上の写真の柴犬は日本生まれの日本育ち、生後3か月のオス(左)とメスで、むささびの個人的知り合いです。よろしく。英国にも「柴犬クラブ:Japanese Shiba Inu Club of Great Britain」なる団体がある一方で、「柴犬は最悪か?:Are Shiba Inus The Worst Dog?」を語り合う組織もあるようです。 |
目次
1)スライドショー:さざ波の世界
2)「ひとりの人間」の死
3)「ナショナル・サービス」の評判
4)再掲載:疎外感の国際比較
5)英和辞書
6)鳴き声
7)俳句
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1)スライドショー:さざ波の世界
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今号のスライドショーもBBCのサイトから拝借することにしています。テーマは "ripples" です。普通の日本語では「さざ波」とか「波紋」と表現します。池や沼のように水が止まっているところではいろいろなものが
"ripples" を起こすのですが、「古池や蛙飛び込む…」の俳句が示すとおり、どれもが「静けさ」を表現するものとなります。面白い現象ですが、インターネットのサイトの世界で、このような現象をテーマにしようと思ったBBCの担当者の感覚は賞賛に値すると思います。 |
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2)「ひとりの人間」の死 |
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科学ジャーナリストの大熊由紀子さんからの情報によると、ニュージーランド人で国連障害者権利委員を務めていたサー・ロバート・マーティン(Sir Robert
Martin)という人物が4月30日に亡くなりました。67才だった。大熊さんによると、この人は「知的障害者として初めて国連障害者権利委員に選ばれ、障害者の権利を守るために、その生涯をささげた」人物だった。ここをクリックするとサー・ロバートによる「ひとりの人間として」という動画の特別番組を見ることができます。 |
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サー・ロバートは1957年、ニュージーランドのワンガヌイという町で生まれたのですが、誕生に伴うトラブルで脳に障害を抱えて誕生した。誕生後は国立の「施設」のようなところで成長することになる。1972年になって施設を転々とするような生活に終止符を打ち、生まれ故郷に帰って障害者の生活向上を目指す社会運動に参加するようになる。
2016年に歴史上初めての知的障害を抱えた状態で国連の「障害者の権利委員会:Committee for the Rights of Persons with Disabilities」の委員に選出された。それに続いて2020年に、ニュージーランドにおける障害者福祉の向上に大きく貢献したことで「サー」の称号を与えられた。
子どもも含めた精神障害者施設における生活についてサー・ロバートはNew Zealand Herald紙とのインtビューで
- I do not remember being picked up, or loved and cuddled ... we were just a number.
と語っています。「あの施設においては元気づけられたり、愛されたり、抱きしめられたりした経験は一切なかったということです。Kimberley Centreという、この施設は閉館されているのだそうです。 |
Kimberley Centre |
▼ニュージーランド人にはニュージーランド政府が「サー」の称号を与えるということを初めて知りました。この儀礼そのものは「英国」伝来のものだから英連邦の国でもそれを受け継いでいるところがあっても不思議ではないのですが。 |
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3)「ナショナル・サービス」の評判
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7月4日に行われる英国下院の選挙ですが、これまでに一つ注目されたのが、スナク首相による "national service"
の「公約」だった。"national service" というのは「徴兵制」のことなのですが、5月28日に民放のSky Newsとのインタビューの中で「選挙で勝利したあかつきには首相として英国のために<勇気ある行動(bold action)>をとる」と発言した。その「勇気ある行動」というのが"national
service" の復活だった。 |
