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499号 2022/4/10
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書


暖かくなりましたね。桜も花びらが道路に落ちているようになりました。上の写真は英国の落書きアーティスト「バンクシー」と同じような活動をしているウクライナ版バンクシーの作品だそうです。

目次
1)スライドショー:都会の景色
2)トルコが和平を仲介するわけ
3)北欧:左翼政権の七転八倒
4)「ロシアには革命が必要」か?
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)スライドショー:都会の景色


BBCのサイトを見ていると、読者が撮影した写真のコンテストにお目にかかります。テーマを決めて作品を募集するわけですが、3月13日付のテーマは 'urban landscape' だった。世界中の読者から作品が寄せられたのですが、プロの写真家による作品というより、その街で暮らしている人間の眼に映る景色をそのまま写したという感じの作品が目に付きました。どうってことない風景でも見ようによっては面白くなるものだ…と感心してしまう。

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2)トルコが和平仲介に熱心なわけ

大学の教授たちが時事問題について意見を述べる場として "The Conversation" というサイトがありますが、その3月30日号に "Ukraine war: Turkey’s unique role in peace negotiations" という見出しのエッセイが出ています。書いたのは英国・レスタシャーにあるラフバラ大学で外交・国際問題を研究するマシーモ・ダンジェロ(Massimo D'Angelo)という教授です。ウクライナとロシアの和平に絡むトルコの役割について書いている。

3月29日、ロシアとウクライナの代表による会談がトルコのイスタンブールで開かれましたよね。ホストはトルコのエルドアン大統領。会談の始めに当たってエルドアン大統領は
  • The world is waiting for good news, and good news from you.
というコメントを発表している。

ロシアとウクライナの和平会談は、トルコ以前にベラルーシでも開かれたけれどうまくいかなかった。そこで今度は会場をトルコに変えたわけで、会場を変えたこと自体に意味がある、と筆者は言っている。


和平会議へ向かう代表団(イスタンブール)

この戦争が始まったのは2月24日。トルコは3月10日にも和平会談(ロシア・ウクライナ外相会談)の場を提供しており、これが2度目ということになる。あの外相会談はトルコのリゾート地、アンタルヤで開かれた。状況が悪化する中での接触だったけれど、特にこれと言った成果は上げられなかった。あえていえば、両国とも世界に向けてのメッセージ発表の場として利用したということが成果と言えるのかもしれない。ラブロフはウクライナの反ロシアの姿勢を西側のせいであると非難し、ウクライナの代表はロシアが市民の避難を妨げていると非難した。

トルコはNATO加盟国ではあるけれど、良くも悪くもロシアとの関係は深い。例えばロシアの軍艦が地中海から黒海に向かう際にトルコのボスポラス海峡、ダーダネルス海峡を通航することを昔から嫌がっていた。1952年にNATOに加盟したのもそれが理由だった。また2014年のロシアによるクリミア併合にもトルコは複雑な感情を持っていた。


ボスポラス海峡

両国関係をさらに複雑化させたのが、シリア内戦へのロシアの関わりだった。2015年11月、トルコはシリアとの国境付近を飛行中だったロシアの戦闘機を撃ち落とした。トルコはこの戦闘機が同国の領域を犯し、警告を無視したからだと主張、同機がシリア領内にいたことを主張するロシアと真向から対立、あわや軍事衝突というところまで進んだ。もし軍事衝突していたら、それはロシアとNATO加盟国間の初の軍事対決となったはずだった。

が、衝突は起こらず2016年になってトルコ・ロシアの関係修復の試みが始まった。その背後にはシリア内戦でアサド政権に楯突くクルド族の過激派にアメリカが与えた支援があった。その年の7月にトルコ陸軍内部で反エルドアンのクーデターが起こった際にロシアがエルドアン政権に肩入れした。エルドアンはロシアに対して前年のロシア戦闘機の撃墜を謝罪、死亡したパイロットの家族へ見舞金を払うなどしたことで、トルコ=ロシア関係は大幅に改善された。


