目次
1)スライドショー:地平線の向こうに
2)米国人の政治・政党意識
3)スターマーとEU
4)再掲載:森嶋通夫さんと日本
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
7)俳句
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1)スライドショー: 地平線の向こうに
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今号もまたBBCのサイトにお世話になります。テーマは "on the horizon"。日本語にすると『地平線・水平線の彼方に』ということになる。
"horizon" という言葉は英語の世界では「地平線」と「水平線」の両方を意味するようです。日本語の場合は場面によって「地平線」と「水平線」を分けて使うようですが…いずれにしても遠くの景色というものは、どこかドラマチックなところがありますね。 |
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2)米国人の政治・政党意識 |
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アメリカの世論調査機関である Pew Research が、大統領選挙の年であることを機会に、民主・共和の二大政党の支持者たちの性格を調査しています。性格を下記の4項目に分けて、それぞれの政党支持者たちを性格別に分類している。
- Traditional=伝統を重んじる
- Skeptical of what experts say=専門家の意見を疑問視
- Respectful of authority:権威を重んじる
- Comfortable with taking risks:リスクを冒すことを厭わない
- Interested in visiting other countries: 外国訪問に関心がある
- Open-minded:心が広い
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これらの「性格」について共和党支持者(Rep/Lean Rep) と民主党支持者(Dem/Lean Dem) が「強く感じる」「やや感じる」「感じない」の3つの反応を調べた結果を下記のグラフにまとめている。 |
アメリカ人の支持政党別の性格分析
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▼アメリカ人の思考方法で、むささびにはいまいち分かっていないのが「伝統を重んじる」と言う共和党支持者が案外多いという部分なのよね。共和党というとビジネスマンの党というイメージが強いと思うのだけれど、「ビジネス=利益追求」という「合理主義」の発想がどのようにして「伝統主義」という「合理」とは相容れないものと結びつくのか…?
▼ちょっと可笑しいのが、民主・共和の両方とも似たような傾向なのが「リスクをとる」ということには積極的ではないということ。でしょうね。 |
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3)スターマーとEU
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英国でEU離脱の国民投票が行われたのは2016年6月23日、あれから8年が経つのですね。実際に離脱したのは2020年1月31日だったのですが、9月5日付のThe Economistが
- The Labour government’s worrying lack of ambition in Europe
という見出しの社説を掲載しています。キア・スターマーの労働党政権が、ヨーロッパに存在する国としての「大志:ambition」のようなものに欠けていることは憂慮するべき事態だ、というわけです。 |
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7月5日に首相に就任したスターマーは「自分はBrexitという角を曲がる絶好のチャンスに恵まれている:“once-in-a-generation opportunity” to turn the corner on Brexit」と発言しているのですが、彼を首相に押し上げた今年7月の選挙は、保革含めて「ヨーロッパ寄り」の姿勢が勝っていた、とThe Economistは指摘している。その結果、Boris Johnson, Michael Gove, Sir Jacob Rees-MoggのようなEU離脱推進グループは過去のものとなってしまった。そして英国民自身もあの国民投票の結果に悔いを感じていることは世論調査の結果でも明らかである、と。 |
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ヨーロッパ諸国との緊密な関係は、労働党自体の優先事項である「経済成長」の目的にもかなうものであると言える。EU離脱という現象が英国という国に与えた経済的打撃の大きさを数字化することは難しいけれど、かなりの打撃であったことは間違いない。対英投資は先細り、貿易も行き詰まり、英国市場への進出を望む外国企業との競争は厳しさを増している。
そのような状況でスターマー首相はこの夏、EUのリーダ-たちとの接触に積極的に取り組んだ。それは英国にとっての必要な行動ではあったが、「あれだけではとても足りない。But he will need to do a lot more than that」とThe Economistは主張する.
