musasabi journal

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467号 2021/1/17
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

月並みな言葉ですが、あっという間に1月も半ばです。埼玉県の山奥には蝋梅が咲いています。上の写真、英国のユージン・スミスという写真家が写したものなのですが、1961年に汽車の窓から写した日本の景色です。どこの景色なのかが分からないのが残念ですが、野中の一軒家といい、背後の山並みといい、むささびとしては涙が出るほど懐かしい景色です。春日八郎(赤いランプの終列車)、三橋美智也(『哀愁列車』)の世界です。

目次

1)シュワちゃん、怒る
2)議会襲撃とアメリカ世論
3)グラフが示す2021年の「可能性」
4)「国家=言語」の構図を崩してみよう
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)シュワちゃん、怒る
 
1月5日付のThe Economistのサイトに俳優で元カリフォルニア州知事(2003年∼2011年)のアーノルド・シュワルツェネッガー氏がエッセイを寄稿しています。"Judgment Day"(審判の日) というタイトルで「共和党の人間はトランプを阻止しなければならない」(Republicans must stop Trump)と訴えています。The Economistが外部の人間を寄稿者にすることはあまりあることではない。掲載日からしても、シュワルツェネッガー氏のこのエッセイが、1月6日に起こった、トランプ支持者の連邦議会議事堂の乱入事件の前に書かれたものであることは明らかです。
 

名前が発音しにくいので、日本では「シュワちゃん」で知られているようですが、シュワルツェネッガー氏は1947年オーストリア生まれ、21才(1968年)でアメリカへ移住しているのですが、ニューヨークの高層ビル、高級車のキャデラック、美しい海岸、映画の都・ハリウッド等々、オーストリアにいる頃からアメリカは憧れの国だった。アメリカ建国の歴史などを知るにつけほとんど狂ってしまったほどのアメリカ好きになっていた。エッセイは
  • 今、自分の国であるアメリカについて私は深く憂慮している。移民として、アメリカ国民として、そして共和党員として、ここで声を上げることは自分の義務であると考えるのだ。  Today, I’m deeply concerned for my country. As an immigrant, as an American and as a Republican, it is my duty to speak up.
という書き出しで始まっているのですが、彼が最初に書いたのが、第二次大戦終了直後のオーストリアのことだった。
  • 私が生まれたのは第二次世界大戦終了から2年後の1947年だったけれど、当時のオーストリアは飢餓に苦しんでいた。子供のころ自分の周りは酒浸りの男ばかりだった。誰もが人類の歴史上最悪の体制(ナチズムのこと)を支えたことに対する罪悪感を酒で紛らわそうとしていたのだ。あの体制が600万のユダヤ人を殺し、それ以外にも500万もの罪のない人びとを殺戮したのであり、あの酔っ払いたちはそのような体制の一部を担っていたのだ。そしてその体制こそが世界で7500万人もの人間を殺害する戦争の発端を提供したのだった。誰も彼もがユダヤ人嫌いだったわけではないし、皆が皆ナチスだったわけではない。なのに、多くの人間が、考えることもなく巨大なる悪に向かって一歩一歩進んでいった。何故そうしたのか?それが一番楽だったからだ。

シュワルツェネッガー氏はむささびより6才若い。終戦2年後に生まれているのだから、戦争のことはもちろん「戦後」のことだってどの程度実体験しているのか?ナチに協力したことへの罪の意識から酒浸りになっていた大人のことなど、実際に見たというより、自分の周りの年上の人間から聞いたことなのではないか?オーストリア人たちが「巨大なる悪」に向かって進んで行った理由は「それが一番楽だったから」という言葉は強烈です。

彼がこのエッセイで特に問題視しているのは、トランプを支持する共和党議員です。シュワルツェネッガー氏の目から見ると、彼らの行動は「国」より「党」を重視しており、結果として国を支えている有権者のことを無視することになった。
  • アメリカの選挙に対する信頼感を破壊し、何世紀もかけて守ってきた「アメリカの原則」(American principles)というものを放棄しようとするトランプ大統領の行動は、党派を問わずあらゆる政治指導者たちによって否定されなければならない。
というわけです。