トルコ製のドローン

そして2017年、トルコはロシア製のS-400地対空ミサイルの購入契約(25億ドル相当)を結んだ。ロシア製の防衛機器がNATOの防衛システムの一部となることについては、NATOは大いに神経をとがらせ、当時のトランプ米政権はロシアに対して制裁を科したけれど、米ロ関係にひびが入るようなものではなかった。

2019年、エルドアンの息子が所有する企業がウクライナに対して戦闘ドローン(Bayraktar TB2)の販売を始めた。欧米製のドローンよりも価格が安かったことが理由とされたけれど、これはロシアの神経を逆なですることになった。

これらの歴史的背景があって、トルコはウクライナ=ロシア間の和平交渉について大いにユニークな立場にあったと言える。トルコは、ロシア=ウクライナ間の和平に尽力することを見せることで、西側との関係を改善することができる。また西側にとってもセルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナから南コーカサス、アフガニスタンに至るまでの安定化にとってもそのようなトルコの存在は有難いものになっている。


さらにトルコは、西側のみならずロシアとも良好な関係を保持する必要がある。トルコにとって貿易相手としてのロシアは欠かせない。特にロシアからの観光客はトルコの観光業界にとっては収入全体の28%を占めるお得意様であり、ロシアはトルコが使う天然ガスの45%、石油の17%、ガソリンの40%の提供元でもある。

つまりトルコは、ロシアとも西側とも良好な関係を保っておく必要があるわけです。さらに政治家・エルドアンにとって、和平の仲介役を果たすことの重要性も欠かせない。トルコという国は、中東、コーカサス地方におけるもめごとの仲介役として長い歴史を有しているし、黒海における強力な勢力であることはボスポラス海峡の封鎖をみても分かる。イスタンブールにおける和平会議はエルドアンにとっても極めて重要な会議でもある。

この記事は次のような締めくくりになっています。
  • 会議が失敗に終わる可能性もないではないが、もしこの会議の結果、トルコがロシアのウクライナに対する暴力行為を終わらせるために貴重な役割を果たしたという結果を生んだとしたら、この地域におけるトルコの地位がトップクラスにまで跳ね上がることは間違いがない。 So much could go wrong, but if Turkey emerges as having played a key role in ending Russian violence against Ukraine, then its status as a first-level power in the region will have been secured. 

▼で、会議の結果は?むささびがこの記事を準備している段階では、Guardianが次のような文章のブログを載せている程度でした。
  • ロシアはイスタンブール会議における「有意義な和平の進展」の結果として、ウクライナ北部における軍事活動を「かなりの規模で」(significantly)削減する…とコメントしたのに対して、西側およびウクライナの関係者は「慎重な」(warily)反応を示した。Western and Ukrainian officials have reacted warily to Russia’s claim that it will significantly cut back its military activity in northern Ukraine after “meaningful” progress at peace talks in Istanbul.
▼さらにウクライナ国内でのロシア軍の仕業とされる市民の虐殺などが起こったりして、イスタンブール会議のことなど忘れたかのような情勢になっています。これではエルドアンも口出しのしようがない?

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3)北欧:左翼政権の七転八倒

ちょっと古いけれど1月22日付のThe Economistに
という見出しの記事が出ています。いわゆる北欧の5カ国(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、アイスランド)ではどこも社会民主主義の政権が復活している。「氷と社会民主主義の地:Land of ice and social democracy」では何が起こっているのか?について書かれているのですが、イントロの部分で
  • 但し優れた社会モデルの新しい見本は未だ定着していない But it has yet to define a new version of its admired social model
とも言っている。その社会民主主義が必ずしもうまくいっていないということですよね。

北欧を引っ張るリーダーたち

(左から)メッテ・フレデリクセン(デンマーク・社民党)、
サンナ・マリーン(フィンランド社民党)、
ヨーナス・ガール・ストーレ(ノルウェー・労働党)、
マグダレーナ・アンデルセン(スウェーデン・社民労働党)、
カトリン・ヤコブスドッティル(アイスランド・左派緑運動党)

スウェーデン:解雇が容易に?

