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 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
553号 2024/5/5

いよいよ夏…かな!?上の写真はスコットランドの山奥に生きるヤマネコだそうです。詳しくは3つ目の記事で紹介しています。

目次

1)スライドショー:イスタンブールに暮らす
2)中国人のロシア観
3)スコットランド、ヤマネコは生き延びる
4)再掲載:「アサクサ・ゴー世代」の英語
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句

1)スライドショー:イスタンブールに暮らす

今から60年以上前になると思うけれど、アメリカの Four Lads というポピュラー・コーラス・グループが日本でコンサートをやったとき、むささびは喜んで聴きに行きました。会場がどこであったか?たぶん大手町のサンケイホールだったのでは?その際に聴いて訳も分からずに「すごいなぁ!」と思ったのが "Istanbul: イスタンブール" という曲だった。ここをクリックして聴いてみてくれません?

ポピュラー・ソングについてのうんちく話はともかく、イスタンブールという町へ行ったことあります?むささびは行ったことがなく、トルコの首都であること以外に何も知らない。ただトルコという国が、ウクライナやガザの戦争にも拘わったりして気にはなります。というわけで、今回はイスタンブールという町を訪ねてみることにしました。人口は1600万、東京のざっと半分という町ですね。

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2)中国人のロシア観

4月11日付のThe Economist誌に "By Invitation | A Chinese view of Russia" というタイトルの記事が出ています。訳すと「特別寄稿:中国人の対ロシア観」ということになる。北京大学の馮玉軍(Feng Yujun)教授がThe Economistに寄稿した記事なのですが、The Economistによるイントロは次のように書かれている。
  • "Russia is sure to lose in Ukraine, reckons a Chinese expert on Russia"(ロシアはウクライナでは必ず負ける、と中国の専門家は考えている)

馮玉軍教授はこの戦争の行方を決める要因として次の4点を挙げている。
  • 要因1:ウクライナ人による団結心がどこまで持つのか
  • 要因2:ウクライナに対する国際的な支援の持続性
  • 要因3:現代の戦争ではコミュニケーションと情報の収集・分析の力が欠かせないが、この戦争に見る限りロシアはソ連崩壊の影響から抜け出せていないように見える。
  • 要因4:プーチンによる物事の決定は「自分が知りたいと思う情報」によってのみなされがちであり、その意味ではロシアは正確な情報に欠けている。
教授の寄稿文は、むささびが全部をカバーするには余りにも長すぎるので、以下、寄稿文の最後の部分のみを直訳・紹介させてもらいます。

馮玉軍教授
国連が変わる 中露の違い
中露関係の変化 ひと休み後に別の戦争?
ロシア石油の輸入

国連が変わる

この戦争によって国連安全保障理事会 (Security Council) の成り立ちも変化するだろう。この理事会こそが国連という組織として世界の平和と地域の安全を護持するという本来の役割を果たすことなく存在してきたのだ。それによって国際社会はいら立ちを募らせ、その分だけ理事会の改革に向けた動きが早まった。ドイツ、日本、インドを始めとする国々が「常任理事国」となる可能性が増している。同時に現在の常任理事国がその特権を失う可能性もある。これらの改革抜きには安全保障理事会の象徴となった「無能」によって世界はこれまで以上に危険な場所になるのである。


中露関係の変化

中国とロシアの関係はしっかりと固まっているわけではない。これまでの2年間、さまざまな出来事によって影響を受けてきた。ロシアのラブロフ外相がつい最近北京を訪問、中国当局と会談する中で中露関係の緊密さを強調していた。しかし彼の北京訪問は、両国関係の親密さを示すというより、ロシア側が(国際社会に向けて)自分たちが孤立していないことをアピールすることを目的としていた。注意深い観察者なら中国の対ロシア観がウクライナ戦争前の2022年初期のような「際限なし (no limits)」というものから、昔ながらの「提携せず・対立もせず・第三国を相手にもせず:non-alignment, non-confrontation and non-targeting of third parties」という姿勢へと変化していることに気付いているだろう。

ロシア石油の輸入

中国は西側諸国と歩調を合わせて反ロシアの姿勢をとっているわけではないが、西側諸国の姿勢を邪魔しようともしていない。2023年、中国がロシアから1億トン以上の石油を輸入したことは事実ではあるが、それはウクライナ戦争前に購入していた量と大差がない。中国がロシアの石油輸入を停止して他の国から輸入することになると、国際的な石油価格が上昇して世界経済に大きな影響を与えることになるだろう。

中露の違い

ウクライナ戦争開始以来これまで、中国は2回の外交調停に関わってきた。それが成功したのかどうかは分からないが、中国がこの残酷な戦争を交渉を通して辞めさせたいと望んでいることはたしかなことではある。その願望が示すのは中国とロシアが全く異なる二国であるということだ。ロシアが既存の国際的・地域的な秩序を戦争によって打破しようとしているのに対して、中国は対立関係を平和裏に解決しようとしている。

ひと休み後に別の戦争?

