この写真、1966年当時のアイルランドの首都、ダブリンの風景だそうです。むささびは、この女の子のような年頃のとき、まともに自転車に乗れなかった。練習に練習を重ねて乗れるようになったときの嬉しさ…一人前の人間になったような気がして。ひょっとするとこの女の子も、最近ようやく一人で乗れるようになって嬉しくて仕方がないのでは?もう一つ、この写真で嬉しいのは、女の子の後ろにいるワンちゃんの姿ですね。自転車の練習をしている女の子とそれを写真に撮っているおとなの人間と、両方を見ている。 |
目次
1)スライドショー:fashion by Issei Miyake
2)フィンランドは今
3)中国人の「快適生活」?
4)ペロシ訪台の意味
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句
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1)スライドショー:fashion by Issei Miyake
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上の写真、誰だかお分かりですよね。ロゴを見れば、あのアップル・コンピュータの創業者の一人、スティーブ・ジョブズであることぐらい誰でも知っている、かな?惜しくも2011年に亡くなった。まだ56才だった。今回のスライドショーの中心はジョブズが着ている衣服(黒のタートルネック)です。むささびにはおよそ縁のない世界、ファッションの世界です。BBCのサイトを見ていたら、最近亡くなったファッション・デザイナーの三宅一生さんの特集をやっていました。84才だったのですね。ジョブズのタートルネックは三宅氏のデザインになるものとして有名なんだそうですね。 |
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2)フィンランドは今
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8月8日付のフィンランドの公共放送 YLE のサイトに
- ヘルシンキ、ソ連寄贈の世界平和像を除去 Helsinki removes Soviet-donated World Peace statue
という記事が出ていました。フィンランドはスウェーデンとともに、ロシアからの反対を横目に、NATOへの加盟手続きを進めておりアメリカなどでは政府がこれを了承する態度を表明しています。今回の平和像の除去はウクライナ戦争を契機にフィンランド人の間で強まる反ロシア感情の表れであることは間違いない(と記事は言っている)。 |
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この平和像がロシアのモスクワ市から友情の印としてヘルシンキ市に贈られたのは1989年、翌年の1990年に一般公開されたものなのですが、贈呈当時からヘルシンキ市民の間ではこれを受け取ることへの反対の声が強かったのですが、とりあえずはヘルシンキ美術館(Helsinki Art Museum)がこれを受け取り、最終的な置き場所などについてはヘルシンキ市と協議して決めることになっていた。
中でも1991年に過激派学生とされる3人組が「ソ連からの贈り物などヘルシンキには要らない」と叫んで像に向かってコールタールを吹きかけたりするという行動をとったことで話題になった。この3人組の一人であるミカエル・ユグナーはフィンランド公共放送(YLE)の社長を務め、国会議員にもなった人物なのだそうです。YLEの記事によると、2010年にはこの像を爆破しようという動きもあったとのことです。 |
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で、2022年になってロシアによるウクライナ侵略があり、贈答から30年経って結局取り除かれてしまったというわけです。YLEによると、フィンランドには、レーニン像が設置されている町がいくつかあり、現在の情勢を反映してこれを除去しようという声も強くなっているのだそうです。
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▼記念碑撤去のような動きとは別に、フィンランドではロシア人に対する入国制限の動きが目立っています。フィンランドも加盟しているEUには加盟国間を移動する自由が認められる「シェンゲン協定」というのがある。さらにフィンランドには「国籍に基づくビザの発給禁止」を禁止する法律があり、ロシア人観光客は自由にひとたびフィンランドに入りさえすれば、EU加盟国への移動は「シェンゲン協定」によって保護されてきた。最近ではロシア人に対する観光ビザの発行を制限しようとする動きも目立っているとのことです。 |
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3) 中国人の「快適な生活」?
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最近の物価の上昇ぶりは本当に目を疑いたくなるような感じですが、世論調査機関のIPSOSが28か国の人びとを対象に最近の生活状況についての意識調査によると10人中4人が「自分の可処分所得は来年には下落する」(Four in ten across 28 countries expect their disposable income to fall over the next year)と考えているのだそうです。上昇すると答えた人は25%にすぎなかった。この調査は今年の5月26日から6月10日にかけて行われたもので、28か国合わせて約2万5000人がこれに参加しています。 |
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収入の下落が最も明らかに意識されているのはヨーロッパで、トルコ(58%)、フランス(55%)、英国(54%)、ハンガリー(50%)の人びとがそのように答えている。それとは対照的に自分たちの所得は上がると考えていると考えている国としてはインド(48%)、サウジアラビア(42%)、南アフリカ(40%)などがある。 |
むささびが最も興味を持ったのは、世界中の人びとが自分たちの経済生活をどのように感じているのかという部分だった。"How well would
you say you are managing financially these days?:最近の経済生活をどのように過ごしていますか?"