例えば最近、スウェーデンの首都・ストックホルムで開かれたByggnadsと呼ばれる建設関係の労働組合の大会に参加した組合員は誰もが怒っていた。その理由は、労働組合の全国組織(日本で言う「連合」のような組織)が雇用者組織(日本で言う経団連のようなもの)および政府との間で、労働に関するある法改正に賛成したということにあった。改正によって雇用者が労働者を解雇することが容易になった。その代わりに解雇された労働者の再訓練のための費用を政府が負担するということになった。

「この改正は企業経営者の利益になるだけだ」とある労働者は不満を漏らす。彼に言わせると、この「改正」によって企業がこれまで以上に労働者を「いじめやすくなる」というわけです。彼が所属する組合(Byggnads)もこの改正には反対しているのですが、不満を漏らす労働者も社会民主労働党の政府には「私のような埃だらけの建設労働者には関心がないってことですかね」(Do they stand up for me? I’m just a dirty worker.)と不信感を露わにしている。

The Economistによると、北欧の社会民主主義政党の問題点は、選挙には勝つけれど、社会の未来像のようなものが明確でないということにある。昔から北欧といえば、福祉国家というイメージで語られることが多かったけれど、最近ではその福祉国家が昔ほどには「優しい国家」ではなくなり、社会的な不平等も生まれている。それに加えて最近では移民の増加が右翼ポピュリズムの台頭を許している。特に移民問題で、かつての「左翼政党」の右傾化も目立つ。その一方で都会の若年層は、これまで以上に過激な左翼思想に走りがち、というわけで、従来の左翼政党にとっては厳しい時代になっている。


デンマーク:移民を規制

デンマークの社会民主党は特に移民問題における立場の変化が目立つ。2019年、首相に就任したメッテ・フレデリクセンは、それ以前の右派中道政権よりもさらに厳重な移民規制政策を実施している。彼女は移民の多いコミュニティを解散させる「貧民窟法」(ghetto laws)とさえ言われる法律を作ったりしている。お陰で2019年の選挙では、従来の右翼政党が票を減らしたりしている。

フレデリクセンはいかにも左翼的と思われる政策で評判のいいものを実施してもいる。例えば低所得者向けの住宅建設などがそれにあたる。彼女の反移民的な姿勢は外国人嫌いの有権者には受けがいいけれど、進歩的な都会の有権者の支持は失ってしまった。昨年11月に行われた地方選挙では首都(コペンハーゲン)における社会民主党の得票数は前回より10%も下落している。


コペンハーゲンの移民

スウェーデンのアンデルセン新首相はデンマークのメッテ・フレデリクセンの路線をコピーしている部分もある。2015年~16年の移民危機に際してスウェーデンは大量の難民を受け入れた。ギャング戦争には移民が絡むことが多いけれど、移民が増えたことで銃による殺人の件数も増えたと言われる(それでも件数自体はまだ低い)。彼女の前の社会民主党の首相(ステファン・ロフベン)から首相の座を引き継ぐにあたってアンデルセンは、移民の犯罪者を極力国外追放することを約束している。その後になって、首相の自宅を清掃した労働者が不法移民であることが発覚したりしている。

こうなるとスウェーデンでは左翼政党が労働者階級の支持を取り戻すのは難しいのではないかと思われる。現在の議会で18%の議席数を有している右派系のスウェーデン民主党(Sweden Democrats)は、ネオナチ政党としてスタートしたものだが、今では以前よりも穏健になっている。中道右派の「穏健党」(Moderates)は以前はスウェーデン民主党との提携を避けていたけれど、現在では協力するようになっている。進歩派のシンクタンクと思われてきた組織までもがスウェーデン民主党寄りの報告を書いたりもしている。左派系の人間には読むに堪えない報告書かもしれない。現在のスウェーデンの状況について、この報告書の著者は
  • 有権者は政府によるサービスのカットや教育水準の低下という代償を払わなければならないかもしれないが、有権者にとって最大の問題は今や犯罪であり、移民なのだ。Voters may suffer from service cuts or bad schools, but they see their problems entirely through the lens of crime and immigration.
と述べている。

北欧では、かつては社会民主主義の党が40%という得票率を誇っていたけれど、現在では30%にも届かないという状態になっている。やむを得ず他党と連立を組まざるを得なくなっている。スウェーデンのアンダソン首相(社会民主党)は年金政策をめぐって社会左翼党と連立の話し合いをした。それに抗議する形で中央党はアンダソンの予算案そのものを否決する投票を行った。その際混乱がもとでアンダソン首相は一時は辞任に追い込まれたりしている。


コロナに負けるな像(ヘルシンキ)

フィンランド:コロナが禍に?

