musasabi journal

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 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
561号 2024/8/25


目次

1)スライドショー:ヨーロッパの街角
2)再掲載:カーティス教授の日本メディア批判
3)RFK Jrは誰が支えたのか?
4)英国人と極端論
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句

1)スライドショー: ヨーロッパの街角

「ヨーロッパ」というと「上流」「歴史・伝統」「高級」などという言葉に代表される諸々が浮かんできません?「ヨーロッパ」と言ってもむささびが実際に眼にしたことがあるのは、英国・フィンランド・アイスランド・ドイツ・フランス・ベルギーくらいで、殆どが数時間・数日間しか経験していないので、実際には経験していないのと同じです。というわけで、ネットの世界に点在する「ヨーロッパ人のいるヨーロッパ」の写真をいろいろと集めてみました。

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2)再掲載:カーティス教授の日本政治メディア批判


今から20年も前のことですが、むささびは日本記者クラブというところで仕事をしたことがあります。2004年1月から2009年3月までのことだから5年とちょっとということになる。日本記者クラブは新聞・放送の世界で仕事をする人たちの手助けをする組織であり、むささびの仕事は、この組織の会員となっている人たちのために記者会見や講演会などを開催することにあった。

その約5年間で手配した「講演会」の中で、むささび自身が「面白い」と感じたものの一つが、米国・コロンビア大学のジェラルド・カーティス(Gerald Curtis)教授による、日本の政治についてのトークだった。



非公式な調整 情報カルテル:記者クラブ制度
「くっつきすぎ」 ワシントンでもやっている…?

カーティス教授は1940年生まれだから今年で83才、ネットで見ると「名誉教授」という肩書になっているのですが、ウィキペディアによると「大学院生時代に日本で地方選挙の実態を徹底取材した博士論文がベストセラーとなったことをきっかけに、政権与党の実力者・財界の要人らと数十年にわたって深い関係を築き、アメリカ有数のジャパン・ウォッチャーとして知られるようになった」とのことです。
カーティス教授の講演のテーマは「55年体制の半世紀」。55年体制とは1955年に自由党と民主党という二つの保守政党が合併(保守合同)して現在の自民党が出来た年のことです。よくも悪くも「自民党的な政治」が日本を牛耳ってきた、この50年を振り返ってみようというのが、講演の趣旨でした。

非公式な調整

カーティス教授は、この50年間の日本政治を特徴付けているものに「非公式な調整」という言葉を挙げました。英語でいうとinformal coordination。つまり「ナア・ナア」とか「ツーカー」とか「根回し」とかいうもののやり方が支配的であったということで、自民党の場合は例えば派閥政治というような形であったというわけです。いわゆる「癒着」「裏取引」などの世界でもあります。

教授のinformal coordination論を全部お伝えするにはいくらスペースがあっても足りないし私の能力では無理なので、ここでは教授が批判した「マスコミと政治」の間のinformal coordination(癒着)についてのみ触れておきます。新聞やテレビは他の分野での癒着については、いろいろと批判しますが、自分のところの癒着については余り書かないし、放送もしない。

「くっつきすぎ」

カーティス教授が特に批判したのはジャーナリストと政治家の「くっつきすぎ」です。マスコミに関係のない皆様でも「番記者」というのは聞いたことがありますよね。マスコミ各社には「小泉番」「中曽根番」という具合に、個々の政治家にぴったり張り付いて取材をする記者たちがいます。これが番記者。例えば夜中に政治家の自宅に上げてもらってご馳走になったりしながら、いろいろと情報を集めたりする。


記者にしてみれば、そうやって政治家に近づくことで貴重な情報を手に入れたりすることができるわけですが、カーティス教授によると明らかに近づきすぎるというケースが目につくのだそうです。彼の知り合いのNHKの政治記者が、自分が密着している政治家のことを「ウチのオヤジ」という言い方をしていたケースもあった。この場合の「ウチ」というのは、この記者が「番」をしていた自民党の派閥のこと。つまりその政治家は派閥の親分。彼はおそらく自分が如何に有力な政治家に食い込んでいるかを自慢したかったのでしょう(と教授は言っていた)。

情報カルテル:記者クラブ制度

カーティスさんはさらに、日本の「記者クラブ制度」について「情報カルテル」と呼び、「もういい加減にこんなものは止めるべきだ」とはっきり言っていました。記者クラブ、ご存知ですよね?長野県の田中知事は廃止した。例えば外務省には何とかいう名前の「記者クラブ」があるのですが、それに所属していると、外務省からの発表資料をもらったり、幹部のブリーフィングに参加する機会を与えられたりする。しかし誰もが所属できるわけではない。有力な新聞や放送局でないと入れてもらえない。既得権(英語で言うとvested interestかな?)ですね。多分「むささびジャーナル」は入れてもらえないと思います。

むささびが英国大使館というところに勤務していた時に、ある英国人がらみの事件があった。警察沙汰になったもので、警視庁の記者クラブに入っていた社の記者は警視庁による会見に出席することができた。外人記者の場合は、私の記憶では参加はゆるされたけれど質問する権利は与えられなかった。カーティス教授はこのような状態を称して「情報カルテル」と批判したわけです。

ワシントンでもやっている・・・?