そして彼が引き合いに出したのが、アメリカの初代大統領であるジョージ・ワシントンが、職を去るにあたって、後継者に向けて書いたメッセージ<President George Washington's Farewell Address (1796)>だった。
  • 一つの派閥(faction)が別の派閥を支配することは、それが繰り返し行われることで、党派による意見の相違が復讐心によって更に鋭いものとなる。そのような対立は時代と国が異なれば、さらに過酷なものとなるが、支配そのものが恐怖に満ちた専制政治を生むものとなる。そしてそれはいすれはより正式かつ永久の専制政治(a more formal and permanent despotism)につながっていく。そこから生まれる無秩序や悲惨さによって、人間の心は徐々に「安心」を求めて一人の人間による絶対的な権力支配を求めるようになる。そして遅かれ早かれ、有力な派閥のトップにいる人間はこの力を自分個人の欲望のために利用するようになる。残るのは大衆の自由の廃墟(ruins of public liberty)のようなものである。


ジョージ・ワシントンの演説を引用することでシュワルツェネッガー氏が共和党に強調したかったのは「党派間争いを止めて選挙結果を受け入れる」(to step back from the partisan battlefield and accept the results of the election)ということであり、
  • アメリカではアメリカ国民が第一に来るということを忘れてはならないし、政治家が有するパワーの源は有権者にあるということも忘れてはならない。有権者は(選挙を通じて)すでに発言しているのである。We must never forget that we are Americans first. We must never forget that any power our politicians have comes from the voters, and they have spoken.
ということです。

▼この記事には「後日談」があります。シュワルツェネッガー氏のこのエッセイが掲載された直ぐ後にワシントンの議会へトランプ支持者が乱入するという事件があったのですが、それを非難するためにシュワルツェネッガー氏はThe Economistに掲載されたエッセイとほぼ同じ内容の動画を作成してSNSに投稿した。しかもそのことがFox Newsによってデカデカと報道された。Fox Newsは、あのルパート・マードックが所有、これまでトランプをさんざ擁護する報道を続けてきたテレビ局です。

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2)議会襲撃とアメリカ世論


1月6日にトランプ支持者がワシントンDCの連邦議会議事堂に乱入した事件はショッキングでしたよね。あの事件について、英国の世論調査機関であるYouGovがアメリカ人を対象にアンケート調査を行っているのですが、共和党支持者のほぼ半数が、あれを支持しているという結果が出ている。こちらの方がデモ隊乱入以上にショッキングなのでは?

議会乱入をめぐるアメリカ世論

乱入事件はテレビでもさんざ伝えられたのですが、共和党支持者の半数以上がデモは「どちらかというと平和的」(more peaceful)と答えており民主党支持者の4%とあまりにも違う反応を見せている。むささびが知らなかっただけで、実はThe Economistなどの報道では、12月19日の時点でトランプがツイッターで“Big protest in D.C. on January 6th. Be there, will be wild!”(1月6日にワシントンで大デモ、皆集まれ、大騒ぎになるぜ)というメッセージを発信していたのですね。


この事件については、ミット・ロムニー上院議員(共和党・ユタ州)などは「この暴動は大統領が扇動して起こったもの」(This is what the president has caused today, this insurrection)と決めつけており、有権者の多くもそのように考えているのですが、中には選挙結果を認めようとしない共和党の議員にも責任があるとする意見もある。

 
▼トランプ支持者による議会乱入ですが、ここをクリックすると乱入3日後の1月9日にNBCが放送した乱入の詳細を検証する番組(INCITEMENT OF INSURRECTION)を見ることができます。聞きしに勝るデモ隊の暴力ぶりです。

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3)グラフが示す2021年の「可能性」


世論調査機関のIpsosが、昨年(2020年)12月28日付のサイトで「2021年グローバル予測」(Global predictions for 2021)という企画を掲載しています。これは世界の31か国・23,007人を対象に行ったオンラインによるインタビュー形式の意識調査の結果をまとめて報告しているものです。インタビューは昨年10月23日~11月6日の2週間にわたって行われ、コロナ禍、所得格差、気候変動など30項目について2021年がどのような年になると思うかを問いかけている。

