が地元住民の平均年収の、何と15倍(!)にまで跳ね上がっている。全国住宅協会(National Housing Federation)やイングランド田園地帯保護協会(CPRE: Campaign to Protect Rural England)のような組織は、

  • いますぐ手を打たないと、イングランドのrural areasは「金持ち保護区」や別荘族が週末を過ごすプレイグラウンドのようになってしまう。そうなると、郵便局、学校、パブも消滅するだろう。利用者がいないのだから。Without urgent action by ministers many of our villages are in danger of becoming the preserve of the rich, and weekend playgrounds for second home owners, with schools, pubs and post offices at risk of closing because of a lack of customers.

と警告しています。この二つの組織が要求している対策の一つに、田園地帯に移住してくる都市生活者が、「社会住宅(social housing)」を購入することを規制することがあります。social housingというのは、非営利団体である全国住宅協会が、中央政府からの資金で建設する低所得者向けの住宅のこと。いわゆる公営住宅ではないので、地方自治体が購入者を規制することのできる住宅ではない。

住宅問題も含めて、英国のrural areasが抱えるさまざまな問題に取り組むべく、2008年4月に自由民主党のMatthew Taylorという国会議員がまとめた現状報告書(Living Working Countryside)によると、都会から田園地帯へ移住した人の数は、過去10年間で約80万人にのぼり、これによってrural areasの人口は7%増える結果になっている。都市部の人口増加率は3%だから、かなりの田舎志向ということになる。

このような傾向はこれからも続くのだそうで、統計局の調べでも、2028年には田舎人口は現在よりも16%増えるとされています。都市人口の増加率は9%と推定されている。Taylor議員は

  • 都市人口の流入によって、田園地方に新しい職場が生まれるという可能性があり、そのことは田園地帯の経済にとっていいことではあるが、住宅不足という圧力はきわめて明らかだ。(there is potential for new rural employment opportunities to be created from these urban migrants that will benefit the rural economy as a whole---but the pressure on limited housing supply is clear)

と言っています。

この報告書によると、rural areasにおける平均年収は20,895ポンド(約400万円)で、都会での年収よりも4655ポンド低い。一方、rural areasの平均住宅価格は、都市郊外部よりも8000ポンド高いのだそうです。給料が低くて住宅価格が高いのでは住宅を購入するのは難しいはずですよね。rural areasで住宅を購入する人のうち、家を初めて買う人(first-time buyer)は17%、都市部の場合はこれが33%になる。つまり都会で持っていた家を売ったお金で田舎に別の家を買うというケースが多いということですね。

▼日本とはまた違った問題を抱えているのが英国のrural areasであるようですが、このままだと地方がダメになるという危機感は共通しており、この種の問題に興味をお持ちの方にはLiving Working Countrysideという報告書は大いに面白いのではないかと思います。ただしA4・200ページ以上あるのでダウンロードはタイヘンかも?

▼アメリカには、周囲を塀で囲まれたgated communitiesというのが出来ていますね。ミドルクラスの人たちが暮らしているわけですが、イングランドの田園地帯で暮らす人たち自身がまともな住宅に住めない限り、イングランドの田舎は金持ちの通勤者か金持ちの定年退職者が暮らすgated communitiesになってしまう、とTaylor議員は警告しています。

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3)ウォール街の偽善


むささびジャーナル133号で紹介した『3兆ドルの戦争』という本の著者であるコロンビア大学のJoseph Stiglitz教授(2001年のノーベル経済学賞)によると、今回の金融危機は「市場は常に正しく、政府は常に間違っている(markets were always good and government always bad)」という考え方によって引き起こされた部分が大きいとのことです。

  • アメリカ社会が直面している重要な問題は、国家防衛であれ、環境保護であれ、能力のある政府なしには解決することはできない(key problems facing our society cannot be addressed without an effective government, whether it’s maintaining national security or protecting the environment

