musasabi journal

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 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
560号 2024/8/11

前号ではむささびたちと暮らしているボーダーコリーというワンちゃんを紹介しましたが、実はうちにはもう一人ワンちゃんがいます。名前はフロイデ(Freude)、「フロイデ」なんて如何にもドイツの女の子という気がしません?種類はGSP(German Short-haired Pointer) 、毛が短い「猟犬」で普段は「フロちゃん」と呼ばれています。もうすぐ14才の誕生日です

目次

1)スライドショー:2024年のパリ
2)暴動を支える「極右」たち
3)再掲載:相模原事件―福島教授が感じたこと
4)「やまゆり」とトランプ
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句

1)スライドショー: 2024年のパリ

あなたはパリへ行ったことあります?むささびは60年ほど前に数日間滞在したことがあるだけで、何も憶えていない。本日(8月11日)でオリンピックもお終いですね。このスライドショーは「2024年のパリ」をテーマに検索した結果ひっかかってくれた写真を集めたものなのですが、すべてオリンピック開催前に撮影されたものです。写っている人ちのアタマには「オリンピック」そのものが存在していない。

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2)暴動を支える「極右」たち


7月末に「発生」した英国内の「暴動」については、日本でもかなり話題になっていますよね。暴動の舞台となっているのは、サウスポート(Southport)というイングランド西部の港町(人口:約10万)で、シェフィールドやリバプールのような労働者階級の町が近くにあるのですが、7月31日付のThe Economistは、
  • サウスポートの暴動によって分かるのは、英国の極右勢力が変化しているということだ A riot in Southport shows how the British far right is changing
と言っている。ただ、この暴動が政治勢力によって焚きつけられているというわけではなく、昨今ではインターネットを通じたデマとトラブルの拡散によって暴動のようなものまで簡単に出来るようになってしまっている、ということです。

そもそものきっかけは7月29日にサウスポートの町で起こった児童殺人・障害事件だった。3人の子どもが死亡、10人が負傷するという痛ましい事件だった。事件の翌日(7月30日)にはロンドンからスターマー首相が現場を訪れたけれど、その頃にはすでに事件がインターネットによって全国に拡大、事件に激怒する付近の住民は首相に対して「事実を明らかにせよ:Get the truth out」と怒鳴りつけるまでになっていた。


インターネットによって拡散した情報の中には、この児童殺人がサウスポートに移住したイスラム教徒の仕業だというものもあり、町内にあったイスラム教のモスクが町民たちに取り囲まれ、中にはモスクに出入りするイスラム教徒に石を投げつける者も出てきた。警察によると、実際に暴力を始めたのは17才の男でルワンダ人を両親としており、住居はウェールズのカーディフにあるのだとか。カーディフからサウスポートまではクルマで行くと少なくとも6時間はかかるけれど、SNSがインターネットを通じて6時間にわたってデマを流し続けることで次の日にサウスポートのモスク近辺で暴動を起こすのは難しいことではない(とThe Economistは指摘する)。


The Economistの記事がもう一つ指摘しているのは、現代の英国における「極右言論人」の存在です。SNSだのX(旧ツイッター)のような世界で影響力を発揮しているのですが、むささび自身は全く知らなかった存在です。ここでは例としてトミー・ロビンソン(Tommy Robinson)とアンドリュー・テイト(Andrew Tate)という存在をネットに掲載された彼らの発言を通して紹介しておきます。
  • トミー・ロビンソン(Tommy Robinson)
    我々は「新しいイングランド」を必要としている。そこでは宗教や肌の色に関係なく国旗に誇りを持ち、我々の(イングランド人であるという)アイデンティティと文化の大切さを理解するということだ。We need a new England where all religions and colours feel proud of our flag and recognise how important our identity and culture is.
  • ナチズムとイスラミズムは同じコインの両側であり、我々は両方に反対する。ナチズムは敗北したけれどイスラミズムは英国中に広がっている。Nazism and Islamism are on the opposite sides of the same coin – we oppose both. Nazism has been defeated and Islamism is spreading across the country.
  • アンドリュー・テイト(Andrew Tate)
    1. 女性の真の力は、彼女の男を勇気づけ、支持することにある:A woman’s true power lies in her ability to inspire and support her man.