移民問題をめぐって北欧の有権者は右寄りの政党を支持するようになる。フィンランドのフィンランド人党(Finns Party)はポピュリストの右派政党であったけれど、一時的には進歩的(左派的)政策を支持したこともあった。が、最近では右派に逆戻りしてしまった。現在のフィンランド首相は社会民主主義者のサンナ・マリン(女性)であるけれど、彼女の支持層は左派エリートたちだった。彼女は昨年の12月に自分の同僚がコロナにかかっているにもかかわらずナイトクラブへ出かけていて問題となったことがある。

ノルウェー:気候変動と油田開発

最近の左派政党にとって気候変動への取り組みが売りものとなっているけれど、北欧では何故か緑の党の類が左翼に票を奪われるという現象が起こっている。昨年9月の選挙に際してノルウェー労働党が勝利したけれど緑の党が得た議席数は169議席中のわずか3議席に過ぎなかった。が、左派政党の気候変動の政策はいまいちやる気に欠けると言われている。ノルウェーは労働党と中央党の連立政権となっているけれど、北海における石油開発に積極的な姿勢をとっており、気候変動の問題への取り組みにはいまいち熱意が感じられない。

ノルウェーの北海油田における石油生産

北欧において最も将来性のある政策は、スウェーデン北部にある(とThe Economistは指摘する)。ここには気候変動の問題にも熱心な水力発電が産業の推進役となっている。ヨーロッパにおける電気自動車業界には欠かせないバッテリー生産がNorthvolt社の巨大な工場で行われている。また北スウェーデンのLuleaという町には、石炭を使わない「緑の鉄工所」と呼ばれる住宅メーカーの工場がオープンしたばかり。「グリーンな仕事で公共住宅を作る」という可能性は左派勢力には魅力的。

それ以外となると、北欧における左派勢力の政策は、どちらかというと「何でもありのバイキング」という感じがしないでもないけれど、政治家はいずれも楽観的で「とにかく30年も守り一点張りだったのだから」と言っている。


スウェーデン北部にある電気自動車バッテリー工場

▼この記事がThe Economistに掲載されたのは1月末、ウクライナは未だ今のような状態ではなかった。北欧諸国にとって2月末に始まったウクライナ戦争はNATOの存在をこれまで以上に大問題としている。これら5カ国のうちデンマーク、ノルウェー、アイスランドはすでにNATO加盟国となっているのですが、注目されるのは未加盟のフィンランドとスウェーデンにおける世論の動向です(下のグラフ参照)。

▼まずフィンランドですが、3月末の調査によると世論の6割以上が加盟に賛成で「反対」の16%を大きく引き離している。5年前(2017年)の賛否と完全に逆転しています。不思議なのはスウェーデンの世論で、3月末の調査では加盟に賛成がほぼ6割で「反対」(17%)を大きく引き離しているのですが、これには「フィンランドも加盟するのなら」(if Finland were also to join)という条件がついている。フィンランドが加盟しない場合は「賛成」は41%へと下落している。何故フィンランドの動向をそれほど気にするのか?については説明がされていない。


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4)「ロシアには革命が必要」か?


「戦争」は使用禁止用語 Sergey Karjakinのこと
クリミア併合も間違っていた デモは無意味?
政府と「ロシア」は別もの 革命しかないのか

ドイツの週刊誌、Der Spiegel の3月30日付のサイトに若いロシアのチェス名人とのインタビューが掲載されています。ダニール・デュボフ(Daniil Dubov)という名前の名人で、年齢がまだ25才という若さなのですが、ちょっと変わっているのは、プーチンが進めているウクライナ戦争に反対して43人のチェス・プレーヤーとともに公開状を発表したことで知られている。大事なゲームのためにベルリンへ来たところを捕まえて、ウクライナ戦争についてのロシア国内の様子や彼個人の意見を聞いてみた。むささびはチェスというゲームについては知識も関心も皆無です。
  • DER SPIEGEL: 3月の初めにロシアのチェスプレーヤー44人がプーチン大統領宛てにウクライナへの侵略戦争を止めるように要求する手紙を書きました。何故手紙を書こうと思ったのですか?
「戦争」は禁止用語