ここではその中から10項目を取り上げて、日本・中国・韓国・英国・米国・スウェーデン・フランス・ドイツの7か国の人びとの反応と「世界平均」を並べて比較してみます。ここをクリックすると詳細の結果報告(pdf)が出ています。


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▲コロナ禍に関しては、この質問以外に6項目あるのですが、圧倒的に目立つのが中国人の楽観的な姿勢で、「ワクチン開発」「経済復興」など、ほぼどの分野でも9割以上の中国人が前向きの反応を示している。例外は「将来も同じような感染症が起こると思うか?」という質問に対する反応で、中国人の50%が「思う」と答えているのに対して、韓国人の場合は70%がそのような反応を示している。

▲また日本人が上位に来る珍しい例が「公の場所におけるマスク装着の必要性」についての反応で、83%が「必要性あり」と答えてマレーシア人(86%)に次いで2番目に高い数字を示している。最も低いのがスウェーデン人で、「必要性あり」としているのはわずか18%だけ、73%が否定的に答えている。
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▲このグラフには入っていないけれど、自国内の所得格差を最も敏感に感じているのはトルコ(85%)、イスラエル(84%)、イタリア(80%)で、韓国は第4位、日本は第8位です。ちょっと意外な気がするのはアメリカ(48%)で、31か国中唯一の「所得格差」を感じている人が半数以下の国です。スウェーデン人が格差に敏感なのはちょっと意外なのでは?
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▲隣近所に友人が見つかるという可能性は、世界平均でも半分以下なのですが、極端な対比を見せるのが中国と日本ですよね。中国の場合、8割以上が「新しい友だちができる」と考えているけれど、5割以上がそのように考える国は31か国中11か国だけ。日本の15%というのは31か国中の最下位、韓国は下から4番目なのですが、日韓で共通しているのが「新しい友だちができる可能性が低い(unlikely)」と感じている人の割合が60%を超えていること。こんな国は31か国中でも日韓だけです。
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▲孤立感を持つようになるという人は3割、ならないという人は6割強というのが世界平均ですが、「孤立感を持つ」というグループのトップ5はトルコ、マレーシア、中国、サウジ、インドで、ヨーロッパは一つもない。「孤立感を持たない」グループのトップはオランダ、ニュージーランド、イスラエル、英国、スペインなどが並ぶ。ちなみに日本は「持たない」が多い国の12番目です。
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▲アメリカでトランプが大統領に選ばれ、英国でBREXITが成立した2016年以後、どの国でも意見の分断・分裂が目立つ。それと同時に人間同士の寛容さのようなものが失われているように見える。それに反対する意見もあり、トランプの失脚はそのような潮流の表れともいえるけれど、それでも人間同士の寛容さについては「2021年には無理」という意見が6割を超えている。特にヨーロッパにおいてその傾向が強く、「2021年には自国の人間が寛容になる」ということへの疑問はベルギー人やオランダ人の8割、フランス人の8割以上が感じている。ただここでも日本人と中国人の感覚のギャップが明らかであることが目立ちます。特に中国人の楽観的な姿勢は群を抜いている。
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▲上の数字は、漠然とした「将来」というよりも、2021年の1年間で、外見が人間のようで、人間のように考え、語るようなロボットが出現するかどういかという問いかけだった。その可能性は低いというのが過半数の予想なのですが、ちょっと興味深いのはアジアに比べるとヨーロッパ人の方が慎重な姿勢が高いということです。
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▲気候変動に関しては、世界中が似たような危機感を有しているのですが、実は昨年同じような調査をしたときも状況は同じだった。あえて言うと、このグラフに見る限りアメリカ人の危機感が最も薄い。これはおそらく調査を行ったのが10月末だったので、トランプの勢いがまだ強かったころのアメリカだったということかもしれない。
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▲2021年に人類は滅亡する(humans will become extinct in 2021)可能性が低いと考える人が多い順で並んでいます。むささびが比較している8か国のうち、トップはスウェーデンで最下位は日本ということです。絶滅の可能性が高いと考える人は、世界平均で16%なのですが、韓国とドイツだけが平均より高いというのは興味深い。で、31か国の中で最も悲観的だった人びとはどの国の人だったか?答えはインドで31%が「2021年に人類は滅亡する可能性が高い」と考えている。また31か国の中で人類絶滅論者が最も少なかったのはイスラエルで5%だけだった。
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▲調査対象となった31か国の中で「2021年は自分個人にとって2020年よりもいい年になる」という「楽観論者」(optimists)が半数を超えるのが30か国ある。たった一つだけそうでない国がある。それは日本で50%を下回っている。楽観論者が最も多いのは(もちろん⁉)中国で、楽観論者が90%を超えたのは中国、ペルー、メキシコの3か国だけ。それでも殆どの国(31か国中22か国)で楽観論が70%を超えているのだから世界は明るい・・・か?むささびの解釈によると、これらは積極的な楽観論というより「2020年に比べれば2021年はマシだろう」という感覚なのでは?

