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 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
554号 2024/5/19

5月も後半、寒さはどこかへ行ってしまいましたね。上の写真は第二次大戦中のアイルランドの首都・ダブリンのスラム街だそうです。

目次

1)スライドショー:「速さ」を見る
2)ようやく「メルケル回顧録」
3)男と女:どちらがよく眠るか?
4)再掲載: 奴隷貿易とブレア首相の「遺憾の意」
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句

1)スライドショー:「速さ」を見る

今回もBBCのサイトから拝借します。テーマは "speed" で、「速さ」をイメージさせる写真が集まっています。

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2)ようやく「メルケル回顧録」

2005年から2021年までドイツの首相を務めた、あのアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)の回顧録(メモワール)が11月に発行されるのですね。5月13日付の英紙・Guardianが伝えています。回顧録のタイトルは "Freedom"(自由)というのですが "Memories 1954-2021"(1954~2021年の想い出)というサブタイトルがついている。つまり首相としてメルケルのみならず子どもの頃からの自分を振り返るものとなるのだそうです。

知らなかったのですが、1954年生まれの彼女はこの7月でようやく70才になるのですね。まだ若い!それでも彼女が口癖のように言うのは、70年の人生のうち最初の35年が東ドイツ、後半の35年が「再統一後のドイツ」というわけで、人生そのものが「二つのドイツ」によって特徴づけられている。

このメモワールは700ページという巨大なものであり、執筆したのはメルケルの政治アドバイザーだったビート・バウマン(Beate Baumann)という人なのですが、最初から最後まで “What does freedom mean to me?”(自分にとって自由とは何か?)という自問自答に終始している。この問いかけに対する彼女なりの答えは次のようになる。
  • Freedom, for me, is finding out where my own limits are and pushing myself to those limits. Freedom, for me, is to never stop learning, to never stand still, to continue moving forward, even after leaving politics. 私にとって自由とは自分の限界を見つけ出し、それに向かって自分を押し込んでいくこと。自由とは決して学ぶことを止めず、黙って立ち止まることなく、常に前進を続けることにある。最後の部分は政治の世界を去った後も続いている。
首相の座を退き、ドイツ政治の世界からも身を引いたメルケルですが、Guardianの記事によると、ドイツにおける彼女に対する評価は案外厳しいのだそうです。特に首相時代の彼女のロシアや中国に対する穏健な姿勢によって、ドイツの立場を弱体化したという指摘が多い。

キリスト教民主同盟の時代からメルケルの「仲間」であったはずのRoderich Kiesewetterという防衛の専門家などはロシアが2014年にクリミアを併合したあとでもメルケル政権はロシアのノード・ストリームというガス・パイプラインを支持し続けたと批判している。

▼メモワールの販売は11月26日で値段は英ポンドで35、ユーロで42だそうです。

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3)男と女:どちらがよく眠るか?


睡眠に関する専門家集団が作っているSLEEPOPOLiSというサイト(5月1日付)が次のような見出しの記事を掲載しています。
  • Women’s Internal Clocks Run 6 Minutes Faster Than Men’s: What This Means For Sleep 女性の体内時計は男性のそれよりも6分だけ早く進む。それは睡眠にとって何を意味するのか?
記事を書いたのはレイチェル・マクファーソン(Rachel MacPherson)という女性の研究者のようです。


アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)によると、アメリカの成人の3人に一人が睡眠不足を体験、5000万~7000万人のアメリカ人が慢性の睡眠不足にかかっている…とマクファーソンは言っている。睡眠不足は特に女性の間で深刻で、いわゆる不眠症(nsomnia)にかかる割合が男性よりも1.5倍多いのだとか。

その原因の一つが「体内時計」の存在だそうです。これは地球上の生物が生まれながらにして持っている生体リズムで、24時間周期のものを「サーカディアンリズム」(circadian rythm) と呼ぶのですが、女性の「リズム」は男性のそれに比べると、約6分短くできている。つまり女性の方が男性よりも6分だけ短い休憩時間(睡眠時間不足)のもとで生きているということ。

それに加えて女性には「母親であること (motherhood)」という負担がある。こればっかりは男性にはない。アライナ・ティアニ(Alaina Tiani)という専門家は
  • 女性のアタマは夜中でも自分の子どもが何か欲しがっていないかに耳を傾けようとするのと同じ。 It's almost like their brain was half-listening out for their children in the middle of the night, in case they needed something.
と言っている。


