musasabi journal

2003 2004 2005 2006 2007 2008
2009 2010 2011 2012 2013 2014
 2015 2016 2017  2018 2019  2020 
2021          
475号 2021/5/9
home backnumbers uk watch finland watch green alliance
BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書


キリンが美人の絵を描いている、上の写真ですが、むささびの友人(在スペインの英国人)がフェイスブックに投稿したものです。キャプションがスペイン語だったので英訳してもらったら "there is a big possibility that your point of view is not always unique"(アンタの見方は必ずしもユニークというわけではない)となるらしい。何物でも見る角度が違えば違って見えるってことだろうと思うけれど・・・。

目次

1)スライドショー:ロンドン市民たち
2)注目のダウン症裁判
3)外交は女性にお任せ?
4)「二階のパンダ」は贈り物?借り物?
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)スライドショー:ロンドン市民たち

クリス・スティール=パーキンス(Chris Steele-Perkins)は、ミャンマー生まれ(1947年)の写真家で、1949年に英国に移住、大学では化学と心理学を学んだらしいのですが、1971年、ロンドンに移りフリーランスの写真家として活動している。奥さんが日本人ということもあってか、日本を題材にした写真集も出しているけれど、基本的には活動の拠点を英国におき、都市部に潜む貧困やサブカルチャーなどをテーマに活動している。

このスライドショーで紹介するのは、2019年に出版された "The New Londoners" という写真集です。サブタイトルが "celebrating London's cultural richness"(ロンドンの文化的豊かさを祝福する)となっているとおり、ロンドンで暮らす外国人家族を題材にしている。そのほとんどが、どちらかというとトラブルが多い国を出て、英国に新天地を求めてやって来た人ばかりです。いずれも家族が集まってカメラを見ているというアングルの写真で、見ているだけでも温かい気分になる。素晴らしいとしか言いようのない写真集です。

back to top

2)注目のダウン症裁判

5月6日付のBBCのサイトによると、来る7月6日と7日、ロンドンの高等裁判所で、現在の英国の妊娠中絶法(abortion law)の改正についての審議が行われます。政府に対して改正を要求する裁判を起こしているのは二人の女性。一人は本人(と夫)がダウン症、もう一人は母親で自分の息子がダウン症者となっている。二人とも現在の中絶法がダウン症児の中絶を出生前診断のときまで許しているのはフェアではないというわけで、法律の改正を求めている。 現在の英国の中絶法によると、妊娠中絶が許されるのは妊娠24週間までで、それ以後の中絶は許されない。が、例外はある。
  • unless there is a substantial risk that if the child were born it would suffer from such physical or mental abnormalities as to be seriously handicapped. その子供が誕生することによって肉体的・心理的な異常さが障害となって(本人を)苦しめることになる危険性がある場合
ということです。


要するに障害者としてこの世に生まれ、それが故に苦しむことになることが明らかな場合は妊娠24週間後でも中絶が許されるということです。これに対して原告が主張しているのは「致死性があるとは言えない障害(non-fatal disabilities)については、すべて健常者と同じ”24週間制限”(24-week limit)の原則が適用されるべきだ」ということです。

中絶法改正を求めているのはハイジ・カーターさんとマリー・リー=ウィルソンさんの女性二人。ハイジ・カーターさんはミセスなのですが、夫のジェームズもダウン症。ハイジは自分の言い分について
  • A baby without Down's syndrome can be aborted up to 24 weeks, but a baby like me and James can be aborted to birth. It's downright discrimination. ダウン症でない胎児の中絶は妊娠後24週間が期限なのにダウン症の場合は、生まれるまでならいつでも中絶されるのですよ。これこそ差別じゃありませんか。
と語っている。そしてこの裁判の目的については
  • The reason it's important to me and James is because we're someone who has Down's syndrome and we want to show the world we have a good quality of life. この裁判が私とジェームズにとって大切なのは、自分たちはダウン症であるけれど、素晴らしい生活を送っているということを世界に示すことができるからなのです。
と強調している。


一方、ダウン症児の母親であるマリー・リー=ウィルソンさんには息子が二人おり、そのうちの一人がダウン症であり、母親として二人ともフェアに扱っているけれど「法律は必ずしもフェアではない」(the law does not value them equally)というわけで、
  • As a mother, I will do all that I can to ensure the fair and equitable treatment of my son, Aidan. 母親として息子がフェアな生活を送ることができるようにできるだけのことをすることが裁判の動機です。
と言っている。彼女は「妊娠中絶の善悪を問題にするつもりはない」(the case is not about the rights or wrongs of abortion)、とも。英国にはダウン症関連のチャリティ組織としてダウン症協会(Down's Syndrome Association)があり、職業訓練や親へのアドバイス提供などを行っている。

