第17号 2003年10月5日
home backnumbers むささびの鳴き声 美耶子のコラム
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皆様こんにちは。埼玉県はぐっと涼しくなって、もう夏はありません。北海道からの便りによると朝晩かなり冷え込むようになったそうです。それはともかく今年はプロ野球で阪神タイガースが優勝して何やら関西は大騒ぎになっているそうです。当方が暮らす町はというと西武ライオンズの町・・・当り前ですがシラケムードであります。

@イングリッシュオークの周辺:山梨県甲府市・山梨学院大学
Aブレア演説を機に英語の勉強をしよう!
B国民IDカードが内閣を二分
CHappy retirementは夢のまた夢、英国も年金危機
Dアルコールの飲みすぎ
EむささびMの<ワンちゃんの体内時計について>
FむささびJの受け売りフィンランド:公共の場でビールを飲むと罰金?
G編集後記


@イングリッシュオークの周辺:山梨県甲府市・山梨学院大学

甲府市にある山梨学院大学のキャンパスで「日英グリーン同盟」の植樹式が行われたのは2002年5月23日のことでした。以前の「むささびジャーナル」で広島県向島町にある英国人の戦争捕虜収容所のことをお知らせしました。向島町も山梨学院も植樹のテーマは第二次世界大戦における英国人捕虜の処遇と日英の「和解」がテーマという意味では似ています。違うのは山梨県甲府市に戦争捕虜の収容所があったわけではないということです。

私も含めた駐日英国大使館の「グリーン同盟チーム」がイングリッシュオークの植樹先募集活動のど真ん中にあった2001年8月、実はイングランドのスタフォードシャーというところにある国立記念森林公園で「日英和解の森」の開所記念として桜とイングリッシュオークが植えられる式典が行われていたのです。日英グリーン同盟にはちゃんと先輩プロジェクトがあったわけです。

そのプロジェクトを立ち上げたのがフィリップ・メイリンズなる人物で私(春海二郎)よりも20以上も年上の1919年生まれ。山梨学院における「日英グリーン同盟」の植樹式にはメイリンズもはるばる英国から参加して、同時に行われたシンポジウムに参加して「和解の森」のこと、彼自身の戦争体験や未来への展望を語りました。

「和解の森」の植樹活動は2001年に英国で行なわれた日英交流事業であるJapan 2001の公式行事の一つとして行なわれ「不幸にも敵として戦った日英両国民が、国境を越えて戦争を記憶し、あらゆる犠牲を思い起こし、和解し再会する場を両国民の手で作り上げよう」ということを意図して作られたものです。

日本軍との戦い

メイリンズは「日英和解の森」に関わることになった動機について、彼自身の日本軍との戦いの一こまを挙げています。それはビルマで彼の命令による攻撃で22人の若い日本兵が全員射殺されたということです。その日本兵の一人はメイリンズに向けて約4メートルという距離から発砲したのですが、弾丸が辛うじて脇にそれてメイリンズ本人は九死に一生を得たとのことです。

講演の中でメイリンズは自国が犯した過去の過ちについて極めて興味深い(と私が考える)発言をしています。ドイツが自らの「過去」について非常にオープンに語り継ぐという作業をしているのに対して、日本ではいまだに第二次世界大戦の真実について学校などで十分には語られていないという趣旨の批判があるということについての彼の見解です。 メイリンズは日本が「経済的に世界第2位の大国であり、(日本人は)その業績を誇りに思って下さい」として「過去を隠す必要などありません。過去の問題にオープンに余裕を持って接して欲しい」と言い、続けて「そうすることが、韓国や中国の信頼や友情を勝ち取る一助になる」と訴えています。

「過ち」は認めた方が気が楽

メイリンズはさらに英国人として、19世紀の英国が「他国以上に様々な人種や部族の人々を殺害したこと」をオープンに認めることによって「むしろ気が楽になる」とも語っています。彼は、英国がそのようなことを行なっていた当時、未だ生まれてもいなかったのだから「(自分には)責任がありません。が、私が過去についてそうであったと確信したならば、私にはそれを伝える責任があります。そうすることで人々が私を信頼してくれると思うのです」と言っています。

私が彼のこの発言を「興味深い」と思ったのは、過去において英国が犯した過ちについて、はっきり認めた方が「気が楽になる」(I feel better as a British citizen to admit the truth quite openly…)という言い方をしている点です。19世紀の英国が中国を始めとする外国で犯した諸々については、自分が生まれていなかったのだから責任はないけれど、伝える責任はあるとも言っています。私には彼のこうした姿勢が極めて「英国的」と写ります。人間どの道、どこかで過ちは犯すものだ・・・という前提に立っているということで、このあたりに私なりに解釈する「英国的」な部分があるように思えてならないということです。

