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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 前澤猛句集
 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
527号 2023/5/7

上の写真のお城風の建築物は、イングランドのコツウォルズ地方の名所の一つである「ブロードウェー・タワー」と呼ばれるものです。個人の持ち物で中にはレストランがあったりするのだとか。その「タワー」を包んでいるかのように見えるのはイングランドの国旗です。撮影されたのは今年の4月23日なのですが、この日はイングランドの聖人をあがめるSt. Georges Dayという「祝日」だった。英国の国旗である「ユニオン・フラッグ」にはスコットランド、イングランド、北アイルランドを象徴するデザインが施されている。いろいろな理由でウェールズのシンボルはユニオン・フラッグには含まれていない。イングランドに長期滞在された方はお分かりだと思うのですが、英国外にいると気が付かないけれど、イングランドの国旗はかなり頻繁に眼にするのですよね。

目次
1)スライドショー:"Woodland"を撮る
2)英国人と王室
3)「私は共和制論に逆戻り」?
4)再掲載:ブレアとチャールズ
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句

1)スライドショー: "Woodland"を撮る

BBCのサイトに読者による写真展として "woodland" をテーマにしたものがありました。今回はそれを紹介しますが、ここをクリックすればBBCのサイトそのものを見ることができます。ところでCambridgeの辞書によると "woodland" は
  • land on which many trees grow
と説明されている。同じく樹木がいっぱいの "forest" は
  • a large area of land covered with trees and plants
なのだそうであります。そこへ行くと日本語は樂です。"woodland" は「林」、"forest" は「森」でオーケーなのだから。

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2)英国人と王室

英国の社会問題研究所 (National Centre for Social Research:NatCen) が毎年行っている世論調査によると、英国人の王室に対する態度が微妙に変化しているとのことです。この話題についてのNatCenの世論調査は1983年以来40年間、毎年行われており、「英国が王室を有することは重要だ:it is important for Britain to continue to have a monarchy」という意見が多数であったのですが、2023年になって「非常に重要:very important」とする意見が29%にまで落ち込んでいる。これまでの最低の数字だそうです。

昨年(2022年)の数字はかなり高いものであったけれど、それはエリザベス女王の在位70周年を記念する(プラチナ・ジュビリー)年であると同時に彼女が亡くなった年であったこともある。王室が「非常に大事:very important」という意見は38%、「大いに大事:quite important」は24%で、「大して重要でない:not very important」の15%、「全く重要でない:not at all important」の20%を大きく上回った。今年の数字は一昨年(2021年)と同じレベルなのですが、これはNatCenによる調査が始まった1983年と同様の低さなのだとか。

英国にとって王室は重要か?
NatCenの世論調査
NatCenのガイ・グッドウィン事務局長によると、英国が君主制を維持することについての支持率はかつてないほど低いものになっているけれど、王室関連の重要なイベント(結婚・ジュビリー(祝典)・誕生など)があると支持率が急上昇するというのも事実なのだそうです。2010年代の英国で君主制維持の意見が上昇していたのは、ウェールズ皇太子の結婚、女王の在位60周年のような画期的な出来事があったからである、と。グッドウィン氏は
  • 大多数の国民は今でも王室を支持している。特に55才以上の高齢者の間における支持が高い。王室にとっての課題は、如何にして若い人びとの間における支持を高めるかということにある。The majority of the public still support the royal family, and whilst support tends to be more amongst those aged 55 and over, the challenge going forward will be for the monarchy to deliver its relevance and appeal to a younger generation to maintain this support.
とコメントしています。

 君主制:英国人の年代別感覚
▼このグラフはStatistaというサイトに出ていたもので、2週間ほど前に約5000人の英国の成人を対象に行ったアンケート調査の結果です。このエッセイの筆者(ジュリー・バーチル)は63才だから右から2つ目のグループに属する。ただ最も若いグループにしてからが、ほぼ半々で現在の制度が支持されているというのが現実です。
 

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3)「私は共和制支持に逆戻り

昨日(5月6日)英国のチャールズ国王の戴冠式が行われました。その5日前の5月1日、保守派のオピニオン誌であるSpectatorのサイトを読んでいたら、女性評論家のジュリー・バーチル(Julie Burchil)が
というタイトルのエッセイを寄稿していました。


Julie Burchil

「再び共和制支持者に…」ということは、もともと共和制を支持していたのが、何かの理由で君主制(現在の王室)支持になった。が、この戴冠式(2023年)のおかげで「再び共和制支持者になってしまいそうだ」ということですよね。要するにチャールズ国王の戴冠式については批判的なわけで、保守派の雑誌に寄稿するにしてはちょっと変わっている。ちなみにこの人は1959年生まれの63才です。