Dubov: いま世界中の誰もがロシアは悪い国であり、ロシア人は悪い人間だと思っているでしょうね。でも実際にはかなりの数の人間がヨーロッパの人たちと同じような考えをシェアしているのですよ。(プーチンが)軍事行動を起こしたときは、クレイジーだと思いました。信じられなかった。ショックではありましたが、あの手紙を公表した時には気分は良かったし、我々でも変革が出来るのでは、と思いました。でも…今となっては何も変わりませんでしたね。今、ロシアでは「戦争」という言葉を使うことさえ禁止されています。我々の手紙が公表された後にその禁止がなされたのです。だから我々は犯罪人にならずに済んだというわけです。

  • DER SPIEGEL: 今でも「戦争」という言葉を使いますか?
Dubov: 使いません。それを使うとロシアのメディアは私の言葉を引用できなくなってしまう。たった一つの言葉がそのようなトラブルに繋がるなんて、ヘンですよね。
  • DER SPIEGEL: 手紙を書こうと言い出したのはあなたですか?
Dubov: 中身の一部は私が書いたけれど、手紙自体は皆のチームワークの産物です。
  • DER SPIEGEL: 手紙が公表されて何かありました?
Dubov: この種の抗議活動が深刻な結果を生むということは普通はありません。何かはあるかもしれないけれど、刑務所に入れられるなどということはない。我々と似たようなことは、多くの人がおおっぴらに言っていますよ。

  • DER SPIEGEL: TVキャスターのMarina Ovsyannikovaはテレビの画面上で抗議して罰金を払わされ、元の生活には戻れなくなってしまった。反政府の政治家であるAlexei Navalnyは刑務所に入ったまま。あなたは怖くなかったのですか?
Dubov: よく分からない。プーチンを批判しても自由の身である人間は沢山いますよ。私も自分がトラブルに巻き込まれていると感じたことはない。自分の国の悪口を言ったこともない。ただ、現在は大きな間違いを犯していると思っているだけです。それでトラブルになると言うのなら、仕方がないんじゃありませんか?If that gets me in trouble, so be it.
  • DER SPIEGEL: この戦争が起こる前、あなたは自分が政治的に反プーチンであると思っていましたか?
クリミア併合も間違っていた

Dubov: 本当にプーチンに反対なのだとしたら、何か行動をするはずでしょう。私はプロの政治家ではない。でもこの国が好きであり、うまくやって欲しいと思いますよ。もちろん批判もします。その権利があるのだから。例えば2014年のクリミア併合の後には政府を批判しました。一般論としてクリミア併合は良くないと思った。でも政治的な運動はやっていない。
  • DER SPIEGEL: 戦争の結果について、あなた個人は何を感じていますか?
Dubov: 多くのロシア人同様、私にもウクライナには友だちがたくさんいる。ある者は国を出たようだし、ある者は防衛のために残っている。私が友人らに言っているのは、自分はロシア人ではあるけれど、この戦争には反対だということです。
  • DER SPIEGEL: 西側による制裁の影響を個人として感じることは?
Dubov: 感じはするけど、何とか生きてはいけます。例えば、今年2月のチェス・グランプリ・トーナメントで優勝した賞金をまだ受け取れていない。銀行間の送金の問題です。それからNetflixもInstagramもブロックされてしまった。薬の中にも手に入らなくなったものがある。でも本当に困っている人びとに比べれば大したことではない。

  • DER SPIEGEL: ロシアの選手はトーナメントに出ることはできるけれど、ロシアという国の代表として国旗を背負って出場することは許されない。国際チェス連盟(FIDE)の旗の下でのみ出場が許される。そのことをどう思いますか?
政府と「ロシア」は別もの