    2. 女性は自らの女らしさを育くむことに注力すべきであり、男のようになることは大切なことではない:Women should focus on nurturing their femininity rather than trying to be like men.

    3. 女性にとって大切なのは妻・母としての役割であり、(社会における)キャリアの追求は二の次とすべきである:Women should prioritize their role as wives and mothers over pursuing careers.

▼むささびはロビンソンとテイトの考え方に賛同するものではないけれど、「極右:far right」として遠ざけてしまうのもどうかと思いますね。
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3)再掲載:相模原事件―福島教授が感じたこと

神奈川県相模原市にある「津久井やまゆり園」という知的障害者福祉施設で、元職員であった植松聖という男が入所者19人を刺殺、入所者・職員計26人に重軽傷を負わせるという出来事があったのは2016年7月26日未明のことだった。あれから8年が経ちます。

むささびジャーナルでは、その351号(2016年8月7日発行)で『相模原事件:福島教授が感じたこと』という記事を掲載しました。「福島教授」というのは、バリアフリー研究者として東京大学先端科学技術研究センターというところで仕事をされている「福島智教授」のことです。彼自身が小学生で全盲となり、高校生のときに特発性難聴により聴覚も失うという「障害者」です。

むささびはジャーナリストの大熊由紀子さんを通して、事件についての福島教授の感想のような文章を記したメールを見せてもらうチャンスに恵まれました。ごく短い文章なのですが、むささびは教授のメッセージに大いに共感してしまったわけです。そこで教授の了解を得て、むささびのコメントつきでそのまま(一人称で)紹介させてもらいました。
「相模原事件」を受けて考えたこと
福島智教授のメッセージ

むささびジャーナル351号(2016年8月7日)

ヒットラーの優生思想 生物学的殺人と実存的殺人
見せかけの「科学分析」 障害者軽視の行く末


ヒットラーの優生思想

今回の事件報道からまず連想したのは、ナチス、すなわち、ヒットラーによる優生思想にもとづく障害者抹殺という歴史的残虐行為です。ホロコーストにより何百万人ものユダヤ人が抹殺される一方で、ナチスは精神障害者や知的障害者らをおよそ20万人殺したと言われています。その優生思想に「科学的」根拠をあたえたのは、優生学の首唱者である英国のフランシス・ゴールトン(1822~1911)であり、アメリカの優生学者、ヘンリー・H・ゴッダード(1866~1957)です。

ゴッダードは、『カリカック家 -- 精神薄弱者の遺伝についての研究』(1912年出版)という著作で知られており、20世紀初頭の当時では、たいへんな影響力を持った研究者だった。ただ私が指摘しておきたいのは、『カリカック家の研究』で使われたデータがかなり杜撰(ずさん)な調査や研究によって集められたものであり、そのようなデータをいくら分析しても、得られる結果は「偽物」でしかないということです。

見せかけの「科学分析」

何らかのサンプルについて統計学的処理をすると、いかにも科学的分析をしているかのように見えます。しかしそもそものサンプルの抽出の仕方や意味づけが誤っていたら、いくら統計的処理をしても真相にはたどり着きません。しかも統計学はおおむね5パーセントのデータを切り捨ててしまいますから、障害者のように、非常に複雑なファクターがあり、それぞれのサンプルが少ない対象について、統計的処理をしたとしても、何の意味もないことが多いということです。

私はゴッダードの研究に科学が持つ功罪両面の「罪」の側面を痛感します。何故なら『カリカック家の研究』によって広められた優生思想は、その後ナチスにより最悪の形で具現化されたからです。