ロシアがこれからもウクライナの軍事的なポジション、大切なインフラと都市攻撃を続ける限りにおいて朝鮮半島のような休戦を実現することはますます可能性が低くなるだろう。ロシアにおける政治制度や政治イデオロギーが根本的に変わらない限り、ロシアとウクライナの間の紛争は凍結状態となるだろう。そうなるとロシアは一休みの後、別の戦争を始めることになるだろう。そうなると世界はますます危険な状態に落ち込んでいくだろう。

▼ロシアの面積は17,100,000 km²で、中国は9,600,000 km²。こうやって見るとロシアは確かに広いのですね!

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3)スコットランド、ヤマネコは生き延びる


4月11日付のThe Economistのサイトに "A story of Scottish wildcats: スコットランドのヤマネコ物語" という見出しの記事が出ています。むささびはネコという動物は「ペット」としてのみ存在しているのかと思っていたのですが、The Economistの記事は「野生動物」としてのネコの話です。日本でいうと沖縄県の西表島にいるイリオモテヤマネ コ、長崎県の対馬だけに生息するツシマヤマネコなどがそれにあたる(らしい)。


で、The Economistの記事ですが、昨年(2023年)、野生動物保護団体がスコットランドの山岳公園であるCairngorms(ケアゴームズ)で19頭のヤマネコを人工繁殖のための放し飼いを行った。同じ団体が今年になって20頭のヤマネコをリリース、放されたネコたちの様子がカメラで捉えられ、これが「可愛い」というので話題になっているわけです。

The Economistの記事によるとケアゴームズ公園に放されたスコットランドのヤマネコたちにとって最大の脅威は公園に棲息するオオカミでもないし、狩猟を趣味とする人間たちでもなく、同じ種類のネコ(但し野性味が少ない)による「誘惑」なのだそうです。つまり野生のヤマネコの「雑種化」現象である、と。野生動物としてのヤマネコ(wildcasts)と人間と暮らしている飼い猫(domestic cats)では動物としての「種:species」からして異なるのですが、交配だけはできてしまう。スコットランド王立動物学会(Royal Zoological Society of Scotland)のハワード=マッコム博士によると、ケアゴームズ公園のヤマネコたちも「純粋に野生ではない:not wholly wild」のだとか。


このような「不純行為」を防止するために、野生動物保護者たちが行っているのは、地元のネコというネコを全部「中性化」してしまうことであり、それは早急に必要なことであるとされている。が、それによって避けられないのはネコ自体の生息地の喪失と狩猟の禁止であり、実際にはスコットランド・ヤマネコ自体の喪失現象であるとされており、今ではケアゴームズ公園地域におけるヤマネコ人口は100頭にも届かないかもしれないと言われている。

つまり野生保護活動家たちが行っているのは、野生保護というよりもヤマネコの「再野生化:rewilding」活動であるともいえる。最近の英国でこのような「再野生化」に成功しているのは、ビーバー、ヤマネ(リスとネズミとの中間の動物)、トンビ (red kites) だそうです。

ただ、「再野生化」には難しい問題もある、とThe Economistは言っている。野生動物が人間の予期しない動きを示すということで、最近になってビーバーがコーンウォール地方のヘルマン・トアと呼ばれる花崗岩の美しい景色で知られる場所に出現したりしている。人間によって新たに出現した動物たちが、これまでに棲息していた動物たちに不要なストレスを与えることがある。保護論者たちは、人間的な方法で放しさえすれば去勢行為そのものはヤマネコたちにとっても害はないし、むしろ近親交配を防止するという意味ではネコにとっても利益にさえなる、と。尤もネコたちがどのように思っているのか、人間には知る由もないけれど。


英国の空を飛ぶトンビ(red kite)

