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469号 2021/2/14
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

埼玉県はやたらと春めいています。それにしても、10年目の「余震」なんて・・・あの大震災からの「復興」を謳い文句にした東京五輪は、コロナ禍に次いで組織委員会の会長がクビになった挙句にまたまた大地震というのでは、実施のしようがありませんよね。上の写真はむささびの友人(スペイン在住・英国人)の作品です。彼は写真好きではあるけれど、プロというわけではない。それにしては良く撮れているというわけで、「むささび」で使わせてもらうことにしました。

目次

1)スライドショー:子ども時代
2)森発言の伝わり方
3)フランス人の2021年
4)「当たり前の政治」の現実性
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)スライドショー:子ども時代

上の写真はスイス生まれの写真家、ウェルナー・ビショフ(Werner Bischof 1916~1954)が1947年に写した作品です。舞台はハンガリーの首都、ブダペストの鉄道駅。この子供たちは、赤十字が提供した列車でスイスに向かうところだそうです。首にカードのようなものをぶらさげている。写真説明が全くついていないのですが、1947年といえば第二次世界大戦が終わってから2年しか経っていない時期です。そのような時代に赤十字の計らいでハンガリーからスイスへ送られるということは楽しい旅ではないことは明らかです。この子たちがまだ生きているとすると、おそらく1941年生まれのむささびと殆ど変わらない年齢なのでは?というわけで、今回は同時代を生きたであろう子供たちの写真(すべてではないけれど)を中心に作りました。

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2)森発言の伝わり方


今号の「むささび」が出るころに「森発言」の問題がどのようになっているのか、予想もつかないけれど、発言が明るみに出た直後の英国メディアの扱いぶりについて少しだけ紹介しておきます。

***********

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)の評議員会の席上「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」などと発言して顰蹙を買っており、「外国でも報道されている」という趣旨の報道も多い。つまり「日本人の面汚しだ!」と怒っているのですよね。で、英国のメディアではどのように報道されているのか?と思ってネットを当たってみたところ、ほとんどすべての全国紙がこれを伝えており、テレビもBBCやSkyのようなテレビも(ネット上では)報道していました。

新聞メディアの報道と言っても、むささびは紙の新聞を見たわけではないので、森氏の発言が普通の英国人にどの程度伝わっているのかよく分からない。ただ大衆紙の代表格とされるDaily MailとThe Sunがかなりしっかり伝えているのが目立ったし、大衆紙とは正反対のGuardianもそれなりのスペースを割いて報道しているのは意外でした。この際いくつか紹介すると:


Daily Mail(Mail Online): 発行部数といいネット読者数といい、英国では最大の規模を誇る大衆紙ですが、見出しがすごい。
むささびは初めてお目にかかった言葉ですが、"grovelling" は「相手を喜ばせるためにひたすら謝る」という姿勢のことらしい。Daily Mailの記事は森会長の発言を伝える一方で、過半数の日本人がオリンピックの開催そのものに反対していることも伝えています。また英国のNPOである "Women in Sport" がツイッターで「この差別と性的な偏見という根深い文化こそは止めなければならない」(This deep-rooted culture of discrimination and gender bias has to stop.)とコメントしていることも伝えています。


Daily Mailの記事は JOCの評議会における森氏の発言を直接引用する形でかなり詳しく伝えています。それによると森氏は次のように発言したことになっている。
  • When you increase the number of female executive members, if their speaking time isn’t restricted to a certain extent, they have difficulty finishing, which is annoying. 女性理事の数を増やすと、彼らの発言時間をある程度制限しない限り、なかなか終わらなくなる。困ったものです。
上の日本語の部分は、むささびがDaily Mailの記事を和訳したものです。日本の日刊スポーツのサイト(2月4日)が森氏の発言を文字通り(速記録風に)再現しているのですが、上の英文記事に一番近いと思われるのは次の個所です。
  • 女性がたくさん入っている理事会は、理事会の会議は時間がかかります。女性を、必ずしも、数で増やしていく場合は発言の時間をある程度、規制をしておかないとなかなか終わらないで困ると言っておられました。誰が言ったか言いませんけど。まあそんなこともあります。
Daily Mailの記事には次のような個所もあります。
  • We have about seven women at the organising committee but everyone understands their place. 組織委員会には約7名の女性がおりますが、皆さん、自分の場をわきまえておられます。
森氏の実際の発言は
  • 私どもの組織委員会にも女性は何人いました?7人くらいかな。(7人)くらいおりますが、みんなわきまえておられて・・・<後略>
だった。むささびが笑ってしまったのは、Daily Mailの記事にある "about seven" という表現です。"seven" というきっかりしたような数字に "about" というのは不自然だと思っていたら森氏が「7人くらいかな」と言っていたわけよ。