スターマーがヨーロッパとの接触を続ける中で、思想的な試練のようなものが頭を持ち上げてきた。国際的な付き合いには欠かせない「妥協:compromise
」が「裏切り:betrayal」と映り、「主権:sovereignty」は「時代遅れ:shibboleth」と言われた。ティリザ・メイ首相(2016年7月13日
- 2019年7月24日)が強気な交渉態度を見せると、常にこれを極端な「反EU」の態度と見なそうとする意見が見られた。 |
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実はそのような「極端嫌い」の一人がキーア・スターマーだったのだ。あれから7年、スターマー政権こそが2016年後の流行語や心理状況を示しているともいえるのだ。彼もそれなりに筋の通った姿勢を貫こうとしてはいるけれど、どうも自ら誤った方向に進もうとしているかのように見えることもある。7月の選挙の際、スターマーは、英国が(EU の)単一市場や関税同盟に加わることはないことを明言した。彼はさらにヨーロッパのリーダーたちが進めている若者の移住促進計画(youth-mobility agreement)にも否定的な態度をとっている。それが英国の若い世代にとっても意味のある計画であったとしても、である。
スターマーの姿勢の問題点は、英国とヨーロッパの関係の枠組みを変えようという姿勢がないことだ。The Economistは英国のEU再加盟を示唆しているのではない。英国が現在のEU加盟国が作っている「ブロック」を去るということなのだ。しかしながら英国とEU加盟国との間における、さらに緊密な経済統合や法的な提携を現在以上に緊密なものとすることが望まれることは間違いない。
当然ながらスターマーには注意深さも要求される。彼は7月の選挙ではBrexitのことは殆ど何も語らなかった。それでも政権は獲得できた。EUについての英国の世論は頑固なものではない。世論調査によると、EUとの常識程度の協力には英国人は好意的だ。スターマーは選挙で地滑り的勝利を得ることができた。世論はスターマーに好意的であり、EUと英国との関係も英国の国益という観点で考えることができる。
というわけで
- スターマーと労働党政府がヨーロッパ問題のような簡単な事柄についてさえビクビクしているようでは、何をやっても苦労をしなければならなくなるだろう。If Sir Keir and his government are too timid and unambitious to argue their case on an easy issue like Europe, they will struggle with everything else.
というのがThe Economistの結論です。 |
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▼BREXITの国民投票が実施されたのが2016年6月23日だった。今から8年前のことだったのですが、その半年後(2016年11月8日)にはアメリカの大統領選挙でドナルド・トランプが勝利したのですよね。この二つの出来事は全くの別件のはずだったのに、同年11月9日付のNew
York Timesは "Brexit Proved to Be Sign of Things to Come in U.S."
という見出しの記事を掲載している。「BREXITがアメリカで起こることの前兆だったのだ」というわけですよね。で、今年11月の大統領選ではトランプが勝つのか?ハリスが勝つのか? |
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4)再掲載:森嶋通夫さんと日本
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この「再掲載」のオリジナルが載ったのは2005年4月17日に発行された『むささびジャーナル56号』です。今からほぼ20年前ということになるのですが、その頃の日本にとってアタマの痛い問題の一つに中国における反日デモの頻発があった。当時のウィキペディアには次のような記事が掲載されていた。 |
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2001年に小泉純一郎首相が就任して以降、小泉首相の靖国神社参拝で中国との関係は悪化し、日中両国の首脳会談は中国により拒否されていた。これにより中国国内では反日感情が高まり、小泉首相への抗議がおこなわれた。「参拝中止という中国側のたび重なる要請を聞き入れず、過去を反省しない日本」という印象が中国内で広がっていた。 |
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再掲載:森嶋通夫さんの本
むささびジャーナル56号(2005年4月17日) |
中国で「反日デモ」が荒れ狂った日、私(むささび)は昨年亡くなった経済学者でロンドン大学(LSE)の教授であった森嶋通夫さんが書いた『なぜ日本は没落するか』(岩波書店・1999年)という本を読んでいました。単なる偶然。その中で彼は「北東アジア共同体」なる構想について非常に熱心に書いていました。日本・中国・韓国・北朝鮮などを含めた「共同体」を作ろうというものです。
森嶋さんが提案したものなのですが「日本では殆ど注目されなかった」と残念そうに書いています。 このアイデアについては、むささびなどがどうこう言えるような知識も経験もありませんが、一箇所だけ紹介します。森嶋教授が「北東アジア共同体」というアイデアについて「21世紀の関西を考える会」という集まりで講演したときのことで、聴衆の一人(30歳後半の男性)が次のように発言したそうです。
- 「日本は中国で残虐行為をしたから、一緒に共同体をつくりましょうという気持ちにはなりません」
この発言について森嶋さんは次のように書いています。
- 私はびっくりした。その逆のことを言う(つまり"残虐行為をしたから罪滅ぼしにでも今後は仲良くしたい")のなら話は分かるが、彼の言葉には耳を疑った・・・。
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で、教授はその発言者に次のように聞き返したそうです。
- それなら言いますが、日本はアメリカに対しても残虐行為や不法行為をしています。真珠湾を(たとえ意図的ではなく、結果的にそうなったのだとしても)無警告攻撃し、フィリピンのコレヒドールでは米軍の捕虜に死の行進をさせました。だけど日本はアメリカと仲良くしています。アメリカとはできてもどうして中国とはできないのですか?