50年前の1974年、アメリカの哲学者、トマス・ネーゲル(Thomas Nagel)は "What Is It Like to Be a Bat?: コウモリであるとはどのようなことか?" という論文を書いて評判になった。現在のところ "What Is It Like to Be a Castrated Cat?: 去勢されたネコであるとは…?" という論文を書いた人間はいない。ただ「問題提起そのものは興味深いものがある」と指摘するのは、ハンガリーの動物学者、ピーター・ポングラス(Peter Pongracz)で、次のように述べているのだそうです。
  • Cats do not tend to suffer from existential angst over whether or not they will reproduce. Scotland is not going to become “the land of a bunch of sad cats” ネコは自分たちが子どもを産むか産まないかで実存的苦悩を感じたりはしない。スコットランドが「悲しいネコたちの地」なったりすることはないだろう。
 
▼最後に引用したハンガリーの動物学者の言葉は繰り返しに値するのでは?子どもを産むかどうかに「実存的苦悩」がかかっている…。実存的苦悩 (existential angst) って何?自分の存在そのものが子どもを産めるかどうかにかかっている…?まさかそこまで悩むことはないか!?

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4)再掲載:「アサクサゴー世代」の英語

ちょっと古いけれど、3月18日付の朝日新聞のサイトに
という見出しの記事が出ています。最近の中学生が教室で習う「英語」が難しすぎて、生徒の間で「英語嫌い」が増えているということです。

例えば文科省の「新指導要領」によると、中学で習う英単語の数はこれまでは1200語程度であったのに、今では1600~1800語へと増えている。400~600語の差は大きい。最近では小学校でも英語を教えるけれど、朝日の記事によると、小学校では単語の暗記にはあまり時間を割かない。つまり小学校で扱う600~700語も実質的に中学校で覚える生徒が多いので、中学では従来の倍以上の2500語を習うことになる形というわけ。

小学校から大学の教員らでつくる機関に「和歌山県国民教育研究所」というところがあるのですが、その機関に属している中学校の英語教師107人にアンケートをとったところ、文科省の新指導要領に対応した教科書については70%が「内容が難しくなった」と答えたのですが、「授業しにくくなった」が35%ある一方で「授業しやすくなった」は7%しかなく「内容が易しくなった」は0%だった。

朝日新聞によると「現在の中学英語が難しくなり過ぎている」という指摘について江利川春雄・和歌山大名誉教授(英語教育学)が「塾に通える子が有利になり、英語が嫌いな生徒が増えた」と言っており、文科省に対して「英語嫌いをつくらない、余裕のあるカリキュラムに戻すべきだ」と言っているのだそうです。当たっている!

再掲載:トウチャン、カアチャン、アサクサ・ゴー

むささびの鳴き声(2003年5月)

むささびが好きな英語に「トウチャン、カアチャン、アサクサ・ゴー。オレ、ハングリ・ハングリ」というのがある。訳すと「父ちゃんも母ちゃんも浅草へ行っちまったんだ。俺、お腹がぺこぺこ…」となる。今から殆ど60年も前、戦争直後の日本で、子供たちがアメリカの兵隊さんに必死になって空腹を訴えるのに使った"英語"である。

私が英語なるものに接したのは、中学になってからのことです。大嫌いでありました。尤も私は(自慢じゃありませんが)勉強とか授業と名の付くものには全てアレルギー体質を持っていたので、英語だけが例外的に嫌いであったということではありませんが。


で、「これはペンだ」というのを英語に直せという問題について言うと、「これは」の「これ」がthisであリ、「ペンだ」の「ペン」がpenであろうということまでは何とかなったとします。では「これは」の「は」はナンというのか?「ペンだ」の「だ」は?…となるともうお手上げです。イヤイヤ教科書を見ると「だ」はisらしい。とくれば「これはペンだ」はThis pen is…これっきゃない!…けど何だかヘンだ。

もう一度教科書を開くと正解としてThis is a penとなっていて、「英語の場合は主語・動詞・補語の順番で…」というようなことが書いてある。「ナンだ、ナンだ。"主語"?ナニそれ!?"補語"なんて聞いたことない」というわけです。英語の勉強をしているというのに、それを説明する日本語が分らない。


文法用語というのは何故ああも現実離れした言葉が多いのでしょうか。過去分詞・現在完了形・不定詞・三人称単数現在などなど。きっと文法というものがそもそも学問の世界の話であって日常生活とは関係がないのでこのような言葉が使われるのでしょうね。これはもちろん英語を母国語とする人たちも同じなのでしょうね。present perfect(現在完了)だのpast particles(過去分詞)だのと言われても普通は分らないはずですね。日本語の文法用語なんてもっと分らない。