メイリンズの「和解の森」企画を助けて日本側の連絡担当となったのが、山梨学院大学の小菅信子教授です。大学時代の研究テーマが「戦争捕虜」のことであったのがきっかけで、関わるようになったとのことで、英国に対する「憧憬や愛着」があったわけではないし、「和解」というテーマについてもとりたてて強い「思想的・宗教的基盤があったわけではない」そうです

回復と再創造のための「協働の場」を

では何故、単なる「研究者」の立場を超えてメイリンズを助ける「活動家」にまでなってしまったのか?そのことについて小菅教授は、教授自身がメイリンズと同じ時期にこの世に生まれ、「ビルマの戦場で、互いに憎み合い蔑みあい、殺し合う自分のイメージが、日英和解について行動し、語ろうとする時の原風景となった」と語っています。この「原風景」にこだわって(日本人と英国人が)理解しあうことは「歴史が我々に与えた特権であり、この特権を享受するために義務を果たさなければならない」と教授は主張しています。スタッフォードの「和解の森」も日英グリーン同盟もそのような「特権」を行使するためにきっかけとなって欲しいというのが小菅教授の願いであるようです。

小菅教授は「21世紀は回復と再創造の時代」であると言い、「戦争や紛争によって分かれた人と人の関係の回復、自然破壊によって損なわれたヒトと自然の関係の回復」を訴えており、それは「机上で考えるだけでは実現しない」としています。そして「他者への共感や十分議論された理念」に基づく「協働の場」を創造することが「より確かな未来につながる」と結論しています。

姉妹樹

山梨学院に植えられたイングリッシュオークはスタッフォードに植えられた桜やオークの「姉妹樹」と命名されました。姉妹都市というのは聞いたことがありますが、「姉妹樹」というのは聞いたことがない。姉妹都市の場合は、実際に人の往来があったりして、それなりの「実績」のようなものが目に見える形で現れますが、姉妹樹の場合は、これを植えた人々がそれを意識しない限り、「単なる木」に過ぎません。人間の想いとは全く無関係に、オークと桜は(自然のいたずらで枯れてしまわない限り)大きくなって、人間はその木陰で休んだり、お花見大会でカラオケを楽しんだりするでしょう。それらの樹木が他の樹木とは生い立ちが違うということは、人間が伝えようとしない限り誰にも分からない。すべては人間しだいということです。

尤も山梨学院の場合、オークの近くに大きな石があってそこに記念のプレートがはめ込まれています。これは間違いなく100年はもちます。それが「協働の場」を創るためのきっかにでもなってくれればイングリッシュオークもはるばる英国から運ばれてきた甲斐があろうというものです。

なお小菅信子教授は木畑洋一(東大教授)、フィリップ・トウル(ケンブリッジ大学教授)との共同編集で「戦争の記憶と捕虜問題」という本を出されています。東京大学出版会発行で定価4200円(税別)。興味のある方はご一読を。

小菅教授のサイト:http://homepage3.nifty.com/NobukoMargaretKosuge/

2. ブレア演説で英語の勉強をしよう!

先ごろボーンマスで行われた労働党大会におけるブレア首相の演説については日本でも報道されました。特に「イラク」については「サダムを追放したことは絶対に正しい」と言い切っていたことについては日本の新聞やテレビでも報道されました。 私なんかが何か言ってもどうってことありませんが(だから言えるのです)BBCで聞いていて特に「イラク」の部分については「もう聞き飽きた」という気がしないでもなかったですね。大量破壊兵器は見つかっていないけれど、それよりもあの独裁者を追放したのだから、あの行動は絶対正しかった・・・という主張です。

ブレアの演説については参加した労働党の関係者の間も賛否両論であったようです。BBC が伝えるところによると、デニス・マクシェーン欧州担当大臣はこれを絶賛「あれほど長いstanding ovationは初めてだった」としながらYes, we've got problems, but we are uniting around the government of Tony Blair(課題はいろいろあるが、ブレア政府の下で我々が団結していることを確認した)と語っています。大臣だからこの発言は当り前か。

批判的な意見を幾つか紹介すると、ハリファックス選出でイラク戦争に反対の立場をとった議員は

「(あの演説は)この金魚鉢の中では受けるかもしれないが、一歩外へ出ると(ブレアの政策は)全く受けていない」"That might be all right here in the goldfish bowl, but when I go out on the doorsteps out there in the real world, these things are deeply unpopular.

