かつて英国大使館というところに勤務し、フィンランド大使館文化部のようなところでお世話になっていた頃、イベント主催者のような人たちから極めて頻繁に寄せられる問い合わせとして「後援名義」というのがあった。自分たちで何かのイベント(デパートの大売出しもあれば展覧会や音楽会のような文化イベントもあった)を行うにあたり、それが例えば英国の文化紹介のようなものであったりすると、「英国大使館後援」という文言をポスター、チラシ、パンフレットなどで使うことを許して欲しいというわけである。
催し物のポスターなどをよく見ると「主催」「共催」「協賛」「後援」などの文字が並んでいるのが分かる(非常に小さな字であることが多いので本当によく見なければ分からない)。言うまでもなく、「主催」から順にそのイベントへの関わりが薄くなっていく。聞くところによると「協賛」というのは金銭的な援助をしたということをさすのだそうだ。
で、「後援」というのは、共にイベントを実施する(共催)のでもなければ、お金も出さない。ただそのイベントについては"悪くないんじゃありませんか?"という意味のことを宣言するということらしい。「名前だけ使ってもいいよ」ということなのだ。
何故そのようなことをするのかというと、いちいち説明するまでもないけれど、大使館のような「権威のある」機関に「悪くないんじゃありませんか?」と言ってもらうことで、その催しに「箔が付く」ということらしい。
「英国大使館後援」「フィンランド大使館後援」のお墨付きを頂くためにイベント担当者は随分と気を遣っていて、やたらと丁寧な手紙を送りつけてくる。で、「後援名義」を与えることを英語ではgrantという。交付である。上から下へ与えるものなのである。貰ったイベント主催者は本音はともかく表面的には涙を流さんばかりに「あ、ありがとうごぜえます・・・代官様」というわけなのだ。
「後援」という二文字はそんなに大層なものなのだろうか。大層なものなのだよね。だからこそどのイベント主催者もこれを欲しさに血眼になるのだよね。実際には何の意味もないのだけれど、それでも後援の文字があるとないとでは大違いということなのだろう。このような風習は外国にもあるのだろうか。外国ではやらないということが、即ちくだらないものということにはならない・・・ということは分かっているのだけど、やはりこれはアホらしい。如何にもお上崇拝という感じで情けない。やりたくないな、これは。
ところで後援のことは英語でnominal supportというらしい。nominal・・・名前だけの、ということである。
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