一方、The Sunの場合、記事の中身はDaily Mailと殆ど同じですが、見出しに という駄洒落を使って読者からの受けを狙っている点がちょっと違う。"GONE TO-MORI" は "GONE TOMORROW" の洒落のつもりで、後者は「いまここにあったと思ったら、明日にはもういない」というわけで「言っていることが長続きしない(saying about something that lasts only a short time)」という意味のようです。The Sunは、この見出しに続けて
  • Tokyo Olympics chief Yoshiro Mori facing calls to resign over sexism row after comments about women in meetings 東京五輪のリーダーである、性差別発言をめぐって退任するよう圧力を受けている
というイントロを載せています。Daily Mailの記事になかったのは、森氏がこの問題をめぐって奥さんから文句を言われたとの情報で、奥さんが森氏に
  • You’ve said something bad again, haven’t you? I’m going to have to suffer again because you’ve antagonised women. 
と語ったとしています。この部分をむささびが和訳すると:
  • あんた、また何か変なこと言ったんですって?あんたが女をバカにするたびに苦労するのはあたしなんですからね、ったくもう・・・
となる。実際の発言は毎日新聞に出ているのでは?

 
The Independent 2月12日
▼その後いろいろあって、森氏が単なる「謝罪」から「辞任」へと発展するに伴って英国のメディアの扱いも変わってきたように思います。マジに報道するようになったということです。むささびの眼から見ると、日本のメディアが「外国メディアも騒いでいる」と書き立て、それを読んだり見たりした人たちが騒ぎ始めたことで森氏が辞任しようと思うに至った・・・つまりこの一連の騒ぎはメディア報道の在り方と無関係ではない。メディアはいろいろと「森が悪い」論を書き立てたけれど、肝心のオリンピックの良し悪しについては何も言っていない。

▼むささびは、東日本大震災からの復興を謳い文句に2020年の五輪に日本が立候補すること自体が間違っていたと思っているし、今回はコロナ禍が絡んで「中止」ではなくて「延期」というシンゾーの悪知恵が通ってしまった。その結果、にっちもさっちもいかなくなっている。今話題にすべきなのは、オリンピックの開催そのものなのでは?
 

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3)フランス人の2021年

世論調査機関のIPSOSが、2021年に臨むフランス人の意識調査を行って発表しています。題して "FRANCE 2021 NOW OR NEVER"(2021年のフランス:今しかない!)。何故"NOW OR NEVER"(今を逃したら、もう二度とチャンスは来ない)などと切羽詰まっているのか、良く分からないのですが、むささびジャーナルではあまり取り上げないフランス人の意識を知ることは悪いことではない。どちらかというと悲観論が多いのですが、パーセンテージをいくつか紹介してみます。