質問者は怒ったような顔をして何も言わずに着席したそうです。 もう一つ、森嶋教授は1998年に中国の江沢民主席が来日したときに、共同体構想のようなものが少しは前進するのではないかと期待したのに、日本政府が中国に対する「おわび」を口頭で述べるにとどまり「文書化せよ」という中国の要求を拒否した、と残念そうに書いています。
そういえばそんなことありましたね。その時、むささびはロンドンでBBCのスタジオ見学をやっていたのですが、ニュース番組の放送風景を見ていたら、江沢民訪日のニュースが結構大きく扱われていたのを覚えています。報道のニュアンスとしては「日本は相変わらず自らの過ちを認めようとしない」というもので、その場にいた日本人であるむささびはかなり居心地の悪い思いをしたものです。 |
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▼森嶋通夫さんは英国について面白い本を沢山書いていますね。既にお読みの方も多いと思いますが私が持っているのは『イギリスと日本』(2巻)、『サッチャー時代のイギリス』『思想としての近代経済学』(全て岩波新書)etc
いずれも傑作ですね。 |
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5)どうでも英和辞書
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in the same boat:同じ運命にある、お互いさま
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i今からちょう ど50年も前のこと、むささびは駐日英国大使館広報部というところに職を得ました。勤務初日に職場の同僚たちに紹介されたのですが、副部長という地位にある英国人に紹介された際にざっと次のようなことを口走ったのよね。
- I know very little about Britain: nothing about the Embassy. So, you must teach me a lot!
ボクは英国のことなど殆ど何も知らないし、大使館については全くなにも知らない、アンタにいろいろと教わらなければ…という意味ですよね。自分の不安をそのまま伝えたつもりだったけれど、それに対する副部長さんの返答は次のようなものだった。
- We are all in the same boat!
彼は自信ありげにニコニコ笑っており、むささびも笑いを返したのですが、相手が何を言っているのか分からず単に笑ってごまかしただけだった。それにしてもボートなんてどこにもないじゃん…というわけで、あとから辞書を調べたら
"in the same boat" は "in the same difficult situation as
someone else" という意味の説明と "None of us has any money, so we’re all
in the same boat" という例文が出ていました。要するに「みんな同じ運命にある」とか「お互いさまですよ」というのを「同じ船に乗り合わせている」と表現しているってこと。 |
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6)むささびの鳴き声
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▼弱肉強食という日本語を英語で言うと "the fittest survive" が「普通」なのでは?日本語をそのまま解釈すると「弱いものは肉を提供し、強いものがこれを食する」ということになるけれど、ここで言う「強いもの」とは「生存に適したもの」ということですよね。北九州の東八幡教会の奥田知志牧師が、8月11日付の「巻頭言」というコラムで「世の中、本当に『弱肉強食』か」と問いかけています。
▼いわゆる「新自由主義」が政府の経済政策として幅を利かせ始めたのはいつ頃でしたっけ?最初の小泉(純一郎)内閣のころだったかな。政府のような公権力からの干渉なしに、企業が自由な意思で利益追求を行っていく、それによって世の中全体が栄えていく…好意的に解釈すると、そうなるけれど、別の見方からすると「強い者が弱い者を思うままに滅ぼして繁栄する」社会であり、「権力は弱者を守るためのものであるにも拘わらず「単なる暴力」となって弱者に襲いかかる」というわけです。
▼ただ奥田牧師は『「弱肉強食」は本当に事実だろうか?』と疑問を呈している。彼の説によると、人類は今から約700万年前に誕生、それ以来様々な「人類」が登場するけれど、最後に生き残ったのが「ホモサピエンス」と「ネアンデルタール」だった。そして最後には強靭で寒さに強く、頭蓋骨も大きかった強いネアンデルタールではなくて弱い方の「ホモサピエンス」が生存した。つまり我々はホモサピエンスである、と。
▼そうなると、人間の世界で永遠の真理であるかのように言われる「弱肉強食」というのは事実なのか?という疑問が出てくるし、これは奥田牧師が投げかけた疑問でもある。
- ネアンデルタール人絶滅の理由は何か。それは彼らが強かったからだと思う。強い分、助け合うことをあまりしなかった。私たちホモサピエンスは脆弱だったから、仲間と連携して動くようになった。
▼なるほど。人間の存在を表現する言葉として適切なのは「弱肉強食」よりも「弱者共存」の方かもしれない。即ち弱いからこそ他の存在とつながり、協働し生き延びてきたということ。「弱肉強食」の英訳が
"the fittest survive" というのはネアンデルタール的発想であり、本当は "the unfittest
survive" あたりが真実に近いのかもね。 |
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▼あっという間に9月が半ばになろうとしています。お元気で! |
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