▼この記事の最初に載せた花婿・花嫁の写真の右側がハイジ・カーターさん(25才)です。英国のDown’s Syndrome Association日本ダウン症協会が、それぞれのサイトで謳っている「理念」を表す言葉がお互いに似通っているのが興味深いと思います。一方が「その人らしく、普通に、安心して暮らせる社会」を求め、もう一方が "unique individuals with their own personalities" を目指す・・・という具合です。つまりダウン症であってもなくても、人間が生きている限り願っている生き方であり考え方であるということです。

back to top

3)外交は女性にお任せ?

上に並んだ女性8人、何だと思います?失礼、「誰」だと思います?この方たちは全員、英国の現役外交官、それも「主要ポスト」の大使です。駐日大使(下段左端)はジュリア・ロングボトム(Julia Longbottom)で、1963年生まれだそうです。


駐日英国大使館

4月29日付のGuardianに出ていた記事によると、このほどパリ駐在の新しい英国大使にメナ・ロウリングス(Menna Rawlings)という女性外交官が就任したのですが、彼女の就任によって、英国の主なる外交相手国の大使がすべて女性で占められることになった(New UK ambassador to France means women hold all key postings)というわけです。アメリカ、日本、フランス、ドイツ、イタリアのG7以外にも中国、ロシアの大使も女性だし、国連代表も…というわけで、これまで「男だけ」(incredibly blokey)と言われて批判されていたジョンソン政権にとって主なる外交プレーヤーが女性で占められることになったということです。

ボリス・ジョンソンがそれを意図したのかどうか、分からないけれど、結果として英国という国が、外交の世界で女性を重視する国であるという印象を与えていることは間違いないのでは?Guardianによると、第二次大戦直後の1946年までは女性が外交にかかわることは禁止されていたし、それが緩和された後も1973年までは、結婚したら辞職することとされていた。それでも最初の女性大使が誕生したのが1987年というから、かなり最近まで「女人禁制」の世界だったってことになる。政治の世界では1979年には女性首相(マーガレット・サッチャー)が誕生しているのですがね。

パリの英国大使館

駐仏大使に女性が就任するのは英国史上初めてのことなのですが、彼女以前の43人の大使はいずれも男性だった。唯一の例外めいた存在がネビル・ジョーンズ(Neville Jones)という女性で、彼女はかつては外務省の国家安全保障大臣も務めたことがあるような「重鎮」で、2006年に駐仏大使への就任が噂されたけれどそれが立ち消えになったことに腹を立てて外務省を辞めてしまった。

英国外務省によると、過去10年間で女性大使の数は22人から60人へと増えているのですが、最近の5年間ほど主要ポストに女性が就任したケースはないのだそうです。女性大使が珍しかったとすると、もっと珍しかったのが女性の外務大臣で、2006年に労働党のブレア政権によって外務大臣のポストを提供されたマーガレット・ベケット(Margaret Beckett)が唯一の女性外相だった。保守党政権下での女性外務大臣はいないのだそうです。

▼そうなると気になるのは日本の外交官はどうなっているのかってことですよね。上に挙げたような「主要ポスト」の大使に女性は何人いるのか?答えはもちろんゼロ。ウィキペディア情報ですが、日本の外交官には「特命全権大使」と呼ばれる人が151人いるけれど、そのうち女性は4人(在モルディブ・パラグアイ・クロアチア・エチオピア)のようです。むささびがもう一つ関心を持ったのが「大使」と呼ばれる人の年齢だった。英国の場合、これらのポストに関する限り平均年齢は約56才、日本の大使の平均年齢は64才だった。

back to top

4)「二階のパンダ」は贈り物?借り物?


5月1日付のThe Economist誌のサイトに自民党の二階俊博幹事長について語る記事が出ているのですが、
  • 現在の日本において大きな力を有している(二階幹事長を中心とする)政治勢力は中国のご機嫌をとることに懸命になっている A powerful faction in Japan strives to keep China sweet 
と言っており、二階氏らの政治グループのことを「パンダパワー」と呼んでいる。「中国のご機嫌をとる」(keep China sweet)というのを別の言い方で表現すると「アメリカと中国のどちらか選ぶようなことがない政治」(politics of not choosing between America and China)ということになる。


