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むささびの鳴き声
011 政治とメディアが信頼度最下位争い
英国に興味がおありの方ならMORIという世論調査会社のことをご存知だろう。この会社のウェブサイトを見ると、ごく普通の英国人たちの生活感覚・政治意識・趣味趣向などが垣間見えて面白い。例えば「英国人の23%がe-mailで愛を告白し、1%が結婚を申し込んだことがある」などである。私自身、世論調査というものがどの程度信用に値するものか、よく分からないけれど、いろいろなことが数字で表わされていると、妙に「分かったような気分」になってしまうものである。

最下位争いする政治家と記者

そのMORIの最近の調査に「職業別信用度調査」というのがあった。医者・教師・牧師・普通人・新聞記者などなど12の職業人について「あなたは彼らが真実を語ると思いますか?」(Do you believe that they tell you the truth?)という質問をしている。調査対象は、はたちから上の約2000人。 で、最近(2003年)の結果であるが、信用度ナンバーワンは医者で、93%の人が「真実を語っている」と答えている。次いで教師(87%)と裁判官(72%)がきて、ベストスリーを構成している。ではワーストスリー(つまりイチバン信用できない人々)は誰かというと、下から順番にジャーナリスト18%、政治家20%、政府の大臣23%となっている。

日本でもきっとこのような調査が行われているに違いないし、私も是非見てみたいと思うのであるが、果たして医者や教師がベスト2にランクされるほどまでに信用されているだろうか?私の独断と偏見によると、日本でイチバン信用されているのは「聖職者」ではないだろうか?しっかりした根拠があるわけではないし、私自身がそのように思っているというのでもない。ただよく売れる本の著者には結構お坊さん、尼さん、牧師さんのような人たちが多いのではないか・・・と勝手に思っただけである。

案外信用されている先生たち

MORIは同じ調査を過去20年間続けている。20年前のものと現在の数字を比べてみると時代の移り変わりが反映されていて面白い。中には「意外」(と私が考えるもの)もある。例えば教師。20年前も現在も第2位であり、「支持率」も79%から87%へとほぼ10ポイントも上がっているのである。教師は特にサッチャーさんの「大改革」の中で「傲慢」と「怠慢」の見本のように言われていた筈であるし、教師自身も未だにサッチャー(とそれを引き継いでいるブレア)を敵扱いしている。が、サッチャーやサッチャー主義者が何を言おうと、国民的な信用度は結構高かったし、今も高いということでもある。

20年前の1983年、信用度ナンバーワンは聖職者(85%)であったのであるが、2003年になると、この人たちは4番目(71%)にダウンしている。牧師さんらに関連して私の好きな世論調査に「あなたは神の存在を信じるか?」(Do you believe in God?) というのがある。この場合の「神」とはキリスト教でいう神である。確か15年前くらいの調査であったと記憶している。結果は「信ずる」と答えた積極的キリスト教徒は21%、「信じない」と答えた積極的無神論者は11%。しかしイチバン多かった答はDoubt but believe(疑いながらも信じる)という23%であった。英国では教会へ行く人の数のみならず聖職者の数も20年前に比べると半分に減っている。にもかかわらず神(のような存在)をどこかで信じているふうなのである。

トニー・ブレアが極めて熱心なキリスト教徒であることはよく知られている。それが故にジョージ・ブッシュとの「仲のよさ」をメディアがからかって、毎晩電話で国際テロとの闘いについて話をして、最後に二人でお祈りをする・・・などと言ったりしている。最近でこそブレアのイラク政策は英国内では悪評さくさくであるけれど、戦争開始当初の国会で行った「正義の戦争」を訴える演説が、国民的には受けてしまったということを思うと、英国人は結構宗教的な側面もあるということかもしれないのだ。

政治家とメディアがバカにし合っている

でも当人たちには悪いけれど、やはりイチバン楽しいのはジャーナリストとか政治家のような最下位の人たちについて語ることであろう。とにかく英国の新聞で良く言われる政治家は殆どいない。これは日本も同じだ。日本の新聞やテレビを見ていると、「永田町」にいるのは実に「どうしようもない人たち」のように思えてしまう。本当にそうなのか、それとも新聞とかテレビがそのように言っているだけなのか・・・実は分からないのであるが、皆分かったような気分になっている。選挙が終わるたびに街頭インタビューに登場する普通の国民は「ま、誰がやっても同じじゃないですか?」と評論家のように冷めた言い方をするケースが多い。

一方で日本の新聞は政治家が死ぬと急に「XX氏を追悼する」というような記事を掲載したりする。死ななきゃダメってことか!? ただし英国人は政治家も信用していないけれど、ジャーナリストはもっと信用していないという数字が出ているのである。

民主主義の危機?

英国を語る本としては私がバイブルのように思っているAnatomy of Britainの著者であるアンソニー・サンプソンは、「英国では政治家がさんざマスコミに叩かれて悪者扱いされており、能力を持った人々が政治の世界に入りたがらない」として、「これこそ英国の民主主義の危機である」と言っている。さらに皮肉なのはブレア首相の率いる新労働党(New Labour)はどの政党よりもメディアPRを大切にする政党であり、政権なのである。政治家とメディアという信用度最低という2グループが手を組んでいると言う状況なのである。

ところでMORIの調査の中で「庶民」(ordinary people)という項目があるけれど、この人たちの信用度はというと53%で、13人中7番目である。20年前には57%であったのが結構ポイントを下げてもいるようである。調査対象が庶民だから、これは普通の人たちが自分たちをどう思っているのかという調査でもある。53%は高いと見るべきなのか、低いと思った方がいいのか?これも私の独断・偏見によると、日本ではもう少し「庶民」の地位が高い(つまり庶民が傲慢)のではないだろうか。

庶民が庶民をそれほどには尊敬しておらず、キリスト教的信仰心と言えば「あるような、ないような、でもやっぱりある?」という「どっちつかず」というか「いい加減」というか・・・このあたりが英国人の素晴しい点なのではないかと思ったりもする。 (2004年5月16日)