musasabi journal

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488号 2021/11/7
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書

ますます冬が近くなってきますね。上の写真、紅葉がきれいそうなところですが、スコットランドの首都・エディンバラから北へ約2時間、車で行ったところにあるピトロクリー(Pitlochry)という山間の町の郊外にあるお城(のようです)。むささびが描く「スコットランド」(殺伐とした自然の景色)のイメージとは少し異なりますね。スコットランドでは最近、グラスゴーで気候変動枠組条約締約国会議(COP26)なるものが開かれて、毎日のように報道されているけれど、スコットランドについては殆ど何も報道されず、「イギリスのグラスゴー」などと呼ばれている。

目次

1)スライドショー:再び、ドロシー・レンジ
2)トランプがSNSを提供する?
3)眞子さま騒ぎ:太陽と月、そして…?
4)英国:少子化で何が変わるのか?
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)MJスライドショー:再び、ドロシー・レンジ

ドロシー・レンジ(Dorothea Lange)というアメリカの女性写真家については、すでに一度スライドショーで紹介したことがあります(むささびジャーナル355号)。1898年、ニュージャージー州生まれ、1965年に70才で亡くなっているのですが、写真家としての彼女の名前を不動のものにしたのは、1929年の大恐慌あたりからのアメリカ人の生活を克明に記録したドキュメンタリー・タッチの作品群です。彼女の言葉に
  • 誰が見ても「写真になる」と思われるものを撮影しても意味がない。 It is not enough to photograph obviously picturesque.
というのがあるのですが、どの作品を見ても「決定的瞬間」ばかりです。

彼女は7才のときに小児麻痺で右足が使えなくなっているのですが、自分自身の障害について後日次のように語っている。
  • 障害こそが自分を形作り、自分を導き、教訓をもらい、助けとなり、そして自尊心を傷つけた。私は自分の障害を乗り越えたことがない。障害の暴力と力の両方を知っているつもりだ。It formed me, guided me, instructed me, helped me and humiliated me. I’ve never gotten over it, and I am aware of the force and power of it.
今回のスライドショーは彼女の作品の中から被写体が女性のものだけを使わせてもらいました。

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2)トランプがSNSを提供する?

日本のメディアでも伝えられていたけれど、トランプ前米大統領が自分自身のSNS提供会社を立ち上げることを発表したのですね。名前を "TRUTH Social" というのだとか。彼は、自分がこれまでさんざ利用してきたFacebook、Twitter、YoutubeなどのSNSから閉め出しを食ってしまっていたのですが、それでは、というわけで、自分自身でこれを立ち上げて世の中に提供することにした、と。彼はそのためにTrump Media and Technology Group(TMTG)という企業を設立している。そのTMTGは新SNSの立ち上げについて次のような声明を発表している。
  • 我々が暮らしている世界では、あのタリバンが大きな顔をしてツイッターを利用している一方で、あなたが大好きなアメリカ大統領が沈黙させられているのです。誰もが私に問いかけるのです、(主なるSNSを運営している)巨大テクノロジー企業に対して何故だれも立ち向かおうとしないのか、とね。大丈夫、間もなく私たちが立ち向かいますから! We live in a world where the Taliban has a huge presence on Twitter, yet your favourite American President has been silenced. Everyone asks me why doesn't someone stand up to Big Tech? Well, we will be soon!
C-NETという日本語サイトによると、TMTGは、11月にもこの新SNSの限定版の提供を開始し、来年(2022年)早々にも全米で展開することになっているのだそうです。


トランプのこの新しい事業についてBBCのサイト
  • Donald Trump's team is making a big deal of this. Yet there's no indication that the new company has a working platform yet. トランプたちは大きなことを言っているが、この新しい企業が現実に事業をやっていくのに必要な計画を有しているという証拠はどこにもない。
と厳しいことを言っている。トランプはツイッターやフェイスブックと競争するようなシステムを構築したいところなのだろうが、それは(今のところは)無理というものだ(that simply won't happen)と言っている。またリベラル派のObserver紙の社説(10月24日付)は
  • Aided by his app, the great liar could yet return as the Republicans’ next presidential nominee 自分自身のアプリの助けを借りて、この大ウソつきは次なる大統領選挙で共和党の候補者として帰ってくる可能性がある
と言っている。つまり彼のSNSそのものは(今のところは)全く大したものではないけれど、彼自身が共和党の支持を得て2024年の大統領選にカムバックする可能性があることには十分注意すべきだとしている。