79% ■悲観主義の国?
過半数のフランス人が、現在のフランスの状況について自分たちの両親の時代より悪くなっており、将来はもっと悪くなると思っている。IPSOSの意識調査によると、79%のフランス人が自分の国は誤った方向に進んでいると考えている。10人に8人の割で悲観論者ということですが、昨年(2020年)末に行った31か国を対象にした調査で、30の質問項目のうち16件についてフランスは「最も悲観的な国・ボトム3」を占めている。そんな国は他にない。日本もかなり悲観的な国ではあるけれどボトム3に入ったのは8件だけだった。IPSOSによると、フランス人が自分たちについて悲観的でない態度をとったのは1975年が最後だそうです。この年は戦後のフランスが初めて経済不況を経験した年だった。その頃のフランス人の平均寿命は73だったけれど現在ではこれが80にまで延びている。
78% ■他人は信用するな
ほぼ8割のフランス人が「他人と付き合うときは十分すぎるくらい注意しろ」(one is never cautious enough when dealing with other people)という戒めを信じており、お互い同士が信用し合っていないという感じです。ただ政治的な指導者に対する信頼感も高くない。51%のフランス人が「エリートたちは、大多数の国民の利益に反すると分かっているような決定を行う」と考えている。さらに言うと、78%のフランス人が、4年前にマクロンが大統領になって以来、国として落ち目の一途をたどっていると考えている。
20% ■持っているものを節約、持っていないものを消費?
フランス人は自分の持っているものを節約し、持っていないものを消費しようとする(Saving what you have, spending what you don’t)というとややこしいけれど、要するに金持ちほど貯蓄するということ。フランス人の貯蓄額の7割が上位20%の最富裕層によるもので、彼らはコロナ禍でも財産は増えている。その一方で最下層20%はコロナ禍以前よりも借金が増えているのだそうです。
46% ■幸せって何?
「愛は金では買えない」(Money can’t buy you love)というけれど、フランス人が幸せを感じる3大要素は肉体的に丈夫であること(physical well-being:51%)がトップ、次いでいずれも46%で「家庭の幸福」(happy family life)と「お金」(more money)が来ている。その一方で数字としては出ていないけれど、コロナ禍に伴うロックダウンがフランスの消費者に教えたのは「怠惰は素晴らしい」(laziness is good!)ということだった。これはコロナ禍が過ぎ去ったあとも残る可能性が高い。
16% ■普通の生活は遠い
2021年中には生活がもとに戻っている(back to normal)と考えるフランス人は16%と非常に少なくて7割が「1年後もマスクを着けているだろう」と答えている。また63%がコロナ禍を公共の健康問題(34%)というよりも経済的・社会的な問題と考えている。


この記事の最初に書いた通り、報告書はフランスの現状について「今を逃したら二度とチャンスはめぐってこない:NOW OR NEVER」と書いているけれど、IPSOSによると、フランスは特にビジネスの点で遅れが目立つのだそうで、その例として小売業界のオンライン化を挙げている。ドイツでは小売業者の70%がオンライン化しているのに対して、フランスの場合は30%に過ぎないのだそうです。その意味でも「今しかない!」(NOW OR NEVER)とはっぱをかけたくなるというわけです。

ジョンズ・ホプキンズ大学の統計(2月11日現在)によると、フランスの感染者数は244万人、英国の場合は400万人となっている。両方とも人口は約6700万です。感染者に対する死者の割合はフランスが2.3%(80,591人)、英国は2.9%(115,068人)という数字になっています。

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4)「壊れた政治」からの脱却を


The Economistの「英国」のコーナーにBagehot(バジョット)というコラムがあります。主に英国の国内政治をテーマにするエッセイが多いのですが、1月23日号の記事はマーク・ステアーズ(Marc Stears)という政治学者が最近出した“Out of the Ordinary”(普通からの出発)という本を通じて最近の英国政治について語っています。ステアーズは、2010~2015年、エド・ミリバンドが労働党の党首だったころに党首のスピーチライターとして労働党の政治に絡んでいた人物です。

で、The Economistの政治コラムのテーマは
  • The politics of technocracy and ideology have left Britain badly broken テクノクラシー政治とイデオロギー政治のおかげで英国はガタガタに壊れてしまった
となっている。

