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010 多文化主義への脱皮が望まれる国

かつてこのコラムでフィンランドという国にとって情報化先進国であることは、国としての存在の証明(アイデンティティ)のようなものであるということを言いました。これ、もちろん私が言っているのではなくて、あちらの大学の先生が言っていることです。教育水準は高いし、生産性も世界一だしということで、あたかも何の問題もない超優等生のように思えます。しかしこのような「優等生」にはそれなりのアキレス腱もあり、その一つに単一民族性がある、と以前に紹介したInformation Society and the Welfare Stateという本の著者が指摘しています。

少数民族意識 フィンランドはもともとフィンと呼ばれる民族から成っていたのが、スエーデンやロシアに支配を受ける中で自分たちが「少数民族」であることを強く意識するようになった。現在ではフィンが多数派民族であるにもかかわらず、彼らは相変わらず自分たちが少数派であるという考え方に固執している部分がある。ただ少数民族がほかの民族に対して閉鎖的である傾向は(フィンランド人には限らず)ある。

世論調査を見ると60%の人が「フィンランドで犯罪が起こるのは外国人のせいだ」と答えたりしている。さらに60%の人が「移民がフィンランド人の生活水準下げている」と答えています。「外国人がフィンランドに住むことでフィンランドの国際的な地位も高まる」と肯定的なのは45%だけ。 カリフォルニアとの対比 フィンランドの全人口に占める外国生まれの割合は2.5%(2000年の数字)だそうで、情報化の競争相手とも言えるアメリカのカリフォルニア州の場合、これが25%にもなる。

カリフォルニアは世界でも例外的ともいえる他民族社会なので、フィンランドと比較するのは酷なのですが、カリフォルニアのシリコンバレーで1990年代に生まれたIT企業のなんと30%がインド人・中国人によって創られたものであり「多文化社会」の強みが示されている(と著者は語っています)。

多文化主義が繁栄のカギ
尤もフィンランドの場合、外人排斥的な風土については以前に比べれば進歩はしている。1980年代半ばの時点における外国生まれの割合はたったの0・8%、外国人がフィンランドに入ってくることはフィンランドの将来にとっていいこと」と答えた人は全体のわずか19%であったのですから、それに比べれば進歩はしている。ただ著者に言わせると、特に情報産業においては優れた外国人が入ってくることが必要で、今の状態はまだまだ十分とはいえないそうです。

「フィンランドにとってチャレンジの一つは”多文化主義”というものが、文化的にも経済的にも豊かな国作りのために必要であることを認識し、開放的になることである」と言っています。
▼そう言えば昔(と言っても10-20年前のことですが)日本が経済的に繁栄していたときに言われたのが「日本は単一民族社会だから安定していて安全である」ということを当の日本人が言っていましたよね(外国人はもちろんですが)。あれから時代が変わって最近、池袋あたりを都知事が視察したということがニュースになっていました。

▼「外国人」による犯罪が多発していることが背景になっての「ご視察」であったそうですね。上に書いたフィンランドについては、筆者がフィンランド人で(つまり自分たちの悪い点はよくわかる)あり、なおかつ開放的なカリフォルニア大学の教授をしている。ということでフィンランドの「閉鎖性」というのは実際にはそれほどでもないのではないですかね?

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