で、むささびとしては保守派の彼女の言い分をきっちり紹介したいのですが、悲しいかなエッセイがいまいち要領をえない。若いころのジュリー・バーチルは、幼いなりにも英国の君主制には反対で、10才にもならない頃、あるイベントで英国の国歌を全員で歌う場面があったのにそれを拒否したりして一緒にいた母親を困らせたりしたこともある。尤も彼女によるとあの行為は、自分が反君主制論者だったというよりも、ちょっと変わったことをやって人の注目を浴びたかったということだった。

そのような自分を思い出すと、数年前にエディンバラ公(エリザベス女王の夫君)が亡くなった時には、大いに悲しむ自分に驚いたし、チャールズ皇太子(当時)の息子(ウィリアム王子)の妻であるDuchess Kate(ウェールズ公妃キャサリン)を大いに賞賛するようになっていたのも信じがたいことだった。


昨年9月、エリザベス女王が亡くなったときにジュリーは「完全なるイングランド人間:full-English」に様変わりしたし、ハリーとメーガンのコンビの振る舞いを非難する声を発したりしていた。ダイアナ妃の大ファンであった自分にとって彼女の息子であるハリーのことを非難するのは容易なことではなかった。ただ、テレビなどで戴冠式関連の式典の際に使われる次のような言葉には幼いころの反君主制の感覚が頭をもたげてしまう。
  • I swear that I will pay true allegiance to Your Majesty, and to your heirs and successors according to law. So help me God. 私は陛下と陛下の相続者と法的な継承者たちに対し真の忠誠をお誓い申し上げるものであります。神のご加護を。
彼女に言わせると、このバカげた「誓いの言葉」はヨーロッパの小さな民主主義国家(英国のこと)ではなくて北朝鮮のような国に当てはまるものであって、とても今どき通用する言葉とは思えない。これは本当に戴冠式を取り仕切るカンタベリー大主教によって作られた言葉なのか?
  • それがチャールズ国王の側から来たものではないとしても、ジュリー・バーチルの推測によると国王はこの宣誓の背後にある思想そのものは気に入っている。その言葉はあの男の虚栄心と不安感を反映しているではないか。が、それにしてもこれは少し「行き過ぎ」(サッカーでいうオウンゴール)というものだ。 Even if it didn’t come from Charles’s camp, I bet he likes the idea – it would be in keeping with the vanity and insecurity of the man. But this seems a spectacular own-goal.
というわけです。


人間付き合いの世界では「敵の敵は友だち」(the enemy of my enemy is my friend)という言葉があるけれど、それでは余りにも受け身すぎるというわけで、チャールズ国王に関しては「彼を嫌いというわけではないが、彼のやってきたことの中には気にいらないことがたくさんあった」(I don’t hate him, but I do dislike many things that King Charles has done.)というわけで、エッセイの結論としては
  • もう一度言っておくと、私は共和主義者だと思う。が、ウィリアム王子がKingとなり、KateがQueenとなるころにはどうなっているやら、分かったものではない。 So once more, I suppose I’m a republican. Mind you, when it’s King William and Queen Kate’s turn, all bets are off.
ということになる。

▼むささびがはしょったせいもあるのかもしれないけれど、なんだかいまいち要領を得ないエッセイだと思いませんか?この人は若いころには英国の王室制度に批判的だった。が、50才も過ぎるとエリザベス女王やエディンバラ公の死を悲しみ、彼らの孫であるウィリアム王子とその妻(ウェールズ公妃キャサリン)には大いなる賞賛の気持ちを抱いている。でもウィリアム王子の弟(ハリー)とその妻(メーガン)の行状には情けない思いを抱いている。で、結論はというと、チャールズ国王は気に入らないけれど、彼の息子が国王になるのなら君主制も支持します、と言っている。何だかインターネットも含めた「メディア」の感覚をそのまま受け継いでいるような…。それをそれなりのスペースを割いて掲載するSpectatorという雑誌も情けない!

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4)再掲載:ブレアとチャールズの類似点

むささびジャーナル200号(2010年10月24日)

戴冠式もあったことなので、何か面白い記事はないかなぁと過去の「むささび」をめくっていたら、200号のこの記事が目に付きました。ケンブリッジ大学の政治学教授、デイビッド・ランシマン(David Runciman)が書評誌・London Review of Books(LRB)で、ある書物の書評を紹介するものです。

書評の対象になっているのは、チャールズ皇太子(当時)ではなくてトニー・ブレアの方なのですが、ランシマンによると皇太子はブレアが首相時代(1997年5月~2007年6月)にかなり頻繁に手紙を送ったりしていたのだそうです。当時のさまざまな政治・社会問題に対する皇太子の意見を述べるものだったけれど、内容的には政治のことなど全く分かっていないものだったので、ブレアも取り扱いに苦慮していたとのことであります。