という問いかけで、自分の状態が次のどれに当てはまるか?と質問しています。
- A: Living comfortably:快適
B: Doing alright:悪くない
C: Just about getting by:そこそこ
D: Finding it quite difficult:かなり困難
E: Finding it very difficult:非常に困難
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アンケートへの回答のうち "Living comfortably:快適" と答えた人が一番多かったのはどの国だったでしょうか?グラフに見るとおり、一番は中国だったのですが、この国の場合、「生活は快適」と「悪くない」の二つだけでほぼ8割に達している。つまりこの調査に関する限り、中国には生活苦を嘆くような人間は存在しない、と…? |
▼それにしても"Living comfortably"と答えた日本人はわずか5%で、ほぼ最下位というのには驚きますね。日本人の場合「そこそこ」という人が43%で、群を抜いて高い。中国人はわずか19%しかいない。これはどのように解釈するべきなのか?中国人に聞いてみるっきゃないか。 |
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4)ペロシ訪台の意味
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いろいろと話題を呼んだアメリカのペロシ下院議長の台湾訪問ですが、あれからもう殆ど2週間が経つのですね。中国による台湾近辺の軍事活動が盛んに行われているわけですが、いまいち緊迫感が低いような気がする…というのは、素人のむささびの感覚なのでしょうね。彼女が台湾を離れた直ぐ後、英国の国際問題研究所(Chatham House)のサイトがこれを論評するエッセイを4点掲載していました。全部紹介というのは無理なのですが、さしたる理由はなく一番最初掲載されていたものをそのまま直訳して紹介させてもらいます。エッセイを書いたのは、アジア・太平洋専門の研究員のDr Yu Jie という人で、タイトルは「中国の対米関係が薄れていくのか?:China’s fading ties with Washington?」となっています。 |
China’s fading ties with Washington?
中国の対米関係は薄れていくのか?
Dr Yu Jie
Senior Research Fellow on China, Asia-Pacific Programme
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中国とアメリカの間の信頼関係は、この約40年間で底をついてしまったように思えるが、ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問は、それをさらに低いものとしてしまった観がある。
しかしながら北京、ワシントンの両方で「タカ派」と呼ばれる人びとが信じているように、彼女の行動が台湾海峡にフルスケールの危機を生み出すことにはならないであろう。中国の行動として最も可能性が高いのは、米国海軍に対して中国軍による軍事色の強い行動をする一方で、台湾に対しては農産品と工業製品の輸入禁止という措置をとる…これによって将来の西側の主要政治家による台湾訪問を繰り返させないようにする。
中国政府も米政府も米中関係の現状を変えようという意思を示したことはない。現状維持が両方にとって最も望ましいからだ。もちろんこれを望ましいとする理由はそれぞれに異なる。中国にとって望ましいのは、自分たちが軍事・経済の両方で十分な能力を獲得することで、アメリカが軍事力を使わずに台湾に関与することができなくなること。 |
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一方のアメリカにとっては、現在の台湾関係法(Taiwan Relations Act)によって漠然とした状態のままで中国のインド・太平洋エリアにおける中国の軍事的な影響力の増大に対処することができる。と同時に自らはこのエリアにおける安全保障の守護者としての地位を確保もできる。
なのに米中双方ともあえて台湾問題を際立たせるような行動をとることにした。米中双方が「今こそ自分たちに最適」と考えてしまったということだ。
中国からは愛国主義の大合唱が聞こえてくるが、実際にはあらゆる面で被害が大きいはずの「間違った衝突(意図しない衝突):accidental conflict」に陥ることがないように気を遣うはずだ。習近平氏はあらゆるオプションを考慮に入れる必要がある。米中関係が復活した1979年に中国と米国が合意した事柄を一方的に変更しようとしているという印象を与えないようにする必要がある。そのような印象を与えると、アメリカ政界に対してこれまでの「一つの中国」政策に拘る必要はないという口実を与えてしまいかねない。第20回の共産党大会を前にして望ましいことではない。第三期の就任を狙う習近平にとって、台湾との不必要な衝突は避けたいはずだから。 |
China’s fading ties with Washington?
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US House Speaker, Nancy Pelosi’s, visit to Taiwan has plunged China-US relations into a new low as the reservoir of trust forged between the two sides over the last 40 years appears to be almost exhausted.