Dubov: 妙な気分です。私がどのような人間で、どこに住んでいて、どの国を代表してプレーしているのかは誰にでも分かっている。どのロシア選手に対しても国旗の使用を禁止するということは、現在の政府とロシアという国を同一視するということですよ。私はロシアのために戦うのは素晴らしいとは思うし、ドストエフスキーやチェホフに代表される文化や国民を代表する存在であることに誇りは感じるけれど、クレムリンの政府を代表しているわけではありませんからね。
  • DER SPIEGEL: ウクライナ・チェス連盟はあらゆるロシア人の参加禁止を要求していますが。
Dubov: ウクライナの立場は理解できます。ちょっと過激ではあるけれど、ロシアのパスポート所持者はすべて禁止すべきというのは理屈にはあっている。もちろんロシア人としての私には嬉しい話ではないけれど。
  • DER SPIEGEL: ウクライナのチェス・プレーヤーは誰もロシアやベラルーシの選手とのゲームは望んでいないようです。あなたの対戦相手が、あなたがロシア人であることを理由にゲームを拒否したとしたら、あなたはそれを理解できますか?
Dubov: はい、理解できます。理由がはっきりしているし、理屈にも合っている。でも正しい決定とは思わないし、それほどのインパクトがあるとも思えません。Yes. The reasons are clear. It makes sense. But I don't think it's right. And I also don’t think the impact is real.
  • DER SPIEGEL: かつて世界選手権で第二位まで行ったロシアのSergey Karjakin選手はあなたとは正反対です。彼は現在ツイッターやテレグラムのようなSNSを通じてクレムリンのプロパガンダを応援している。
Dubov: 彼のテレグラムはいつもフォローしています。可笑しいですよね。私が科学者だったら彼は非常に興味深い研究対象になると思います。
  • DER SPIEGEL: Karjakinはこれまでにもプーチン・シャツを身につけていたりしましたね。さらに最近では公開状の形で大統領への忠誠を誓ったりしていました。彼からの支持は(プーチンにとって)」どの程度大切なのでしょうか?
Sergey Karjakinのこと

Dubov: チェス界にとっては大きいです(が恥ずかしくもあります)。でもロシア全体にとって、Karjakinはプーチンにとっても、それほど大きな意味はないと思います。彼は自分の利益のためにやっているのでは?政治家としてのキャリアを積みたいとか。

  • DER SPIEGEL: (プーチンびいきの)Karjakin のことは良く知っていますか?
Dubov: 友人であったことはありません。我々の間にはいつも緊張感がある。2014年のクリミア併合の時も意見は全く異なっていた。不思議なのですが、個人として話をすると、彼は非常にいいヤツなのです。彼が人助けになるようなことをやっているのも知っています。でもメディアに出てくる彼は全くの別人なのです。メディアの世界で彼が政治的な発言をするのを聞いたことがない。
  • DER SPIEGEL: 国際チェス連盟は、Karjakinの戦争支持を理由に6か月間のプレイ禁止を命令しています。これは正しい動きなのでしょうか?
Dubov: あれは奇妙な決定です。連盟の行動規定によると、チェスのイメージに傷がつくようなことを行なってはならないことになっている。彼はその規定に違反したわけです。だとしたら罰則は「数年に及ぶ試合禁止」でなければならない。最近になって急にKarjakinを罰するべきだとする声が高くなっているのは、偽善的だと思いますね。2014年のクリミア併合の際はそんな声は全く出なかったのですよ。
  • DER SPIEGEL: 現在、国際チェス連盟の会長はロシア人のArkady Dvorkovichです。彼は2012年から2018年までロシアの副首相だった。彼はこの戦争についておおっぴらに発言しており、ロシアでは裏切り者と呼ばれたりしている。彼の果たす役割は?
Dubov: 彼のことはよく知っています。私と考えは同じはずです。現在の戦争は明らかに誤っている、と。ただ彼の現在の立場は非常に困難なものだと思います。クレムリンの政府がKarjakinに対するゲーム禁止措置を解除するように要求したりしているのですから。あの人の立場には身を置きたくないですね。
  • DER SPIEGEL: これから別の反戦のシグナルを送るつもりはありますか?追加の公開状を発表するとか。あなたは昨年、反政府のAlexei Navalnyが逮捕されたときにも抗議運動に参加しましたよね。
デモは無意味?