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首相によると兵役制度(compulsory service)の導入は「愛国心:national spirit」を促進するだろうとのことなのですが、彼によると最近の「愛国心」の例としてはコロナ禍(the
pandemic)の最中に見られたような国民的団結心である、と。首相による兵役復活の提案について労働党は「無鉄砲(desperate)で実施コストが25億ポンドもかかる」と否定的な見解を示している。 |
YouGov |
スナク首相の「ナショナル・サービス」については、世論調査機関であるYouGovがアンケート調査を実施しています。いわゆる「兵役」もしくは「ボランティア活動」を義務化しようというのが首相の発想なのです。首相の提案に「賛成」の意見は47%、「反対」が45%と、ほぼ同数なのですが、これを年齢別に分けてみると、若年層は「反対65%・賛成27%」と、反対意見が圧倒的に強くなる。が、高年層になると「賛成63%・反対31%」、首相の「ナショナル・サービス」に対する好意的な意見がぐっと大きくなる。 |
▼6月4日付のBBCによると、オーストラリア陸軍がニュージーランド、アメリカ、カナダの国籍保持者も同軍に加わることができるようにしたのだそうです。 |
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4)再掲載:疎外感の国際比較
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今から60年ほど前、即ちむささびが大学生になりたてだったころ、『近代人の疎外』(岩波新書)という本が、いわゆる「左翼」の学生の間で話題になっていました。フリッツ・パッペンハイムというドイツの社会学者が書いたもので、現代資本主義社会に生きる人間は誰もが「疎外感:feelings
of alienation」(自分が自分でないような感覚)を持ちながら生きている、それを克服するためには、人間同士が真の意味で係わりあえるような社会体制(社会主義)を作る必要がある、ざっとそのようなことを言っていたと思います。 |
疎外感の国際比較
むささびジャーナル482号 |
先輩から読めと言われて読んだだけのむささびが、あの本のメッセージをどこまで理解できたか、全く自信はない。が、ごく最近、英国の世論調査機関であるIpsosが発表した "BROKEN-SYSTEM SENTIMENT IN 2021" という報告書を読みながら思わず「近代人の疎外だ!」と心の中で叫んでしまいました。報告書は世界25か国における人びとの生活感を調査したもので、イントロの部分に次のように書いてある。
- 2021年に調査した25か国の殆どの国で、国民の多数が、自分の国の現状を考えると疎外感を持たざるを得ないと言っている。 Across most of 25 countries surveyed by Ipsos in 2021, majorities of citizens express feelings of alienation when thinking about their country
この調査は25か国・1万9000人を対象にアンケート調査したもので、全体の数字としては下記のようになっています。 |
社会が壊れていると感じる人の割合 |
自国が落ち目だと感じる人の割合 |
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調査対象になった25か国すべてに言えるのは、国民の過半数に近い人びとが「社会が壊れている:society is broken」と感じ、「自分の国は落ち目にある:country
is in decline」と見ているということであり、さらに共通するのは「ポピュリズムを基盤にした反エリート感情」(populist and
anti-elite sentiment)と移民や外国人を締め出そうとする「排外主義」(nativist views)の高まりです。アメリカにおけるトランプ人気、英国におけるBREXIT推進論の高まりなどは正にその典型と言えるけれど、日本において「反日的」という言葉がやたらと頻繁に使われるようになったことなども、そのような傾向の一つなのではありません? |
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▼上の写真は60年も前にむささびが読まされた岩波新書の『近代人の疎外』の第一ページに掲載されているもので、スペインの画家、フランシスコ・ゴヤ(1746~1828)の『歯を求めて』という銅版画です。1799年に完成したもので、絞首刑になった男の歯には魔法の力があるという迷信にとりつかれた女性が、天井からぶら下がっている死体に忍び寄って、死体から歯を抜き取ろうとしているところを描いているものなのだそうです。