ちなみに年齢はチャールズ国王が1948年生まれ(現在74才)、ブレアが1953年生まれ(69才)、ランシマンが一番若くて1967年生まれの56才です。

David Runciman
「戦車に乗った説教師」 ブッシュにはいろいろ教えた 半分尊敬・半分邪魔

今年(2010年)の夏に出版された英国の前々首相、トニー・ブレアの回想録 "A Journey" が売れているそうです。発売後4日間で92,060部が売れたとかで、これは政治家による回想録としてはかつてない記録である、とGuardianなどが伝えています。私(むささび)自身はまだ読んでいないのですが、この本が発売される直前には新聞という新聞が書き立て、テレビは筆者とのインタビューを放送するなどして英国中の話題をさらっていたことは確かです。

「戦車に乗った説教師」

この本については賛否両論なのですが、どの意見も政治的すぎて面白さに欠けると思っていたら、最近のLondon Review of Booksというサイトにケンブリッジ大学のDavid Runcimanという学者が書評を投稿しているのに出会いました。Preacher on a Tank(戦車に乗った説教師)というタイトルなのですが、書評というよりも、この本を話題の核にしながらブレアという政治家について評論しているという中身で一読に値します。ひょっとするとブレアの本よりもこちらの方が面白いかもしれない!?


相当に長いものなので細かく紹介はしません。一か所だけ9・11テロ後のブレアについて触れた個所のみ紹介してみます。この個所は次のような文章で始まっています。
  • 9・11テロ後におけるブレアの過ちは、彼の力では把握できないものを無理矢理把握しようとしたことにある。まずアフガニスタン、次いでイラクにおいてブレアは起こり得る事態についての自分のコントロール能力を信じ難いほどに過大評価したのである。
    Blair’s mistake after 9/11 was to try to grip things that were not grippable, certainly not by him. First in Afghanistan, then Iraq, he vastly overestimated his ability to control what would happen.
David Runcimanによると、そもそもアフガニスタンもイラクもアメリカの戦争であり、ブレアの戦争ではなかったのに、ブレアは自分が戦争の結果として起こる事態を制御できると思いこんでしまった、というわけです。ブレアは9・11(2001年)以前にバルカン半島のコソボをめぐる紛争で、ミロセビッチ政権打倒のためにヨーロッパの先頭に立ってアメリカを巻き込んだ「実績」がある。渋るクリントン大統領を説得したのがブレアだったというわけで、イスラム・テロリストに対してもアメリカをリードできると考えてしまった。

ブッシュにはいろいろ教えた

回想録の中でブレアは、ブッシュ大統領との親密な間柄を語り、ブッシュが如何にまじめにブレアの言うことに耳を傾けたかということを書いている。アフガニスタン爆撃を開始するにあたって「ブッシュ大統領に対して出来る限りの知恵を授けたつもりである」として次のように書いている。
  • 私はブッシュ大統領に対して定期的にメモを送ってさまざまな問題提起を行ったのである。アフガニスタンに対する人道援助、反タリバン勢力の北部同盟との政治的な同盟、経済開発、軍事活動終了後における和解等々の諸問題についてブッシュ大統領のやり方と自分のやり方などについて問題提起をしたのである。
    I was writing regular notes to him, raising issues, prompting his system and mine: humanitarian aid; political alliances, including in particular how we co-opted the Northern Alliance (the anti-Taliban coalition) without giving the leadership of the country over to them; economic development; reconciliation in the aftermath of a hopefully successful military operation.

つまり如何に自分がアメリカのアフガニスタン政策に大きな影響を与えたかを誇示しようとしているのですが、Runcimanによると、ブレアのこの記述は「政治の世界の現実というものを把握する能力を失った人物による記述のように見える」(it sounds more like someone who has lost his grip on political reality)のだそうです。ここでいう「政治的現実」は、単にアフガニスタン内部の現実ということだけでなく、ブッシュ大統領を取り巻いていたアメリカ国内の政治的な現実も含めての話です。David Runcimanによると、回想録の中でブレアは、ブッシュ大統領が実際にブレアの助言のどの部分を取り入れてこれに従ったのかについて全く語っていない。

