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550号 2024/3/24 |
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そしてテレビで「お前なんかクビだ!」と言い立てるトランプは、あろうことか大統領選にも進出、タイミングと運にも恵まれて、当時の政界のアイドルだったヒラリー・クリントンを負かすことができた。ただ彼の勝利は実際にはギリギリのものであったし、獲得票数で言えば280万票もヒラリーには負けていた。280万というのは大統領選の歴史始まって以来の負け票の数だった。 トランプという人間は投票箱がらみの競争には弱いらしく、2018年の中間選挙では共和党は完敗したし、2020年の大統領選ではトランプは選挙人(electoral college)の数では惜敗だったとはいえ、一般有権者による投票数では完敗していた。2022年の中間選挙ではトランプが選んだ共和党候補が善戦したけれど実際には「共和党州」とされるアリゾナ、ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンなどでも民主党候補が勝利した。 変わりゆく人口構成 これらの敗北にもかかわらず、トランプは共和党の中心部を牛耳っていた。そのパターンは共和党幹部にとっては望ましいものではなかったけれど、進路を変えることもまた困難なことではあった。そして今、2024年の選挙では共和党が敗北の憂き目にあうことが運命づけられている。 |
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アメリカの人口構成 2023年:全人口(339,996,563人) |
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トランプの常軌を逸した行動、反民主党の言辞や自分の敵とみなされる人間への敵意…これらの要素がすべて11月の大統領選におけるトランプの敗北を予言している。但しトランプが政治から身を引くことを余儀なくされる理由は、彼自身の「人間」ではなくて、アメリカという国が直面する人口構成にある。政治の世界では「人口構成が全てを決める:demographics is destiny」というのはフランスの哲学者であるオーガステ・コンテ(Auguste Comte:1798~1857)の言葉であるけれど、これは現代のアメリカにも当てはまるのかもしれない。 2016年の大統領選と今回(2024年)の選挙の間の8年間で2000万の高齢有権者がこの世から消え、3200万の若年層が有権者の年齢に達する。若い有権者の間では民主・共和両党ともに積極的な支持者が少ないとされていることもあり、共和党は大学キャンパスにスタッフを派遣して勧誘活動(対象は白人学生)に力を入れている。ただ、現代の若年世代(いわゆる「Z世代」)の心を捉えるのは、出産関連の権利、民主主義活動、環境保護などの問題であり、どちらかというと民主党が得意とする分野である。 共和党の白人化・男性化 アメリカ政治の現実について言えるのは、トランプの政界入り(2016年の大統領選)以後、共和党が高齢化するとともに「白人化・男性化」が進み、考え方が極端(more extreme)に傾くようになった。さらにトランプ自身が自分の世界に閉じこもりがちであることから「穏健:moderates」「独立:independents」という傾向を有する有権者を遠ざけるようになったということもある。 |
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現職の大統領であるバイデンは対抗馬であるトランプよりも有権者を惹きつけやすいという利点はある。しかしだからと言って勝利が容易(victory will be easy)というわけではない。とはいえバイデンの場合は既存の支持者を自分に惹きつけることは、それほど困難なこととは思えない。反対にトランプが勝つためには、共和党支持者の投票率を高くしなければならないし、「態度未定:as-yet-undecided」のアメリカ人を惹きつけなければならない。彼らの中には、トランプの行動のみならず政策の点でもとっくに彼の支持者であることを止めた人間もいる可能性もある。 レーガンは生きている 現代アメリカが直面している問題を見ると、どれについても共和党が「誤った側」(wrong side)に立っていることが分かる。例えば出産の権利。2022年以前の半世紀にわたって女性に妊娠中絶の権利を与えてきた "Roe v Wade" という判例が、2022年になって共和党が占領したアメリカの最高裁くつがえされた。超保守系の州議会はレイプや近親相姦による妊娠のケースでさえも中絶を違法化した。アラバマ最高裁は「凍結胚:frozen embryos」と子ども(children)を同等扱いする判決を下している。このような動きによって女性や穏健派の男性は共和党から民主党へと鞍替えしたり「トランプ以外なら誰でも」支持するケースが目立っている。 安全保障の分野においてトランプは、これまで度々アメリカの昔ながらの敵と同盟関係を組むことで、選挙の際にカギを握る勢力を怒らせてきた。昔ながらの共和党支持者は今でもロナルド・レーガン元大統領時代の防衛本能を受け継ぎ、アメリカを全世界の人びとにとっての自由と民主主義の担い手であり「丘の上の輝ける町:shining city on a hill」のような存在であると信じている。冷戦時代を記憶しているアメリカ人にとって、ロシアは永遠の敵(foe through and through)としか映らない。 |
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そのような発想をする共和党支持者から見るとロシアのウクライナ侵略はとても受け容れられない。最近の世論調査によると共和党支持者の43%が、ウクライナに対するアメリカの支援は「足りないか充分か(either too little or the right amount of aid)」であると考えている。共和党支持者がNATOを無視するかのようなトランプの脅しを支持することはないし、軍事費の支出に関連してロシアの侵略姿勢を支持するようなこともない。権威主義的な国家(ロシア、ハンガリー、サウジアラビアetc)に対するトランプの親愛の情などは、彼ら(共和党支持者)にとっては全く受け容れられないものとなっている。 「極論病」は治っていない つい最近まで共和党ではニッキ・ヘイリー元国連大使がトランプと争ってきた。彼女は辞退したけれど、かといって彼女がトランプを支持するとは言っていない。ヘイリー支持者がトランプを支持するかどうかはトランプ次第だと言っているけれど、彼らの多くは11月の選挙では沈黙するかバイデン支持に回るかのどちらかのはずだ。アイオワ州ではヘイリー支持者の49%がそのような行動をとると言っている。というわけで、筆者の結論は…
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4)再掲載:リベラル教育の薦め | ||||||||||||||||||||||||||||