夜まともに眠れないという現象は世界中に広がっており、統計によると世界の人口の30%の人びとが寝不足に悩んでおり、それが健康にも影響しているのですが、神経学の専門家であるエリック・スクラー(Eric Sklar)は
  • There is a high correlation with underlying psychiatric disorders and insomnia. 内面的な精神不安定と不眠症の間には大いに相互関連が存在する。
と指摘しています。
 
▼なるほど…男には分からないのは「子ども」という存在なのか。子どもがその女性の子どもであるかどうかというより、「子ども」という存在そのものが女性の体質に影響を与える、と。

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4)再掲載:奴隷貿易とブレア首相の「遺憾の意」

今から18年前の2006年11月28日付の毎日新聞の外信面に、当時のブレア首相が、その昔英国が奴隷貿易で主導的な役割を果たしたことについて、個人的な「遺憾の意」を表明した、という記事が出ていました。この新聞のロンドン特派員である小松浩さんという記者による報告で、ブレアさんの狙いは、翌年(2007年)が奴隷貿易廃止法成立から200周年にあたることから、それを前に「謝罪」や「補償」論議が高まるのを避けることにあるとみられる・・・と小松記者は書いています。

このブレアさんの「遺憾の意」は、黒人系の新聞、New Nationにブレアさんが寄稿したかなり長い記事の中で表明されたものですが、記事そのものとそれに対する英国内での反応については、むささびジャーナル99号に掲載するとして、毎日新聞の記事を読んで、私が興味をもったのはブレアさんの「遺憾の意」は具体的にどのような言葉遣いで表明されたのだろうということでありました。


英国の首相官邸のサイトにブレアさんの寄稿記事が掲載されていたのですが、毎日新聞のいわゆる「深い遺憾の意を表し」の部分は to express our deep sorrow that it ever happened となっていました。つまり「奴隷貿易のようなことが実際に起こったということ」についての「深い遺憾の意(our deep sorrow)」ということになる。私が思うに「遺憾」という言葉ほど、日本のメディアで頻繁に使われていながら、イマイチよく分からない言葉はないのではありませんか? 政治家、社長さん、お役人などが部下の失敗について謝罪会見などをやると「世間をお騒がせしたことはきわめて遺憾であります」と言ったりするけれど、日常会話には殆ど出てこない日本語です。

大辞林によると「遺憾」の意味として「思っているようにならなくて心残りであること」と書かれてある。でもブレアさんはdeep sorrow(深い悲しみ)と言っている。「深い悲しみ」と「深い心残り」とでは意味が大分違う。sorrowの訳語として「遺憾」が正しいかどうかということを問題にしようとは思いません。そもそも遺憾の意味が私には完璧には分かっていないのですから。でも「悲しみ」と「遺憾」を比べたら、おそらく前者の方が分かりやすいのではありませんか?


で、「遺憾」は英語で何というのか?今度は和英辞書を引いてみました。一番最初に出て来た英語がregretでありました。私の理解するところでは、regretはかなり「謝罪」に近い。私の辞書には例文としてI expressed my heartful regret that I had not been frank with him(彼に率直に話さなかったことについて衷心より遺憾の意を表した)とあったけれど、これなど明らかに謝罪の文章ですね。

ところで、ブレアさんの記事について、首相の寄稿を掲載した黒人系の新聞の編集長は「すべてはsorryという言葉から始まる」と言っています。ご存知のとおり、sorryには意味が二つあります。一つは「ごめんなさい」(謝罪)、もう一つは「お気の毒に」(同情)です。この編集長が要求しているのが謝罪の意味でのsorryであることは言うまでもない。黒人編集長としては、ブレアさんにはとにかく「申し訳なかった」と言って欲しかった。そこから白人と黒人の和解が始まる。


ブレアさんの寄稿文の中でも最大のポイントは「(奴隷貿易のようなひどいことが)あったのだということに対して"深い悲しみ"を表明する」(to express our deep sorrow that it ever happened)と言っている部分にあるわけですが、彼はsorrowをどういう意味で使ったのか?Daily Telegraphのブログ・エッセイストは、この部分を肯定的に解釈してemphaticであると言っています。この英語を辞書で引くと「同情する」となっています。つまりブレアさんは「当時の奴隷たちは、さぞや辛かったでしょう」とは言っていても「申し訳ない」とは言っていない(とTelegraphの記者は解釈している)。この記者は謝罪などして欲しくないと思っているわけです。