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4)「国家=言語」の構図を崩してみよう

1月6日付の毎日新聞に、作家の多和田葉子さんとのインタビュー記事が出ています。見出しは
  • 2021年にのぞんで ぶつかり合って生きる
となっています。恥ずかしながら、むささびは、この記事を読むまで「多和田葉子」という名前すら聞いたことがありませんでした。この人は1982年(だと思う)以来ずっとドイツに住んでいてドイツ語と日本語の両方で創作活動を続けており、その間、芥川賞を始めとする日独の文学賞を数多く受けている。そんな人がいるなんて知りませんでした。お恥ずかしい。


インタビューの『ぶつかり合って生きる』という見出しは、多和田さん自身が考える、人間同士の意思疎通(コミュニケーション)の在り方を表現しています。例えばコロナ禍の話をするにしても、ドイツ人は正に喧々諤々、口喧嘩のような議論をする。ぶつかり合いです。ぶつかり合いが苦手な日本人の場合はなかなかそういうことがない。1960年生まれの日本人である多和田さんは、そのあたりのことについて次のように語ります。
  • 対立を恐れずはっきりと物を言い合い、その上で折り合えるところを模索する、そういうコミュニケーションには日本社会はもっと慣れた方がいい。なぜなら、日本の外側では、コミュニケーションはもっと激しく波打っているからです。


「民主主義に一番必要なのは議論すること」というのが彼女の主張で、その意味での「ぶつかり合い」を避けていると、人間も社会も鎖国状態になってしまうと危惧している。言われて思い出したのですが、昨年末にお送りしたむささびジャーナル465号で、『日本の政府関係者は、新型コロナウィルスのことをほとんどどの国よりも理解していた』というThe Economistの記事を紹介しました。その中で西村・経済再生大臣が日本における感染率が非常に低い理由の一つとして「同質社会(homogeneous society)の強み」を挙げていることを書いていました。日本は文化的にも言語的にも同じ人間で構成される社会だから国民が政府の言うとおりにすることが多い、それが感染率の低さの理由である、と大臣は言っていたのですよね。

多和田さん自身は、毎日新聞とのインタビューの中で日本社会の同質性に触れているわけではないけれど、「対立を恐れずはっきりと物を言い合う」ドイツのやり方の方がコミュニケーションの在り方としては望ましい・・・と考えていることは明らかです。このあたりのことについては、むささび自身も(及び腰ながら)彼女の言うことが当たっていると考えるわけです。


ただこのインタビューの中でむささびが最も面白いと思ったのは、多和田さんがコロナ禍に関連して「外国語と母語」の関係について語った部分だった。コロナ禍のせいもあって、これからは外国や外国人・外国文化との交流が難しくなるのですが、多和田さんが強調するのは
  • 若い人には母語でない言葉で対話し「国家=言語」という構図が崩れる体験をしてほしい。
ということです。<「国家=言語」という構図が崩れる>とはどういうことか?なぜそのような崩壊の体験が必要なのか?多和田さんは次のように言います。
  • 母語をしゃべるとその国の一部になってしまう。そこからなかなか自由になれないのです。
つまり彼女には「その国の一部になってしまう」ことへの拒否感があるわけですよね。そのようなものからは「自由」でありたい、と。国家という「集団からの自由」への渇望・・・むささびにはよく分かるような気がするわけです。「お前だって日本人なんだから、分かるよな?な?」という言葉への拒否反応です。