Dubov: はい。あの行動が大いなる勇気を必要としたとお考えだとしたら違います。勇気なんて何も必要ありませんでした。が、何も変えることもできませんでした。デモをやる、警察が来てデモ隊を襲う、みんな帰宅する、それだけ。ただちょっと長い間家に帰らないでその場にとどまったりすると逮捕されて、不愉快な想いをするということです。今回はデモにも行っていないけれど、行っても何が達成されるのか、疑問です。以前は大勢の人間がデモをやればメッセージが届くと思っていたけれど…。デモ隊が道路を埋めれば政府は軍隊を(ウクライナから)引きあげると思います?シニカルに聞こえるかもしれないけれど、目的達成のチャンスがゼロの目的のためにぶん殴られるのは嫌だということですよ。

  • DER SPIEGEL: では、これからどうするつもりなのですか?Where do you want to go from here?
革命しかないのか

Dubov: (我々のような)民主派にとって楽観的なシナリオはありません。不満があっても我慢するしかない。私の言っていることは非常に危険なことなのですが、ロシアでは物事変えようと思ったら革命しかない。個人的にそれ(革命)を望んでいるわけではありませんが、理論的にはそうなる。私のことを臆病と呼んでもらっても構いません。私は革命に起こって欲しくはない。ロシア人がロシア人を殺すなどということを望んではいません。でもそれ(革命)しかないのではないかと思うわけです。革命の結果はひどいことになると思います。それと、民主主義ということからして、好もうが、好むまいが、プーチンと彼の行動が大多数のロシア人に支持されているのも明らかなのですよ。
  • DER SPIEGEL: これからの数か月、個人的な計画でもあるのですか?
Dubov: 何もありません。楽しみすることなんかそれほどないし。自分の将来をチェスと一緒に考えることは困難です。核戦争が起こるかもしれないし。イタリアでのゲームを分析したりしている間に(自分の知らないうちに)世界が終わってしまうかもしれないですよね。


▼この人、25才にしては落ち着いていますよね。結論としては「革命でも起こらない限りロシアは変わらない」という悲観的なものになってしまうのですが、もちろん革命を望んでいるわけではない。そのことが伝わってくるだけに余計に痛々しい。さらに、このインタビューではウクライナやロシアの問題を若いチェス名人が自分の内部に抱える問題として語っています。むささびには、Der Spiegelという時事問題誌のこの編集姿勢を好ましく思えます。
 
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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら


TGIF:今日は金曜、うれしいな

Thank God It's Fridayを略すと"TGIF"。勤め人が金曜日になると口にするギャグのようなもの。日本語では「花の金曜日」を略して「花金」というのだそうですね。同じようなものに "POETS" というのがあるよね。"Piss Off Early Tomorrow's Saturday"(あしたは土曜日、早く帰ろう!)の省略形。Pissというのは「おしっこをする」(pee)のスラング版、はっきり言うと「しょんべん」ですが、"off" を付けると「どこかへ消えてしまう」という意味になる。"POETS" は「ションベンして、帰ろっと」という意味になる。
ところで今、英国では「週5日」に代わって「週4日労働」というのが真面目に考えられているのだそうですね。そうなると、現在の土曜日に加えてさらに1日休みがもらえる。アンケート調査で知られるYouGovが、その追加の休日は月曜日がいいか、金曜日がいいか、それとも別の日がいいか?というアンケート調査を行ったところ、一番人気が「金曜日」で第二位が「月曜日」だった。要するに土曜か日曜に続けて休みをとりたいということよね。そうなるとTGIFのFはThursdayのTということになる。TGIT(ティジット)ですね。