▼『近代人の疎外』の筆者は「こちこちになった死体に手を差し伸べている、この女性の気持ちは、恐怖にとりつかれながらも貴重な歯を手に入れようとする決意に引き裂かれている」と書いたうえで「これは遠い過去となった時代の病的な状態を示すものなのか?」と疑問を呈しています。この女性を支配している気持ちの引き裂かれ状態こそが、現代人が陥っている「疎外」状況を示しているのではないか?というわけです。
▼ただ『近代人の疎外』が書かれた60年前の世界では、資本主義社会がもたらす人間が人間でないような疎外状況を語りながら、それが克服された社会としての社会主義が大いに説得力を発揮していた。まさかこの本が書かれた30年後に社会主義のソ連が崩壊しようなんてことは考えてもいなかった。その一方で冷戦を勝利したはずの資本主義社会を生きている人びとの大多数が「社会が壊れている」という感覚に陥っており、トランプやBREXITが疎外感に悩む人びとにある種の「救い」を提供しているようにも見える・・・。そんな時代に生きているわけですね、我々は。 |
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5)どうでも英和辞書
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hoax call: いたずら電話、にせの通報 |
6月8日付のBBCのサイトに、苦虫を噛み潰したような不機嫌な表情のデイビッド・キャメロン英外相とともに
という見出しの記事が出ていました。"hoax" はCambridgeの辞書で "a plan to deceive someone" と説明されていました。「他人を騙す」という意味ですよね。つまりこの見出しはキャメロン外相が「ニセのビデオ電話の犠牲になった」ということ。
BBCの記事によると、キャメロン外相が「前ウクライナ大統領を名乗る人物からのニセ電話に乗ってしまった」と英外務省が言っているということです。外務省の報道官によると、キャメロンはその人物と二言・三言交わすうちに疑いを持ったとのことなのですが、その人物がどうやって外務大臣という地位の人間と直接言葉を交わすことができたのかについては説明を避けているのだそうです。
BBCによると、キャメロンがニセ電話に引っかかったのはこれが初めてではない。2015年、首相だったころにサイバー諜報局 (GCHQ) の政府機関監視担当者を名乗る人物と電話の会話をしてしまった。その電話はキャメロン本人が途中で会話を終わらせた(ということになっている)。にわかには信じがたい話 だなぁ! |
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6)むささびの鳴き声
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▼北九州・東八幡教会のサイトに掲載される「巻頭言」というコーナー(6月2日)に『イエスは笑ったのか』というエッセイが出ていました。それによるとキリスト教の聖書には、さまざまな表情のイエスが登場するけれど彼が笑っている場面というのがないのだそうです。ただ、筆者の奥田知志牧師によると、イエスが笑っているシーンはないかもしれないけれど、だからと言って「イエスは笑わなかった」と言い切ることもできない。
▼そもそも「笑い」とは何なのか?奥田牧師は笑いのプロである噺家の言葉を借りて定義している。桂枝雀によると「笑い」とは「緊張の緩和」のことであり、何らかの事情で「緊張した状態が緩和されたとき人は笑う」のだそうです。一方、立川談志は落語の意味を「人間の弱さや愚かさを肯定すること」に見出した、と。つまり東西の笑いの達人が言っているのは「多くの人が思っている前提が覆された時に笑いは起こる」という事だと思う(と奥田さんは言っている)。
▼奥田さんによると、聖書には「イエスが笑わそうとしている場面」はいくつもあるのだそうです。思わず「そんなアホな」と突っ込みたくなる場面です。例えばある女性が食事中のイエスのアタマに高価な香水を振りかけた話。女性は「イエスの弔いの準備をした」と言っているけれど常識的には「すごい信仰」などという行為ではない。が、イエスはこの女性について「私によいことをしてくれたのだ」と落ち着いて答えている。奥田さんによると、イエスのこの行為はどう見ても「可笑しい」。
▼奥田牧師によると「そういう目で聖書を見れば、あなたはきっと笑える」けれど「イエスは笑わない。どう見ても変な場面をまじめにイエスがやることで人を笑わせようとしておられる」と。つまり奥田さんはイエスの感覚を噺家のそれと類似している、と考えている。客を笑わせることはするけれど自分は笑わない…。インターネットで笑わせ話を当たってみたら
- 先生:教科書読め。
- 生徒:はい。「最近家の姉が色づいてきました…」
- 先生:!?…その字は姉じゃない柿だ。
▼というのが出ていました。だらだらと失礼しました。 |
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