▼「テクノクラシー」という言葉をネットで調べると「国家の政策が,専門家の専門知識にもとづく勧告によって決定されるような政治体制」と説明されています。「科学的知識や高度の行政・管理能力を有する専門家(テクノクラート)が政策決定過程のなかで重要な位置を占め、事実上権力を行使しているシステム」のことをいうとも。要するに「情熱」とか「思想」などというものにあまり重きをを置かない姿勢のことであろうと(むささびは)思います。日本における最近の例としては、経済学者(竹中平蔵氏)の意見が大きな役割を果たした(ように思えた)小泉純一郎さんの政治があるのでは?現在のコロナ政治はテクノクラシーそのもののように見える。
 

ブレアからコービンへ

過去25年間の英国政治を振り返ってみると、そこに二つの対称的ともいえるスタイルを見ることができる。一つは1997年~2016年までの約20年間、もう一つは2016年から今までの4年間です。最初の20年間の主流は労働党はトニー・ブレア(1997~2007年)、保守党はデイビッド・キャメロン(2010~2016年)が党首を務めていた時代であり、The Economistの表現によると政治家と専門家が「上から支配する」(governed from on high)テクノクラシー政治の時代です。

それに続いたのが労働党はジェレミー・コービン、保守党はボリス・ジョンソンによって支配された時代で、それまでの安定した「常識的体制」(status quo)を覆すような「生の政治的情熱」(raw political passions)に訴えるような姿勢の政治です。別の言い方をすると「イデオロギーによる政治」ということになる。コービンは伝統的な社会主義・左翼思想、ジョンソンは右翼的ナショナリズムを体現していた。ブレアやキャメロンによって敷かれたはずの「常識」が完全にひっくり返されてしまい、国民の間にはもう安定した「専門家による政治」に戻る気持ちさえないように見える。
  • 問題は、英国の政治を次に支配するものは何なのか?ということだ。 The big question hovering over British politics is what comes next.
というのがThe Economistの問いかけです。

草の根労働党員の不満

マーク・ステアーズがスピーチライターを務めたエド・ミリバンドが労働党の党首だったのは2010~2015年。彼の前の党首はゴードン・ブラウンであり、その前がトニー・ブレアだった。彼ら以前の労働党は、産業の国営化などの「左派路線」を歩む政党だった。熱烈な支持者もいたけれど「政権」とは無縁だった。その労働党を「中道寄り」に変えたのがブレアとブラウンだった。ブラウンが党首のころに選挙でデイビッド・キャメロンの保守党に敗れて労働党は野党に。ブレアとブラウンの右寄り路線に不満を持っていた労働党関係者が担ぎ上げたのがエド・ミリバンドだった。つまり彼は労働党を「左」に寄せることが期待された。

今にして思うと、ミリバンドが労働党のリーダーを務めた5年間は、世界的な金融危機(2007~2008年)と2016年のBREXITの間に挟まれた時代だった。ミリバンドは2015年に辞任、ジェレミー・コービンが党首に選ばれたわけですが、コービンはブレアとブラウンの「中道・労働党」に不満を抱いていた草の根の党員の間では圧倒的な人気があった。コービンは第1回投票において59.5%の圧倒的得票で労働党党首に(むささびジャーナル327号)。


上から目線のロンドン政界

ミリバンドのスピーチライターとして政治に関わったマーク・ステアーズが眼にしたのはロンドンの政界(Westminster Village) と普通の有権者の間の意識のギャップだった。労働党のリーダーだったコービンは急進的な左派思想によってそのギャップを埋めようとしていたし、保守党のリーダーたちは「反欧州」の愛国主義を掲げていた。ただステアーズの眼には、いわゆる技術主義グループと思想中心主義グループの間には類似点があると思えた。即ち両者ともに有権者が直面する日常の問題よりも抽象的な思想論議に熱心だったということ。彼らの眼には、いわゆる「普通の人間」はもの知らずであり誤った考え方に凝り固まっているとしか見えなかった。