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6)むささびの鳴き声
▼前号に続いて、北九州市にある東八幡教会サイトのトップページに掲載されている「巻頭言」について。4月3日号のテーマは「戦争に関して考えたいくつかのこと」でした。筆者のメッセージは書き出し部分で述べられている(と思う)。
  • 私は「ウクライナ支援」という立場をとらない。当然、ロシアを支持しない。ロシアの行為は、国際法違反であり大領領が「自衛のため」といくら叫んでもあれは一方的な侵略に他ならない。だが、だからと言って「ウクライナを応援する」ということにはならない。
▼筆者の立つ位置は「NO WAR―戦争を止めろだ」と言っている。だからロシアに戦争を仕掛けられた(としか思えない)ウクライナの大統領がとるべきなのは「戦争にならないための行動」であるはずなのに、彼は60歳以下の男性の出国を禁止して戦闘に向かわせたりしている…プーチンと同じことをやっているではないか、というわけです。ウクライナの大統領が日本の国会で演説をした際に、山東昭子参議院議長が、ロシアと戦うウクライナの兵隊について「祖国のために戦っている姿を拝見して、その勇気に感動しております」と述べたりしたのは無責任だ、と。

▼ゼレンスキーとプーチンを同じ列に並べるという発想に、むささびはついていけないものを感じてしまうけれど、古今東西、人間の歴史においては「平和を達成するための戦争」という矛盾が繰り返されてきた。平和という「目的」を達成するための「手段」としての戦争、という矛盾が成り立ってきたと言ったうえで筆者は次のように述べる。
  • 平和が「目的」なら「手段」は「目的=平和」に従属しなければならない。「平和のための戦争」は「手段」が「目的」を否定している。
▼手段が目的を否定…か。つまり「平和を達成するために戦争も辞さない」ということは自己矛盾というわけですね。では、今回の場合、戦争を仕掛けられたウクライナはどのように振る舞うべきであったというのでしょうか?東八幡教会の「巻頭言」は次のように結ばれている。
  • 「剣をとる者は剣にて滅びる」(イエスのことば)。戦争反対、暴力反対。これを前提にするしかないのだ。
▼山東昭子という人は、むささびの一つ年下です。生まれは戦争中かもしれないけれど、育ちは「戦後」です。憲法9条が輝いていた時代であり、その意味ではプライドに満ちた世代でもある。戦争を戦うウクライナ兵について「その勇気に感動しております」などとは決して言わないはず。最近の日本では、このような発想が常識となっている。

▼その「常識」をメディアが焚きつけているとしか思えない。いわゆる「専門家」が集まって、恰もサッカーやプロ野球の勝ち負け予想でもするかのように「これからのウクライナ」について語り合ったりする番組です。むささびは彼ら「専門家」を責めようとは思いません(褒める気もしないけれど)。そのような番組を企画するメディア側の担当者に対しては「東八幡教会サイトの巻頭言でも読んだら?」と言ってあげたい。

▼ウクライナの問題について、日本のメディアでこれを東八幡教会の「巻頭言」のような視点で捉えて語り合うという番組や編集企画をやっているところはあるのだろうか?この戦争を読者や視聴者が自分の身に引き寄せて考える機会を与えるような視線ということです。ロシアは怪しからんかもしれないけれど、それではウクライナのやっていることは正しいのか?ということを自分の問題として考えるということです。「他人事扱いもいい加減にしろ」ということです。メディアではないけれど、ここをクリックすると、国際的な反戦運動を展開しているWorld Beyond Warという組織のサイトを読むことができます(日本語のサイトはここ)。

▼(話は変わるけれど)Yahoo Newsを見ていたら、産経新聞発の記事として<林外相「中国はロシアを批判していない」と名指し批判>という見出しの記事が出ていました。NATOの会合に出席した日本の外相が、ウクライナ戦争について中国がロシアを批判していないということを批判する発言をしたということですよね。その記事に対する読者のコメントを読んで笑ってしまいました。その読者は外相の発言を「日本の外交スタイルが明らかに変わってきた」として好意的に見ているのですが、その理由は、外相が「中国に対して正面から向き合う覚悟」を見せたから。で、次のように書いている:
  • 覚悟のない国はどこからも信頼されないし仲間として認めてもらえないからだ。
▼むささびが笑ってしまったのは「仲間として認めてもらえない」という部分であることは言うまでもありません。そんなに「仲間として認めて」もらいたいんですかねぇ。

▼次号で「むささび」も500号です。お元気で!

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