▼フェイスブックを始めとするSNSに関連して、10月28日付の朝日新聞のサイトに『人間をむしばむSNSの罪』という記事が出ており、むささびなどは全く知らなかったことが書いてありました。フェイスブックやツイッターのようなSNSに関連してアメリカには "Communications Decency Act" (通信品位法) という法律がある。それによると、SNSのサービスを提供する企業(フェイスブック社やツイッター社など)には、ユーザーが行った投稿の中身には責任を負う必要がないのだそうです。
  • No provider or user of an interactive computer service shall be treated as the publisher or speaker of any information provided by another information content provider. コンピュータを利用したサービスの提供者やユーザーは、自分たち以外の中身の提供者によって提供された如何なる情報についても、その発行元あるいは発言者として扱われることがない。
▼要するに(例えば)フェイスブックのスペースを使ってむささびが何を言おうが、公序良俗に反しない限り、フェイスブック社には責任がないということですよね。さすがにこのような「無責任の特権」めいた規律は改正すべきだという動きがあるのですが、その議論を見ていると「メディアとは何か」という問題は本当に重大なものであることが分かります。自分たちは意見を発表したい人たちにそのためのスペースや時間を提供しているだけであって、意見そのものに責任は持てない(持たない)という考え方ですよね。それでも彼らはスペースや時間を提供することで利益を得る。「メディア」という業界が持っている、このような特質は大いに監視する必要がありますよね。

▼日本語では「通信品位法」などとなっていて、何のことだか分からないけれど原文は ”Communications Decency Act” となっている。 "decency" は「品位を保つ」「公序良俗に反しない」という意味だから、当然通信の中身にまで踏み込んで考えなければならないということでしょうね。

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3)眞子さま騒ぎ:太陽と月、そして…?

秋篠宮家の長女眞子さまと小室圭さんの結婚について、10月27日付のThe Economistが3本立て(?)の見出しで報じています。
  1. The sun, the moon and the tabloid newspapers
    太陽・月・そして大衆紙
  2. A long-delayed royal wedding reveals awkward truths about Japan
    長い間延期された皇室結婚によって明らかになったのは、日本についての嬉しくもない真実だった。即ち…
  3. Women are still badly treated, politics is out of sync with the people and the monarchy is dwindling
    女性は今もなお不当に扱われ、政治は国民とかけ離れ、そして皇室は衰退の一途をたどっているということである。
というわけです。最初の "The sun, the moon..." というのは、眞子さまが小室圭さんに魅かれたのは、彼の"smile that is like the sun"(太陽のような笑顔)であり、小室さんにとって眞子さまは “the moon watching over me tranquilly”(静かに自分を見つめてくれる月)であったのですよね。問題が起こってしまったのは、日本の大衆紙(Japanese tabloids)が小室さんについていろいろと詮索を始めてしまったからだ…と。


それからのことは(さんざ報道されているので)あえて繰り返しませんが、The Economistによるならば、メディアが小室さんについて騒ぎ立てたようなことは「殆どスキャンダルに値しない」(By most measures, the accusations are not scandal-worthy)ものだったけれど、現代の日本における家族・結婚・自己証明のような問題の不安定さを明らかに露呈したものであることは確かだった、というわけです。

今回の一連のすったもんだによって明らかになったことがある、とThe Economistは強調します。それは
  • 特に社会問題になると、日本の政治が声高な少数の保守派によって牛耳られてしまうということである。Japan’s politics, especially on social issues, are hostage to a vocal, conservative minority.


最近の世論調査を見ても、世論のほとんどが二人の行動に肯定的であるし、女系天皇については85%がこれを許すべきだとしている。日本では同性婚にしても夫婦別姓にしても、「政治家よりも国民の方がはるかにリベラル」(the public is far more liberal than legislators)というのが現実なのだそうです。
  • 英国のある部分の王室の夫婦と同じように、この新しい日本の皇室夫妻も自分たちの将来を、面倒な足かせだらけの自分たちの国とは別のところで築くことに決めたわけだ。マコとケイの二人は間もなくハリーとメーガンの夫婦とアメリカで一緒になるだろう。 Like a certain British royal couple, the new Japanese royal couple have decided to make their future outside the stodgy confines of their homeland. Mako and Kei will soon join Harry and Meghan in America.
とThe Economistの記事は言っている。

▼「日本の政治が声高な少数の保守派によって牛耳られてしまう」という部分は本当です。ここでいう「保守派」というのは、自分たちを取り巻く物事が変化することを極端に怖がる姿勢を持っている人間たちということです。ただ、むささびの見るところによると、さすがに「眞子さま」騒動についてのメディア報道については、心の底では「アホらしい、誰と誰が結婚しようが我々知ったことではない」と思っている人たちが大半でしょうね。英国におけるメーガンとハリーについての大衆紙の大騒ぎと同じです。この際、二組ともアホらしい保守人間とはなるべく離れたところで暮らした方が精神的には健全です。

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4)英国:少子化で何が変わるのか?