つまり、何ごともマーケットに任せておけばすべてうまく行くということはないということで、教授によると、あの大恐慌から学ぶべき教訓は、市場には自己調整能力というものがない(markets are not self-adjusting)ということだそうです。

Stiglitz教授はまた

  • 金融業界の不正直さがこのような状態を引き起こしたものであるが、ワシントン政府はそこから我々を導き出してくれるような能力はないようだ(Dishonesty in the finance sector dragged us here, and Washington looks ill-equipped to guide us out)

とも言っている。金融業界の不正直は「偽善的」と言ってもいい。すなわち、銀行は規制というと何でも拒否して、自由にさせろというくせに、自分たちにトラブルが起こると、急に政府による介入(救済)を要求したりする、という偽善です。

  • 環境経済学においては、汚染者がコストを払うという基本的な原則がある。フェアであるということもあるが、その方が効率的だからだ。ウォール街は、焦げ付きローンによってアメリカ経済を汚染したのだから、きれいにするためのコストもウォール街が払うべきなのだ(In environmental economics, there is a basic concept called the polluter pays principle. It is a matter of fairness, but also of efficiency. Wall Street has polluted our economy with toxic mortgages. It should now pay for the cleanup)

    ▼Stiglitz教授のエッセイは、Vanity Fairという雑誌の11月号のサイトに出ています。今回の金融危機をもたらしたのは誰なのか、ということと、教授なりの出口について語っているのですが、余りにも長すぎて要約するのは難しい。本文はここをクリックすると読むことができます。

    ▼教授はほかにもいろいろとエッセイを寄稿しており、それぞれめちゃくちゃに難しいというわけではなさそうなので、私も読んでみようと思います。http://www.josephstiglitz.com/をクリックするとリストが出ています。

    Stiglitz教授は、30年ほど前の1976年にノーベル経済学賞を受けたMilton Friedman教授の自由主義経済論を大いに批判しています。Friedmanの自由主義経済論はサッチャリズムだの小泉改革だのの理論的なツールを提供したわけですが、今回の金融危機ではかなり風当たりがきつくなっています。

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4)"オバマは発展途上の政治家?"(駐米英国大使の評価)


ワシントン駐在のシャインウォルド英国大使(Sir Nigel Sheinwald)が、ブラウン首相宛に送ったある手紙がDaily Telegraph紙(10月3日)にすっぱ抜かれて問題になっています。現在アメリカの大統領選挙を争っているバラク・オバマ候補が2ヶ月ほど前にロンドンを訪問したときに、この大使が事前にブラウン首相宛に送ったもの。その中でオバマ候補についての大使自身の評価を記しているのですが、中に余り芳しくない評価が含まれていることが問題になっている。例えば・・・:

  • オバマ政治も政策も未だに発展途上だ:Obama's politics and policies are still evolving
  • オバマは最近の大統領の中では、将来余り足跡を残さない大統領になるだろう:he will have less of a track record than any recent president
  • オバマをエリート主義者と呼ぶことは、必ずしもアンフェアではないし、冷たくて鈍感な人物であるかもしれない:Charges of elitism "are not entirely unfair" and he "maybe aloof, insensitive" at times
  • ヒラリー・クリントンを破ったのは運が良かったから。オバマの勢いに対応するのが余りにも遅すぎたというヒラリー陣営の組織に問題があったのだ。He was lucky that Hillary Clinton had such a bad organisation in the primary campaign, and took so long to respond to Obama's threat.
  • 討論会などでは退屈な人物となる可能性もある:he can be uninspiring e.g. in debates

Daily Telegraphの記事によると、ブラウン首相を始めとする政府首脳はヒラリーが勝つことを期待しており、オバマが候補者になったことにショックを受けていたとのことであります。

シャインウォルド大使(55才)は最近の駐米英国大使の中では「一番知られていない(lowest public profile of any recent British ambassador)」人物ではあるが、ブッシュ政権の内部には幅広い人脈を有している大使なのだそうです。ちなみにこの人が外務省入りしたのは、約30年前の1976年のことで、最初の仕事は日本担当課(Japan Desk)であったそうです。