話が「遺憾」に戻るけれど、将来、ひょっとして毎日新聞の入社試験で「ブレア首相が奴隷貿易について深い遺憾の意を表した」という日本語を英語に直せという問題がでるかもしれない。私など"遺憾"という言葉の意味が分からなくて、他人に聞くわけにもいかず、とりあえず和英辞書を調べてPrime Minister Blair expressed his deep regret...と書いたりするでしょうね。ブレアさんがそれを見たら多分「おれ、謝ってねえよ」(I didn't say that!!)と文句をつけるかもしれない。 (2006.12.10)

▼「遺憾」などという言葉は、日本では実際には政治メディアでしか使わないよね。このようなものが「言葉」としてまかり通っている。そのようなものが「言葉」としての意味らしきものを与えられてしまっている…政治家というよりメディア人が責められるべきなのではありません?
 
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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

cloud seeding:人工降雨

ちょっと古いけれど、4月18日付のBBCのサイトに
  • What is cloud seeding and did it cause Dubai flooding?
という見出しの記事が出ていました。「クラウド・シーディングとは何か?ドバイの洪水はクラウド・シーディングが原因だったのか?」という意味ですよね。"cloud seeding" を直訳すると「雲の種まき」ということになるけれど、ネット情報では次のように説明されている。
  • ヘリコプターなどから雲に直接ヨウ化銀やドライアイスといった化学物質(=種)を撒く事で雲の内部構造を変化させ人工的に雨や雪を降らせる、いわゆる人工降雨/人工降雪技術のこと。
知らなかったなぁ!4月17日付の毎日新聞の記事によると
  • アラブ首長国連邦(UAE)で4月16日、記録的な大雨が降り、最大都市ドバイでは幹線道路が冠水したほか、航空便や市内の公共交通機関の運行に乱れが生じた。米ABCニュースなどによると、ドバイでは24時間で平年の年間降水量の2倍以上に相当する雨が降り、地元気象当局は「過去75年で最大の降水量が観測された」としている。
知らなかったなぁ!
 

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6)むささびの鳴き声

▼上の肖像画は、戴冠式以後でチャールズ国王の最初の公式ポートレートだそうです。BBCのサイトに出ていました。描いたのはジョナサン・ヨー(Jonathan Yeo)という肖像画家で、図を大きくして見ると、チャールズ王の右肩に蝶々がとまろうとしているのが分かります。これは自然を愛し、環境問題に心を配るチャールズ王を象徴するものだそうです。肖像画の実際のサイズは縦が約2.60m・横は約2mだそうです。海外の英国大使館などにも飾られるのでしょう。


▼チャールズ国王の肖像画とは全く関係ありませんが、先日、夜中に寝ようとしていたら、はるか遠くでホトトギスの鳴き声が聞こえました。
  • ほととぎす
    鳴きつる方を 眺むれば
    ただ有明の 月ぞのこれる
▼百人一首の「有明の月」というのは「夜明け前の月」という意味だから、このほととぎすは(例えば)午前4時とかに鳴いたのかもしれない。ほととぎすが常に明け方に鳴くわけではないけれど、妙な時間にも鳴くものですね。

 

▼チャールズ国王ともほととぎすとも関係ないけれど、Sunday Timesが毎年行っている英国人の金持ちリスト(Rich List)の最新版(2024年版)によると、首相のリシ・スナクと奥さんのアクシャタ・マーティーの個人収入が2023年には5億2900万ポンド(約950億円)であったものが、6億5100万ポンド(約1200億円)にまで増えているのだそうです。主なる理由は奥さんが所有しているInfosysというインド系の通信企業の株の値上がりなのですが、この企業にはマーティーさんの父親が共同経営者としてかかわっているのだそうです。

▼お断りしておきますが、上に触れた金額の正確さは保障の限りではありません。このような数字に関してむささびが正確な情報を提供できるなどと考えない方がいい。正確な情報はSunday Timesのサイトを見た方がいい、と。いずれにしてもこのニュースを伝えるBBCによると、スナク夫妻はチャールズ国王よりも金持ち(richer than the King)なのだそうです。

▼クダクダ、失礼しました!

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