|
musasabi journal 160 | |||||||
2009年4月12日 | ||||||||
メチャクチャ暖かいですね。年寄りには寒いよりもはマシですが。桜吹雪が舞う中を160回目のむささびジャーナルをお送りします。南半球はこれから秋ですか? |
||||||||
1)酒の値段の最低限を決めよう | ||||||||
この法案を検討している政府の医療アドバイザー、Sir Liam Donaldsonが考えている案は、1ユニットあたりの値段の最低限度を50ペンス(約75円)にしようというもの。1ユニットは10mlに相当するのですが、ユニットあたり50ペンスを最低限にすると、スーパーで売っているHardy's Merlotという安めのワインが4.29ポンドから4.90ポンドに、Boddington'sの4缶入りパックが2.99ポンドから3.40ポンドへと値上がりすることになるのだそうです。 世論調査機関のYouGovのサイトによると、酔っ払い運転で命を落とす人は毎年7000人、酒が原因の家庭内暴力事件が125,000件で、130万の子供が酒飲みの親によって虐待されている等々の数字が挙がっている・・・ということからすると、最低価格を設定して、余りたくさんのアルコールを買えなくするというのも悪い案ではないように見える。けれど批判意見もあることはある。「政府に酒の量まで決められてたまるか」という反発もあるし「政府の仕事は国民の飲み過ぎ規制ではなく、飲酒による暴力行為などから国民を守ることにあるはず」(it's no business of government to protect people from themselves: its job is rather to protect people from the harmful behaviour of others)というものもある。 さらにアルコールが余りにも値上がりすると、「穏健派の酒好き」(moderate drinkers)にしてみれば、静かにお酒を飲むという楽しみもなくなってしまう。英国の厚生労働省にあたる仕事・年金担当大臣(Work and Pensions Secretary)も「大多数の責任感のある人々を辛い目にあわせるようなことを推進するつもりはない」(we have no intention of going ahead with something that would punish the responsible majority)とコメントしています。ちなみに英国における成人の平均アルコール摂取量は、年間ワインに直すと120本だそうです。
|
||||||||
2)孫の世話にも政府の支援を! | ||||||||
この場合の「お金」というのは、もちろん政府による金銭的な支援という意味です。英国のファミリーの4世帯に1世帯、片親家族の2分の1が子供の世話をおばあちゃんやおじいちゃんに頼っており、祖父母の仕事を金額に直すと年間で総計39億ポンド(約6000億円)にあたると推定されるのだそうです。現在の不況下では、44%の親が保育園のような機関ではなく祖父母を頼りにせざるを得ないと答えている。 現在の法律では、保育園や登録済みの保育士(child minders)に子供を預ける場合にのみ、1週間、最高で300ポンドの公的支援を受けることができる。Grandparents Plusが主張しているのは、そのお金を祖父母も貰えるようにすべきだということです。 報告書はまた、働く祖父母に対しては孫の誕生後2週間の「祖父母休暇」(granny leave)とか、出勤時間に柔軟性を持たせるフレキシブル勤務も認めるように求めています。Grandparents PlusのSam Smethers理事長は次のようなコメントを発表している。
英国政府のこれまでの姿勢は、保育園や保育士のような公的なチャイルドケアを拡充することに重点を置いてきており、家族に対する税金の免除などについては消極的だった。実際、子育てをおじいちゃん、おばあちゃんに任せること自体への疑問を投げかける声もある。9年前(2000年)に発表されたMillennium Cohortという研究結果によると、3歳まで祖父母に育てられた子供たちは、保育園や保育士に預けられた子供に比べると社会性に欠けると同時に行儀も悪い(behavioural problems)とされていた。 で、今回のGrandparents Plusからの要求について、政府の児童問題担当大臣(Children’s Minister)は次のようにコメントしています。