教授の批判に対して、会場にいたある新聞社の記者が「いい記事を書くためには政治家と密着することも必要だ。必ずしも癒着とはいえないのではないか」と「くっつきすぎ」を擁護していた。また記者クラブという名前の「情報カルテル」という批判に対しては「ワシントンのホワイトハウスなんか、自分たちの親しい記者にだけ情報を与えたりするし、日本の記者クラブ以上にカルテルではないか」と反論していました。

この記者に対するカーティス教授の答えは「政治家に近づくことは悪いことではないが"ウチのオヤジ"呼ばわりするような近づきすぎはよくない」ということ。さらにアメリカのマスコミにおける情報カルテルについては「ホワイトハウスでそのようなことをやっているから、日本でもやっていい、ということにはならないのでは?」というものでした。

長々と書きましたが、実は私が最も感銘を受けたのは最後の部分でした。政治家への接近にも「程度というものがある」ということ。「常識」ですよね。「近づきすぎ」が良くない、と言っているだけなのに、近づくこと自体が悪いと言われているような、極端な議論をすることで、自分たちのやっていることを正当化するという手法は非常によくない。

▼それから他の国の例を挙げて「あちらでもやっているのだ。我々だけ批判するな」という言い方も実に情けない。自分たちなりの価値基準とか善悪の基準というものがないのだろうかと思ってしまう。これも結局は既得権を有する者の自己正当化にすぎない(と思われても仕方ない)。
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3)RFK Jrは誰が支えたのか?


アメリカの大統領選挙に関係して、8月24日付のBBCのサイトが
  • RFK Jr just endorsed Trump. Will it matter in November? RFK Jr がトランプ支持を表明した。これは11月の選挙に影響を与えるのだろうか?
という見出しを掲載しています。RFK Jr というのは、例の第三の候補とされてきたロバート・ケネディ・ジュニア(むささびジャーナル559号)のことです。この記事では「ケネディ」と呼ぶことにします。11月の選挙に向けてこれまでは「第三の候補」とされてきたけれど、彼がトランプ支持に回ることで、ケネディ支持層がトランプ支持に回ることになると、選挙の様相が変わってくる。

メリル・マシューズ
メリル・マシューズという政治学者の観察によると、大統領選がバイデン vs トランプの争いであった頃は、有権者の中には「両方ともダメ」というわけで、「独立系」の候補者に眼を向けようとする傾向はあった。が、カマラ・ハリスが登場して民主党支持者の支持を得るようになって事情が変わった。それまでは民主党支持者でもケネディも含めた「独立系」に目を向けようとする傾向はあったけれど、バイデンが引っ込んでハリスが登場してから事情が変わってしまった。

大多数がハリスを支持するようになってしまってケネディのような「独立系」の影が薄くなってしまった。要するにバイデン(民主党)とトランプ(共和党)の争いではケネディにも存在感はあったということ。

そもそも大統領候補としてのケネディを推してきたのはどのような人たちなのか?8月23日付の Pew Research のサイトに、この疑問に答えるアンケート調査の結果がいくつか掲載されています。

民主党のカマラ・ハリス支持派は、ケネディ支持者の行動は殆ど無視してしまっている。最近の民主党の選挙責任者のコメントを挙げると
  • For any American out there who is tired of Donald Trump looking for a new way forward, ours is a campaign for you. トランプに飽き飽きした人びとは、新しく進むべき道を模索している。我々の活動はそのような人びとのためにある。
 となる。
 
 
▼上のグラフは Pew Research のサイトに掲載されているケネディも含めた大統領候補者4人(バイデン、ハリス、トランプ、ケネディ)に対する有権者の態度を数字で示したものです。態度の種類が色別されており、上から "Lean forward (やや前向き)" "Moderately(穏やかに支持)" "Strongly (強く支持)" などと並んでいます。目立つのはケネディに対する支持者の態度で、「強く支持」する人は20%にも達していない。