スピーチライターを辞めたステアーズは、大学でDHロレンス、ジョージ・オーウェル、J・B・プリーストリーのような第二次大戦以前に活躍した文学者や芸術家たちを研究することに没頭した。その結果として生まれたのが“Out of the Ordinary”(普通からの出発)という著作だった。ステアーズによれば、これらの先人たちが「英国らしさ」を代表するものとして重きをおいていたのが、いわゆる「左翼」による「上から目線」の合理主義でもなければロマンチックな愛国精神でもない。要するに「イデオロギーというレンズを通さない、ありのままの英国」(looked at the country as it actually was rather than through ideological lenses)だった。そのような「ありのままの英国」を支えたのは、隣近所の住人たちが集まる「労働者クラブ」(working-men’s clubs)や「婦人会」(women’s institutes)のようなグループだった。これらのグループは政治結社ではないけれど、政治に無関心というわけではない。

「ありのまま」の復活を

ステアーズによると、これらの「ありのままの英国」の復活を目指す政治は、国民が常に気にしている部分に目を向けようとするけれど、労働党や保守党のような政治家は無視してしまうことが多い。現代の英国人が最も望んでいることは?という世論調査によると「親しい友人や家族と時を過ごすこと」という結果が出ている。そのことをステアーズが労働党幹部に聞いてみると、答えは単純に
  • それは政治とは関係ないのではないか it’s not the sort of thing that politics is about.
ということだった。


人びとの日常の関心事に焦点を当てる政治が実現すると、国家(政府)と人びとの関係が変わってくるだろう、とステアーズは考えている。公共のサービスの在り方に市民の意思が反映されるようになり、政治家の国民(public)に対する感覚も変わってくる。人間を「票」として見ることを止めて、常に自分の眼の前にぶら下がってごちゃごちゃやっている存在として見るようになる。

「普通の人間のための政治」などというと、絵空事のように響くかもしれないが、実はそれはすでに始まっている、とステアーズは考えている。それを推進しているのは地方の政治家であり、NPOの活動家である、と。ロンドンのBarking and Dagenhamという「区」には、Every One, Every Dayという活動があるけれど、その活動理念は「人びとが毎日のように一緒にやっていることが大事」ということにある。約2000人の活動家が参加している。例えば使われなくなった倉庫を何かの仕事場に改良するとか。あるいは、かつてのサッカー選手だった人物はコロナ禍の最中に休校とする場合でも無料の給食だけは続けるように政府を説得した。 


「普通の人びと」って誰?

The Economistのコラムは、「日常生活の政治(politics of everyday life)という概念は、政治計画とするには、あまりにも漠然としており、なおかつ不完全であるともいえる」としている。国民が不満を漏らす「日常の問題」(バスの停留所がなくなった、町の公会堂が古すぎるとか)の多くは、よく考えると中央政府の「緊縮政策」の結果として起こっている場合が多い。その解決のためには中央政府の経済政策を変更すべきであって、単に地方政治を活性化して実現するというものでもない。

そもそも「日常生活の政治」の中心となるはずの「普通の人びと」(ordinary people)とは誰のことなのか?The Economistによると、現在の労働党にとって最大の難問は、訴えるべき有権者が二つに分かれてしまうということである、と。一つは「労働階級」(working class)であり、もう一つは「中間階級」(middle class)。この両者は生まれも育ちも価値観も異なっている。この両者を納得させるような政策を考えることは難問ではあるけれど大いに価値のある作業なのである、としてThe Economistのコラムは
  • これまでの「専門家による政治」と「思想中心の政治」によって、英国は壊れてしまった。それを修復するために必要なのは「上からの政治」(top down)と同時に「下からの政治」(bottom up)なのだ。The politics of technocracy and ideology have both left Britain badly broken. It will need to be fixed from the bottom up as well as from the top down.
という文章で結ばれています。

▼労働党のコービン党首が辞任したのは、2019年の選挙でボリス・ジョンソンの保守党に負けたからなのですが、コービンの後を継いだキア・スターマー(Keir Starmer)は弁護士で思想的には「ソフトな社会主義者」とされている。強硬・社会主義者のコービンは、党首になった当初は労働党員の間で人気があったけれど、BREXITに対する態度がどっちつかずであったことが致命傷となってしまった。