前号のむささびジャーナルで、中国における出生率の問題を語りましたが、今度は英国です。政府統計局(Office for National Statistics:ONS)が最近発表したところによると、昨年(2020年)のイングランドとウェールズの出生率は1.58だったのですが、これは記録を取り始めた1938年以後で最低の記録だったのだそうです。10月14日付のThe Economistが伝えています。

特に低かったのがロンドン市内(inner London)で、Newhamと呼ばれる区で生まれた赤ん坊の数は5,442人だったのですが、これは2012年の6,426人に比べると約1000人の減少ということになる。ONSによると2020年の数字と言っても、実際にはその殆どがコロナ禍以前に身ごもったものなので、今年(2021年)の数字が昨年のそれを下回ることはほぼ間違いないとのことであります。


ジョン・アーミッシュ(John Ermisch)というオックスフォード大学の社会学者によると、イングランドとウェールズにおける出生率の低下は女性の学歴と関係がある。昔に比べると大学へ進む女性が増えているのですが、アーミッシュによると、このままのペースで女性の高学歴化が進むと、いずれは女性の21%が子供がいないことになるのですが、それは1920年代の英国のレベルなのだそうです。

「子供のいない女性」というと、仕事一筋の「キャリアウーマン」で、今さら不妊治療にかかるには遅すぎるような人物を想像しがちであるけれど、現実は少し違う(reality is different)のだそうです。1970年生まれの英国人(現在は50代)の意識調査によると、子供を持たない理由の中で最も重要なのは(男であれ女であれ)「子供が欲しくない」というのと「これはと思う相手(パートナー)が見つかっていない」の二つだった。「子供を持つ」ということに対する基準や期待(norms and expectations)の点で以前とは違ってきているように思える、とThe Economistの記事は言っている。アメリカの経済学者によるアメリカ人の意識調査でも似たような結論が出ている。彼らの説によると、出生率の低下は経済的な原因で起こるのではなくて、人びとが「人生」とか「家族」というものに期待するものが変わってしまったことに原因がある。
  • 具体的に言うと、かつてに比べると、子供というものは大いに努力と注目を要求する存在であると考えられるようになっている。 In particular, children are thought to require much more effort and attention than was the case in the past.
というわけです。


最近の高齢者で子供がいないというケースは珍しい。今年で80才を迎える人間は1941年生まれだけれど、最後まで「子なし」という人は11%しかいない。国の出生率が下がり、人間(国民)の寿命が延びるということは、自分の老後を子どもではなく、社会福祉による国のケアに頼るケースが増えてくることに繋がる。政府統計局の推定によると、子供のいない80才の数がこれから20年で3倍に増える。そうなると社会福祉制度に対する圧力はますます強くなる、と。


そうなると、文化もまた変化するかもしれない(Culture might change, too)とThe Economistは言います。19世紀以前の英国文学というと、男の高齢者、独身女性、未婚の叔母などという登場人物が多かったけれど、20世紀になってこれが消えた。バーバラ・ピム(Barbara Pym)という作家は、1977年に書いた “Quartet in Autumn” という小説に登場する人物に「未婚で特定の相手もおらず、しかも年老いていく女性の地位について、関心を示す現代文学の作家は独りもいない」と語らせたりもしている。で、The Economistの記事は
  • せめて小説の中だけででも独身婦人を見つけ出そう。さもないと将来はピムズの小説に頼るしかなくなるではないか。 Bring back the literary spinster—or, failing that, look to Pym’s novels for a vision of the future.
と訴えています。