つまりおじいちゃん、おばあちゃんが孫の面倒を見たからって、政府がそれを金銭的に支援するというものではないだろう、ってことですね。 The TimesにはUlla Grayさんという65才になるおばあちゃんのハナシが出ております。彼女は自宅近くの病院でパートをやっているのですが、18ヶ月と3才になる孫がおり、母親が働きに出ているので、パートの仕事を抜け出して孫の面倒を見ている。彼女は「孫の世話をすることが金銭的に認れられていないのはフェアでない」と言いながらも、
というわけで、政府からの手当てを受けることに伴うややこしい書類提出と政府によるプライバシーへの干渉には警戒心を持っているようであります。これはかなり英国人らしい。
|
||||||||
3)ダダをこねる子供(北朝鮮)は無視するのがイチバン? | ||||||||
また日本は、自国の領域内に侵入した場合はこれを打ち落とすと言っていたけれど、テポドン2は未だ正確とは程遠いものであり(far from accurate)、日本や韓国はむしろ北朝鮮が数多く有する中近距離ミサイルについて心配したほうがいい。さらに日本が迎撃したらこれを戦争行為(act of war)とみなす、と北朝鮮は主張していたけれど、北朝鮮政府の公式なレトリックによれば、日本は(北朝鮮を)再支配しようとしている国なのだ・・・とThe Economistは言っています。 冷静に考えれば、結局6カ国協議を再開することが重要なことなのだ(Calmer voices will now urge all sides to restart the six-party process)というわけで、
というのが、The Economistの結論です。
|
||||||||
4)アメリカ社会の変化を告げるブログメディア | ||||||||
アメリカの世論調査機関であるPew Researchの3月20日付けのサイトに「宗教・新聞・米国式ライフスタイルの終焉」(An End to Religion, Newspapers and the American Way of Life)という記事が出ています。これはアメリカ国内のブログや市民メディアのようなネット社会で、いま話題になっている事柄について調査した結果を報告しているもので、主要新聞やテレビのような「従来メディア」(traditional media)を見ているだけでは見えてこないかもしれない「アメリカ社会のいま」を知るために面白い記事なのではないかと思います。この調査は3月9日(月)〜13日(金)に期間を区切ってブログ・モニターを行ったものです。 まず「宗教」ですが、ブロガーたちが話題にしているのは、USA Today紙に掲載されたAmerican Religious Identification Survey(アメリカ人の宗教帰属意識調査)というもので、この調査によると「1990年以来、どの(キリスト教の)宗派も基盤を失っている(almost all religious denominations had lost ground since 1990)」のだそうです。1990年の時点では「どの宗派にも属さない」という人はわずか8%であったのに、約20年後のいまこれが15%にまで増えている。 こうした傾向を肯定的にとらえているブロガーもいるし、嘆かわしいという人もいるのですが、ブロガーたちの間では「宗教」が主なる議論のポイントになっているということ自体が注目に値する、とPew Researchは言っている。モニター期間中に「宗教」を話題にしたブログや市民メディアが全体の30%を占めていたのに対して、新聞などの主要メディアでは殆ど取り上げられていないのだそうで、ネットメディアと従来メディアの間の意識のギャップが注目される、というわけです。 次に経済危機に関連して「米国式ライフスタイル」。ネットジャーナリストが最も話題にしたのが、New York Timesのコラムニスト、Thomas Friedmanが書いたThe Inflection Is Near? というコラム(3月8日付けのサイトに掲載)だったのだそうです。「我々アメリカ人が作り上げた生活水準向上のやり方は、とても子供たちの代まで引き継がせることができるようなものではない(We created a way of raising standards of living that we can't possibly pass on to our children)」ということを主張するものだった。 「経済危機から立ち直った後でも、昔の贅沢三昧の生活をめざすべきではない」というのがFriedmanのメッセージなのですが、このコラムにはブロガーの多くが賛成しているようで、例えば