半分尊敬・半分邪魔

Runcimanはブッシュとブレアの間柄を、ブレアとチャールズ皇太子の間柄と似ているとしています。ブレアが首相であったころに、チャールズ皇太子は手紙をブレアや彼の閣僚宛てにたびたび送ったのだそうです。社会問題、自然保護などについての自分の考え方を述べる手紙で、どれも手書きであったそうですが、これらの手紙は(ブレアによると)いずれも「政治的現実」を知らない人間が書いたと思われる内容であった。しかし皇太子という立場の人からの手紙であっただけに扱いに苦慮したらしい。皇太子のマジメさ(sincerity)を尊敬する一方で、政治的な常識(political nous)のなさについては困ったものだとも考えていた。つまり「半分尊重・半分お荷物扱い」(half respectfully, half mockingly)ということで、ブッシュ大統領もブレアからの度重なる「助言」をありがた迷惑と思っていた部分もあるのではないかとRuncimanは見ています。 
 
▼チャールズ皇太子が政府関係者(大臣クラス)に送った手紙はblack spider memosと呼ばれていたそうです。「黒くもメモ」ですな。虫のクモです。皇太子の手書きがblack spiderの形と似ていたということでしょうが、別の言い方としてsprawling handwriting style(のたくるような手書き)というのもあるということは、日本語でいうと「ミミズがのたくったような」という文字なのかも?チャールズ皇太子は遺伝子組換え食品に対する批判とか、ある種のモダン建築物にも辛いことを言うことで知られています。

▼アフガニスタンやイラクを攻撃するにあたって、英国内ではまるでブレアがブッシュを焚きつけたようなことを言う人もいたけれど、アメリカ人が書いた本を読むと分かるように、ワシントンではブレアが何を言おうが殆ど問題にされていなかったと思います。その意味で、They were going to happen with him or without him(ブレアがいてもいなくても、アフガニスタンとイラクへの攻撃は行われることになってていた)というDavid Runcimanの指摘は当たっている。

▼Runcimanによると、ブレアとチャールズ皇太子は、いずれも自分が「物事を深く考える人間」(deep thinkers)であると思いたがるという点で似ているのだそうです。

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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

recluse:世捨て人

4月14日付のCNNのサイト
  • South Korea is paying ‘lonely young people’ $500 a month to re-enter society 韓国では「孤独な若者」が社会復帰するためにひと月に500ドルが支払われている
という見出しの記事が出ています。

CNNによると、韓国政府(Ministry of Gender Equality and Family:性平等・家族省)が "isolated social recluses" に対してひと月65万ウォン(約500ドル)を支払うことになったと発表した、と。ケンブリッジの辞書によると "recluse" という言葉は
  • a person who lives alone and avoids going outside or talking to other people 独り暮らしをして外出もしないし、他人と話もしない人物
という意味であると説明されている。研究者の英和辞書では「世捨て人」とか「隠遁者」という意味になっている。

韓国健康・社会問題研究所(Korea Institute for Health and Social Affairs)の調査では、19~39才の国民の3.1%が“reclusive"なのだそうです。数にすると338,000人ということになるのですが、そのうち40%が13~16才の「思春期」にそれが芽生えるとのことです。

CNNは若者の間における「世捨て現象」は韓国に限った問題ではないとして「日本も似たような問題を抱えている」(Japan has a similar problem)として、ざっと150万の若者が"hikikomori"の傾向にあるという政府の調査結果を伝えています。

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6)むささびの鳴き声

▼チャールズ国王の戴冠式もさることながら、政治的な意味でもっと気になるのは5月4日に行われたイングランドにおける地方議会議員の選挙です。なぜ気になるのか?上のグラフが示すとおり、保守党が大負けしているのに対して労働党が極めて順調に議席をを増やしており、来年(2024年)にも予想されるロンドンの下院選挙でも保守党を破るのではないかとされているからです。

▼5月4日に選挙が行われたのは、イングランドにある230の地方議会の議員であり、ウェールズやスコットランド、北アイルランドの地方議会とは関係がない。今回選挙の対象とされたのは、230議会の8058議席なのですが、保守党は約3000議席あった議席から1000議席も減らしてしまった。反対に労働党は約2000議席だったのに500以上も議席を増やしてしまった。

▼この地方議会選挙における勝利に労働党が勢いづくと、2010年のゴードン・ブラウン以来の労働党政権の誕生も大いにありうるというわけで、最近のメディアは次期首相としてのキア・スターマー(Keir Starmer)について書き立てている。彼の前の党首であったジェレミー・コービンが余りにも「左」過ぎたこととBREXITに対する態度が曖昧だったために人気が下落してしまったことを反省、スターマーがそれを乗り越えられるかがもっぱらの話題となっている。
▼で、戴冠式ですが、今朝(5月7日:日本時間)のBBCのサイトをめくっていたら "Extraordinary photos from King Charles III’s coronation" というコーナーがありました。戴冠式の現場で撮った「変わった写真」を集めた特集企画です。まあいろいろ出ています。

▼だらだらと失礼しました。お元気で!

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