However, her move will likely not result in the full-scale crisis across the Taiwan strait that some hawkish voices in both Beijing and Washington believe. Instead, Beijing will most likely offer a combination of military posturing toward the US navy and economic sanctions on Taiwanese agricultural and manufacturing products in order to send a clear bellwether to any future potential visits by high-level Western political figures.
Neither Beijing nor Washington has declared a willingness to change the current status quo as the present impasse benefits both governments – but for different reasons. For China, the best approach is to reach a military and economic capability that prevents US engagement with Taiwan without the use of force. For the US, the strategic ambiguity under the Taiwan Relations Act remains an effective card to counter China’s growing military influence in the Indo-Pacific and keep itself relevant within the region as a security guarantor. Yet, both sides have decided to kick the issue of Taiwan’s status down the road, believing that time is ultimately on their side.
Despite a chorus of nationalistic rhetoric, China will be careful not to stumble into an accidental conflict which risks colossal damage on all fronts. Chinese President, Xi Jinping, must weigh all of the options before him as Beijing cannot afford to be perceived as unilaterally seeking to change what it agreed with the US back in 1979 when ties were re-established. If that happens, it will provoke the US political establishment to reach a unanimous agreement to change its ‘One China Policy’ and, ahead of the 20th Communist Party Congress where Xi is expected to be crowned for a historic third term, the last thing he wants is an unnecessary conflict with Taiwan. |
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▼台湾に関するむささびの知識は本当に恥ずかしいほどなので、ペロシ訪台について台湾の人びとがどのように受け止めているのか分からないのですが、Taipei
Times(台北時報)という新聞のサイト(8月10日号)に出ていた "Pelosi’s visit showed true courage"(ペロシ訪台は真の勇気の表れだ)という社説は一つの意見の表れかもしれない。記事は「社説」となっているのですが、筆者の名前(Maysing
Yang:楊黃美幸)が書いてある。この人は Asia-Pacific Liberal Women Association(アジア太平洋リベラル女性協会)という組織の会長でもあるようです。
▼筆者は正義・人権・民主主義のような体制に賭けるペロシの熱意を絶賛「過ちを正す決意、他者への思いやり」などは、すべての女性にとっての鑑(かがみ)であると言えると断言して次のように結んでいます。
- この世に数ある徳の中でも勇気は最も気高いものであると言える。勇気なしには人生、何もできない。ペロシ議長、ようこそ台湾へおいで下さいました。あなたとあなたの勇気に触れたことに感謝いたします。Of all the virtues, courage is the highest. Without it, nothing can be done in life. So it was good to see you in Taiwan, Speaker Pelosi, and thank you for your courage.
▼Taipei Times(台北時報)という新聞が、台湾でどのように受け取られているのか知りませんが、タイトルからすると、首都・台北を中心とする一種の「地方紙」なのかもしれないですね。ネット情報によると、台湾には4つの全国紙がある。聯合報・自由時報・中國時報・蘋果日報がそれですが、いずれにしても中国語だけで発行されているのであれば、むささびには歯が立たない。ただむささびも(台北時報を含めて)この国のメディア報道についても知ってみたいと思いました。 |
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5)どうでも英和辞書
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champing: 教会キャンプ
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"champing" などと言う言葉は、つい最近まで全く聞いたことがなかった。おそらく "church"