と主張するブロガーもいる、とPew Researchは紹介しています。 次に「新聞」です。ブロガーたちが取り上げたのは、3月11日付けのNew York Timesの記事で、シアトルの日刊紙、The Seattle Post-Intelligencerのプリント版が廃刊に追い込まれたと伝えるとともに、他の都市の新聞も苦戦していると伝えています。また雑誌のTIMEが掲載した「あぶない新聞10紙」(10 major newspapers most in danger of folding in the near future)のリストにもブロガーたちの関心が集まっている。 Pew Researchは、
と解説して、Sarah Strohmeyerという元新聞記者のブロガーによる次のような意見を紹介しています。
Pew Researchは、別のブロガーの「ジャーナリズムとしての尊厳と中身の質さえ保てれば、ディジタル・ニュースサイトは単に生き残るだけでなく、新たな読者層の構築のための絶好の機会を持つことにもなる(As long as the journalistic integrity and quality of content remains, these new all-digital news sites will not only survive, but hold a much better chance of building new audiences)」という意見も紹介しています。「そうすれば広告主もついてくるだろう」と言っています。
|
||||||||
5)ブログ論壇のと誕生と世論形成 | ||||||||
『ブログ論壇の誕生』(佐々木俊尚・文春新書)によると、2005年の郵政民営化選挙は、「団塊世代とロストジェネレーションの世代間対立が鮮明になった」選挙であったそうです。ロストジェネレーションというのは「1970年代に生まれ、就職氷河期を堪え忍び、格差社会にあえぎ、しかしインターネットを自由自在に操っている彼ら彼女ら」のことを言います。この選挙では2チャンネルというネットの世界で「小泉を支持しよう」という声が飛び交い、マスメディアが小泉さんを「ワンフレーズ政治」とバカにしたにもかかわらず、小泉・自民党が圧勝してしまった。佐々木さんによると、「マスメディア」は団塊世代の代表であり、この選挙は「マスメディアよりも、インターネット言論の方がリアルに強かったことを証明」した出来事であったというわけであります。 私(むささび)は、団塊世代よりもさらに前の世代に属するのでありますが、郵政選挙の小泉圧勝がネット世代のお陰であるというのは(恥ずかしながら)考えたことがありませんでした。同じ年にホリエモンのニッポン放送買収騒ぎがあって、ホリエモンは主要な新聞やテレビによる嘲笑や非難の対象になっていたけれど、インターネットのブログの世界では弁護士だの公認会計士だのという企業の買収のプロたちが新聞による「ライブドア報道の誤謬を検証」したりしていたのだそうです。これも知らんかった。 『ブログ論壇の誕生』は読んで字の如く、新聞・雑誌・テレビのような従来型のメディアではなく、インターネットという世界において「論壇」が形成されており、古い言論を支配していた団塊の世代と激しく対立しこれを乗り越えようとしている現状を解説しています。 著者は「論壇」なるものの形成の歴史から説き起こしています。論壇的なものの起源は17〜18世紀の英国のコーヒーハウスやフランスのカフェ社会などにある。その特徴はというと、「参加者の社会的な地位は度外視」「議論にタブーを設けない」「誰もが自由に討論に参加できる」ということにあった。ただ、それらの「論壇」は「誰もが討論をする能力を持っている」ことを前提に成立していた、いわばエリートたちの集まりであった。それが大衆社会になって、必ずしも討論能力などを持たない大衆が世論を形成するようになると、この種の論壇は衰退する。そして・・・
佐々木さんによると、ブログによる論壇は、アカデミズムとマスメディアに分断された世論形成の場を「ふたたびひっくり返して底からかき混ぜてしまう」可能性を秘めているのだそうです。面白いのは、このネット論壇というものが「社会的地位の度外視」「タブーなき言論」「参加のオープン性」の3点で、17世紀〜18世紀の西欧にあったコーヒーハウスとかカフェの世界と性質が全く同じものであるということです。 この本には「ブログは新聞を凌駕するか」という章があるのですが、その中で、「既存のマスコミが絶対に理解できない、かつ生理的にも受け付けられない」ブログの世界の特徴として「編集権を読者に委ねている」ということがあるのだそうです。つまり何かの出来事があった場合、既存メディアの人たちはそのニュース価値を決めるのは自分たちだと思い込んでいる。それがどの程度大切な出来事なのか、何故そうなのかはマスメディアが判断するのであって、読者や視聴者ではない・・・というわけで「マスコミはブログやSNSなど受け手の側が発信、編集するというのは生理的にも受け入れられない」とのことであります。 元新聞記者である佐々木さんによると、これまでの新聞社は数多くの専門記者を擁し、記者クラブ制度を利用して権力の内部に入り込むことで「一次情報を得る」ことでは卓越した力を発揮してきたけれど、それらの情報をもとにして組み立てる「論考・分析」に関しては、「旧来の価値観に基づいたステレオタイプな切り口の域を出ていない」とのことであります。具体的な例としては、