Stephen Lawという人(ロンドン大学教授)のThe War for Children's Minds(出版元:Routledge)という本はHow do we raise good children? How do we make moral citizens?という書き出しで始まっています。子供の道徳教育(moral education)についての本なのですが、教育論というよりも「人間としての考え方のあり方」がテーマになっているように見えます。哲学書ですね。ただ「哲学書」というと「人間とは何か」とかいう日常生活とは関係のないことをこねくり回して、簡単なことをわざと難しくする学問書のようにひびきますが、必ずしもそうではない。21世紀の大人たちが、子供たちに「ことの善し悪し」を教えるについての基本的な姿勢について、少しくどいくらい平易な言葉で語ろうとしています。 |
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再掲載:リベラル教育の薦め むささびジャーナル92号(2006年9月3日) Stephen Law |
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Good childrenを育て、Moral citizens(道義心に飛んだ市民)を作るにはどのような教育を施せばいいのか?というわけですが、筆者が主張しているのはliberal education(自由主義教育)というやり方なのですが、単純にいうと「何ごとも権威の言うコトを鵜呑みにせず、自分のアタマを使って批判的に考える姿勢」を早いうちから躾ける必要があるということです。 そんなこと当り前ではないか、と私などは思ったりするのですが、現代の英国やアメリカでは、その当り前のことをあえて本にして訴えなければならないほどに「当り前」ではなくなっているようであります。本の裏表紙に「この本は一般受けするジャーナリストには読まれないだろう。彼らはこの本を読みもしないで攻撃するだろう」(This book won't be read by popular journalists: they will attck it without reading it)という「推薦の言葉」が出ています。 |
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権威主義と相対主義 Law教授が批判している考え方には二つあり、一つは道徳的権威主義(moral authoritarianism)で、もう一つは道徳的相対主義(moral relativism)というものです。 権威主義はいわば宗教的原理主義のようなもので、最近の子供たちは1960年代以来の自由放任教育のお陰で善悪の判断をする能力を失っている。それを正すためには、特定の宗教的な善悪基準を「有無を言わさず叩き込む」べきだという姿勢です。キリスト教学校では聖書、イスラム教ではコーランなどの教えを「絶対的な真理」(absolute truth)としてこれに従順に従う子供を作ることが道徳教育であるというわけです。政府が進める宗教学校にはイスラム教のそれも入っています。 筆者が薦める自由主義教育は宗教に基づいて善悪を教えること自体には反対しないのですが、一つの宗教だけを教える学校に反対であり、常に批判的な価値判断(critical evaluation)と合理的な議論(rational debate)が奨励されなくてはならない。そこでは「神の存在」そのものについても鵜呑みにはしない姿勢が求められる。 |
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自由主義批判 教授のこのような主張に対して、主にキリスト教保守派の中には「相対主義」を奨励するものだと批判する声が強い。「相対主義」とは、この世に絶対の真理などというものは存在せず、善悪の判断基準も人それぞれで違うし、国や文化によっても異なるのであり、それらはいずれも「それなりに真理」であるという考え方です。このような考え方からすると、ある価値観や善悪基準を一方的に押し付けるのは間違っている。保守派の意見では「あんたも正しい・私も正しい・みんな正しい」という相対主義の姿勢こそが、「なんでもあり」的なモラルの退廃と放任主義を生み出しているということになる。で、責任は教授のような自由主義者にある、というわけです。 ややこしいのは、Law教授もまた相対主義を批判しており、自由主義と相対主義は異なるのだと言い張っていることです。既成の権威に対しては常に批判的であれという自由主義と、世の中には唯一の真理というものはないという相対主義は似ていなくもない。教授によると、相対主義は100人いれば100通りの「真理」があり、それぞれが正しいというわけだから、100人の絶対主義者がいるのと同じということになる。その世界では、自分が間違っているかもしれない(fallible)という姿勢は出てこないし、議論も行われることがない。従って知的に成熟したgood childrenもmoral citizens育たないというわけです。 |
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宗教教育に難色? ところでObserver紙のサイトによると、2001年現在でイングランドのある公立小学校は約18、000で、そのうち6000強が宗教学校なんだそうです。つまり3分の1というわけです。内訳は英国国教会系のものが約4700校とイチバン多く、カソリック系も2100校とかなりの数にのぼる。あとはぐっと少なくなってユダヤ教系が32校、イスラム系が4校などとなっています。ブレア政府は宗教系の学校をさらに増やそうとしていますが、YouGovの世論調査(2001年)では8割の人びとがこれに反対している。宗教対立を煽るというのが反対の理由なのだそうです。 この本を読んでいて、目に付いたのがWe, in the West(我々西欧では・・・)という言葉です。教授による危機の感覚がイマイチ私には伝わってこない理由の一つが、宗教的に基づく権威主義のようなものが日本にはないってことにあるのではないかと思ったりします。キリスト教を軸にした権威主義・自由主義・相対主義などが議論されてもピンとこないということです。 |
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ただ、それでも私が教授に共感を覚えるのは、現在の自分が宗教的な権威主義によって肩身の狭いを思いをすることはないけれど、世の中の「常識」とか「大勢」などというものに対して「権威主義」に近いものを感じることがあるからなのでしょうね。今の日本(自分が日頃接しているメディアの世界)にcritical evaluationだのrational debateがあるとは思えない。あるのは「相対主義」と「権威主義」ですね。 最後に上記の文章では「自由主義」という言葉を使いましたが、本当は「リベラル」と言ったほうがいいかもしれない。「リベラル」は(教授も言っていますが)アメリカでは殆どdirty wordになってしまっている。適切な日本語は多分「進歩的文化人」かな!? |
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