と "camping" という言葉をつなぎ合わせた造語なのだろうと思うのですが、7月28日付のThe Economistに
- Britain’s empty churches are turning into campsites 英国の空っぽの教会がキャンプ場に変わりつつある
という記事が出ている。これは古くなった教会の建物を保護する活動に取り組んでいるChurches Conservation Trust (CCT)というNPOが7年ほど前に始めたもので、ウェブサイトを見ると、全国の町や村に散らばる教会で"champing"が可能な所(今のところ21か所)が紹介されている。
CCTがこの活動を始めたのが2016年、以来約8000人の "champers" がキャンプ場として教会を利用しており、カンブリアにある教会などは、年間で3500ポンド(約56万円)の「売上げ」を記録している。教会によっては "champing" なしには「2年と持たない」(would shut within two years)というところが多いのだそうです。
「教会でキャンプ」と言っても、建物の中で寝泊まりができるというだけのことで、中には祭壇の前にベッドが置いてあるような教会もあるらしい。The Economistの記者が "champing" を実体験しに行ったときは運悪く雨降りで、用意されたベッドで震えながら教会のステンドグラスの窓に当たる雨音を聴きながら眠りについたのですが、2泊の予定を1泊で切り上げたのだそうであります。 |
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6)むささびの鳴き声
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▼ちょっと古いけれど、6月20日付の朝日新聞のサイトに「クールジャパン機構、統廃合の検討も視野 財政審が赤字問題視」という見出しの記事が出ていました。「クールジャパン」というのは、第二次安倍内閣(2013年)が、いわゆるアベノミクスの一環として推進した政策で、当時の内閣府のサイトには「日本食・ファッション・コンテンツ等、日本の魅力をTV番組や販売店等を通じて世界にPRする活動」と書いてある。
▼「クールジャパン機構」は、それを支援するために政府と民間が共同で出資する政府系の基金のことで、2013年に設立されている。要するに「クールジャパン」の趣旨に合致するようなビジネスを行おうとする企業に資金援助をする組織で、設立以来約9年、今年3月末時点で1066億円の資金が民間企業に提供されている。言うまでもなく、全額とはいかないまでも、かなりの部分が税金によって賄われているわけです。
▼ただ「コロナ禍」のおかげで、資金を投資した企業の売り上げが落ち込んでしまい、2021年度末の時点で機構としての赤字が309億円にまで膨らんでしまったので、機構そのものを廃止することを考えるようになった、と朝日新聞などは報道している。が、機構側は7月13日付けで「一部報道について」というペーパ-を配布して「現時点で、当機構の統廃合の計画はございません」と主張しています。
▼「クールジャパン」については、2013年6月30日発行のむささびジャーナル270号で、それ以前に英国で行われた Cool Britannia というキャンペーンと比較して語っています。Cool Britannia は1997年に誕生したトニー・ブレアの労働党政権を中心に進められたもので、この二つのキャンペーンが始まった時期を考えると、「クールジャパン」というネーミングが
Cool Britannia を意識したものであることは明らかです。ただ、両方とも政府が主導権をとる形で進められた点では似ているけれど、深い部分で根本的に異なるように(むささびには)思える。まず「クールジャパン」の旗振り役だった安倍晋三首相は、ある集会における演説の中で次のように語っている。
- まだ、世界の人々は、日本のことを知らない。どうやって日本に引っ張り、日本の文化を輸出するか。この分野でも、安倍内閣は、攻めまくります。
▼つまり「クールジャパン」の深層心理として「誰も自分たちのことを知らない」という意識がある。それに対してCool Britannia を推進したトニー・ブレア首相の政策集団だったDEMOSが発表したペーパーが強調したのは「国際社会における英国という国のイメージを変えよう」ということだった。DEMOSによると、国際社会が英国を表現するのに使う言葉はbackward-looking(後ろ向き)、hidebound(頑迷)、arrogant(傲慢)、 aloof(冷淡)などであり、ビジネスの世界でも英国企業は革新性に欠け、製品の質も劣るとされており、観光地としても行ってみる価値はあるかもしれないけれど退屈な場所(worthy but dull)と考えられているというわけです。つまり「英国は誰にでも知られているけれど、自分たちが強調したいイメージとしては知られていない」という意識です。
▼で、英国はこれからデザインとかファッションのようなクリエイティブ産業の振興に力をいれなければ・・・というので、例えば海外にある英国大使館の受付エリアにはモダンなソファや家具が置かれ、大使公邸に飾られている絵画も歴史的な作品からモダンアートに変えられたりした。要するに政府を挙げてCool Britanniaを推進したのですが、その目的は英国についてのイメージ刷新ということにあった。
▼このように見ていくと、「クールジャパン」を推進する日本の関係者には「外国人は日本を知らない」という思い込みがあり、Cool Britannia
を進めようとする英国人のアタマには「外国人に知られている英国は英国の役に立たない」という拒否感覚がある。でも「クールな英国って何なの?」と問われると英国人自身が答えに窮したりしていた。その頃、The
Economist が Cool Britannia のキャンペーンについて次のように皮肉ったものです。
- Nothing is sadder than trying too hard to be cool
▼きついですよね。「クールであろうとして(カッコよく見せようとして)懸命に努力するほど哀しいことはない」というのです。確かに多くの外国人にとって「英国」といえば「王室」と「紅茶」かもしれない。でもそれは英国人にしてから自分たちの国が「英国=王室」とされることをそれほど嫌がっているわけではない。
▼「クールジャパン」は日本人には分かっている「日本のクール」を外国人にも分かってもらうキャンペーンらしいのですが、そのキャンペーンを始めてから9年めにして赤字続きでアウトとなっている。まあいずれにしても「統一教会」なるものの発想が「クール」でないことは確かですよね。
▼だらだらと失礼しました。お元気で! |
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