第4号 2003年4月6日
home backnumbers むささびの鳴き声 美耶子のコラム
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1) ロンドンの渋滞税
2)新聞業界が苦しい
3)Googleに見る「嫌米?感覚」
4) イラク:英国の意見・アメリカの意見
5) ロビン・クック「辞任」を語る
6) 短信」:殆どどうでもいい話題のコレクション
7) むささびMの「イヌ達はどうやって自分の名前を覚えたのだろう?」
8) むささびJの「受け売りフィンランド論」
9) ここだけバイリンガル: Red Tape for Red Bus
10)編集後記
1) ロンドンの渋滞税

東京の交通渋滞を緩和するために都心に乗り入れる車から料金を徴収するというアイデアを石原慎太郎・東京都知事 採用しようとしていますね。あれ、日本語で何というのでしたっけ?渋滞税だったかな?英語ではcongestion chargeというのだそうですが、これがロンドンで結構うまくいっているそうです。

午前7時から午後6時半の間の時間帯に都心に乗り入れる車は一日5ポント(1000円弱)のお金を払うというもので、2月17日から始まったのですが、お陰で交通量が20%減って、渋滞による遅れも30%近く緩和されたんだそうです。分かりやすい数字でいうとこれまで時速15キロという情けない速さで走っていたエリアが30キロを超える速さで走れるようになった。あの2階建バスの遅延も半分に減ったことから利用者が14%も増えたという数字もあります。

リビングストン市長にとって唯一の「誤算」といえば、都心に車で来る人の数が少なくなったので(つまり制度が成功しすぎて)、congestion chargeによる見入りが思ったほどでないということらしいです。最初の一月の見入りが950万ポンドで、この分だと年間1億ポンド(約180億円)の目算には到達しない可能性が高いとのことです。

走る車のナンバープレートを読み取る装置で請求書が送られてくるらしいのですが、中には数は少ないながらも、払わないでとぼけている人もいるらしい。そんな人は罰金として80ポンド払わなければなりません。約2万円。素直に渋滞税を払った方が得のようです。

2)新聞業界が苦しい

英国の新聞業界が苦戦しています。Economistの記事によるとThe Times, The Sun, The Sunday Timesなどの新聞を有しているあのルパート・マードック・グループの収益が殆ど40%も落ち込んでいるそうです。苦戦の原因は広告収入の落ち込みで、例えばあのFinancial Timesでさえも2001年に前年比20%落ち込んだかと思うと、2002年にはさらに23%もダウン。これは確かにきつい。

何故広告収入が落ちたかというと、新聞を読む人の数が減っていることで、広告主が新聞を以前ほどには有力な媒体と思わなくなったということです。 英国の日刊紙の総発行部数が90年には4000万だったのが、昨年は3000万を少し上回っただけ。大変な減り方です。新聞業界にとって最大の問題点は若者が新聞を読まなくなったということ。24歳以下の若者の読者はこの10年間で3分の1も減ってしまったそうです。最近の若者はニュースを新聞で読むのではなくてラジオで聞いたり、テレビやインターネットで見たりするようになっているとのことですが、これはどこも同じでしょうね。

英国の全国紙で一番発行部数が多いのは大衆紙のThe Sun。何部くらい出ていると思いますか?362万部だそうです。一番少ないのはThe Independentという「高級紙」の19万部。日本の場合はというと読売新聞が1000万部(!)で夕刊フジというタブロイド紙が大体100万部と聞いたことがあります。

面白いのは英国の場合、ごく普通の人が読む「大衆紙」とインテリが読む「高級紙」の読者がはっきりと分かれているということですね。日本の場合は家では朝日だの毎日だのを読むお父さんが駅では日刊スポーツとか夕刊フジを買って読むのは当たり前のことです。英国のジャーナリストに聞いたことがあるのですが、常日頃「高級紙」を読む人が何かの拍子に「大衆紙」を読むことはあっても、いつもは「大衆紙」を読んでいる人が「高級紙」を読むということは「絶対にない」とのことでありました。

3)Googleに見る「嫌米?感覚」

前回、英国人の対米観について書きましたが、3月1日付けのEconomistがアメリカ人の対ヨーロッパ観について面白い記事を掲載しています。インターネットのgoogleサーチエンジンで調べたところ「ヨーロッパ嫌い」というニュアンスのヒット件数は401件であったのに対して、ヨーロッパにおける「アメリカ嫌い」のヒット件数は何と22,3000件もあったそうです。

で、この記事を読んだカナダ人の読者がオモシロ半分でカナダ人とメキシコ人(両方ともアメリカと国境を接している)について、googleであたってみたところ「アメリカ人のカナダ嫌い」というのが56件であったのに比べて「カナダ人のアメリカ嫌い」については9310件もあった。メキシコにおける「反米」のヒット数が5650件、アメリカにおける「反メキシコ」のヒット件数はたったの8件だったとのことです。