多和田さんはさらに<「国家=言語」という構図>の関係について、かつて自分が韓国にあるドイツ文化センターでドイツ語で話をしたときの経験を語っている。その際に出席した韓国人から「ぜひドイツ語で日韓の歴史を書いてほしい」と言われたのだそうです。その韓国人によると
  • 日本語で書かれた小説だとどうしても「日本人の目線で書いている」感じがしてしまう。でもドイツ語で書いてくれれば先入観から自由になれる、それを読みたい・・・
ということだった。この場合は読む側の感覚からして、日本人による日本語の日韓関係についての話は、どうしても言葉の背後に「日本」を感じてしまうということですよね(ひょっとすると、その韓国人は、韓国人の韓国語による話にも抵抗を感じるのかもしれない)。つまり読み手の心理の話です。

筆者の立場からするとどうなるのでしょうか?日韓の歴史を日本語で書くのとドイツ語で書くのとでは書き手の感覚は違うのでしょうか?多和田さんは「母語から離れるとその国から自由になれる」と言っている。「慰安婦問題」について、韓国人が韓国語で書くのとフランス語で書くのとでは何かが異なるのでしょうか?多和田さんによれば「母語をしゃべるとその国の一部になってしまう」わけで、むささびは感覚の問題として分かるような気がする。

むささびの想像に過ぎないけれど、多和田さんはドイツ語の小説を書くときはアタマの中はドイツ語だけになっており、日本語は存在しないのでは?つまりその場合の彼女は「ドイツ人」であるわけです。彼女が日本の若い人たちに、「母語でない言葉で対話し『国家=言語』という構図が崩れる体験をしてほしい」と言っているのは、そうすることによって、日本という集団から少しだけでも自由になった自分を体験することに繋がるからであり、それは人間にとって悪いことではない、と。同じことはドイツ人にもアメリカ人にも韓国人にも言えることは言うまでもない。

▼むささびが思い込んでいる「英語がうまくなる方法」に「独り言を英語で言う」というのがある。近所を散歩しているときに「いい天気だなぁ」というのを "Beautiful day, isn't it?" と言うわけです。「言う」と言ってもホントに声に出すわけではなくて、アタマの中でつぶやくだけ。Shall I go home?, I'm getting hungry, Where is my bag? etc 何でもあり。独り言を言っている瞬間のむささびはまぎれもなく「ネイティブスピーカー」です。いや正確に言うと「日本人ではない」。「もう帰ろうかな」はShall I go home?ですが、正確に訳すと「私は家に帰ろうかな?」だけど、普通は「私は」なんてこと言わない。「家に」さえも言わない。「帰ろかな」でおしまい。主語も目的語もない。

▼奥さんやガールフレンドには "I love you" とは言うかもしれないけれど、「僕はあなたが好きです」などと言います?「好きだよ」で終わりなのでは?でも英語の世界では"Love"だけでお終いということはない。日本人にとっての "I love you" は多和田さんのいわゆる「国家=言語」という構図が崩れる体験だと思うわけよね。

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5) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 


Dry January:しらふの1月

"Dry" は「乾燥している」という意味ですよね。確かに日本では1月は乾燥しています。が、Dry Januaryの"Dry" は「飲酒を控えた状態」のことで、ウィキペディアによると「特に英国、フランス、スイスで実施されている公衆衛生キャンペーン」となっている。いつ頃から始まったのか知らないけれど、これを推進するNPOなども出来ているくらいだから、そこそこまじめにとられているのでしょうね。これを推進しているNPOのサイトには、Dry Januaryを実行することで「楽しみ・エネルギー・静かさ・・・そして何よりも「あなた自身を取り戻せる」(Get your energy back. Get your calm back. Get your YOU back)と言っている。

