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011 英国人記者のフィンランド教育印象記 | |
9月16日付けの英国紙ガーディアンの教育面に「天国とヘルシンキ」(Heaven and Helsinki)という記事が出ていました。同紙の教育担当記者のフィンランド訪問記なのですが、これを読むと面白いのはフィンランドの教育事情のみならず、英国人のフィンランド観、なども垣間見えることです。この記事の要旨をまとめてみると次のようになります。 フィンランドを見落としていた!? フィンランドは最近のいろいろな国際比較でも教育水準は殆ど常に世界一となっているだけに、海外からの視察も盛んで過去数年で軽く100組を超える専門家による訪問が記録されています。韓国・ドイツ・中央ヨーロッパ・アイルランド・カナダ・・・でも何故か英国からは一組もなし。「うっかりして見逃しているのではないか」とガーディアンの記者は言っています。 フィンランド人の教育観 フィンランドの教育は7歳から始まり、16歳になるとさらに上級学校に行くのか、職業学校に行くのか、あるいは学校そのものに行かないのかを決める。とはいえ実際には16歳で教育をやめる子供は全体の3%で、70%は上級学校へ、27%は職業学校へ行くわけですが、英国のクラーク教育大臣などが羨ましがるに違いない(とこの記者が言う)のはフィンランドでは若者の60-70%が大学もしくは専門学校(ポリテクニック)へ行くらしい。 フィンランドにおける教育の原理原則となっているのは、「学生中心の民主主義」(student-centred democracy)であり、選別のたぐいのものは殆どなしであると同時に私立学校というものはなくて、学校は殆ど国立であるということである、とこの記者は伝えています。またフィンランドにも普通の授業における期末テストのたぐいはあるにしても、英国にあるような全国統一テストのようなものは、16歳で上級学校に行くときに受ける試験以外には何もない。 教師という職業 ガーディアンの記者は「フィンランドの教育制度は教師の能力に対する信頼の念が基礎になっているようだ」として「英国で行われているように成績の優劣を表にして公表するようなことは一切行われていない」と報告しています。フィンランドでも全国的なカリキュラムは決められているのですが、それをどのように教えるのかは学校と教師に任されている。「フィンランドでは教授法におけるcreativityが抑圧されるのではなく尊重されている」とも報告しています。 ガーディアンの記者がさらに強調しているのは、フィンランドでは教師という職業に対する尊敬の念が極めて高いということです。フィンランドにおける最も望ましい職業とされるのが教職なのですが、10人に一人という難関でもあるそうです。この記者は教育の国際比較を行っているOECDの担当官の話として、「フィンランドの教師の場合、給料は高くない(初任給年額1万7000ポンド)が文部省の役人から監視されるということがなく、自治と自由が許され、しかも尊敬もされている」ということを挙げています。 いいことずくめではない もちろんフィンランドといえども教育のユートピアではなく、他国のそれと同じような問題はあります。登校拒否・麻薬・アルコールの問題を抱える子供もいるし、上級学校への進学希望者の増加に伴って頭のいい子供が集まる「秀才学校」のようなものができつつあり、そうした学校は優秀な子供のみを入学させようとする傾向にもある。さらに予算削減の問題もある。ヘルシンキ教育委員会の担当者によると「予算カットのおかげで授業時間を3%減らす必要に迫られているし、将来は教師の人数そのものも減らさなくてはならない」とされています。尤もこのガーディアンの記者は「フィンランドの国家予算に占める教育予算の割合は英国などよりもはるかに高いので、問題の深刻さは英国に比べればはるかに小さい」と伝えています。 kasvatus, kasvatus, kasvatus… ガーディアンの英国人記者は、フィンランドの持つ社会的な有利さ(例えば人口が少ない・民族の単一性・貧富の差が少ない社会などなど)を挙げたうえで、この国が今も「学ぶことの大切さ」を強調するルーテル派キリスト教の伝統が根強く残っていることも指摘しています。またこの記者はフィンランドから学ぶべき点として「教育について議論をすることで異端児扱いされることがなく、建設的な議論が可能になっていること」と「教育水準の向上が政府の課題というよりも社会全体の課題と見做されているようだ」と報告しています。 この記者は結論の部分で、「フィンランドの教育はロケット科学のような凄いものではないかもしれないが英国の教育関係者がこれまで長い間訴えてきていることを実践している。この際、労働党政府もeducation, education, educationなどと大きな音でドラムを叩くのはやめにしてkasvatus, kasvatus, kasvatusのセンで行ってもらいたい」と結論しています。 |
musasabi journal
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