このカナダ人は反米ヒット件数を人口で割って計算した結果として「国民一人当たりの反米率でいうとカナダはヨーロッパの10倍である」として、ヨーロッパ人に対して「あんたらは大西洋を挟んでいる。我々は隣なんだ、贅沢言うな」とおっしゃっております。

4) イラク:英国の意見・アメリカの意見

The tragedy of this unequal partnership:

3月30日付けのObserverに掲載されたWill Huttonという人の論文。「ブレアはアメリカの新保守主義者と手を組むことで、政治家として最悪の誤りを犯した」としています。彼の意見では英国の将来はヨーロッパ以外にないということで、ブレアもそのつもりであった筈なのが、イラクで完全に狂ってしまったとしています。彼に言われるまでもなく、ブレアさんは現在のところ保守党の方に受けがいいわけで、メディアも本来ブレアとは敵対しているDaily Telegraphのような新聞が彼を支持しています。奇妙な事態です。

Why is Britain so committed to this war? :

前回も掲載したジャーナリスト、アンソニー・サンプソンのエッセイですが、これは2月16日付けのObserverに掲載されたものです。アメリカの意図を中東に「アメリカ流の民主的な選挙で選ばれた政府を作ろうとしている」として「そのような民主的な選挙が西側の利益に繋がると考えるとすれば極めてナイーブである。怒れるアラブの若者達はこれまで以上にラディカルなイスラム教の候補に投票して、これまで以上に反西側の政府を形成することになるだろう」としています。筆者はこのようなアメリカのやり方がうまくいかないことは英国の外交官なら皆知っていると言っており、将来、英国人は「何ゆえに英国はこの戦争にここまで肩入れしてしまったのか?」と自問自答することになるだろうと警告しています。

Bush and Europe: it's a Reagan redux:

これはアメリカの雑誌Businessweekの3月31日付けに掲載されたもの。アメリカは孤立主義者ではないし、(イラク戦争では)孤立もしていない。他の国の意見を聞くことは必要であるが、ヨーロッパの反米的マスコミの意見を尊重する必要はない。アメリカには新しい同盟国がある…という趣旨の短い記事です。

5) ロビン・クック「辞任」を語る


政府のイラク政策に反対して辞任したロビン・クック院内総務(元外務大臣)が3月23日付けObserver紙とのインタビューに応じて辞任の胸のうちを語っています。「超大国でない英国にとって国連のような国際機関の機能を弱めることは大いに国益に反している」「英国の将来はヨーロッパの中で"一つのヨーロッパ"として発言力を発揮するためのリーダーシップをとることにある」として、ブレア首相がアメリカと行動をともにするにいたったことについては次のように語っています。

'Tony genuinely believed he could deliver unity behind the US for confrontation and that this unity in itself would produce sufficient progress on the part of Iraq that would have averted war,' Cook said. 'One of the reasons we didn't get that unity was because people felt that there was an impatience on the part of America to push the pace at which other countries would not readily go.

つまり「ブレア首相は(イラクとの対決に向けて)アメリカを支持する団結を自分が作り出せるということ、そしてその団結がイラク側を動かして戦争を回避することに繋がるということを本気で信じていた。何故ブレア首相の思うように行かなかったのかというと、アメリカが余りにも短気にことを進めたために他の国がついていけなかったのだ」と言うことです。 そして今後の英米関係については

'One lesson is that although we must maintain our traditional alliance with America while it has an administration which does not share our world view or our values we have to make sure that we keep enough distance, that there is an option for Britain to come to a different conclusion.'

「これまでの同盟関係は保つべきではあるが、我々と世界観や価値観を共有しない場合は(アメリカとも)距離を保つことが必要である」と語っています。 ところでロビン・クック以外にクレア・ショート国際開発大臣も戦争に反対して「辞任」をほのめかしながら、ブレア首相の説得に応じて結局内閣にとどまったのですが、このあたりのことについて、クック氏は「自分に比べると説得に弱いと思われたのではないか」(I think you put your efforts into persuading people you think are open to persuasion)というニュアンスの発言をしています。

6) 短信」:殆どどうでもいい話題のコレクション

いじめ町長に罰が下った

ドイツにあるRehauという町の町長が給料を向こう4年間、4分の1にカットされる命令を裁判所から受けてしまった。職員に対する「いじめ」が原因。どんないじめをしたのかというと、職員がトイレに行くたびに外でストップウォッチを持ってトイレの外に立って時間を計ったり、女子職員に「太りすぎだからダイエットをしろ」と命令したり…。で、職員からの訴えで裁判所から下った命令は給料カットはもちろんだが、こんどいじめをやったら直ちにクビにするというものだった。ま、しゃあないやな。

94歳が恋人募集!?