要するに12月のクリスマスに浮かれて飲みすぎた胃袋を休ませようというキャンペーンなのですが、ある世論調査によると、Dry Januaryを実行する英国人は9人に一人という結果が出ている。
 
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6)むささびの鳴き声 
▼雑誌「文藝春秋」のサイト(2020年12月15日)に『それでもトランプが歴史的大統領だった理由』というエッセイが掲載されている。書いたのはフランスの歴史学者であるエマニュエル・トッド氏で、イントロの部分で「トランプは敗北したが、トランプ政権の政策転換はおそらく今後30年のアメリカのあり方を方向づける」と言っている。この記事は「有料」だったので、むささびが読めたのはほんのさわりの部分だけだったのですが、それでもむささびがひとこと言いたくなるようなことを言っている。

▼今回の大統領選挙の結果については「米国の民主主義が復活したことの証しだ!」などの理由で好意的に受け取る声が高いけれど、トッド氏に言わせると『「保護主義」「孤立主義」「中国との対峙」「ヨーロッパからの離脱」というトランプが敷いた路線は、今後の米国にとって無視し得ないもの。その意味で“トランプは歴史的な大統領”である』ということになる。このエッセイが書かれたのは、トランプ支持者による「議会乱入」以前のことなのですが、むささびの想像によると、乱入事件以後に書いたとしても、トッド氏は「トランプの政策は正しかった」と主張するのだろうと思います。

▼文藝春秋のエッセイの中でむささびが文句をつけておきたいのは、バイデンについての次のコメントです
  • バイデン陣営が最も前面に打ち出したのは“反(アンチ)トランプ”。しかし“反(アンチ)”のみで自らを定義するのは、あまりに“空虚”です。あるいはそもそも“空虚”だから“反(アンチ)”でしか自己を表現できないのです。
▼実はむささびは、2016年にトランプが大統領に当選したときにも「トランプ氏は真実を語った」と称賛するトッド氏の主張に疑問を呈しておきました(むささびジャーナル360号)が、その根拠は、彼がトランプを激賞するのは、オバマ政権に対する「アンチ」の姿勢が根拠になっているからです。トッド氏はオバマに対する「ノー」の姿勢は明らかにしたのですが、では誰に対してなら「イエス」というのかを全くはっきりさせなかった、ということにむささびはカチンと来たということです。

▼トッド氏は、保護主義・孤立主義・中国との対峙・ヨーロッパからの離脱など、トランプが推進したとされる政策のどのような部分がアメリカや世界にとって望ましいものであると考えるのか?むささびが多少とはいえ知っている「ヨーロッパからの離脱」(英国ではBREXIT)のどこが世界にとって望ましいと考えるのか?トランプはメキシコとの国境にフェンスを築きましたよね。あれのどこが誰にとって望ましいものであると(トッド氏は)考えるのか?

▼トッド氏の書いた他のエッセイの類を読むと、彼の考え方の基礎は「反インテリ」という姿勢にある(と思う)。別の言い方をすると、「人間が人間なりの知恵を使って、人間にとって良かれと思って考え付いた諸々(国連・EU・民主主義などなど)を否定してみせる…それによって自分が「本当のインテリ」であることを証明しようと躍起になっている、としか思えないよね、あたいには。半世紀も前の日本でさんざ言われた「進歩的文化人」に対する悪口を繰り返している人たち…そんな感じなのよね、トッドさんは。

▼最後にコロナですが、日本時間の昨日(1月16日)午後3時現在、ドイツの感染者数は約202万人、うち死者数は約4万6000人(感染者の約2.3%)なのに対して日本は前者が32万、後者は4000人となっています。人口10万人あたりの死者数はドイツが55.11人で日本は3.32人となっています(Johns Hopkins Univ)。ドイツではどうなのか、よく分からないけれど、メディア報道に見る限りは、このような災難を目の前にして「タイヘンだ!タイヘンだ!!」と騒いでいるだけという気がしません?
コロナ禍:日独比較

▼早く暖かい春が来るといいよね。お元気で!

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