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4)英国人と極端論
 

"Extreme" という言葉は「激しい」とか「極端」とかいう意味ですよね。例えば写真説明をするときには「右端」は "extreme right" という具合。"Extremism"という言葉は、考え方が極端という場合に使う。英語で説明すると
  • the fact of someone having beliefs that most people think are unreasonable and unacceptable
というわけです。最近、英国の町で頻発している暴動騒ぎに関連して世論調査機関のIPSOSが8月9日~12日に行ったアンケート調査によると
  • 85% say Britain is divided as concern about extremism rises 英国人の85%が、最近の英国は極端論の高まりによって分断現象が起こっていると感じている
のだそうですね。3年前の2021年では「85%」が「80%」にとどまっていたのに…。


IPSOSによると、最近の英国で目立つのが政治的な意見の違いが先鋭化しており、社会の安定そのものを脅かすようなケースが増えているのだそうです。特に目立つのは政治的に異なる意見の持ち主に対する敵対意識の強さで、政治的な見解が異なる人間同士がディスカッションを通して意見を変えるというケースが少なくなっている。数字的に言うと、62%の英国人が議論によって自分の意見が変わることはないと思っている。

英国人の現状認識

▼学生の頃からむささびが英国という国に対して持っていた印象は「極端が嫌い」という姿勢だった。よく言えば「バランスがとれている」ということになるけれど、時としてそれが「煮え切らない態度」とうつり、話し相手としては面白くないという風にも写ったものです。

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5)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

left-handed: 左利き

世の中に左利きの人がたくさんいることは知っていたけれど、『左利きの日:Left-handers Day』などというものがあるなんて知りませんでした。8月13日がそれにあたるらしい。

BBCのサイトによると、例えばアメリカの大統領のうちビル・クリントンやバラク・オバマは左利きだし、英国首相ではデイビッド・キャメロンやウィンストン・チャーチルらも左利き、さらに言うと将来の英国王であるウィリアム王子も左利きなのだそうです。日本人の政治家としては(むささびの調べた限りでは)元東京都知事の石原慎太郎だけだった。

もちろんいいことばかりではない。英国では職業によっては左利きが敬遠される場合もあるし、国によっては左利きが「不潔」「無礼」と見なされるところもあるのですね。インド、パキスタン、バングラディッシュ、インドネシア、ネパールなどでは左利きは肩身の狭いを思いをするのだそうです。

動物の世界はどうかというと、モノを食べたりする場合は、大体において左右両方なのだそうですが、カンガルーは例外的に左利きが多く、オウムも90%がモノをつかむのは左手だそうです。
 

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6)むささびの鳴き声
 
▼ジャーナリストの前澤猛さんが、日本におけるユネスコ促進運動の仲間たちと共同で出版していたニュースレターに「SNS、AI時代とUNESCO」というタイトルの記事を書かれています。いわゆる「ニセ情報:フェイク・ニュース」についてジャーナリストとしての体験談を語っているのですが、その中で使っているのが上に掲載した写真(出典:読売新聞)です

▼1959年6月25日、東京の後楽園球場で行われたプロ野球「巨人対阪神」の試合で巨人の長嶋茂雄選手がサヨナラ・ホームランを打った瞬間の写真です。実はこの試合は観客として昭和天皇夫妻を招待した「天覧試合」という特別なもので「読売新聞に掲載された写真で、長島の打撃を上段の貴賓席から天皇、皇后両陛下が見下ろしています(前澤さん)。このサヨナラ・ホームランを撃たれたのは阪神タイガースの新人・村山実投手だった。

▼撃たれた村山投手は「ファウルだった」と「終生主張していた」らしいのですが、前澤さんによるとこの写真自体が「子供だましのようなフェイク」だったのだそうです。この写真は掲載した読売新聞が「手作業による修正写真だった」と明らかにしたため、同じ写真を使おうとした毎日も兜を脱がざるを得なかったのだとか。

▼実はむささびは大のタイガースファンで、この試合を自宅のテレビで見ていたことをはっきり記憶しています。むささびにとって興味深いのは、前澤さんがこの日(1959年6月25日)のことを「安保闘争前年の」と書いていることです。そうなのです、長嶋のサヨナラ・ホームランから1年後の1960年の6月ごろと言えば、日米安保条約の改訂をめぐって国会周辺がデモ隊に囲まれて大騒ぎになっており、メディアも「政府は国民の声を聞け」というニュアンスの報道に力を入れていた。

▼それに対して当時の岸信介首相が放ったコメントは「国会周辺でデモなどやっているのはごく一部の国民であり、国民の多くは後楽園で野球観戦を楽しんでいる、自分はそのような<声なき声>にこそ耳を傾けるのだ…」というものだった。この人こそ、あの安倍晋三の祖父だった人物です。むささびは大学一年生だった。あれから64年か…!

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