中国のNanguo City Newsという新聞の伝えるところによると、地元に住む94歳の男性がお見合い相談所を通じて「恋人」を募集しているらしい。彼が求めているのは「容姿端麗で財政的に安定しており、60歳以下」の女性であるが、94歳の男性は「恋人になって欲しいだけで結婚はしたくない」としている。その理由として「まだ束縛されたくない」ということをあげている。お見合い相談所では彼の求めに応じて広告を掲載したのであるが「今のところ応募者はいない」とコメントしている。誰がアンタなんかソクバクしてやるもんかっつうの!

じゃんけん選手権

知らなかったんですが、じゃんけん世界選手権なんてのがあるんですね。主催するのはカナダのトロントに本部を置くWorld Rock Scissors Paper Society。今年はアメリカのサンフランシスコ郊外の町で行われ、120人の好き者が集まった。チャンピオンになったのは、近くのオークランドに住む学生のアナ・マルチネスさんで、1000ドルを獲得した。参加者の一人で南カリフォルニアから来たセールスマンのジェフ・ジョンソンは、じゃんけんが非常に「メンタルなゲーム」であることに凝っており、「相手が固くなっている感じだとグーを出す、リラックスしている人はパーに決まっている」とコメントしている。でもこの人、勝てなかったんだから余りあてにはならない。ちなみにマルチネスさんはグーを出して優勝した。ま、何でも好きにやってください、平和はいいもんだ。

7) むささびMの「イヌ達はどうやって自分の名前を覚えたのだろう?」

我が家には4人(ふつう世の中では4匹と言うが)のワンちゃんがいる。ウチの出窓の下のもの入れで、母親(当然ワンちゃん)が産んだ4つ子である。私はその時助産婦役をやったので、自分の子供のような気がしている。獣医さんにみてもらって生まれてくるのは4頭であることは知っていたので、名前は4人分用意してあった。 一度に小さな子供が4人いて、それが人間の子供ならば自分の名前が4つの中のどれであるのかを覚えるのはそう難しいことではないだろうと思う。

しかし、こちらが何気なく呼んでいる名前を、我々人間の予想より遥かに短期間で小さいのに彼らは自分が誰なのかを覚えてしまったようである。確かに4人の名前の音の響きは4人4様でお互い紛らわしいものはないのであるが、「ボクはSamであってDDじゃないんだね!」と我々に確認することもせずに、どうやって覚えたのか今でも不思議でしょうがない。でも、「Sam!」とこちらが呼んだ時に、他の3人が一斉にSamの方を見る、ということはさすがになく、ただ自分じゃないという顔をするだけである。ここらへんの人間との違いが面白い。

動物が人間の「ことば」を覚える(聞き分ける?)仕組みに興味が引かれる。 老婆心以外のなにものでもないとは思うのであるが、実は私は「さむい」と言う言葉を家では意識して使わないようにしている。Samが「ボクのこと呼んだ?」と勘違いしてわざわざ起きて来たりするとわるいと思っているからである。「今日は冷たい日だね」というのは文法的には正しくないらしいが、私には文法よりもSamの方が大事なのである。

8) むささびJの「受け売りフィンランド論」

前回にも少しだけ言いましたが、フィンランドという国は「3世代前までは貧しい農業国家だった」とThe Information Society and the Welfare Stateという本に書いてあります。その国が世界に冠たる「情報社会・福祉国家」になったいきさつについてもう少し詳しく書かせて下さい。

日本が明治維新を迎えていた1867年-68年はフィンランド史では「飢餓の年」とされています。農作物の不作に冬の寒さが重なって12万人が死んだそうです。これ、当時の人口の6.5%にあたる大変な数字です。フィンランドという国やフィンランド人にとって寒さの中で肉体的に存在すること自体が大変なことであった時代があったということです。しかもそれほど昔のことでなく、フィンランドが貧しい農業国家から工業国家へと変身するのは1950年代のことです。さらに1990年代初頭にはソ連の崩壊という事情も手伝って大変な経済不況を経験しました。

フィンランド大使館の人に言わせると「We were forced to change」(変わらざるを得なかった)という状況であったのです。フィンランドという国は物理的に「生きていくのやっと」という状態を生き延びてきた国であるわけです。