を挙げている。このような切り口は、「若いブロガーたちから見れば失笑の対象以外の何物でもない」とのことであり、ブロガーたちは、新聞社の記者のような取材力はないけれど、論考・分析の能力は極めて高く、論考・分析という点から見ると(日本では)いまや「ブログが新聞を凌駕している」とのことであります。
『ブログ論壇の誕生』は、既存のメディアの側が「ネット論壇に対する理解を深め、対等に渡り合う枠組みを作り直す」ことが必要であり、そこからマスメディアとブログ論壇が補完しあう「新たな言論の世界」が始まる・・・という文章で終わっています。なおこの本の末尾に、著者お勧めの「著名ブロガー」によるブログ・リストが掲載されています。 anti-monosの新メディア論 などなど。まだまだわんさとあります。私自身はこれまで読んだことがない。存在すら知らなかった。
|
||||||||
5)どうでも英和辞書 | ||||||||
A〜Zの総合索引はこちら | ||||||||
answer-phone:留守電 英国のある政府関係のウェブサイトに、これから英国へ来て生活する人のためのアドバイスというコーナーがあって、answer-phoneに残すべきメッセージ(「ただいま留守にしております・・・」という、あれ)についてダメな例として、I am not available to take the phone right now. Please leave your message...というのがありました。では望ましい例はというとNo one is available...(以下同じ)というものだった。違いは「留守にしております」という部分をI am not availableとやるのか、No one is availableにするのかということですね。何故I am not availableがダメかというと、電話をかけてきた相手に、「一人暮らし」であるということを宣伝することになり、これが犯罪に繋がる可能性がある、ということであります。 なりほどね。No oneにすれば、その家に何人いるのか分からないもんな。そこへ行くと主語なしの日本語は便利ですね。「ただいま留守にしております・・・」と言っても誰が留守にしているのかが分からない。もちろん何人なんて分かりっこない。 economical:経済的 英単語のハナシとなるとSir Ernest Gowersという人が書いたThe Complete Plain Wordsという本(Pelicanのペーパーバック)が古典ですね。その本によると、英国人でさえもeconomicalとeconomicを混同して使う人がいるのだそうです。economicalというのは価格などがお手ごろとか「安あがり」などという意味ですね。economical carとかeconomical airticketとか。economicは「経済上の」というわけで、経済危機はeconomic crisisとは言うけれどeconomical crisis(安上がりの危機)とは言わない。 同じように(英国人が)間違えるのがhistoricとhistoricalなんだそうですね。Sir Ernestが挙げる例文は、
このhistoricはもちろん間違い。historicは「歴史に残る」とか「画期的な」とか言う意味であり、historicalは、「歴史的な」とか「これまでの」とか言う意味。「歴史的な理由」は"historical reasons"が正解。つまりこのニュータウンには、昔から住宅を所有するような金持ちがいないってことなのでしょうね。この本の最後の版が出たのが1972年。当時の英国では国民の大多数が借家住まいだった。 war:戦争 warについては、いろいろな人がいろいろ言っておりますね。 19世紀のアメリカの批評家、Ambrose Birceという人によると
なのだそうであります。 戦争でもやらないと、アメリカ人は外国のことなど分かりっこないってことですね。これ、21世紀でも通じる皮肉かもしれない。少なくとも20世紀には通じておりました。ベトナムなんて国、アメリカ人は知らなかったはずですからね。
これはアラブの諺なのだそうであります。「この世は戦争によって始まったのであり、戦争を以て終わるであろう」というわけです。荒っぽいな、どうも。 やはりアルバート・アインシュタインの次のコメントがイチバンでしょう。
|
||||||||
6)むささびの鳴き声 | ||||||||
|
||||||||
|