二階氏が中国との友好関係に力を入れる最大の理由は、経済界がそれを望んでいるからだ、と。中国は日本の輸出の22%を引き受けており、その意味ではアメリカ(18%)よりも大切なお客さんであるともいえる。かつて日銀の北京事務所長を務めたこともある瀬口清之氏によると、日本にとって「アメリカは父親、中国は母親」(The US is father and China is mother)なのであり、「日本は選ぶことができない」(we cannot choose)とさえ言っている。

二階氏は1939年の生まれであり、「裏取引が当たり前だった時代の日本」(backroom dealmaking was the norm in Japan)で育った政治家でもあり、若い政治家はPR(public relations)に力を入れるけれど、二階氏の世代にとって「政治=人間関係(human relations)」ということになる。二階氏は2005年10月に発足した第3次小泉内閣に経済産業大臣として参加、その際に経済界との結びつきを強め、党内でも賛同者を集めたとされている。2016年に彼を自民党幹事長に推したのは、当時の安倍晋三首相であり、二階氏を自由にしておくと別の人間に肩入れしかねない、と安倍氏が恐れたからだった。



安倍首相の意図はともかくとして、幹事長という「止まり木」(perch)に収まった二階氏は、安倍首相の病気引退を機にキングメーカーへと変貌した。あの当時、菅義偉氏を安倍首相の後継者と考えていた人間など誰もいなかったのに、二階氏が党内の支持票を集めることで菅政権の誕生に尽力した。菅首相にとって二階幹事長による支持は必要不可欠なものであることは間違いないけれど(The Economistによると)そのことが菅政権の弱体化を招いている部分もある。コロナ禍対策の一環として、二階氏が推したとされる国内観光業界への肩入れが却って感染者を増やしてしまったとする声もあり、菅首相はこれを撤廃せざるを得なかった。

その二階氏にとって最も重要な政治課題は中国との関係改善である、とThe Economistは指摘します。二階氏の世代の日本人にとって太平洋戦争に伴う罪悪感が中国との関係改善の希望に繋がっている、とされている。ただ三浦瑠麗という政治学者は「二階氏を最初に中国に惹きつけたのは(罪悪感などではなくて)中国文化の力だ」(It’s China’s cultural power that first bought Nikai)と主張している。



が、何と言っても二階氏を惹きつけたのは中国の経済力だろう、とThe Economistは言っている。二階氏は20年も前から日本の産業人を引き連れて中国を訪問することを繰り返している。北京大学のYu Tiejun(于鉄軍)氏は二階氏について
  • 外交というものは人間関係が大きな役割を果たす。最も大事なのは信用だ。中国側から見ると、二階氏ほど信用できる人はそんなにはいない。 Diplomacy depends on human relationships to a great extent; trust is the most important thing. We cannot find many people like him who could be trusted by this side. 
と語っている。


確かに二階氏のような活動によって築かれた信頼関係は(例えば)尖閣問題などを巡って2010年代に日中関係が冷え込んだ際には大いに役にたった、とThe Economistは言います。安倍首相が中国との関係改善を意図して習近平主席宛てに書いた書簡を届ける役割を担ったのも二階氏だったそうです。ただ最近の香港や新疆ウイグル自治区の問題などを巡って日本の中国観は再び厳しいものになりつつある。コロナ禍が原因で取りやめになった習近平主席の国賓訪問についても延期ではなく中止すべきだという声も高くなっている。

菅首相とバイデン大統領との会談後に発表された共同声明は、日米関係では初めて台湾支持を打ち出し、中国側は「日本はアメリカの手下になっている」(Japan is acting as a “vassal” of America)と批判している。二階氏は中国内に対話ができる「ホットライン」を持ってはいるけれど、「台湾」のように領土問題などが絡んでくると、それもさしたる役には立たないだろうという声が日本にもある。


二階氏の地元である和歌山県には、動物園、水族館、遊園地が一体となった「アドベンチャーワールド」というテーマパークがあり、中国からやって来たパンダが7匹もいるのだそうですね。昨年11月に赤ちゃんパンダが生まれた際には、中国外務省のスポークスマンである趙立堅氏が自身のツイッターで「日中友好関係の目撃者になってくれるだろう」(It will be a witness of the friendship between China and Japan)と述べたりもしていた。ただ最近の雲行きを見ていると
  • あのパンダも中国からの贈り物ではなく、借り物に過ぎないということだ。 The pandas in Wakayama are not gifts but merely on loan 
という声が聞こえてきそうだ、とThe Economistは言っている。