こうした歴史的経緯からの連想として、私は、「相模原事件」の容疑者が何らかの理由でナチズムに思想的感化を受けたのではないかと想像はしていたのですが、その後の報道で「ヒトラーの思想が降りて来た」という容疑者の発言が伝えられて、背筋の凍る思いをしました。

生物学的殺人と実存的殺人

被害者たちのほとんどは、容疑者の凶行から自分の身を守る「心身の能力」が制約された重度障害者たちです。こうした無抵抗の重度障害者を殺すということは、おそらくニ重の意味での殺人です。一つは、人間の肉体的生命を奪うという意味での「生物学的殺人」。もう一つは、人間の尊厳や生きる権利と存在価値そのものの抹殺であり、これらの尊厳や価値を、優生思想と究極の能力主義的思想によって否定すると言う意味での、いわば「実存的殺人」です。

前者(生物学的殺人)は人間の個別の肉体を物理的に破壊する殺人ですが、後者(実存的殺人)は、人々の思想・価値感・意識に浸透しむしばみ、社会に伝播・波及するという意味で、「脳にとってのコンピュータウイルス」のようなとんでもないしろものだと思います。

しかし、それは障害者に対してだけのことではありません。人間に対する経済的価値にもとづく序列化、人間の存在意義の軽視・否定の論理とメカニズムは、徐々に拡大していき、最終的には大多数の人を覆いつくすでしょう。つまり、極ひとにぎりの「勝者」、「強者」だけがむくわれる社会になるということで、すでに、日本も世界も、本質的にその状態にあると言えます。

障害者軽視の行く末

障害者の価値や存在が軽視・否定される思想とは、すなわち、障害の有無にかかわらず、すべての人が軽視・否定される潜在的危険にさらされる社会にいたる思想的傾向でもある、という認識が重要だと思います。

今回の事件は、たしかに特殊で極端なものかもしれませんが、彼をこうした行動にかりたてたもの、そうした危険な傾向の背景には、私たちの社会に基調低音のようにして確かに存在するもの、ふだん表面には出にくいもの、まるで現実の「地下」を流れているような思想や意識が関係していると思います。


 
▼植松聖死刑囚をあのような行動に駆り立てたものは「私たちの社会に基調低音のようにして確かに存在するもの」と表現しているけれど、「人間を序列化して考えよう」という感覚なのでは…というのがむささびの感覚です。むささび本人がこの世の中に対してそのような感覚を抱いているということです。

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4)「やまゆり」とトランプ
 

月刊誌『創(つくる)』の篠田博之編集長が、7月30日付の Yahoo のサイトで、やまゆり園障害者殺傷事件から8年後の植松聖死刑囚について、彼なりの「8年間」を振り返っています。篠田さんは、編集長としてあの事件のその後を追いかけており、獄中の植松死刑囚との接触を続けているのですが、最近ではメディアの間でさえも関心が薄れつつあるのだそうです。


ただ彼が植松死刑囚との接触にこだわり続けるのは「やまゆり園事件の真相解明が全く不十分だからだ」とのことで、
  • 彼が2015年の夏頃から翌年にかけてあの特異な思想というか妄想に傾倒していくのは、いったいどういう要因があってのことだったのか
と、そのあたりのことが裁判でも殆ど検証されておらず、「あの凄惨な事件を、この社会はいまだにきちんと教訓化できていないのだ」と嘆いている。で、今回 Yahoo サイト上で取り上げることにしたのが、植松死刑囚の「トランプ観」です。篠田さんによると、植松死刑囚は事件を起こした2016年当時からトランプに心酔し、あやかろうと髪を金髪に染めたりしていた。社会福祉的な政策を否定し、「強いアメリカ」を呼号したトランプに植松は心酔していた。
  • 銃撃されながらも拳を振り上げて強さを誇示したトランプはある種のシンボルになりつつある。そうしたなかで植松死刑囚が反応を示すのは当然と思われた。