いずれにしても中学生のあの時に「"これはペンだ"はThis is a penしかないんだ。文句あっか!」と言い切ってくれる教師がいた方がよかったのではと思ったりします。今ごろ言っても遅いのですが。

▼むささびが中学生だったころに使っていた英和辞書に旺文社発行の「マメタン」というのがありました。著者は赤尾好夫という人だった。いま調べてみると、この「マメタン」の初版本が出たのは1942年だったのですね。むささびが生まれた翌年です。そのマメタンを開くと最初に出てきたのが "a/an" だった。意味として「ある・一つの」が出ていました。続けて abacus, abandon, about...と出てくるあたりでむささびは机の奥にしまい込んでしまった。

▼で、"a"という「冠詞」についてですが、Oxford University Pressから出ているPractical English Usageという本は「冠詞は英文法の中でも最も難しいものの一つである。その使い方が少々間違っていても英語としての意味通じるものである。が、なるべくなら正しい使い方を覚えておく方がいいだろう」と言っております。そうなんですよね、その程度のことなのですよ、文法というのは。
 
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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら


xenophobic: 排外主義的

上の見出しと写真は5月1日付のBloomberg通信のサイトから拝借したものです。ワシントンで行われた選挙運動の演説会で見出しのような発言をしたのだそうですね。同盟国である日本を中国とロシアと同じように Xenophobic(ゼノフォビック)な国である…と呼んだ、というわけですね。この言葉をCambridgeの辞書で引くと
  • showing an extreme dislike or fear of people from foreign countries 
と説明されている。「外国人に対して極端な嫌悪感・恐怖感を示すこと」という意味ですよね。バイデンのこの発言は5月1日に行われた選挙資金集めイベントで行われたもので実際には次のように発言している。
  • Think about it. Why is China stalling so bad economically? Why is Japan having trouble? Why is Russia? Because they’re xenophobic. They don’t want immigrants.
バイデンはこの発言をする数週間前にワシントンで日本の岸田文雄首相と首脳会談を行い、公式夕食会を開いたばかりだった。

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6)むささびの鳴き声

▼「報道の自由度」のランキングで日本が世界の70位であったということは、日本のメディアでは大いに広く報道されていましたよね。パリに本部を置く「国境なき記者団:Reporters Without Borders」という国際NGOが発表したランクだとそのようになる。世界180カ国・地域を対象にランク化したもので、1位・ノルウェー、2位・デンマーク、3位・スウェーデンという具合にトップ3が北欧諸国だった(フィンランドは5位、アイスランドは18位)。

▼上の世界地図をクリックすると、ランク入りした180か国の名前と順位が出ている。英国が23位、台湾27位、アメリカ55位、韓国62位、ロシア162位、中国172位…ときて178位・アフガニスタン、179位・シリア、180位がエリトリアなどが並んでいる。このリストを見ると、やたらと「ヨーロッパ」が目立つ(と思う)。さらに不思議な気がするのはこのリストを発表する記者会見に並んだ「国境なき記者団」の人たちが全員女性であったこと。
 
▼「国境なき記者団」とは全く無縁の話題ですが、フィンランドの公共放送 YLEによると、フィンランドの大学生の半数が「孤独を感じながら生きている:experiencing loneliness」のだそうですね。これは大学生の精神衛生を守るNyytiという組織とHelsinkiMissioという孤独保護機関が最近共同で行った調査結果明らかになっているのだとか。この調査には1975人の大学生が参加したのですが、77%が孤独感が日常生活にも影響を与え、64%が自らの精神衛生にも影響し、64%が孤独感故の疲労を覚えると言っている。

▼YLE によるとツルク大学(Turku University)が昨年(2023年)行った調査によると、フィンランドでは2016年~2022年の6年間で孤独を感じるフィンランド人は3倍にのぼっている。これらの数字を見ると、フィンランドではコロナ禍による外出や集会の規制を外した後でも「孤独感・孤立感めいた感覚がとれていないということになる(とYLEは伝えている)。

▼今日は「子どもの日」なのですね。「柱のキズは一昨年(おととし)の五月五日の背比べ~」というのは本当にいい歌ですねぇ!
 

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