Q(Spiegel): 貴方が香港を出たのと例の国家安全法の施行とは時期が一致している。この脱出は個人的なものか、政治的なものか? |
A(羅冠聡):両方だ。我々のように国際的な運動に取り組んでいる人間は誰でもこの法律には弱いはずだ。 |
Q:「我々」とは誰のことか? |
A:黄之鋒(Joshua Wong)、黎智英(Jimmy Lai)、李柱銘(Martin Lee)らのことだ。現在の香港では活動することが非常に困難になっている。黄之鋒とも相談して、香港の外で活動するには私が最適ということになった。だからこうして自由に話ができるのだ。 |
▼ここで名前が出た黄之鋒(こう しほう)は民主化団体「学民思潮」のリーダーで香港公開大学社会科学の学生(23才)、黎智英(れい ちえい)は民主活動家であると同時に香港メディア界の大物とされている72才、李柱銘(り ちゅうめい)は、香港の民主派から「民主主義の父」と慕われている人物で1938年生まれの82才。 |
Q:国家安全法の施行で香港では事情が変わった? |
恐怖政治が横行している
A:恐怖政治(politics of fear and terror)とでも言うべきものが広がっている。中国の意図なのだが、あの法律にはいろいろに解釈できる部分が多すぎるので、何がどうなるのかが全く分からない状態なのだ。おそらく香港の警察当局でさえも良く分かっていない部分が多いと思う。なのに香港の民主化や自由化を叫ぶ旗やビラを持っていたというだけで逮捕されたりしている。"Free Hong Kong, revolution of our time.”(自由香港、今こそ革命のときだ)という文言だ。 |
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Q:自分の家族のことは気にならないのか? |
A:もちろん気になる!中国本土における国家安全法の施行を見れば分かるが、法律のターゲットは貴方だけではない。家族・友人・同僚ら皆が取り締まりの対象になる。 |
Q:貴方は最近、ある新聞への投稿の中で、貴方の母親があの文化大革命を自分の眼で見ているが、今の中国で起こりつつあるのはあれと同じではないか、と。それは少し大げさなのでは?あの文化大革命では180万もの人が亡くなっている。 |
告げ口文化が浸透する
A:自分たちこそが歴史上最も悲劇的な人間だなどとは言いたくないが、今起こっていることを見ると、あの文化大革命と同じようなことが起こっていると言わざるを得ない。例えば国家安全法の中には、もし貴方が他人を当局に売り渡したら、貴方自身の刑が軽くなるというような条文があるのだ。つまり「ご注進文化(reporting culture)」の奨励ということだ。それこそが「文化革命」(cultural revolutions)が最も力を入れる部分だ。人びとがお互いを監視するということ。そうなると社会を信用しなくなるし、人間と人間の間の社会的な絆が破壊されていく。そして全体主義と権力の言葉だけが力を持つようになる。 |
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Q:貴方が描く香港にとっての最悪のシナリオはどのようなものか? |
最悪のシナリオとは?
A:民主主義を支持するグループから選挙に立候補する人間が許されなくなること、秘密警察が朝早くやって来て逮捕され、誰にも自分の居場所が分からない状態になること、遠くの収容所に入れられて拷問を受けるようになること、これらはいずれも中国の反体制派に起こったことであり、それが最悪の状態と言える。それを国際問題として国際社会に訴えることが自分の責任だと思っている。 |
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Q:香港を離れて、行き場所としてなぜロンドンを選んだのか? |
A:英国は香港と歴史的に関係があり、香港問題について主要な役割を担っている。またロンドンはメディアの中心地でもあり、世界中の人びとに米中関係だけが問題なのではないと訴えるのには最適の場所だから。独裁主義の中国に対抗する価値観で団結するためにもヨーロッパにはもっと参加してもらいたい。 |
Q:ロンドンはある意味どこへ行っても中国・中国だ。空港から乗るタクシーからピザ屋、サッカー・チームに至るまで、中国資本が関係していないものは殆どないと言ってもいいくらいだ。 |
「中国資本」は「共産党資本」?
A:欧米は中国資本による投資の意味するところを過小評価してきた。中国には「独立企業」(independent companies)というものが存在しないのだ。企業はどれも中国共産党の命令に耳を傾けなければならないのだ。だから中国とビジネスをするときは国際的なコミュニティが前面に出て、人権尊重を強制的に押し付けて、中国側に責任を持たせなければならない。 |
Q:英国政府の最近の対中国政策をどう思うか? |
A:正しい方向に向かっていると思う。今年最初のころは5G情報ネットワークにはHuaweiを使い続ける方針だったが、コロナウィルスと香港民主化の問題が起こって以来、事情が変わったと思う。しかし中国国内における人権蹂躙問題に対処するためには英国と他の国にもやるべきことがもっとある。 |
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Q:例えば、国際社会はどんなことが出来るのか? |
北京五輪をボイコット?
A:例えば2022年の北京冬季五輪をボイコットすること。これは強いメッセージを伝えることになるはずだ。台湾を認めること、ウイグル地区における人権問題を取り上げることもある。ウィグル地区の労働力を使っている企業は自分の国では活動できない・・・と言明することもできるだろう。使える武器はいろいろあるのだ。特にドイツは中国にとって最大の貿易相手国だから、人権問題についても重要な役割を果たすことができる。 |
Q:ドイツ人は北京政府とのトラブルを避けることしか考えていない・・・。 |
A:ドイツには失望したなどと我々が言うべきではないが、ベルリンの壁崩壊以後のドイツがリベラルな考え方をする指導的な国であると同時に全体主義と独裁主義への深い理解を有した国であることは分かっている。ただ今のドイツが人権よりも貿易を重視する国となっているということだろう。ただドイツも香港との間で犯人引渡し条約を破棄することはできるだろう。英国も同じことをやっている。 |
Q:2016年、貴方はが初めて民主化運動出身者として議会に選ばれて宣誓式を行った際にマハトマ・ガンジーの言葉を引用している。「私を鎖でつなぐことは出来るだろうし、拷問によってこの身を破滅することも出来るだろう。しかし私の心までも収監することはできない」という言葉だ。ガンジーは貴方にとって理想の人間か? |
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ガンジーを尊敬する
A:ガンジーもマーティン・ルーサー:キングもネルソン・マンデラも尊敬すべき抵抗運動の担い手だった。彼らからは学ぶべき点が多い。特に苦境に陥ったときの粘り強さ(tenacity)だ。長年にわたって刑務所に入れられるようなことがあっても、冷静かつ断固として自分の選んだ道を進むということ。そのような精神的なパワーは大いに彼らから学ばなければならない。 |
Q:怖くはないのか? |
A:怖いというよりも心配だ。I am worried. ただ怖がらないようにしようと努めてはいる。怖がることで判断を誤ることがあるから。心配なのは黄之鋒のような仲間たちのことだ。それもあって、世界中の人びとに香港から目をそらさないで欲しいと思う。それこそが彼らにとって最強の味方なのだから。It’s
the best protection they can hope for.
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Q:運動を止める(ギブアップ)ことを考えたことはあるか? |
A:香港のために闘おうという気持ちがある限り、ギブアップするということはない。As long as you have the heart and mind to fight for Hong Kong, you’re not giving up. |
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