ここをクリックすると問題の手紙の全文が出ているのですが、書き出しで「この手紙には微妙な判断・評価が含まれている。複写を制限し、内容は注意を以て保護すること」(This letter contains sensitive judgements. Please limit copying, and protect the contents carefully)と書かれているところまで、新聞に掲載されている。漏らす方も漏らす方ですが、記事にする新聞もすごいですね。

▼この記事について、ワシントンの英国大使館のスポークスマンは「コメントは控えたい」と語ったのだそうです。でしょうね。

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5)駐アフガニスタンの英国司令官と大使がギブアップ発言?

前回のむささびジャーナルで「アフガニスタンのベトナム化」という声があることをお伝えしました。それは主として、アフガニスタンでの米軍・NATO軍の攻撃が隣国のパキスタンにまで拡大しつつあるということの指摘だった。

どうやら米軍やNATO軍は、そもそもアフガニスタンの国内でさえもタリバンには勝てないのではないかという声も出始めたようであります。このような懐疑論が、現地にいる英国軍の司令官や駐アフガニスタンの英国大使の口から出始めている(と報じられている)のだから、ことは深刻であります。

10月5日付けのSunday Timesのサイトによると、英国軍のMark Carlton-Smith司令官が、現地視察を終えた後に

  • 我々はこの戦争に勝利することはないだろう。我々の戦いの目的は、(タリバンによる)反乱が戦略的にみて脅威とならないレベル即ちアフガニスタン軍によって対処できるようなレベルにまで引き下げることにある(We're not going to win this war. It's about reducing it to a manageable level of insurgency that's not a strategic threat and can be managed by the Afghan army

とコメントしたとのことです。英軍はアフガニスタン南部に展開しているのですが、これまでに死者32人、負傷者170人を出している。司令官は「銃砲ではなく、タリバンとの交渉によって紛争解決をはかるべきだ」と言っている。要するに「タリバンの軍事制圧などできっこない」と言っているようなものであります。

司令官のこの発言が報道される4日前の10月1日付けのカナダのCBCテレビのサイトが、カブール(アフガニスタンの首都)にいる英国大使(Sir Sherard Cowper-Coles)が、現地のフランス臨時大使に「アフガニスタン戦争は負けている」(the West's war against Taliban forces in Afghanistan is being lost)と語ったと伝えています。

この大使の発言は口頭で行われたものなのですが、フランス大使館からサルコジ大統領に暗号電報でパスされた。それをフランスの新聞がすっぱ抜いてしまったというわけです。CBCテレビのサイトによると、英国大使の発言要旨は次ぎのようになっている。

  • アフガニスタン国民は、汚職のひどいアフガニスタンのカルザイ政権を全く信用していない
  • 外国軍の存在そのものが、より効果的な政府の確立の妨げになっている
  • (欧米諸国が)追加の軍隊を送り込むことは、この国の将来の安定にとって逆効果(perverse effect)を生むことになる

というわけなのですが、この報道について英国外務省は「報道された見解は我々の考えを正確に反映していない」(the views quoted are not an accurate representation of our views)とコメントしているそうです。

駐アフガニスタン大使の発言について、10月2日付けのThe Times

  • 議論の余地がないのは、アフガニスタンにおけるNATO軍の軍事行動がうまくいっておらず、政策そのものが見直しを迫られているということだ。この点は大使も同じ意見だろう。(what is indisputable is the conclusion, certainly shared by Sir Sherard, that the NATO-led campaign in Afghanistan is not working and that the policy urgently needs to be reviewed)

というBeeston外信部長名の記事を掲載しています。

▼NHKのテレビを見ていたら、アフガニスタンとパキスタンのことの詳しい大学の先生が、「アフガニスタンでの「対テロ戦争」がパキスタンに飛び火していくと、やがてパキスタン自体がメタメタの破綻国家のようになり、パキスタンが所有している核兵器がテロリストの手に入る。それをアメリカに対して使う危険性がある、ということをアメリカが最も怖れている」と言っておりました。