と言っています。党大会の仲間内でのやり取りついてgoldfish bowlという言い方をしています。「井の中の蛙」じゃなくて「金魚鉢の中の金魚」なんですね。英語の勉強になりました。いつか使ってみよう。

もう一人の労働党議員は

"I'm sorry to say that I found the speech rather embarrassing."
(あの演説は聞いていて恥ずかしい)

と言っています。Embarrassingとは穏やかでない。これくらい酷い「けなし言葉」はないのでは?これも英語の勉強。

自由民主党のケネディ党首が批判的なのは当り前ですが、それをどのように表現しているのかというと

"The prime minister seems to believe that listening to people's concern is to retreat. It is not. Tony Blair should lecture less and listen more."

となります。「首相は国民の声に耳を傾けることは後退することだと思っているようですね。違うんですよね。トニー・ブレアはご宣託をたれるのは止めてもっと人の意見を聞くことです」というわけ。lecture less and listen more・・・これもいい英語の勉強になってしまった!?

で、ブレア首相の演説原稿はhttp://www.labour.org.uk/tbbournemouth/ に出ています。英語の勉強にするには少し長すぎるかもしれませんよ。

3. 国民IDカードが内閣を二分


現在ブレア内閣の意見を二分してしまっている問題に「国民IDカード」の発行があります。テロリストや違法移民の締め出し対策の一つとしてデイビッド・ブランケット内務大臣が推しているもので、内閣府の国内問題委員会が検討しています。11月までには合意にこぎつけたいというのが推進派(ブレア首相も含む)の姿勢です。

名前・住所・写真・免許証番号などの基礎情報はもとより指紋まで入れようという案もあります。プレスコット副首相やリード保健大臣も推進派です。 反対派(懐疑派も含めて)の筆頭はゴードン・ブラウン大蔵大臣で、移民は(合法であれ違法であれ)英国経済の成長に大きく寄与しており、これを取り締まる理由は何もないし、そんなことのためには1ペニー出す気はないと思っているとThe Economistが伝えています。貿易産業大臣のパトリシア・ヒューイットも反対派で、理由は個人の自由の侵害につながるとしています。彼女は元々人権保護組織にいたそうですね。

また左派的シンクタンクとされるCharter88という組織もこれに反対の声をあげています。「9月11日のテロリストたちはみんな合法的なペーパーを持っていたのだから、身分証明書など作ってもテロを抑えることにはならない」としており、むしろ個人の市民的自由の侵害につながる危険性の方が大きいとして「諸外国にはIDカードを発行しているところもあるが、それらの国は成文憲法で市民の自由が保障されている。英国にはそれがない」と語っています。

The Economistによると国民の8割がこれに賛成しているらしいのですが、それも「自分らに金銭的な負担がかかるのならなくてもいい」という姿勢が多いらしい。で、内務省の試算によると、ごく普通のプラスチックのカードを作ったとすると13億ポンド。指紋入りのような手の込んだものの場合、30億ポンドもかかってしまう。国民一人あたりの負担は少なくとも40ポンドにはなるとされています。ブランケット大臣は自信大ありなのだそうです。

4. Happy retirementは夢のまた夢、英国も年金の危機


英国の通信社PAが伝えるところによると、JPモーガン・フレミングという会社の調べでは現在の英国で定年退職したあとで支給される年金額が最終給料の半分に達する人は、4人に一人の26・5%だそうです。7年前の1996年ではこれが43・2%だったことを考えると急激な落ちであると言えます。にもかかわらず59%の人々が自分の年金が「少なくとも給料の半分」であると考えているとか。しかも43%のがリタイヤー後のための貯蓄を全くしていないらしい。
平均的英国人は退職後に大体19000ポンドの年金を貰えると思っているそうなのですが、これは英国人の平均的給料の77%にあたるのだそうです。しかし半数以上の人々にとって現実の年金額は最終給料の40%以下になるというのがこの会社の計算です。JPモーガンによると定年後に「快適な生活」が保障される人の数は急速に減っているのですが、一番の問題点は国民の「期待と現実」の間に極めて大きな隔たりがあるということだそうです。

今年の8月の世論調査によると、南西イングランド(比較的裕福とされている)で快適な退職生活(comfortable retirement)ができると思っている人はわずか26%。97年の61%に比べると大変な落ち込みです。 英国における年金の最大の問題は、国民が余りにも貯蓄をしなさ過ぎるということにあり、「この傾向が逆にならない限り事態が好転することは絶対にない」とされています。

5. アルコールの飲みすぎ


英国内務省の調べによると英国人はヨーロッパでもイチバンののんべえだそうです。男性の10人に4人、女性の22%が一度の機会にワインを少なくとも一ボトルあけてしまうのですが、フランス人の場合はこの割合が男で9%、女で5%であるそうで、かなりのギャップがありますね。
アルコールを飲む量についての言葉で「ユニット」というのが何を指すのか(私には)分からないのですが、英国男性の3分の1、女性の5分の1が「適量」とされる1週間に21ユニット(男性)・14ユニット(女性)を超えているそうです。