▼この記事によると、英国政治は「思想」にこだわるグループと「専門家」にこだわるグループに分かれてしまっており、それが故に英国社会そのものが壊れた状態になっている・・・とのことですが、日本の政治はどうなのでありましょうか?英国の場合は曲がりなりにも1980年代のサッチャー政権以来、労働党と保守党の間で政権交代が起こってきたけれど、日本の場合は「思想性ゼロの自民党」と「思想性だらけの野党」の対立が続いており、政権が代わるという雰囲気がないように見える。でも、はっきりしているのは、そのことで政治家を責めるのは間違っているということ。そのような政治を生み出し、それに満足しているのは有権者なのですからね。

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5) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 


white lie:小さな嘘

Cambridge Dictionaryの定義によると "white lie" は
  • a lie that is not important and is usually said to avoid upsetting someone
となっています。「相手を傷つけたりしないように使う、重要ではない嘘」のことですよね。で、相手のことなど考えずにつく嘘のことを日本語では「真っ赤な嘘」と言ったりしますよね。これを英語では "red lie" と言う・・・というのはもちろん「真っ赤な嘘」です。正解は "outright lie" です。"outright" は「完全な」とか「あからさまな」と言う意味です。 "outright hostility"(あからさまな敵意)とか・・・。

ところで英国人が子供のころに言われた "white lie" の中で最も一般的なのは「サンタクロースの悪い子リスト」(Santa’s naughty list)だそうです。「いい子にしてないとサンタさんが悪い子リストに載せちゃうからね」というやつ。

それ以外の嘘としては「ニンジンを食べると暗闇でも眼が見えるようになる」、「嘘をつくと鼻が長くなる」、「パンくずを食べると胸に毛が生える」(主として女の子向け)などがある。
 
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6)むささびの鳴き声 
▼「森喜朗の後任は川淵三郎で決まり」というメディア報道について、ジャーナリストの金平茂紀さんが自身のSNSで「ほとんどのマスメディアが、川渕氏後継が森氏の指名によって”確定”したかのような報道ぶりだった」として、自分(金平氏)も含めたメディア関係者は「よくよく反省しなければならない」と言っています。あの時の川渕氏は、森氏が「指名」した(お願いした)というだけで、最終的に決まったわけではない、ということを伝えるメディアは皆無だったというわけです。ラジオでこの報道を聴きながら、むささびも川渕後任が最終的な決定であると思い込んでいました。考えてみるとヘンだよね、クビになった人間が自分の後継者など決められるわけがないもんね。

▼何度も同じことを繰り返して申し訳ないけれど、このような報道をしてしまった報道関係者のことをきっちり論ずる報道関係者が存在しないことには本当に疑問を感じます。ツイッター、フェイスブック、各種のブログetcのようなものはあるけれど、現在の新聞・テレビ・ラジオのような普通のメディアの報道ぶりについてきっちり伝え・語り合う「普通の媒体」が存在していない(としか思えない)のは本当に情けない。そのような役割は自分たちで果たす以外にないのですよね。

▼ただ最近のネット・メディアの発達にはいい点もありますよね。2月12日付の東京新聞のサイトに『森喜朗会長が辞任表明、女性蔑視発言は「解釈の仕方」「意図的な報道あった」』という見出しの記事が出ている。1月12日に行われた五輪組織委員会の理事会と評議員会の合同懇談会における森氏の冒頭発言を一字一句、そのまま伝えるもので、こればっかりは紙の新聞やTV・ラジオではできないものですよね。スペースに限りがないインターネットの世界だからこそできる。いわゆる「女性蔑視」発言について森氏は次のように語っている。
  • まあこれは解釈の仕方だと思うんですけれども、そういうとまた悪口を書かれますけれども、私は当時そういうものを言ったわけじゃないんだが、多少意図的な報道があったんだろうと思いますけれども。まあ女性蔑視だと、そう言われまして。
▼だったら辞任などしなきゃいいんでないの?と言いたくなる。お元気で!

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