▼アフガニスタン情勢は、9・11どころではない被害をアメリカ本土にもたらす危険性もはらんでいる(とアメリカ政府が考えている)ということですよね。つまり北朝鮮どころではないってことかもしれない。オサマ・ビン・ラディンには国際的なネットワークがあるけれど、金正日にはそんなものない。あえて怖ろしいといえば、北朝鮮の作り出す核兵器のようなものが、アルカイダのような組織の手に渡る。そうなるとアメリカ本土もあぶなくなってくる・・・ということですかね。いずれにしても、口だけは勇ましかったブッシュ政権も、もうお終いですね。

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6)むささびJの、どうでも英和辞典

A〜Zの総合索引はこちら

aboutおよそ

和製英語にもいろいろあるけれど、私が妙に気に入っているのが「アバウト」。"あいつは結構アバウトなんだよな"は、「大ざっぱ」「適当」「いい加減」などという意味で使われている(と思う)。つまり私のことでありますね。これをHe is an about guyなどと言っても通じっこない。で、アバウト人間である私が気になるのは、こういう「アバウト」は英語で何と言えばいいのかということ。いろいろ辞書を調べたのですが、これはという訳が出ていませんでした。どなたかご存知なら教えてくらはい。間接的な訳でいいのであれば、おそらくHe is not a man of precisionとか言えば意味は通じるとは思うけれど・・・。

basics基礎・基本

ここ30年ほどの英国の政治を語ろうとすると、どうしてもサッチャー首相(1979年〜1990年)とブレア首相(1997年〜2007年)の話になりがちですが、二人の間にジョン・メージャー時代 (1990〜1997年) があったのです。サッチャーもブレアも自己顕示欲の見本みたいな人たちだったけれど、メージャーさんは気のおけないお兄さんという感じだった。

そのメージャーさんが任期中に掲げたスローガンで、却って命取りになってしまったのがBack to Basics(基本に返ろう)というヤツです。1993年の保守党大会で党首として演説して

「いまこそ基本に返るときであります。自律と順法精神、他者への思いやり、自分と自分の家庭に対する責任を持つべきであって、国家に押しつけてはいけないのであります(It is time to get back to basics: to self-discipline and respect for the law, to consideration for others, to accepting responsibility for yourself and your family, and not shuffling it off on the state)」

と訴えた。なぜこれが命取りになったかというと、メージャーさんがこの演説をしたあとから、保守党内部で不倫だの汚職だのというスキャンダルが続出。「Back to Basicsが聞いて呆れる」と批判されてしまったということです。メージャーさんは「個人的な道徳ではなく、法と秩序のような保守党としての政策スローガンだったのに・・・」と言ったのですが、メディアの格好の餌食になってしまった。

coolかっこいい

ブレアさんの労働党政権ができた1997年ごろに英国のメディアがさんざ使ったフレーズとしてCool Britanniaというのがありましたね。「英国は若くて未来志向で、創造力に富む国なのだ」という政府のプロパガンダにメディアが乗ってしまった。「かっこいい国」というわけであります。

長年続いた保守党政権にとって代わって登場した労働党政権の売りはなんと言ってもブレア本人の若さだったから、保守党との違いを際立たせるという意図もあったのかもしれないけれど、おそらくもっと痛切だったのは英国という国の将来展望だったはずです。製造業では世界市場でやっていけないことがはっきりしており、金融・観光のようなサービス産業、デザイン、映画、音楽のようなソフト分野を振興しない限り英国に将来はないという「ビジョン」というか「危機感」のようなものが背後にあったように(私は)記憶しています。