▼この記事を読みながらむささびが思ったことの一つに「誰が書いたのだろう?」ということがあります。英(米)国人の記者なのか?日本人なのか?気のせいか、いわゆる「専門家」の言葉の引用が多いような気がしたのです。瀬口清之(キヤノングローバル戦略研究所)、中林美恵子(早稲田大学)、飯尾潤(政策研究大学院大学)、篠原文也 (政治コメンテーター)、川島真(東京大学)、宮家邦彦(元外交官)、于鉄軍(北京大学)・・・全部で7人、経団連の中西宏明会長も入れると8人です。でも二階さん本人の言葉はない。「政治コメンテーター」である篠原文也氏は「二階氏に近い」(close to Mr Nikai)、宮家邦彦氏は菅首相の「特別アドバイザー」(special adviser to Mr Suga)だそうです。The Economistという雑誌の評判を考えると、これら「専門家」にしてみれば、自分の名前が印刷されることは悪いこっちゃない。メディアと専門家は正に「持ちつ持たれつ」関係なのでしょうね。

back to top

5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら


sleaze:不正

最近の英国メディアは "sleaze" という見出しの記事を見ない日はないのではないか…。英和辞書によると「いかがわしさ」とか「低俗さ」という日本語が出ており、それも間違ってはいない。Cambridgeの辞書では "sleaze" は次のように説明されている。
  • activities, especially business or political, of a low moral standard: 特にビジネスや政治に絡む道徳的に劣る行為
で、最近の英国メディアが書き立てている "sleaze" は、ジョンソン首相夫婦が住んでいる首相官邸の改修費用に関係している。英国首相が官邸の住居整備のために受け取る公費は年3万ポンド(約450万円)なのだそうですが、ジョンソン首相夫妻が行ったリフォームにかかった費用は20万ポンドに上るのではないかと言われている。そんなべらぼうなお金はどこから出たのか?噂によると、首相が自分の後援者に払わせたのではないか、と。だとすると完全に法律違反ということになる。

この件について、かつては首相の上級顧問を務めたドミニク・カミングス(Dominic Cummings)という人物が最近になって自分のブログで、リフォーム費用を後援者に払わせるというアイデアを首相から打ち明けられたことがあるというニュアンスのことを語ってしまった。その人物は首相に対して、そのようなアイデアは「非倫理的、愚か、おそらく違法」(unethical, foolish, possibly illegal)だからやめた方がいいと伝えたのに…と言っている。

back to top

6)むささびの鳴き声
▼人生の叡智を表す「見ざる・聞かざる・言わざる」(三猿)はてっきり日本オリジナルかと思っていたら「3匹の猿」という発想自体は古代エジプトやアンコールワットにも見られ、シルクロードを伝い中国を経由して日本に伝わったという説もある(とウィキペディアに書いてありました)。最近ではそれが上の写真のような「四猿」になりつつあるらしい。右端の「スマホざる」はどのような「叡智」を表しているのか?最初の三つの正反対(見ろ・聞け・言え)はいずれもスマホに当てはまる?

▼「三猿」を英語で言うと "three apes" なんだそうですね。"three monkies" ではない。ape と monkeyの違いは?英和辞書によると、前者は「直立して歩き尻尾がない」もので別名類人猿。チンパンジー、ゴリラ、オランウータンなどがこれに入るのだとか。要するに動物学的に言ってヒトに近いってことなのでは?むささびはスマホを使わない・使えないのだから "four apes" には入れない。


▼上の写真は5月3日付のBBCのサイトのトップページです。左に「インドはどのようにしてコロナ禍の悲劇に落ち込んで行ったか」(How India descended into Covid-19 disaster)という大きな見出しがあり、右側にコロナ重症者と見られる二人の女性が不安げにカメラを見ている様子が示されている。むささびはBBCのサイトはかなり頻繁に見るのですが、コロナ禍の報道ぶりには(多少の)戸惑いというか反感のようなものを感じます。上の写真のサイトをインド人が見たら何を想うだろうか?不安?恐怖?怒り?いろいろな感情が入り混じると思うけれど、決して物事に前向きの感覚ではない。だからBBCが悪いと責める気持ちは毛頭ないけれど、このサイトページを作っているBBCの人たちが何を感じているのか、気にはなる。


▼BBCついでにもう一つ。これは5月7日付(時間帯は忘れた)のトップページ。"Japan extends Covid restrictions as Olympic loom"(オリンピックが迫って、コロナ禍規制を延長)という見出しですが、菅政権による「緊急事態宣言」の延長の話。記事の中に下記のような記述がありました。
  • The move casts more doubt on whether the Olympics will go ahead as planned.
▼「菅政権によるこのような動きを見るにつけ、オリンピックを予定通り行うべきかどうかについて疑いが出ている」ということですよね。

back to top

←前の号 次の号→