もう一つフィンランドという国を特徴付けているのが政治的な「生き残り(サバイバル)」の歴史です。簡単にいうとフィンランドは13世紀から19世紀の初めまではスェーデンの一部、その後の100年はロシアの一部でありました。1917年になってようやく独立国家になるのですが、1939年にはソ連から攻め込まれ、第二次世界大戦中の1941年にはドイツの対ソ攻撃のための基地のような扱いを受けた。戦後は戦後でソ連と「西側諸国」の狭間で微妙なバランスをとりながら生きながらえてきた。

このような歴史を持つフィンランドの場合、常に国としての存在を主張すること自体が文化にもなってきたようなところがある、とThe Information Society and the Welfare Stateの著者は語っています。情報化社会の奨励はフィンランドが国として「生き残る」ための自己主張計画の一環でもあるわけです。この著者はフィンランド人の国民性として「自分達は常に少数派である」というコンプレックスのようなものがあり、異なった文化との接触(多文化主義)には弱いという問題があるとしています。

著者によると情報化時代に生きるということは、必然的に異文化との共存なしにはあり得ず、将来のフィンランドにとって「少数派意識」の克服は課題の一つであるそうです。でも「少数派意識」といえば日本人も相当に「少数派的」ですよね。また書きます。

9) ここだけバイリンガル: Red Tape for Red Bus

ご存知、ロンドンのあの2階建てバス。日本にも輸入されてイベントなどで使われている。 しかしよく分からないのは、輸入されたこのバスを運行するためには、いちいち国土交通省の許可をとらなければならず、しかもその許可をとるために、いちいち英国大使館によるお墨付きの手紙を申請書類に添えて提出しなければならないらしい。「国土交通省関東運輸局XXX局長御中」ときて「このバスの運行は英国文化の日本への紹介に大いに貢献するものであり、当方としても大いにこれを支持しております。よろしくお願い申し上げます…」という趣旨の手紙である。

いちいちイベントがあるたびにこのような手紙を用意するのは、はっきり言って面倒であることは言うまでもない。輸入まで許可しておきながら、いざ運行となるとこのようなペーパーを要求する意味が私にはさっぱり分からない。大使館が手紙を書いたからと言って、何か事故が起こった時に大使館が責任をとれるわけでもない。「いつもいつも申し訳ございません」と大使館の人たちに頭を下げなければならない運行する会社の人も大変だ。この種の手紙を必要とする根拠は何か。是非説明してもらいたい。それともこんなアホらしい習慣はもう無くなっているかも?

The double-decker bus is a typical London scene. Everybody knows and loves it. You will also have seen some of these cute buses running on the streets in Japan as attraction for the UK-themed fun events. Would you be surprised to hear that every time the bus is used the operating company is expected to submit a huge amount of papers to the Ministry of Land & Transport for their approval? No, you wouldn't. Might you be surprised that one of these papers should be an "official" letter of support from the British Embassy?

The letter must be addressed to the Head of Kanto Transport Bureau to say something like "the running of the bus will help in promoting friendship between the two countries. We therefore should be most grateful for your permission…". No, I am not joking. Don't ask me (because I don't know) why they ask for the "official letter" to be submitted for running a vehicle that was already officially allowed by Japanese government to be imported into this market.

Do they expect the British Embassy to bear any responsibility if the red bus was involved in some kind of traffic accidents?! Next time you see the red bus, do think with great sympathy about the trouble and agony that the poor sales man of the bus operating company had to live with for preparing the totally meaningless piece of paper. I sincerely hope that Mr whatever-his-name-is of the Kanto Transport Bureau has now abolished this custom.

10)編集後記

◆今回もまたヒマ人の道楽に「削除」もせずにお付き合い頂き本当に有難うございました。暖かくなりましたね。今が最高の季節であります。◆今年の夏から秋にかけてフィンランドの文化や芸術、それに社会生活などについて日本の人達に知ってもらいたいということでFeel Finlandなる企画が行われます。フィンランド大使に「どのようなフィンランドのイメージを日本の人に紹介したいのか」と聞いたところ、彼の答えは「ありのままのフィンランド "Finland as it is"」ということでありました。なるほど…。ただ「ありのまま(as it is)」というのは案外難しいと思いませんか?私なりのこだわりによるならば、国であれ、企業であれ、個人であれ、誰かに紹介するという場合のポイントは「どうありたいと思っているのか」という部分のように思えてなりません。as it isというよりもas it is becomingとか、as it is aspiring to beいう感じです。◆いつもNHKの夜の10時のニュースを見るのですが、最近は本当に憂鬱です。最初に「イラク情勢」の報告があります。で、10時半ごろになると「さ、皆さんお待たせ…松井選手の活躍でーす!」と来ますね。そのあたりでバグダッドの爆撃もメジャーリーグの野球も同じような感覚で見ている自分に気が付きます。全然いい気持ちではない・・・