しかし、Cool Britanniaというキャンペーンの最大の弱点は、それを推進していたのが政治家でありお役人であったということにある。世の中で最もクールでない人たちが音頭をとっていたということです。その頃のThe Economistが、ブレア政府のCool BritanniaについてNothing is sadder than trying too hard to be cool(一生懸命クールであろうと努力するくらい情けないことはない)という社説を掲載していたのを想い出します。cool・coolと言えば言うほどuncool(ダサい)になってしまう。本当にかっこいい人は、自分のことを「かっこいい」なんて言わないもんな。というわけで、Cool Britanniaもいつの間にか消えてしまった。

ところで日本のアニメやマンガが外国で受けているというので、クール・ジャパンを売り込もうというようなことを言っていたお役人や政治家がいましたよね。あんたらが口を出すのはやめた方がいいと思うけど・・・。

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7)むささびの鳴き声


▼日本人が4人もノーベル賞を受けたとかで、国中が大騒ぎになりました。新聞の号外まで出たそうですね。あの報道ぶりを見ると「報道」というよりも、最近ろくなことがなくて沈んでいる日本人を勇気づかせようというメディアの「善意の扇動」のようなものを感じてしまった。ちょっと気持ち悪い。

▼例によって「ひねくれコメント」ととられるかもしれないことを言わせてもらうと、受賞者の2人がアメリカの大学で暮らしているということは何を意味しているのかということも考えてしまったわけです。はっきり言ってアメリカの大学生活の方が快適なのですよね。物質的に豊かということもあるだろうし、人間関係が面倒でないということもあるかもしれない。それから何故か「やる気」にさせる雰囲気のようなものも・・・プロ野球のイチローや野茂が大リーグに行ってしまったことと、どこか共通しているような気がします。

▼で、Boston Globe紙のサイトを見ていたら、イグノーベル賞の記事が出ておりました。生物学賞を与えられたのは「イヌにたかるシラミの方が、ネコにたかるシラミよりもジャンプ力がある」ことを「証明」した研究者だった。医学賞は「値段の高いニセの避妊薬と安いけれどホンモノの避妊具薬を比較した結果、前者の方が効き目があることを証明」したビジネスマンに与えられたそうであります。

▼ノーベル賞には多分関係ないと思うけれど、中国・河南省の洛陽に住むRu Anting(漢字分からず)という人(無職・56才)の特技は、目から出る水で文字を書くということなんだそうです。習字ですな。カリグラフィー。左の写真はそのデモンストレーション。「目から出る水」と言っても涙には限らない。

▼この人の場合、なんと口から飲んだ水を目から出すという画期的な技術を持っているのであります。ただ出すんじゃない、目玉から約3メートルの高さまで水を吹き上げることもできるというんだから、凄いじゃありませんか。クジラだってそんなことできない。でも・・・目でおせんべを噛むってのは、多分むりだろな。とにかく、人間の目玉というのは凄い。「目は人間の眼(まなこ)なり」とはよく言ったもんです!(写真をクリックすると少しだけ大きくなります)。

▼最後にもう一つだけ。自民党の総裁候補者による記者会見の類について、NHKはいくらなんでもやりすぎだということを数回前の「むささびの鳴き声」で鳴かせてもらいましたよね。どうやら同じように考えていた人が結構いたと見えて、皆さんNHKに電話をして文句を言ったらしい。で、その種の抗議に対して「あれは自民党のPRなんです」と答えたスタッフがいたらしいのですね。NHKは、そのような答えをしたスタッフを「処分」したうえで、「冷静さを欠き、誤解を与える発言で視聴者におわびします」という謝罪のコメントを発表した、と新聞が伝えておりました。

▼おかしな話です。NHKが視聴者に謝罪すべきなのは、あのような番組を流したということについてであって、あれを「自民党のPRなんです」と言ったスタッフは、ちょっと正直すぎただけなのだから、処分なんかする必要がないと思うのでありますよ。処分するのなら、自民党のPRのために時間を割いてしまった番組担当者ではないんですか?

▼今回もお付き合いをいただき有難うございました。そろそろ寒くなります。ではまた。

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