というわけで、篠田編集長はトランプ銃撃事件について植松死刑囚が記した文章を入手することに成功、それを Yahoo のサイト上で公にしようというわけです。

トランプ銃撃に想うこと

植松聖
トランプ大統領があまりに輝いていたので、陰謀か神の導きか知りませんが、もう世界大統領ということでいいんじゃないですか? 世間知らずは民主主義の脅威と煽り立てますが、民主主義がどうゆうものかを知りません。名前が有名であるとか、学歴があるとかいうお面が顔に付いてしまうと、素直に物事を捉えて考えられなくなるようです。

“言論の自由”とはいいますが“間違いの自由”が広がりすぎているといいますか、やはり「民度がついていっていない」。

一つ云いたいのは「パールハーバーを忘れない」といいましたが、本当か?と。アメリカは自分を攻撃する国ですから、戦争を仕向けるぐらい朝飯し前でしょう。悪いことをしたけど、延々と云うのは辞めてくれ、と。
 

▼「トランプ銃撃に想うこと」という文章は植松本人の手になるものですが、いかにも背伸びをしていることが伺えます。そのことが本人には何も分かっていない…悲しいくらい「わかっていない」人間の書く文章である、と。

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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

crucial: 決定的に重要な

8月5日付のAP通信のサイト
  • Kamala Harris' crucial week ahead
という見出しの記事が出ていました。Cambridgeの辞書は "crucial" という言葉を "extremely important or necessary" と説明しています。日本でいうと単に「重要」なだけでなく「決定的に重要」ということですね。

8月5日の時点におけるカマラ・ハリスは、民主党の大統領候補として悪くない評判にあったけれど、これから決めなければならない事柄の中には「失敗が許されない」ような事柄も含まれていた。その一つが(おそらく)副大統領を誰にするかということであったはず。で、白羽の矢を立てたのがミネソタ州知事のティム・ウォルツ(Tim Walz)だったというわけ。

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6)むささびの鳴き声
 
Standing Boy of Nagasaki
▼上の写真を見たことがある人は多いと思います。むささびもその一人で、この写真が長崎の原爆と関係があることも知っている…けれどむささびの知識はそこまで。で、インターネットのお世話になって探したらNHK制作の「戦跡:薄れる記憶」というサイトに行き当たりました。このサイトを読めばこの写真についての分かる範囲のことは全部分かる、と思います。

▼まず撮影日ですが、長崎に原爆が落とされた1945年8月9日から「数日後」のことで、撮影者は米軍のカメラマンでジョン・オコーネル(Joe O'Donnell)という人物で、長崎市内の火葬場の写真を撮っていたときに赤ん坊を背負っているこの少年と出会ったのだそうです。幼い弟や妹を背負っている子どもなど珍しくないのですが、この男の子だけは「真面目な目的を持って立っている」ように見えた。靴は履いていないし、表情は固かった…。

▼オコーネルがこの少年を見たのはそれが最後で、後年、探し回ったけれどついに会うことはできなかった。ただオコーネルが写した写真だけは『焼き場に立つ少年』として広く知られるようになり、原爆投下当時の長崎で暮らしていたある人物がその写真を見て「あのときの男の子だ!」と…あとはNHKの「戦跡:薄れる記憶」というサイトを見てください。

▼広島における原爆関連の行事にはイスラエルの代表が招待されたけれどパレスチナは呼ばれなかった。その根拠は、イスラエルが日本国政府によって「国家」として承認されている一方でパレスチナは承認されていないということだった。そう言われてみると、日本の外務省のサイトによると、東京には「イスラエル大使館」というのはあるけれど、パレスチナの場合は「パレスチナ常駐総代表部」というのはあるけれど「パレスチナ大使館」というのはない。

▼いずれにしても、かつて「大使館」と名のつくところに勤務していたくせに、このあたりのところに全く弱くてお恥ずかしい。

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