 
▼最後の引用文の中で、バーバラ・ピムの小説に出てくる "spinster" のことを、むささびは「独身婦人」と和訳しているのですが、実はこの言葉にお目にかかったのはこれが初めてです。日本語?では「オールド・ミス」あたりが分かりやすいかもしれないけれど、このカタカナ言葉だって最近では全く聞かれなくなりましたよね。Cambridgeの辞書に出ている "spinster" の定義は次のようになっています。
  • an unmarried woman, typically an older woman beyond the usual age for marriage. 未婚女性:典型的なのは結婚適齢期を超えている高齢女性
▼"usual age for marriage" という部分がカギですね。"usual" という言葉を見ると、英語の世界の人びとのアタマにも「当たり前」とか「常識」という感覚が存在するってことが分かりますよね。となると、"spinster" にも「行き遅れ」という日本語が合っているかも。
 
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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

parent lottery: 親ガチャ

今回は英語があって、その意味を日本語で解説というやり方ではなくて、まず日本語があって、それを英語で言うとどうなるのか?という解説です。むささびには「親ガチャ」という日本語の意味が分かりませんでした。ネットによると、最近のSNSなどの世界ではよく使われているらしい。温泉旅館などに行くと、お金を入れてハンドルのようなものを「ガチャガチャ」引っ張って玩具を拾い上げる、玩具販売機械がありますよね。どのような玩具が手に入るのかは機械が決める「くじ引き」システム。「親ガチャ」というのは、自分がどのような親を持っているのかは子どもには決められない「くじ引き」のような状態のことなのだそうです。
  • My parents are nice, so I guess I won the parent lottery? 私の両親は優しいから親ガチャ当たりかな?
というわけ。自分の失敗を「親ガチャのせいにする」というのもありでしょうね。

最近の「親ガチャ」の例として衆議院選挙で落選した何人かの議員がこれに当てはまるという人もいる。親の七光りで政治家をやってきたけど、それがきかなかった議員。石原伸晃、平井卓也、後藤田正純らのことを「親ガチャ」候補と呼ぶ新聞記事もありましたね。世襲による政治家生活に慣れすぎて有権者の空気が読めなかったということのようです。

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6)むささびの鳴き声
▼むささびがどうしても納得がいかないのが、先の衆議院選挙の比例代表における「略称」の問題です。11月5日付の毎日新聞の記事によると、国民民主党と立憲民主党がともに「民主党」というのを自分たちの「略称」として届け出ていたので、投票用紙に略称が記入されていたとしても「国民」もしくは「立憲」のどちらかに「案分」されることにした。「案分」というのは、両党の得票割合に応じて票を割り振る作業のことを言うらしい。札幌市では7万以上もの票に「民主党」と書かれており、いずれも「案分」された、と。何です、これ!?


▼そう言われてみると、あの日、投票所で渡された投票用紙のうち「最高裁裁判官国民審査」は審査対象の裁判官の名前が書いてあって、有権者は「辞めさせたい」者に[X]をつけたけれど、小選挙区に関しては、有権者自身が選びたい政治家の名前を、比例代表に関しては支持する政党の名前を、それぞれ空欄に書き込むことになっていた。そしてご丁寧にも目の前に張り出された「比例代表」の紙には各党の「正式名」と「略称」が書かれている。そのうち国民民主党と立憲民主党の略称が両方とも「民主党」になってしまったというわけですよね。


▼このようなことで今さらキャンキャン言うのは(無知蒙昧なる)むささび夫婦だけであろうと思うのですが、このような張り紙を作った選挙管理委員会なる組織の方に伺いたいのは、同じ略称を何故受け付けてしまったのかということではありません。そもそもなぜこの張り紙に「略称」などを掲載しなければならないと考えたのか?さらにそれぞれの政党名(略称も含めて)にフリガナを付けている理由は何なのか?ということです。


▼ご存じの向きもおいでと思うけれど、英国における国会議員選挙の投票用紙(英国の場合は「小選挙区」のみ)の場合は、投票用紙に立候補者の名前と所属政党名が印刷されており、有権者は自分の判断で望ましいと思う候補者の右側にある空欄に番号を記入することになっているようです。「略称」などというものが存在しないのは当たり前ですが、日本の投票用紙との決定的な違いは、有権者が支持したいと思う候補者の名前を有権者自身が記入するということがないということです。日本の選挙における最高裁の裁判官の審査用紙のようなやり方です。政治家についての投票では自分で記入するのに、裁判官の良否の場合は印(しるし)で表す。両方とも後者のやり方にすると、何か問題でもあるのでしょうか?

▼お役所のバカ丁寧。フリガナといい略称といい、バカにされているような気がしてならないのよね。お元気で!

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