内務省では麻薬防止と同じような啓蒙活動を展開する方針だそうですが、さらに心配なのは子供のアルコール摂取量が増えているということ。1996年にAlcopopなるアルコール飲料が市場に出て以来11歳から15歳までの子供のAlcopop消費量は63%も増えています。 アルコールに絡んだ暴力沙汰は年間120万件。特に週末の夜中から午前5時の間に病院に運び込まれる人の7割がこれに当たるという数字もあります。さらに80万から130万人の子供がアルコール好き両親を持つ事による「問題」を抱えているという調査もあります。

 6)むささびMの<ワンちゃんの体内時計について>
 
私は毎朝4時頃目を覚ます。随分早起きだなあと思われるかもしれないが、正確に言うと、「起こされる」のである。誰に・・・?我が家のワンちゃんにである。彼等が小さい時から私は彼らに毎朝「おめざ」のミルクをあげているのだが、始めた頃はせいぜい6時ぐらいだった。しかし次第に彼等は自分でおめざの時刻を設定してしまった。そして、その時刻を毎朝彼等は時計も見ずに分かってしまうのだ!
しかも、ウチにいる4人(?)のワンちゃん全員にではなく、必ず決まった二人のどちらかに4時頃に起こされるというのが面白い。あとの二人は、朝の起きる時刻に関してはほとんど無頓着で、「誰かが起きたら自分も起きてミルクをもらおう・・・」という感じで寝ているのである。 大体4時ごろなのだが、それが続けて何日も「分単位」まですっかり同じ時刻(例えば4時3分きっかりを3日連続でとか)に私を起こすのを何度も経験していると、何なんだこれは!と彼らの持っている超能力にただただ敬服してしまう。

朝起きる時刻に無頓着な二人のうちの一人は、別の時刻になると、朝の二人がポケっとしているのに、やたら耳をすまして「この時刻には外から人が一人帰って来るはずだ!」と確信している如く遠くを見るような眼で、玄関の方に顔を向けて真面目な顔付きで座って待つのだ。帰って来る人物は我が家の主人、私の夫である。その様子が実に犬らしくて私は惚れ惚れしてしまう。主人がその時刻にすでに家に居る場合には、彼(そのワンちゃん)はそのアクションをしないので、明らかに頭の中で主人を想定していることが分かる。

朝に関して私が面白いと思うのは、彼らの体内時計も狂うことがあるという点だ。一つは前日走り回り過ぎて体力を使った時。もう一つは冬から春への変わり目の時季。つまり、「前日の動き過ぎ」や「春眠暁を覚えず」は人間だけではないのだと考えると、彼らがますます仲間に思えて来て愉快になる。

「仲間に思える」と言えばもう一つ彼らには私との共通点がある。「こだわり」である。彼等の行動を観察していると、細かいところに彼等なりのこだわりを其々が持っているのが分かって、益々「仲間に思えて」きてしまう。ものを使い終わったら必ず元のところに戻す、目的地が同じならそこへ行くのにはいつも同じ道を通る、一旦決めた事はなるべくこだわって長く続けるなど、、、。「こだわり」は生き物に与えられた立派な自己防衛手段のひとつなのだと、私自身は思っている。

7) むささびJの受け売りフィンランド:公共の場でビールを飲むと罰金?

日刊紙Helsingin Sanomatによると、このほどフィンランドで「公共秩序法」という法律が施行され、公共の場における「好ましからぬ行為」はビシバシ取り締まられることになったそうであります。
例えば:
1. ビールもしくはそれよりもアルコール度が強いとされる飲料を飲むこと、
2. 小便・大便をすること、
3. 理由なしに目潰しスプレーの類を所持すること、
4. 飼犬を鎖から放してしまうこと、
5. ジョギング・トラックを馬で走ること・・・。

まあ当然でしょうね。5番目の罰則から察するにフィンランドにはマラソンだけをするための運動場のようなものがあるのでしょうね。2番目に付いて言うと、ヘルシンキなどでは結構立ち小便が多いらしいですね。寒い夜にビールなんか飲んだらたちどころです。で、上記の違反をすると20ユーロ(約3000円)の罰金だそうです。 それから「自宅の屋根に積もった雪や氷を取り除かないままにしておく」ことも違反の対象になり罰金50ユーロが課せられる。これはキツイ。売春・買春行為も50ユーロの罰金です。この法律で言う「公共の場」とは公園、街中の道路、駅などなど、要するに多くの人々が集まりそうなところということです。

 G編集後記

 10月になってしまいました。あと3ヶ月で2003年も終わりなのですね。丸々7ヶ月間、このむささびジャーナルを送ってきました。途中参加の方も含めてお付き合いを頂き本当に有難うございます。あと3回出すと「20号記念」です。そこまではとりあえずお付き合いください!